五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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第7話です。

 前回説明し忘れていたのですが、五月の点数が原作よりも少し上がっているのは、自主勉強の時間が奏ニとの勉強の時間に変わった事により、より質の高い勉強ができた為に点数が上がった……と言う感じになります。

 それでは、お楽しみください。

 奏ニの秘密
 好きな動物はオオカミで、コーヒー派。



第7話 告白の理由

「教えられた通りなら、もう着いてるはずだけど……寝坊とかやりかねないかも」

「………おいおいマジかよ」

 空港にて、俺達は頃合いになってもまだ来ない待ち人を待っていたのだが。

 

「前日まで旅行に行くとは、とんでもないマイペース……どうしたの?」

 隣で苦笑いしている相方の隣で、俺は風太郎から来たメッセージに頭を抱えていた。

 

「風太郎のやつ、婚約指輪を家に忘れたらしい」

「ええ⁉︎なんでそんな大事なものを……」

「今、らいはちゃんに連絡して届けてもらうらしいけどな……まあ、アイツが妙に締まらないのは昔からだろ?」

「……そういえばそうだったね。林間学校の時も…」

 

 と、林間学校の話が出たので改めて確認する。

「林間学校で思い出したけど………本当にアレやるのかよ?」

「………この時だからこそやらないといけないんです。

 

 そうでないと、私達は安心して2人の背中を押せません」

 

 

 懐かしい口調で話すそいつは決意に満ちた表情をしていたが、急に申し訳なさそうに。

「……あなたからしたら複雑な所もあるかもしれません。でも、どうか……」

「……俺はアイツを信じる俺を信じる。それだけだぜ」

 

 友人とはいえ自分の女を他の男に花嫁として選ばれるかもしれない事に抵抗がないとは言えない。

 

 だがこのゲームは、あの6人にとって様々な意味を持つ重大なものなんだ。

 

 これから人生を共に歩む相手への試練。

 

 一つの時代へ終止符を打つ最後の鍵。

 

 そして……これまでを総括し、これからを作り出す瞬間の見届け。

 

 

 そんなこのゲームには、俺も立ち会わなければならない………コイツらの物語を一番近くで見続けていた人間として。

 

「………ありがとう」

「そう思うならわかりやすくしてくれてると助かるんだがな………あれ、そうじゃねえか?」

「あ!本当だ………おーい!」

 

 何度も言うが俺はしんみりが苦手なので、いいタイミングで出てきた待ち人を指さすと、相方は手を振って近づいていったので、俺もその後をついていきながら。

 

 

 

「……この5つ子ゲームは何度目だったかな?風太郎」

 この場にいないおとぼけ新郎に、返事もない問いかけをした。

 

 

 5つ子のうち、誰が誰かを当てるゲームが5つ子ゲーム。

 

 

 何回かやったこのゲームだが、1度目は………林間学校のあの時だ。

 

 

 俺たちの関係性が複雑化し始めた、あの林間学校の。

 

 

 

 この学校では、2年の冬に林間学校がある。

 

 オリエンテーリング、飯盒炊さん、肝試しに登山、スキー。

 

 やる季節が違う気がするが、兎も角野外イベントが盛りだくさんなお泊まり行事だ。

 

 

 で、そんな林間学校には一つの伝説がある。

 

 

 最終日に行われるキャンプファイアーのダンスのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは、生涯を添い遂げる縁で結ばれる。

 

 

 学生生活にありがちな伝説(笑)だが……それに乗っかったり、乗っかろうとする奴は多く。

 

 林間学校前日ともなると、俺たちのクラスでもその前支度だと付き合いだすやつや、備えをしようとして玉砕した奴がちらほら見え始めており。

 

 

 そんな2人だけの世界に入っている前者共を目の前に、俺は缶コーヒーを傾けるがなんだか妙に甘いのであった。

 

 

「しっかしまあ、甘ったるい空間だな……なあ五月」

「……はい?」

「俺らも混ざるか?」

「……ッ⁉︎」

 

 隣でメロンパンを齧っているやつに話を振ると、返ってきたのはなんとも初々しい反応だった。

「あ、あなたはいきなり何を言い出すんですか⁉︎

 

……学生の本懐は勉強なのに、交際だなんて……不純です!」

 お手本通りの真面目な回答だが……今の五月にはあまり似合わない。

 なぜなら……

 

「メロンパンを頬張り、グルメ雑誌持ってるやつには言われたくないな……こんな甘ったるい空間でよくそんな甘いもんいけるぜ」

「……これが、私のお勉強です」

「そうかい……でも、揃いも揃って緩んだ顔してるだろ?

