幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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1 女児、それは元おっさんの見た光

 女児アニメ、それは光だ。

 神が作り、女児たちにむけて授けた希望だ。それによって輝く女児たちはまさしくゴッデス。女神という他にない麗しき女児たちである。

 救世主とは女児であり、女児とは女児アニメによって女神となる。

 

 救いはあるか、そこにある。テレビの中の女児アニメにある。

 

 ああ神よ、どうして貴方は女児アニメを世界に与えたのか。その行為が、どれだけの者に救いを与えるか。神よ、感謝します。今、世界は幸福に満ちている。

 

 ――俺がそう考えるように成ったのは、転生してからのことだ。

 流石に前世の冴えないおっさん時代にそんなこと考えたら犯罪である。

 

 俺の名前はクリスタ。転生者である。クリスタっていうのは現世の名前、前世は先述の通り冴えないおっさんだ。とても冴えないおっさんなので、前世のことを思い出す必要は特に無い。

 大事なのは、俺が女児向けアニメの世界に転生した、ということ。そして、

 

 ――そのアニメの重要なポジションの存在に転生してしまった、ということだ。

 

 重要キャラではない、重要なポジションだ。ここ大事、つまり俺はアニメに登場するキャラではない。

 

 女児アニメ。

 女の子たちが友情に、恋愛に、青春に、題材によってはバトルやアイドルに明け暮れる。個人的にはバトルする感じも好きだが、アイドル系の女児アニメの方が俺は好きだ。

 単純に歌って踊ってるアイドルアニメが好きというのもあるけれど。

 俺が転生したのは、『ドルマジ』と呼ばれるシリーズの世界だ。ちなみに一見『アイドルマジック』あたりの略に見えるが、正確には『ドォルマネージ』である。ここらへんはよくある意図的なダブルミーニングだな。

 

 ドォルをマネージするからドルマジ。この世界のアイドルシステム(プリティなパラダイス的なあれ)は少し特殊。アイドルは必ずドォルと呼ばれる存在と女の子のコンビになる。ドォルというのは女児アニメにありがちなマスコットポジション。女の子としてアイドルになることも、ちっこいマスコットになることもできる素敵種族。

 そんなドォルをマネージするのは、ドォルがこれだと選んだ女の子。マネージャーとはいうものの、ドォルに選ばれた女の子も立派なアイドルだ。

 

 簡単に言うとドォルとマネージは、アイドルとして輝きたい、すごいアイドルになりたいというドォルの夢を、一緒にマネジメントしていく女の子という関係だ。原動力はドォルであり、決定権はマネージにある感じ。逆のパターンや、そもそもドォルもマネージも大人にプロデュースされる場合もあるけど、基本はこれだ。

 

 そもそもなんでドォルはアイドルに憧れるのか。マネージが必要なのか。その根本的な理由はマネージを持たないドォルは人間界に行くことができないからだ。

 人間界、美味しいものやきれいな洋服、その他色々なものが存在している夢の世界。しかしドォルはそんな人間界に行くことができず、ドォル界という世界から一人で出ることができない。マネージとのドルマジ契約というのが必要で、相棒となるマネージを得て、初めて人間界に飛び出すことができるのだ。

 

 まぁ、それでも人と同じように生活することは、この段階ではまだできないんだけど。

 

 そんな世界に転生した俺は、一言でいうとドォルになっていた。そりゃそうだよね、名字も何もなくクリスタなんて名前になったからにはドォルになったと言うしか無いよね。

 水晶、水晶である。明らかに重要人物っぽいが、特に本編で見た名前ではない。本編終了後にリブートされて新シリーズとか始まってたら知らないけど、俺多分その前に死んでるし。

 

 つまり俺は自分の知っている女児アニメの世界で、特に本編とは関係ないのに重要ポジっぽいキャラに転生してしまったのだ。問題は色々ある。そもそもキャラっていうのか? 俺の記憶があるだけでクリスタはクリスタじゃないか? 何だってこんなことに? 調べたけど本編ってもう三年くらい前に終わってるんだけど? やっぱりこれリブート新作じゃない?

 とかとか。

 

 まぁ結論なんて出るわけがないので、ここらへんはスルーだ。だって考える必要はあんまりないし。この世界、ドォルマネージシステムの危機とかはたまにあるけど、基本的には優しい世界だから、転生オリ主がサボっても世界が悪くなることはないのである。

 というか俺のことなんてどうでもいいのだ。ここはドルマジの世界、俺が好きだったアイドルたちがいる世界! つまり何が言いたいかというと――

 

 

『みんなー! 来てくれてありがとー!』

 

 

 うおー! ひびかちゃんうおー!!

