五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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はい、更新でございます。

今回は、原作に添えない部分が大半なのでかなりの難産でした。

楽しんでいただければ幸いです。


第59話 カウントダウン

 どんなものにも始まりがあれば、終わりがあるもので。

 

 俺と五月の間のパートナー関係も、俺たちの家庭教師の関係も、もう残りわずかなものとなっていた。

 

 

 もうじきすれば新年となり、受験生達はセンター試験を経て、入学試験に突入する。

 

 つまり、どんなに長くなっても後数ヶ月でこの関係性は終わることになるのだ。

 

 今までの俺なら、そんなの当然だとあっさり受け入れたんだろう。

……そもそも、依頼が終わればクライアントとの関係が切れるのは当たり前のことだからな。

 

 だが……今、その当たり前に対して。

 

 どこか物悲しい気分になっていた。

 

 

「俺も変わってたんだなぁ…」

 

 

 

side風太郎

 

 

 少し前、俺はある考えを述べた。

 

「あいつらの将来を見つける手助けをしてやりたい」

 

 

 だが……俺はその時から、ある問題から目を背け続けていた。

 

 

「将来何になりたいんだ?俺…」

 

 

 自分の将来が、まだまともに見つかってないのだ。

 

 

 高校を卒業したら、大学に行って、いい企業に就いて、借金を返済する。

 

 

 今まで、なんとなく考えていたルートで、将来を見据えてるつもりになっていたが………

 

「もう、自分の夢に進みたくて仕方ない」

 

「だって二乃は、自分のお店を出すのが夢だもん」

 

「女優として生きていくって決めたんだ」

 

 今となっては、手助けをしようとしてた生徒達に先を越されている始末である。

 

 

「うーん……」

 そうして唸りながら図書室に入ると。

 

「あ!上杉さんも図書室に御用ですか?」

 

 四葉が、いつも通りの悪目立ちリボンを揺らして駆け寄って来た。

 

 

……そうだ。

 

「なあ、四葉。

 

 お前、将来なりたいものとかあるか……?」

 

 

 

side四葉

 

 風太郎君からの突然の質問に、面食らった私だが。

 

 改めて考えてみると………あまり思い浮かばない。

 

 いや、一つだけあった。

「あ!」

「何かあるのか?」

「お嫁さんです!」

「遊びで聞いたんじゃないんだぞ⁉︎」

 

 お嫁さんになりたいのは確かにあったが……その相手はもう三玖のものだ。

 

「ちょっとくらい良いじゃないですか、上杉さんの頭でっかち!」

 そのことに対して、せめてもの抗議をしていると、風太郎君はため息をつきながら。

「お前な……せっかく体育系の大学の推薦来てるんだから、何か考えたりしてねえのか?」

 

 

 そう聞いてきたので、もう少し考えてみると……やっぱり、長年の積み重ねというか。

 

「私は……やっぱり、誰かのサポートをして支えることが自分に合っていると思います」

 

 始まりは、決して誉められたものじゃないけど………

 

 

「諦めから始めたことでしたが、今ではそれも誇れることだと……価値があると思えるようになったんです」

 

 困ってる人を放っておきたくないと言うのは、紛れもない本心だ。

 

 

 だから……多分、将来の事で困っている風太郎君も放っておきたくない。

 

 

 私も将来についてはそこまで具体的に考えてないが……逆に言えば。

 

「今決まってないのなら、これから決めれば良いんじゃないですか?」

 

 

 長い人生の中で、大学に入ってからの色んな発見はきっとある。

 

 

 その発見を前に、すでに考えてしまっている道との天秤に掛けなくて良いのは……きっと、何も無いことのいい所だ。

 

 なにより。

 

 

「風太郎君には前に言ったよね?

 

 

……これから何を考えて、何を決めたとしても。

 

 

 私は、ずっと君の味方だよ」

 

 

 その背中を、私がずっと押し続けるだろうから。

 

 風太郎君のお嫁さんは無理でも……これくらいはいいよね?

