幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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11 呼び出されて決死行

 北條よしの様。

 ドルマジセカンドシーズンのラスボス兼シリーズを通しての宇宙鳴ひびかのライバル的存在。準主人公ユニットである『ほシふらっと』が立場的には先輩、先達、そして親友というポジションだったこともあり、ライバルとしてひびかちゃんと絡むのは、よしの様の役割だ。

 

 その性格は生真面目を通り越して氷。冷徹を通り越して残酷。時には一切ためらいもなく先程まで談笑していた相手を千尋の谷へ落とすような行為をやってのける。

 踏み込んで言うと、よしの様は人とは困難を乗り越えるべき生物であると考えているのだ。その困難は大きければ大きいほど良く、時には挫折してしまうようなものも平気で他人に投げつける。

 何故なら自分はやってこれたのだから。

 

 よしの様は天才だ。そんな天才のよしの様に、親はマネージアイドルとなることを禁じた。そもそもアイドルとは下々の者がやることで、支配者であるよしの様(よしの様は超大規模財閥のご令嬢だ)にはふさわしくない、と。

 それでもなお、マネージアイドルとなりたいなら、親の課した千の課題を、全てこなさなくてはならない。

 

 結果、よしの様はドルマジセカンドシーズンが始まるまでマネージアイドルではなかった。親の課した課題をすべてこなして、親にマネージアイドルとなることを認めさせた時、よしの様はこの時高校一年生になっていた。

 マネージアイドルとしては遅い出発だ。しかし、それでも本編の中でよしの様はプラナ様と契約――スタァドォルは基本的にマネージアイドルを必要としないが、本人が望めば契約は可能――マネージとなった。

 そして初めてのライブで、スクランブルセッションを披露。一気に注目を集めることになった。

 

 ちなみに、初めてのライブでスクランブルセッションを披露したのは、他にはスタァドォルユニット『SHIELD&COLD』のシルルちゃんとコルルちゃんなど、歴史を紐解けばそこそこ存在する。

 ただ、歴史上唯一、初ライブで“単独”のスクランブルセッションを成功させたのは、スタァドォル・プラナちゃんだけだ。そもそも単独でライブができるのはスタァドォルだけなんだけど。

 

 とまぁこのように、天才の一人としてドルマジ界で常に存在感を発揮し続けるよしの様。その無茶振りっぷりは有名で、サードシーズンの新キャラを三ヶ月(話数的に言うと1クール)でペンタグラムセッションができるレベルに育て上げたり、今回俺に対して初ライブを自分の活動三周年記念ライブでやるよう依頼してきたり、枚挙にいとまがない。

 

 そう、俺は自身の初ライブをそんな大舞台に設定されてしまったのだ。断ればいいと思うかも知れないが断れるわけがない。よしの様がやると決めたらそれは決定事項だし、何よりよしの様に無茶振りされるとか俺の人生から悔いが消失しかねないくらいのスペシャルイベントである。

 素敵! 悪よしの様サイコー! ちなみに悪よしの様っていうのは、よしの様が無茶振りをしている時の通称だ。さっき言った三ヶ月でペンタグラムセッションをやらされた新人ユニットの一人が名付けた。以降このモードに入ると、よしの様は頭に悪のハチマキをつけるようになっている。

 

 状況説明は以上、俺は先日の電話でよしの様からそのことを依頼され――まぁ俺は死んでいたので応対したのはセバスだが――受諾。そして更には直接会って話がしたいというよしの様の依頼(命令)を受けて、彼女の元へ馳せ参じた次第。

 

 うわあああついに原作のドルマジアイドルと直接対面だぁあああ、あと一年くらいさゆスロやローズマリアとイチャイチャしていたかった……

 

 そして俺はこの時、死を覚悟していた。

 

 相手はよしの様。尊さと、よしの様ヂカラのサンドイッチ。いつ押しつぶされてもおかしくない。故にこれは決死行。俺の命を賭して、よしの様へと会いに行く――――

 

 

 

「ようこそ、スタァドォル・クリスタ。歓迎します。北條よしのです」

 

「よろしく、よしの。先日の件は誠に申し訳なかった」

 

「いえ、急でしたからね」

 