 

 俺は現在、自室の超巨大モニターの前で、サイリウムをブンブンしながらドルマジアイドルの応援をしていた。そりゃ応援もするさ、ファンなんだもの。

 考えて見てほしいが、俺はもともとこのアニメのファンで、アニメのライブが大好きだったのだから、それをリアルで見ることが出来るようになれば、当然それにドハマリするわけで。

 いやすごいね、生――今回はライブ配信だから現地参戦じゃないけど――のドルマジはマジやばい。アイドルアニメのライブって結構むちゃな振り付けとかあるけど(マイク持ちながら側転とか)、それをリアルにやってのけるアイドルたちがわんさかいる。

 

 前世の世界にはなかった特殊なパフォーマンス、セッションも魅力の一つ。セッションというのはいわゆるメイキング……とかプリズムジャ……とかああいうの。ドルマジはプリ……シリーズの構文が多いので、リアルで見る場合はこれがまたド迫力。映像とは違う見応えがすごい。

 感動したね、初めて見た時は感動してそのまま尊死したね。あっ、今も少し死にそう……

 

 死んでる場合じゃないんだよ!

 

『今日は、私とママの応援にきてくれて、ありがとなのー』

 

 俺が今見ているライブは、ドルマジアイドルコンビ『かミしゃーぷ』の宇宙鳴ひびかちゃんとチミィちゃんのライブだ。この二人はいわゆる原作主人公というやつで、今から三年前にデビューした伝説のドルマジアイドルだ。

 すなわち俺のドルマジの原点。推さないわけないよなぁ!?

 

 当時から三年が経ち、中学生になったひびかちゃんとチミィちゃんはそれはもう立派なお姉さんになった。女の子たちの憧れ、トップオブトップ、すごいアイドルさんなのである。

 

 ちなみにチミィちゃんはひびかちゃんをママと呼んでいるが、ひびかちゃんと最初に出会った時のチミィちゃんは情緒が発達しておらず、言ってしまえば赤ちゃんだった。そこでマネージであるひびかちゃんをママと呼んだ。

 女児アニメでよくある子育て要素だ。

 

 それで、現状俺はその世界でドォルをしているわけだ。

 一体どういうめぐり合わせか。おっさんでも女児でもなく、ドォルそのもの。ドルマジの世界に関わらなくてはならない存在。逃さないぞと言われているかのようだ。

 

 これは試練か? はたまた地獄か? 俺はただ、推しを推してたいだけなのに。こうしてライブを見るだけで満足なのに。

 悩ましい悩ましい、悩んでいる間にもうこの世界へやってきて――クリスタが誕生して半年が経とうとしていた。未だに答えは出せていない。このままこうしてアイドルを推しながらひっそりと部屋の片隅で尊死したい……

 

 まぁ、

 

「――さま」

 

 そういうわけにも行かないんだけど。

 

 

「お嬢様、そろそろ正気に戻ってください!」

 

 

 俺は一心不乱にペンライトを振りながら、思考の片隅で先の見えない未来から逃避しつつ、尊さで死にかけるという中々器用なことをしていた。

 そんな俺に声をかける者が一人。中性的な、男性とも女性とも取れない声だ。しいていうなら少年声が得意なタイプの女性声優が声を当ててそうな感じ。ゲットだぜ! って言ったり逃げちゃダメだ! って言ったり。アイドルアニメでいうと語尾で死にかけたりしそうな、あんな感じ。

 で、俺はそれに答えるわけだ。

 

「邪魔、しないで。――セバス」

 

 可憐な少女の声。自分でもびっくりだが、これが俺の声だ。透明感のある、透き通る水晶のような声。天性のものだと、自分でも思う。

 なお、しゃべる内容はどういうわけか自然と無機質系に変換される。とてもありがたいことに、これでおっさん口調でクリスタが話していたら俺は解釈違いで死んでいた。

 

 見下ろすと、そこには執事服のペンギンが立っていた。名前はセバスチャン。初対面の印象は“安易”だった。今でも思うが鳥で執事でセバスチャンは安易だと思う。

 

「邪魔をするつもりはございません! ドルマジアイドルのライブはお嬢様にとっても良い刺激となるでしょう、むしろ推奨でございます……が!」

 

 くわ、っとペンギン公は目を見開いて言った。相変わらず殴りたい顔をしている。

 