そんなにいいもんなら恋をやってみたくならないかってな」

「お試し感覚でやろうとしないでくださいよ…」

 

 誰かに対して恋愛的な感情を抱いたことのない俺からしたら、未知の領域である恋。

……俺の体質的にできないのはわかっているが、未知の領域に踏み込んでみたいと思う知的好奇心は、ごく自然な考えではないだろうか。

 

 

 

「私もよくわかりませんが……いつか、わかる時が来るんじゃないですかね?」

「……いつかって…あまり長生きするつもりもないんだがな」

「…それ、どう言う…」

 

 

 五月の怪訝な表情に、失言をした事を悟った俺がどうしようかと考えていた所に、丁度よく昼休み明けのチャイムがなるのであった。

 

 

 案の定、あの後五月に質問攻めにされそうだったので、あまり触れてほしくない事だけを告げてかわした俺は、風太郎、四葉、三玖、一花と共に勉強会………となる所だっだが、今回は違った。

 

 

 

「三玖が一花に……あれはなんのつもりだ?」

「さあな……さっぱりだぜ」

 俺と風太郎の視線の先には女子トイレから出てきた一花……ではなく三玖がいた。

 

 

 女優の仕事で忙しい一花が、クラスのやつに呼び出されたので三玖に「いつもの」を頼み。

 

 それを引き受けた三玖が、フータローが持っていた仮装道具の中にあったウィッグと共に消えたので、何事だとなった風太郎に乗っかる形で尾行していたのだ。

……だが、おそらく「この時期の夕方」「クラスメイトからの呼び出し」と来たら「告白」だろう。

 

 

 それを代役で済まそうとは、なかなかえげつない事をする長女様であった。

 

 馬に蹴られない事を祈りながら尾行を続けていると、偽一花は教室の中へ。

 

「音を立てるなよ。バレたら面倒だ」

「おう…」

 扉は開け放ったままなので小型カメラを使う必要もなく、息を潜めて様子を伺うと、中にいるヤンキーっぽいやつが話し始めた。

 

 

 

「な……中野さん、来てくれてありがとう」

「あれ?えーっと、クラスのみんなは?」

「悪い。

 

 君に来てもらうために嘘ついた」

 

 おっと、これはやはり告白ですね。

 ドラマや漫画では見るが、リアルでは初見なので、どんなもんかと半ば観戦気分で見ていると、そのヤンキーが。

 

「俺とキャンプファイヤーで一緒に踊って下さい!」

「え?

 

……私と?なんで?」

「好き………だからです」

 

 と、またもステレオタイプな告白をしていた。

 

 

 どこまでマジかはわからないが、結果はわかっているので取り敢えずお祈りでもしておくか。

 

 と、ここで風太郎が。

「………三玖、なんて答えるんだろうな」

「なんだ、嫉妬か?」

「違えよ。答えによってはトラブルになるんじゃないか?」

「そんなん断って終わりだろ……」

 

口を挟んできたので適当に返していると、偽一花はそれとない返事をした。

 

「ありがとう、返事はまた今度……」

「今答えが聞きたい!」

「……え」

 だが、返ってきた答えに困惑している……あれは予想外といった顔だ。

 

 しかし……返答通りに退散すればいいのに、ちょっとしつこい奴だな。

 

「まだ悩んでいるから」

「と言うことは、可能性があるんですね」

「いやぁ」

 

 アレは相当困惑しているな……ちょいちょい一花を演じきれなくなってやがる。

 

 そろそろ助け舟でも出すかと思っていると、そのヤンキーが何かに気づいたように。

 

 

「………中野さん、雰囲気変わりました?」

「え?そ、そんな……」

「髪……ん?なんだろ……」

 

 どうやら余計なことに気がついたようで、それを受けた偽一花は冷や汗をかいていた。

 もしこのままバレたら、騙されていたと知ったアイツは何をしてくるかわからない。

 それで三玖に傷がついたとなったら、娘を守りきれなかった俺たちはオヤジさんからクビをもらう事になるだろう。

 