 俺の口はクリスタフィルターによってクリスタ化されている。どれだけ俺がよしの様を恐れていようと、クリスタの口から飛び出すのはそんな恐れを感じさせない無機質な声。

 これがありがたくもあり、恐れ多くもあり、複雑な心境で俺はよしの様と向かい合っていた。

 

 ここはよしの様のハウス。ドォルハウス的なそれではなく、リアルの北條邸だ。敷地内を移動するのに車が必要という、とんでもないデカさの屋敷で、その大きさと反比例するようにこじんまりとしたよしの様の私室へと俺は通されていた。

 なぜこじんまりしているかといえば、そもそもよしの様には私室が複数存在する。部屋によって用途を使い分けているのだ。俺の禁部屋のように見られちゃいけないものを、そもそもひと目のある場所から遠ざける意味も込めて。

 具体的に言うと――

 

「……ふむ、失礼します」

 

 よしの様が立ち上がって、近づいてくる。

 あ、覚悟していたとはいえ、顔が、顔が近い! 綺麗!!

 

 よしの様は金髪令嬢だ。典型的、というのも違うが、なんというか女児アニメの主人公の髪色が金色だったら、こういう髪型になるだろうな、という髪型をしている。

 ゆめかわいい女の子とか、イチゴ味の女の子とか。

 

 よしの様はセカンドシーズンのラスボスであり、主人公でもあるので、意図して主人公としての要素を散りばめた、と前世で聞いたことがあった。

 

 ――その顔が、今、目の前に!! 俺の目を覗き込んで、そして、そして、ああ――っ!

 

「失礼、抱き心地を確かめさせていただきます」

 

 ぎゅううううっと、優しく、けれども絶対に離さないと言わんばかりの勢いで抱きついああああああああああああああああああ!!!

 

 ――俺は死んだ。死んだが、よしの様は俺の口から魂が漏れているのが見えない。故に必死に飲み込んだ。――セーフ!

 

「ふぅー、最高ですね。やはりスタァドォルはふかふかしていていつまでも抱きしめたくなります」

 

 よしの様の性癖というか、なんというか。よしの様はスタァドォルフェチだ。毎日スタァドォルを抱きしめて暮らせたらどれだけ幸せだろう、と真顔で語るくらいの。

 俺も中身はともかく、見てくれはスタァドォルの端くれ、こうしてよしの様にふかふかされるのは必然である。故に、ギリギリで耐えられた。初見だったら死んでたね。百回は死んでた。

 

「――さて、まずはこちらの依頼を受けていただき感謝します」

 

「断ることはない。私はドルマジアイドルの願いを拒まない」

 

「それはなぜ?」

 

「――ドルマジを、愛しているから」

 

 真面目な話。よしの様にとっても、俺の受諾は意外だっただろう。しかし、俺がそれを断るはずもない。よしの様の願いを断れないのもそうだが、今言ったとおり、これは愛するドルマジの願い、俺はすべてウェルカムなのだ。

 フォーエバードルマジ!

 

「嘘はない、と。変わったスタァドォルですね」

 

「そう?」

 

「そうです。本当に、まったく……」

 

 ――それから、よしの様とライブについての打ち合わせをした。俺の出番はだいたい真ん中くらい。スタァドォルたちのライブパートに混ざることとなった。よしの様はスタァドォルの保護活動をしているので、それによって保護されたスタァドォルのライブの一環だ。

 この辺り、前世の記憶は便利だ。普通のスタァドォルだったら、間に世話役マスコットがいなかったら話が通じなかっただろう。

 そういうところをよしの様は変わっているというのかも知れないが。

 

 んで――打ち合わせが終わると、ふとよしの様が部屋にスクリーンを呼び出す。どうやらここは視聴覚室だったらしく、部屋が暗くなったと思えば、スクリーンにはドルマジのライブ会場が映し出された。

 

 これは――

 

「……トルオカ街特別ライブフェス」

 

「正解です。貴方が気にかけていたさゆ&スロースとローズマリアの、初対決が行われる舞台。今日がそのライブの日でしたね」

 

 頷く。

 まぁ、よしの様からこの日を指定して呼び出された時点で、この流れはなんとなく読めていた。彼女は俺を知りたいのだ。そしてそのためには、俺と交流があるアイドルのライブを見ることで、俺を知ろうとしている。

 

「ローズマリアは優秀なユニットですね。結成してそう時間は立っていないのに、トライアングルセッションを自力で成功させ、トルオカ街では間違いなくトップのドルマジユニット……」