 

 

 

 side風太郎

 

 四葉の言葉は、言ってしまえば成り行き任せの賭けだ。

 

 

 現実的に考えれば、多分良策ではないだろう。

 

 

………でも、答えが見えないままじっとしてるよりは、答えを探しに動いた方がいい。

 

 

 それに……出てきたものはどうあれ、俺の背中を押してくれようとしてるのは、伝わってきた。

 

 

「……ありがとな、なんかスッキリした」

「いえいえ、これくらいお安い御用です‼︎」

 

 俺は、お礼を言って四葉と別れる。

 さっきまで悩んでたことの答えは、結局出せてはいないが………不思議と今の俺は清々しさを感じていた。

 

 

 

「……まずは、物件探しだな」

 

 

side奏二

 

 

「………東京の安い物件?」

 

 十二月に入ったある日、俺は度肝を抜かれていた。

 

「………ああ。俺は、卒業したら上京しようと思う」

 

 風太郎の口から、そんな言葉が飛び出したからである。

 

 確かに、前々からやってた赤本を見て、なんとなくの予想はついていた。

 

 だが…抱いてしまった物悲しさから逃げるように、五月との勉強や仕事で、考えないようにして。

 

 なんとか紛らわそうとしていたのに、現実からの不意打ちを受けたような気分だ。

 

 

 とりあえず、気分を落ち着けるように。

 

「武田に相談してみたらどうだ?多分嬉々として探してくれるぞ。

 

 なんなら、家賃が安く済むとか言ってシェアハウスなんかも……」

「冗談は辞めてくれ、それはちょっと寒気がする……」

 

 武田を引き合いにしてみたが、風太郎は身震いするだけで、うやむやにはできそうにない。

 

「………で、どうだ?」

 

 そうして改めて提示された問いに対して、俺は知り合いの不動産を紹介してやることしかできなかった。

 

 

 そんなことがあった日から、心の底に打ち込まれた物悲しさは、胸を燻り続ける。

 

 その燻っていた感情は………やがて、黒い灰を纏わせていった。

 

 

"いっそ落ちてしまえば、この関係は続けられるかもしれない"と。

 

 

side風太郎

 

 奏二が紹介してくれた不動産屋で、安くて良さそうな物件は見つけた。

 

 金に関しては……バイトの給料をかなり貯めておいたし、元々卒業したら家を出るとは、高校入学の前から決めていたことだ。

 

 俺の武器が勉強だけならば、将来のため、学歴にこだわりすぎると言う事はない。

 

 その考えが、少し前までの宙ぶらりんにつながったんだとは思うが……だからと言って、そこに変化は無いはずだ。

 

 そう、変わったとすれば………

 

 俺の環境の方だな。

 

 少し前まで俺は、家族がいたとは言え基本的には1人だった。

 

 だが……今は違う。

 

 

 奏二に武田や前田。

 

 

 一花、二乃、四葉に五月……そして、三玖。

 

 俺にとって大切な存在が、いっぱい手に入ったんだ。

 

 そして、そいつらと送ったこの高校生活は……間違いなく、今までで一番楽しかった。

 

 だが……卒業してしまえば、その大切な存在達と作った今までのようにはいかない。

 

 

「見て、一花から連絡が来てる」

 

「これって、前言ってたドラマの役ですか?」

 

「凄ーい!合格できたんだ!」

 

 

 一花を除いた4姉妹……今はいないが、奏二とも歩いたこの帰り道は、もうやってこないのだ。

 

 

「全く、あの子は私たちの何歩も先を行ってるわね」

 先に奏二にやったその幕引きを、これからコイツらにもしないといけないと考えながら。

 

 それをやり遂げた一花の凄さを、二乃と同じように再認識していると。

 

「………アイツ」

 

 一花からのメールで、最早しつこいレベルでまた認識させてきた。

 

"フータロー君、次は君だよ"

 

 

 分かっているさ。

 

 まだ俺は、お前の家庭教師だからな。

 

 

 そうして俺は、顔を上げ……

 

 

 

「お前達に、言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。

 

 

 俺……卒業したら、東京に行くんだ!」

 

 4人を前に、半ばやけくそ気味に打ち明けた。

 

「………そんなこと知ってますよ?」

「ええ、フー君ならそうだろうと思ってたわ」

「あえて聞くことはしませんでしたが……」

 

……………え?