「その身だしなみは見過ごせません! 髪のセットもできていない! お洋服だっていつまでパジャマ姿でいるつもりなのです!」

 

「……ここ、私の部屋」

 

 いいじゃないか自分の部屋でくらいくつろいでも。

 

「ええそうですね、お嬢様が普通に生活し、人と交流を持ち、健全に過ごしているなら、自室でのリラックスにとやかくは言いませんとも。ですがお嬢様は!」

 

 むむ、長くなりそう。

 

「一日中部屋に引きこもり、外に出るのはライブを見に行く時か、人間界にお菓子を買いに行くときだけ! レッスンすら自室で済ませてしまう始末。これでは健全な生活を送っているとはとても――――」

 

「ほい、お魚」

 

「わぁいさかならぁああああ!!」

 

 セバスは作画を崩壊させながら、アホみたいな顔で私が投げた魚に飛びついていった。そのまま魚に構いはじめたので、私はライブに集中する。

 

 ――そう、先程のセバスの発言通り、俺はこの部屋に引きこもってライブを見ながらお菓子を食べる怠惰な生活をしている。ドォルとしてのレッスンはこなすが、ライブに出るわけではない。だってあそこはドルマジの聖域、俺のような元おっさんが飛び込むには眩しい世界だ。

 そういえば、セバスの発言と俺の説明が矛盾している、そもそもセバスってなんなの? という疑問は当然だろう。

 

「って、そうではないのです! お嬢様が普通のドォルなら、それもまた一つの人生でしょう、ですがお嬢様は違う。このセバスという世話役を与えられた、由緒正しき――」

 

 それを説明するために、健気にもセバスは正気に戻った。お魚はすでに丸呑みされていたが。卑しい奴め。

 

 

「――“スタァドォル”なのですよ!?」

 

 

 ――スタァドォル。ドォルの中でも特別なドォルだ。相棒となるマネージを必要とせず、一人でライブができる。アイドルとしての特別な才能を持ち――俺の場合は“声”とか――一人で人間界を訪れることができる。そしてセバスのようなドォルとはまた違うお世話役マスコットがつく。

 などなど、スタァドォルはセバスの言う通り古くから存在するが、ここ最近はめっきり存在が確認されなくなっていた。それが数年前、初めてそれが確認され――というのがドルマジ本編でのお話。

 以降スタァドォルは何体か出現したわけだが、俺もそのうちの一体に転生してしまったわけだ。そしてスタァドォルには一体、セバスのような世話役がつく。

 

 なので、その才能を腐らせることをセバスは嫌う。そりゃそうだ、俺だって自分がその立場に立たなければ惜しいと思う。しかし、

 

「……でも、怖い」

 

 俺は怖いのだ。

 

「怖い……ですか」

 

 セバスは目を細める。このやり取りはもう何度目になるだろう。俺が生まれてから幾度となく、口にしてきた言葉であり、俺の本心だ。

 

「スタァドォルは、特別な存在。ただそこにあるだけで、アイドルとしての存在感を放つ」

 

 そう、言ってしまえばスタァドォルとは特上のズルだ。才能が約束され、他人を必要としない。だからこそスタァドォルとは憧れであり――アイドル達の夢を壊す存在だ。

 ドルマジ本編で初めて登場したスタァドォル“プラナ”は、その圧倒的な才能から多くのアイドルを挫折させ、ドルマジの世界から遠ざけてしまった。

 

 ドルマジのテーマは“特別”。それは根本的に言えばドォルとマネージの絆が特別であるというところに行き着くのだけど、他にも様々な特別が登場する。その中で最もわかりやすい特別が、スタァドォルなのだ。

 特別故に傷つけてしまう。特別故に嫉妬されてしまう。特別故に共感できない。そんな存在がスタァドォルだ。

 

「私がライブをすれば、輝けるはずだった才能を傷つけてしまうかもしれない。あれ程にも尊いアイドルの光が、くすんでしまうかもしれない、それが怖い」

 

 俺の――スタァドォルクリスタの本音は、そこにあった。

 何せ、俺もまた“特別”な存在だ。転生し、元おっさん。スタァドォルは特別故に、人の心がわからないという特性を持つが、俺は違う。わかってしまうから、その特別を恐れる。

 

 前世が平凡で、何の取り柄もないおっさんだったから。今のスタァドォルとしての才能が、俺は怖い。

 

「お嬢様――」

 

 セバスも、そのことを理解してくれているがゆえに、踏み込まない。俺の苦悩を知っているから、ここで最後の一言がでてこない。それでもやるしかないと、セバスは言ってくれない。

 二人の間に気まずい沈黙が流れ――嫌になるほど繰り返した、この時間は、

 

 

『みんな、今日は私達のライブを見てくれて、本当にありがとうございました!』

 

 

 ――ライブの終了によって、中断された。

 っていうか、ライブ終わってる、終わってるんだけどセバス!?