 「そう言えば中野さんって5つ子でしたよね。もしかして……」

 

 これはもう迷っている時ではないと行こうとした時。

 

 

「一花、こんな所にいたのか。

 

………お前の姉妹4人が呼んでたぞ、早く行ってやれ」

「……フータロー」

 

 風太郎が助けに入り、助けられた偽一花はホッとしたように風太郎の名前を呼んだ。

 

 

 だが……それを快く思わない奴がいるのを忘れてはならない。

 

「何、勝手に登場してんだコラ。

 

 誰だよお前コラ、気安く中野さんを下の名前で呼ぶんじゃねえよコラ……お、俺も名前で呼んでいいのかなコラ」

 

そう、このヤンキー………口調的にコラ助とでもしておこう。

 

 

 んで、そのコラ助にたいして風太郎は。

 

「返事くらい待ってやれよ。少しは人の気持ち考えろ」

 

 あってるんだが、説得力のかけらも無い事を言い出した。

……日頃の行いは大切だな。

「行くぞ」

「待てコラ!」

 しみじみと俺が思っていると、風太郎は話は終わりだと三玖と共に教室を出ようとして、コラ助に止められた。

 

 風太郎はいつもの顔だが…アイツは素で目つきが悪い。

 そんな目は……頭に血が上り始めていたコラ助にとっては火に油を注ぐようなものだ。

 

「しょうがねえな…」

 

 俺は、そんな一言と共に立ち上がった。

 

 

「俺はい……中野さんと踊りてえだけだ、お前関係ないだろ」

「一応関係者だ」

「はあ?」

「お、落ち着いて!」

 

 三玖の制止も聞かず、コラ助が風太郎を教室の外に追い出そうとしたところで。

「おいおい……濁されてる時点で気づけよ。お前なんかとは踊りたく無いと思われてるってさ」

「なんだお前はコラ。関係ないやつが出てくんじゃねえ……って、お前は町谷!」

「お生憎様、俺も知り合いでね……それより一花。確かお前風太郎と踊る約束してるだろ?断るならそうはっきり言えばいいさ」

 

「へ?」

「え?」

 

 威嚇するコラ助をあしらいながら出した俺の助け舟に、2人が何言ってんだお前と言わんばかりの目を向けてくるが、せっかくの助け舟に今は合わせて欲しい。

 

 

「えっと……その……」

「嘘だ。

 

 こんな奴中野さんに釣り合わねえ!」

 コラ助がそんな事を言い出したが、つりあわないからつきあえないなんて、くだらない価値観ではなかろうか。

なにせ……

 

「人の惚れた腫れたに釣り合いもクソもねえよ。それに……視線を上げて、一花の表情を見てみな」

「ああ?………嘘だろ?」

 先ほどから目線を合わせていなかったコラ助に顔を上げさせると。

 

 

「そ、そんな事ない………フータローは………かっこいいよ……」

 

 一花に扮した今だからこそ言えたのだろうが、その分演技ではない三玖の想いが口に出されていた。

 

 

「つ……付き合ってるんですか……?」

「適当言い出したのは奏ニだが…勝手に断っていいのかよ」

「……一花、仕事優先とか言ってたから」

「ん?違うのか?」

「ラ………ラブラブだよね!それじゃあ、仲良く一緒に帰ろっか」

「ああ、もうそれで良いよ……じゃあな奏ニ、お前も後で来いよ」

 バカなと言わんばかりに動揺しているコラ助の前で、勢いで押し切る事にしたらしい三玖に乗っかるように風太郎が教室を出ようとしたが。

 

 

「ちょっと待て!

 

 恋人同士なら手を繋いで帰れるだろ……」

 

 と、最後の足掻きと言わんばかりに出された言葉に2人は困惑した顔を見せた……ここはちょっとからかってみるかな。

 

「今更恥ずかしがることもないだろ?人がいない時はいつもやってるじゃないか」

「ちょ、お前……!」

「なんだ?出来ないのか?やっぱり怪しいな」

「あのなぁ…」

 

 まさかの俺からの焚き付けに食ってかかる風太郎に、少しの間を置いて偽一花を持ち直した三玖が意を決したように手を繋いだ。

 

「み……一花‼︎」

「えっと……これは……また手を繋ぎたかったとかじゃなくって…その……と、とにかく!初めてじゃないから……」

 初々しく赤面しながらそんなこと言われても説得力がないが……コラ助にはこれでも通用するらしく。

 

「くそーっ!