 

「さゆ&スロースは?」

 

「さゆさんは天才ですね。あのパフォーマンスの精度、今まで埋もれていたのが惜しい。対してスロースさんは……」

 

 ふと、よしの様が言いよどんだ。

 さゆちゃんに対しての高評価は予想通り。さゆちゃんは記憶力が良いらしく、ダンスは一度見ればほぼマスターできる。表現力に難はあるけど、そこはこれから伸ばしていけばいい。期待株だ。よしの様としても、ああいうわかりやすい天才型は好みである。

 対してスロースちゃんの反応は、少し意外だった。スロースちゃんはさゆちゃんと比べてパフォーマンスに特徴はそこまでない。これにはある理由があるのだけど、そこによしの様は気がついたということだろうか。

 レッスンを直接見ていないと、そこには気が付かないと思うのだけど。

 

「……あの子は、いささか頑張り過ぎではないですか?」

 

「知っていたの?」

 

「貴方が気にかけていると知って、直接見たのです。こう、変装をして」

 

 言いながら、目元を隠すよしの様はなんだかエッチだ。サングラスをしているジェスチャーなのだけど、目隠しってだけで色気があるのは、さすが高校一年生(一年生(一年生(エコー。

 

「スロースは努力型。……努力をしなければ、他のアイドルと同じパフォーマンスを発揮できない」

 

 残酷な話。

 世界には才能という壁がある。よしの様やプラナ様、さゆちゃんのような才能によって未来を約束された特別な存在もいれば、ひびかちゃんやスロースちゃんのように、才能なんてないのを、努力や根性でなんとか補うしかない人もいる。

 特別とは残酷だ。女の子はドルマジになれば、誰だって特別になれる。素敵なアイドルになれる。でも、それにしたって選ばれなければ始まらない。舞台にも立てない。

 

 今から三年ほど前の話。ドルマジはもっと残酷だった。当時のドルマジは才能のある人しかアイドルになれない。選ばれた存在だけが、ドルマジユニットになることができた。

 

「……昔、私がマネージが選ばなければドルマジになれないのは間違っていると考え、活動していたことは知っていますね?」

 

「もちろん」

 

 ドルマジセカンドシーズン。よしの様はマネージという存在に敵愾心を抱いていた。故に、ドルマジは「マネージが拒否すればドォルはドルマジになれない」という前提から、マネージがドォルを選ぶのだという考えで、それを排除しようとしていた。

 結果、ひびかちゃんの考える“選ぶ必要のないドルマジ”と対立した。ひびかちゃんいわく、ドルマジは誰にでも機会のあるものだ、と。

 

 ただし、これはどちらも間違っていたが。

 正確にはドォルもマネージも、“才能のある人間しか本来は選ばれない”システムになっていた。今はそんなこともなくなって、ドルマジの数は爆発的に増加。当時の数倍、ユニットが存在しているが……

 

「……当時の基準であれば、スロースさんはドルマジになれる素質はなかった。ですから――」

 

「…………」

 

 ――まもなく、ライブが始まる。

 俺の信条ゆえ、口には出せないがそれでも、スロースちゃんに才能がないのは明らかだ。それを人の数倍以上の努力でなんとか水準まで引き上げている。

 そのことを俺は素晴らしいとも、間違っているとも言えないが、それでも。

 

 どうしてスロースちゃんがそこまでするのか、それを探ることはできる。

 

 知りたいのだ、彼女のことを。どうしてだろう、よしの様も、俺も、今回のライブで一番に気にかけているのはスロースちゃんだ。誰よりも才がなく、特筆すべき能力もない。

 なのに、どうしてか気になってしまう。それは――

 

「――どうにも、拙かった頃のひびかを見ているみたいで、放って置けないのですよね」

 

 宇宙鳴ひびかのようだ、とよしの様は思うのだ。

 

「ただ……今回、勝つのはローズマリア」

 

「へぇ?」

 

 意外だと、よしの様はいう。てっきり俺はさゆスロを贔屓しているのだと思っていたからだろう。でも、今回ばかりはそうは行かない。勝つのはローズマリアだ。

 何せ――

 

 

 ――先手がさゆスロだからだ。

 こういうライブバトルの基本は後出し。後から出てくるローズマリアが勝つのは、ごくごく自然な論理と言えた。

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