 

 

side二乃

 

 フー君が、大学は地元じゃないのはなんとなく分かっていた。

 

 アイツの学力なら……多分、東京のあの大学に行くんじゃないかと思っていたし。

 

……今みたいに、本人から宣告されるのも覚悟はしていたのだ。

 

 

 それに。

「あっ、そう……俺だけ1人で盛り上がっていたのか…」

「あはは。 一生のお別れじゃないんですから……。

 

 

 それに、どこにいても私は上杉さんを応援してますから!」

 

 四葉の言う通り、私達は卒業後だってきっと付き合いはある。

 

「そんな寂しそうにしなくたって、住所さえ教えてくれればいつでも会いに行ってあげるわよ」

 

 そう……会おうとさえ思えば、会えるのだ。

 

「………ありがとな、お前たちと会えてよかったよ。

 

またな」

「ええ。また明日」

 

 珍しく、ニカっと笑ったフー君に答える五月の言う通り、明日もまた会えるのだ。

 

 

 だから、大して気にしなくてもいい筈なのに……。

 

 

 フー君と別れた私たちの声は震えていた。

「予想通りでしたね」

「珍しく寂しそうだったわ」

「でも、ちょっと嬉しいかも…」

「上杉さんのあんな顔が見られるなんて、ラッキー………………」

 

 

 それはそうだ。

 

「………バカ、泣かないって決めたでしょ」

「に……二乃だって…」

「寂しい……」

「もうすぐ、卒業なんですね…」

 

 どれだけ覚悟してたとは言え……

 

 やっぱり、この寂しさは拭えるものじゃないから。

 

 

 

side三玖

 

「……一花は、ある程度予想してたんだ」

「うん……まあ、かなり前に、本屋で赤本買ってあげたからね」

 

 フータローから上京すると聞かされた日の夜。

 

 涙目で帰ってきた私たちを見て、驚きの表情を浮かべた一花に今日のことを話すと、一花はそっかと言う一言で返してきた。

 

「でも、フータロー君が東京か〜……私は仕事で何度か行ったけど、大丈夫かな?」

「お上りさんみたいなことしかしないんじゃないか、とか?」

 

 そして、心配そうな顔をする一花は、私の言葉に頷いて。

「それもそうなんだけど……

 

 ほら、フータロー君が都会に染まって、そこで他の女の子と……!なんてならないかなって」

 私の密かな懸念事項を、図星でついてきた。

 

 

 そう……フータローはカッコいい。

 

 髪型や貧乏性、更にはノンデリカシーである程度デバフがかかるとは言えど、顔立ちは二乃を落とすレベルでは整ってる。

 

 更には、人の心に寄り添える暖かさや、真摯な態度。抜群の知性で……きっと、上京先で女の子たちを虜にしてしまうだろう。

 

 

 そんな子達を前に……たまにしか会えなくなる私は、霞んでしまうのかもしれない。

 

 でも……そんなことで譲ってるほど、もう私の諦めは良くない。

 

 

「大丈夫だよ。

 

 私がフータローの恋人で、フータローは、私の恋人だから」

 

 そんな私の言葉を聞いた一花は。

 

「あの三玖が大胆になったね……

 

 でも、それなら安心だ。私も諦めたつもりはないからね」

「いいよ…譲らないから」

 

 林間学校の時と同じように、宣戦布告をしてきた。

 

 

 

side五月

 

 上杉君の上京宣言から数週間経ち。

「町谷君、最近何か私に隠し事してませんか?」

 

 

 センター試験を後1週間に控えたこの頃。

 

 ここ最近感じていた違和感が、ついに噴出した。

 

 

「……隠し事?そりゃ、俺にだってプライパシーはあるぜ」

「そういうのじゃなくて……もっとこう、悩み事とか」

 

 怪訝な顔をする町谷君だが……一瞬、痛いところを突かれたような顔をしたのは見逃さない。

 

 

 数週間前……上杉君が宣言した辺りから、彼の表情がどこか浮かばれないものが多くなってきた気がするのだ。

 

 確かに、日々の勉強のおかげでレベルが上がっているとは言え、決して余裕をもって臨めるほどの学力はまだない。

 

 それが原因かもしれないが………私の勘としては、上杉君と似たような……いや、それ以上の爆弾を抱え込んでいる気がする。

 そんなものを感じながら、受験に100%集中するなんて無理な話なのだ。

 

 私の精神的衛生の為にも、どうか話してくれとその瞳を見据えていると。

 

 

「……ここ最近、ベルツノカエルと五月でのコラ画像作って遊んでたのは、悪かったと思ってるよ」

「茶化さないでください!」

 

 突拍子もない事を言い出したので、思わず声を荒げるが………えっ?

 

「……まさか、本当に作ってないですよね⁉︎」

「いや、もう消したから大丈夫……いててて!」

「何してくれてるんですか⁉︎というか、私の写真なんてどこで……!」

 

 

 どうやらそれも事実だったらしく、私は彼のこめかみにグリグリを食らわせて抗議して……じゃなくて!