 

林間学校までに彼女を作りたかったってのに、結局このまま独り身かーっ!」

 

 と、悔しそうに声を上げた。

 そんなコラ助の姿を見ていた一花の姿をした三玖が。

 

 

「あの……今、私が聞くことじゃないと思ったんだけど。

 

 

 なんで、好きな人に告白しようと思ったの?」

 と、地味に俺も気になっていた事を聞いた。

 

「中野さんがそれを言うか………そーだな。

 

 

 とどのつまり、相手を独り占めしたい。

 

 

 これに尽きる」

 

 

「………俺には理解できない考え方だぜ」

 

 好きだからなんて曖昧な理由で、独り占めしようだなんてそんなのは俺からしたら良い迷惑だ……人間が独り占めして良いのは、自分の身体とその命だけなのだから。

 

 誰にも聞かれない程度の呟きは、誰にも聞かれることもなく。

 

「ったく。

 

 中野さんを困らせるんじゃねーぞ」

「俺が今、絶賛困っている最中なんだが…」

「何言ってるのフータロー、ほら!行くよ!」

 

 

 風太郎と一花が出て行ったのに乗っかるが如く、俺も教室を後にした。

 

 

 

 

 ところ変わってショッピングモールにて。

 

 そこでは上杉風太郎のファッションショーが開催されており、そこでは中野4姉妹がそれぞれ選んだ衣服を身に纏った風太郎がその姿を見せていた。

 

 

「どうですか?地味目なお顔なので、派手な服をチョイスしました」

「多分だけどお前ふざけてるな?」

 まずは四葉のプロデュースだが……うん、これはアレだ。「おかあさんといっしょ」の体操のお兄さんみたいだ。

 キャップを被り、ポップな動物が大発生しているシャツと長ズボン……何というかお子様センスな四葉らしい。

 

 

「フータローは和服が似合うと思ってたから、和のテイストを入れてみた」

「和そのものですけど!」

 2番手は三玖……まあ、和服で似合うのだがこれを来て林間学校は流石にない。

 

 極道漫画の黒幕的なやつならまだわかるんだが……。

 

 

「私は男の人の服がよく分からないので、男らしい服装を選ばせて頂きました」

「お前の男らしい像はどんなだ」

 3番手は五月だが………これには流石に吹き出しを禁じ得ない。

 

 なんせ、デスメタルかヴィジュアル系のロックバンドのボーカルあたりが着てそうな衣装であり、風太郎が着ていると浮いてるわ痛々しいわで、逆にネタキャラとして送り出してもいいな。

 

 

「………」

「あ、ニ乃本気で選んでる」

「ガチだね」

「他がネタに走りすぎただけだと思うがな」

「あんたたち、真面目にやりなさいよ!」

 最後はニ乃だが、ようやくまともに見れる服装がやってきた。

……前に言ってた「手を抜けない性格」なのは本当のようだ。

 

 ちなみに俺も選んだのだが……

「これで良くね?」

「……普通ですね」

「無難だね」

「まあ、格好つけられるような顔してないものね」

「おい、それどういう意味だ」

 グレーのフード付きパーカーに紺色のジーパン……いわゆる「おそ松さん」的な格好にしておいた。

 

 

 で、結果として俺チョイスとニ乃チョイスの物を購入して店を出て、ショッピングモールの通路を歩く。

 

 

「ふー、買ったねー」

「三日分となると大量ですね」

「お前ら、洋服に1万2万って……俺の服なら40着は買えるぞ」 

「こんなの安い方よ」

「流石お嬢様……まあ、風太郎の服は主にリサイクルショップからだもんな。驚くのも無理はないか」

「ほっとけ」

 

 たわいもない会話をしていると、三玖が持っていた手提げを風太郎に渡していた。

 

「はい、フータロー……お金はいいから」

「?しかし……」

 

 なんだか貢いでるみたいな光景の隣では、五月とニ乃が買うものを整理している。

 

 因みに俺は必要なものは大体もう準備してあるのでウインドウ・ショッピングだ。

 

 で、そんな俺たちの先を歩いていた四葉が。

 

「うーん、男の人と服を選んだり一緒に買い物するって、デートって感じですね!」

 

なんともタイムリーな感想をぶち込んでくれた。

 

 全員一瞬動きが止まっだが、そこへ待ったをかけるやつが。

 

「これはただの買い物です。

 

……学生の間に交際だなんて不純です」

「あ、上杉さんみたいなこと言ってる」

「なんだかんだで似たもの同士だしな」

 

「一緒にしないでください!