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 俺とセバスが、終わってしまったライブを眺める。ちょっとセバス? 俺、君がシリアスな話をするせいで、楽しみにしていたライブの一部を見逃したんだけど?

 

「きょ、きょうはゆっくりしましょうか――」

 

「ダメ。貴方を振り回してレッスンする」

 

「お、おやめくださいませ――!?」

 

 ――なんてやり取りをしていると。

 

『――聞いてください! 私達、こうしてライブをしていると思うんです!』

 

 ふと、ひびかちゃんと。

 

『アイドルって、こんなにも楽しいの』

 

 チミィちゃんの声が聞こえてきた。

 

 本当に、心の底から楽しそうな声だった。

 

『ドルマジって、誰にでも訪れる機会なんです。ドォルがマネージを選ぶ理由は、それが運命だから』

 

『運命は、きっと誰のもとにでも訪れるの。その運命を、皆には大事にしてほしいの』

 

『だから、どうか絶望してもあきらめないで! 挫けそうでもうつむかないで! きっと前を向いていれば!』

 

『いつか、運命を切り開くことができるから!』

 

 ――――俺は、

 

「……お嬢様?」

 

 涙を流していた。

 

「尊し……」

 

「あ、いけないお嬢様が発作を……」

 

 ――普段なら、そのままガクガクと痙攣を始め、泡を吐いて吐血してから魂を吐き出して死ぬのだけど、今日は違った。セバスが慌てて俺を受け止めようとして、その変化に気がつく。

 

 俺はその時、ひびかちゃんとチミィちゃんの言葉に、きっと救われていたんだ。

 

 

『目の前の壁を、どうか乗り越えて!』

 

 

 ――俺は、その時思った。

 

 壁があるなら、越えてしまえばいい。アイドルには、ドルマジにはその力がある。だったら、つまり、それならば――

 

 俺は、

 

「――セバス」

 

 涙を流しながら、俺は決意した。

 きっと、それが正解であると信じているから。

 

 これが、正しいことだと思うから。

 

 そう、俺は――

 

「……お嬢様」

 

 セバスが、俺の決意を込めた言葉に目を輝かせる。ついに、外へ羽ばたく時が来たのか、と。そうだ。俺は――

 

 

「――私、ラスボスになる」

 

 

 ――ラスボスになってしまえばいいのだ。

 

「……はい?」

 

 セバスの理解できないという言葉と、ひびかちゃん、チミィちゃんへの拍手が、俺の部屋に響き渡る。

 

 この世界は――幼女(元おっさん)には、眩しすぎる。

 おっさんは汚れていて、水晶(クリスタ)なんて似合わなくって、似つかわしくない。

 

 だけど、俺にもできることがある。

 

 汚れているなら、眩しい世界の壁になればいい。乗り越えるための壁、女児たちが輝く礎になればいい。俺は、きっとこのためにこの世界に転生したのだ。

 

 

「成長しそうなドルマジを見つけて、立ちはだかる。そしてその子達が成長し、私を超えるための踏み台になる。私はそのために――スタァドォルになったんだ」

 

 

 かくして、俺の存在意義はここに明白となった。

 セカイは動き出す。ドルマジ本編から三年、原作主人公たちは成長し、伝説の存在となった。俺と彼女たちはつながらない。俺は俺の本編を作るのだ。

 新たなドルマジと、そして俺、クリスタとして。

 

 かくしてここに、スタァドォルクリスタと、未だ知らない、未来の可能性。

 

 

 “新主人公”たちの、新たなストーリー、“ドルマジ新シリーズ”が幕を開けるのだ!

 

 

 ……多分。




某プリティパラダイスが三年ぶりの新作ということで書きました。
アイドル女児アニメはプリパラに心が囚われていて未だにチャンを見れてないけどそのうち見たい……
それはそれとして三年ぶりですね、とても楽しみです。
よろしくおねがいします。

なお、ドルマジのタイトルは最初アイドルマジックの略だったんですが思い出して調べたらプリティシリーズの最新作とダダ被りしてたのでずらしました。
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