 

「もう!そんなしょうもない事で、ウジウジ悩むようなあなたじゃないでしょう⁉︎

 

 諦めて、私に話してください‼︎」

 

 

 くだらない茶番で逃げようとする町谷君の、退路を絶つように詰め寄ると。

 

 

「………わかった。俺の負けだ」

 

 根負けしたかのように、苦笑した。

 

 

side奏二

 

 これまで考えていた事を話すと、五月は一花みたいな表情をして。

「………なるほど。つまり寂しくなっちゃったと」

「いや、そう簡潔に言うなよ……俺だってこんな気分になるの初めてなんだからさ」

 

 多分、この思いを抱えておかなくては……と思う反面、誰かに相談したかったんだとは思う。

 

 だが………その相談する相手が相手で、これではカミングアウトのようだった。

 

「学園祭の時、あれだけ言ったのに……同じ事でまた悩んでるなんて、女々しいったらありゃしないだろ」

「まあね……でも、ある意味安心したかも」

 

 そんなんじゃ、呆れられると思ったが……思いの外、五月はスッキリしたように笑い。

 

 

「…なんか、今まで悟りを開いちゃってるみたいで。頼りになる反面、心配だったんですよ?」

「俺も、少しは変わってんのかな」

 

 花火大会の時のことを思い出して、ようやくその意味を理解していると……五月は、「でも」と頬を膨らませて。

 

 

「私は、あなたに夢の半分を託しました。

 

 そして、ファーストキスも…あなただから捧げたんです。

 

 そんな簡単に、挫けたり……諦めようとしないでくださいよ」

 

 少し怒りの混じったような言葉に、俺は言葉を少し考えて。

 

「……悪かったな。お前はそんな軽いやつじゃねえか」

「ちょっと?それはどう言う意味で言ってるの?」

 

 五月が決めていた覚悟に対して、迷っていたことを謝罪すると、返ってきたのはなんとも頓珍漢な答えだった。

 

「流石の俺でも、このタイミングで体重の話はしねえぞ」

「………んんっ!そ、そうだよね……じゃなくて、分かればいいんです、分かれば」

「まあ、気にしてるなら運動に付き合うが…」

「畳もうとした風呂敷を、態々開こうとしないで!」

 

 そして、いつも通りのやりとりに発展して行くわけだが……なんだか、くすぐったいような気分に…もやが晴れていくようなスッキリ感を覚えていると。

 

 

「……だから、つまり!

 

 これから先、私達………いや、少なくとも私を!

 

 勝手に諦めようとしないでって事です!」

 

 五月は、俺の手をがっしりと掴んで、そう告げてきた。

 

「……ありがとう」

 

 俺も……覚悟を決めるとするか。

 

 

side五月

 

 私は、大学の校門前にいた。

 

 隣には……いや、周囲には、私と同じような感じの人たちがいっぱいいて。

 

 私達は、今か今かと待ち構えていた。

 

 もうすぐに迫る審判の時……入学試験の合格発表を。

 

 

 私のこれからがどうなるのか……それが決まる時を。

 

 

 そんな、これまでで一番緊迫した数分間を過ごしていると、やがて校門が開き。

 

 

 大学の職員らしき人が、大きな掲示板の前にやってきて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん……皆んな………私、やったよ……!」

 

 

 張り出された合格発表者一覧の中にあった、私の受験番号を見て、思わず声が溢れた。

 

 

 

side奏二

 

 

 五月から、合格したと言うメッセージが届いて……俺の後ろから逃げ道が消えた。

 

 いや、俺に逃げ道がないのは昔からだな。

 

 俺に足りなかったのは……諦めの悪さと、覚悟だ。

 

 アイツは……諦めず、最後までやり遂げて。

 

 

 結果……自分の夢への切符を勝ち取った。

 

 

 だが……俺だって負けやしない。

 

 俺だって……もう、心に決めたから。

 

 

「さあ……行くか」

 

 そうして俺は、ある場所に向かうべく家の扉を開いた。

 

 

 

「給料3ヶ月分………賭けたんだ。もう後には退けねえぜ」

 

 小さな黒い箱を、懐に隠しながら。

 

 

 




はい、いかがでしたでしょうか。

実は今回は、奏二と五月の関係性を逆転させた様な感じで描いております。

大人を演じていた子供が、大人に導かれて、大きくなっていく……みたいなイメージですね。

逆に言えば、今まで奏二に助けられていた五月が、初めて奏二を助けたことにもなります。


 そして、次回は奏二と風太郎のプロポーズを描ければなと思っておりますので、お楽しみに!

 感想があれば、お待ちしております。
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