 

……最近なんだか距離感が近くなってましたがはっきりさせますが、あくまで上杉君や町谷君とは教師と生徒。

 

 一線を引いて然るべきです!」

「言われなくても引いてるわ!」

「へいへい……」

 キッとした顔でそんな事を言う五月に、ニ乃が声をかけた。

 

「ほら。そんなやつらほっといて、残りの買い物済ますわよ」

「そうですね……あなた達はここで待っていてください」

 その行く先は……うん、これは待つのが正解なのだが風太郎は。

 

「なんでだよ。俺の服を勝手に選ばれたんだからお前らの服も……」

「お前、行き先よく見ろ……ここは男子禁制だ」

 ニ乃達のあとについて行こうとしたので、止めて上を向かせた。

 

 

……アイツらの進む方向にある店はランジェリーショップ。

つまり、こいつらが買うのは……

「生徒の下着を選ぶ家庭教師がどこにいるんだ」

「……待ってまーす」

「そう言うことだ」

「デリカシーのない男って、ほんとサイテー」

「助かりました、町谷君……あと、その男が何かしないように見張っててください」

 

 そうしてニ乃と五月がランジェリーショップに消えたので、いるのは4人だけとなった。

 

 

「……よくわかったね」

「あの方向だとそれくらいしか行きそうな店がなかったしな」

 

 風太郎が四葉に絡まれているのを見ながら三玖と話していると、風太郎の携帯に電話がかかって来た。

 

 そして………電話が終わったかと思うと、家へ帰ると一言を残して、俺たちから一目散に離れていった。

 

 

「……何かあったんですかね?」

「……フータロー、かなり焦った顔してたけど」

「……後で聞いてみるか」

 

 

 

 

 翌日。

 

 バス乗り降りの時間がやってきたので列に並んでいた俺は、昨日買っていたおニューの服を着た五月に絡まれていた。

「服はあるから大丈夫と言ってたので油断してましたが……なんでまたその格好なんですか?」

 

 どうやらいつも着ている改造牧師服に青いコート、黒い帽子で来たことがご不満なようだ。

「ちゃんと追加で一枚羽織ってるし、帽子もかぶってるぜ?」

「上に着ればいいと言うものじゃないです!」

 

 母親みたいな事を言い出す五月の言葉に適当に返す。

「まあまあ、明日はちゃんと違う服だから楽しみにしててくれよ」

「変な決めつけしないでください!もう少し普通の服を……」

 尚も何か言おうとしたところに、クラスメイトに後ろから組みつかれた。

「町谷お前!彼女いない仲間だと思ってたら、中野さんと夫婦みたいな会話しやがって……この裏切り者!」

「おいおい。付き合ってなくても、俺たちの会話なんて大体こんなもんだろ?……こら、苦しいからそろそろ離せ!」

「案外余裕かもしれませんよ?普段から冗談ばっかり言うんですから……」

「五月さん⁉︎ いやだって、反応が面白いからつい……」

「一花みたいなこと言わないでください!」

「制裁中にイチャイチャとはいい度胸だなおい!」

 仕方ないので脇腹に肘鉄を入れて解いていると、担任が焦ったような顔で。

 

 

「中野さん、大変!

 

 肝試しの係、代役でやってくれないかしら?」

と、五月に向けて頼んできた。

 

 

 

 ここで、昨日何があったかを説明しよう。

 風太郎が突然帰った原因……それは、らいはちゃんが熱を出してぶっ倒れたことだった。

 

 アイツには親父さんがいるのだが、夜勤で帰って来れないので風太郎が看病するしかない。

 

 その看病をする為にこの林間学校を休むことにした風太郎が、担任にこの事を話したのが経緯だ。

 

 

 そんで今、担任は無欠席で無遅刻、忘れ物がないことで信頼が厚い五月に、アイツが押し付けられた肝試しの担当を任せ……五月は断りきれずに引き受けたのだが。

 

 

「ま、町谷君!どうしましょう……」

「なんでホラー耐性ないのに、肝試しの係引き受けちゃうんだよ……」

 

 担任が去って少しした途端にこのテンパりようだった。

 なんとこの五月は怖いものが苦手だったのだ。

 

「だって、先生からの頼み事を断るなんて……!」

「怖いから無理、でいいじゃねえか」

 

 流石に、それでもやらせようとするほどあの担任は鬼畜ではない。

 だが、テンパって正常な判断力を失っている五月は。

「こうなったら三玖に頼んで変装を……でも、違うクラスの三玖に迷惑をかけるわけには……そうだ、町谷君が私に変装すれば」

「おい、お前何言って……」

 

 とんでもない事を言い出していた。

「お願いします!私のことを知っている町谷君なら、きっと大丈夫ですから!」

「なんの根拠があってそんな事を……大体俺は料理担当で」

「私が変わります!味を見る目には自信がありますから!」

「量がとんでもない事になるだろうが!ニ乃から聞いたぜ!」

 

 料理当番の際に1人3合でいいかとか言い出して、クビになったんだとか……少し前に教えてくれた。

 1人3合……要は一回で15合も炊こうとする奴には流石に任せられない。

 普段からは想像もできない馬鹿な事を言い出し、焦りまくる五月とそれを抑えている俺を、クラスメイト達は遠巻きに見守っている。

 

 誰か助けてくれと思っていた所に。

 

 

「話は聞かせてもらいましたよ、お二人とも!」

 うさ耳リボンの救世主が、こちらに声をかけて来た。

 

 

 

「いやー、すごい座り心地。こりゃたまらんな」

「それは何よりでございます」

 

 高級そうな助手席に座った俺がその座り心地に驚いていると、運転席に座っていた江端さん……俺たちの雇い主の秘書が声をかけて来た。

 

「でも、俺までこっちで良かったのかい?」

「お嬢様方が良いと言っているなら良いんですよ……それより、この場所で良いんですな?」

「ああ。恐らく雪道を走る事になるけど冬用タイヤとチェーンは」

「ご心配なく。抜かりはありませんよ」

「それを聞いて安心したぜ」

 

 江端さんがカーナビに情報を入力しはじめたのを横目に。

「しかし、まさかこの黒塗りの高級車で送るとはな……バスで行くよりも高待遇だぜ」

 

 

 窓の外でやりとりをしている6人を眺めていた。

 

 四葉が提案したのは風太郎と5つ子、ついでに俺を送迎で使っている黒塗りの高級車で送る事だった。

 

 風太郎が行かないのは、らいはちゃんが心配というのもあるが、バスが出る時間に間に合わないと言ったこともあるだろう。

 

 それなら、別の車でいっちまおうって訳だな。

 

 そんな間にも風太郎たちが乗り込んで来たので片手をあげる。

「よお、おはようさん」

「奏ニ……お前がこれを?」

「いや、五月の奇行に気づいた四葉が提案したんだ」

「奇行言わないでください!」

「ししし!」

 

 俺がサラッとネタバラシすると、五月が恥ずかしそうに噛み付いてくる前で四葉が笑った。

 

 

 そうして、助手席に俺。

 二番目の列に左からニ乃、四葉、一花。

 3番目の列に風太郎、三玖、五月が座り。

 

 

「それでは、しゅっぱーつ!」

 

 ようやく、俺たちの林間学校が始まるのであった。




いかがでしたか?

 もうお分かりでしょうが、奏ニのヒロインは五月で行かせてもらう事にします。

 母親のようになろうとした五月と、なんでも1人でやらなければならなくなった奏ニの間には「一足先に大人にならなければならない者」同士で、何かしらのシンパシーがあると思うんですな。

 また、現状の奏ニの恋愛については、「漫画やゲーム、ニュースなどでどういうものかは知っているけど、やったことがないので実感が湧かない」と言った感じです。

 で、次回は本格的に林間学校編になりますのでよろしくお願いします。

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