幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい 作:しまぴ
――それから一瞬で二ヶ月が経過していた。
びっくりだ。
とか言っている場合じゃない。俺が覚悟を決めてやる気を出した時、ペンギン公もといセバスは喜んでいた。そりゃ、今まで引きこもりを続けていたダメドォルがやる気を出したのだから、それはもう世話役としては喜ぶ他ないだろう。
が、そこから俺が二ヶ月動かなかった結果。
「ぺぇえええええん、ぺぇえええええええん」
とすごい気配をさせながら、俺を睨んでいた。部屋の隅から、じっと。なんというかそれはもうすごい眼力だった。怖い。
もちろん、俺の世話は焼いてくれるし、こちらから呼びかければなんかドスが効いてるけど答えてくれる。しかし、それ以外の時はひたすら部屋の隅からじっと俺を睨むのだ。
その根性、半年俺の引きこもりを我慢してきたことで鍛え上げられてしまったのだろう。
プラス二ヶ月。かれこれ八ヶ月に及ぶ俺の引きこもりは、一般世話役マスコットであるセバスを修羅に変えてしまった。よよよ。
一応ね? 何もしなかったわけではない。主に3つのことを、俺は併行して進めていたんだ。成果は全く出ていなかったけど。
「…………セバス」
おそるおそる。内心はとてもビクビクしながら、俺は努めて無機質にセバスへ声をかける。俺は冴えない元おっさんだが、クリスタは無機質な美少女なのだ。解釈違いは死なので努めて無機質である。
「なぁんでしょうかぁ、お嬢様ぁ」
「そんなことしてないで、知恵を貸して」
「そんなことですとぉ!?」
こわっ。目が光った。世話役マスコットは人ではないから、あれは実際に光っているんだ! 怖い!
「そんなこと。少しは私の世話役としての威厳を見せて」
「む……」
だが、俺もこの八ヶ月の付き合いでセバスのことがわかってきた。こいつはプライドが高い。仮にもスタァドォルの世話役として、そこそこ以上のプライドがある。
ので、煽ると即乗ってくる。
「お嬢様、私は栄誉あるスタァドォルのマスコットですぞ。威厳など、見せるまでもなく……」
「セバスの、かっこいいところ見てみたい。ほらお魚」
「しょうがないですなぁああああ!」
――訂正。餌をちらつかせると即乗ってくる。
これ、できればもう少し別の餌にならないかなって思っている。手が魚臭いんだもの。
「……そもそも、お嬢様はラスボスになるとおっしゃっていましたが、ラスボスとはどういうことですか?」
「よくぞ聞いてくれた」
俺は先程からうんうんうなりながら操作していたパソコンをカチカチっとして画像をいくつかセバスに見せる。二人の少女と、一人の女性だ。
「宇宙鳴ひびかとチミィのドルマジ活動における、スタァドォル“プラナ”。そのマネージ“北條よしの”。そしてドォルマスターの“アンティーク”。こういった人物」
「はぁ……三人とも伝説的なドルマジアイドルと、ドォルの生みの親ではありますが……そもそもどうしてかミしゃーぷなのですか?」
「わかりやすい例え」
主に俺にとって。
『ドルマジ』主人公である宇宙鳴ひびかとチミィは、三年ほどシリーズ主人公を勤めた。一年で1シーズン。計3シーズンあったわけだが、その中で各シーズンのラストではラスボスとも言えるアイドルと対決してきた。
1シーズンは“始まりのスタァドォル”プラナ。2シーズンはそんなプラナとマネージした“絶対マネージメントガール”北條よしの。そして3シーズンはこのドルマジシステムを作ったドルマジ女神ことドォルマスター“アンティーク”。これらと対決し、仲良くなったり和解したり、救出したりしたのである。
女児アニメにかぎらず、シーズンの終わりにラスボスと対決するのは必然だ。
ようするに、俺はそんな存在になりたいのである。
未来ある主人公によって倒され、その踏み台になりたい。スタァドォルとして生まれ、才能を持って生まれたからには、より素晴らしい才能の礎となりたいのだ。
この間のライブで、ひびかちゃんとチミィちゃんによって俺は目覚めた。
俺はラスボスになる! うんうん、素晴らしい目的だ。
「は、はぁ……なんとなく分かりましたが、問題は色々ありますよね?」
「そう。主に問題は3つある」
で、その目的のために、俺がするべきことは3つ。
「一つは、誰の踏み台になるか」
俺の体は一つ。せいぜい踏み台にできても数人。主人公と、その相棒と、あとライバルチームくらいだろうか。つまり合計四人だ。四人の女の子に足蹴にされて死ねるとか最高か?
「……あの、仮にも栄誉あるスタァドォルが、自分が踏み台になるという表現は使わないでいただけると嬉しいのですが……というか嬉しそうにしないでください」
「諦めた声音で言われた……」
そこはもっと怒るところじゃないかセバスくん??? え、いつもの発作でなれた? ごめんなさい……
「まぁ、それは分かります。お嬢様にとって、その方たちはとても大切な存在になるかもしれない方。ただのドルマジアイドルでは、私も不適格であると考えます」
「そこまでは言ってないけど……」
要するに、推したいアイドルが見つからないのだ。
「というより、逆」
「……逆?」
「――――どのチームも、素晴らしいドルマジアイドル……すぎる」
ちょっと困った。全部尊すぎて俺には推しきれない……
「先日デビューした新人チーム『ふらんしすこ』はとってもザビエルだった。最近話題の『みゅーじあむ』もすばらしく博物館。ああ、少し前まで活動を休止していた『ぽぷりすと』も素敵、ロックすぎる。他にも『あいあんぼとる』や『ぶぶづけどすえ』、『さうざんとあらいずあらいあんす』も注目。『きゅうけいちゅう』『スタンツ』『ハルカナ』『ミッシングツー』『隠居道楽』あああああああ尊い尊い、ちょっと死ぬ……」
「お嬢様ぁ!?」
――推したいアイドルの名前を口に出すだけで尊さに押しつぶされて死んだ。口から飛び出た魂をきゅっきゅとセバスに詰め直されながら、俺は話を戻した。
「……端的に言うと、私に選ぶのはムリ。恐れ多すぎる」
「諦めた方がいいのでは?」
バッサリと切り捨てられた。
流石に見切りが早すぎるんだけど、もう少し手心というものを……
「…………2つ目の問題は、私自身」
「……と、いいますと」
棚上げをして話題を移した。セバスの目は呆れに満ちているが、とりあえず話に乗ってくれた。
「壁として不適格」
「もうやめたほうがいいのでは?」
「聞いて」
――完全に切り捨てにかかってきたペンギン畜生のほっぺたをつねりながら、俺は続ける。おら、ぐにぐにされろ。
「一つ、スタァドォルといっても、私はそれだけ。特別ではない」
「むごご」
スタァドォルは特別な存在だが、俺はそんなスタァドォルの中で特別ではない。声という才能はあるが、それだけだ。ここ半年、レッスンを受けてわかったが俺自身に他の才能はない。声が良くて、スタァドォルとして他人よりちょっとアイドルできるだけだ。
それこそ、アニメドルマジのラスボス格は天才とかそういうのを振り切った才能を持っていた。それと比べると、俺の才能はちょっと他人より優れているに過ぎない。
スタァドォルといっても、ここ数年で何人も発見されている。その中で、俺が特別というわけではないだろう。
「だから、私の知名度を上げたい」
「ぷはっ! ……な、なるほど。知名度、ですか」
そう、知名度だ。
新人アイドルのラスボスとして、立ちはだかるための格を得るための手段。それこそが知名度だと俺は考えている。ようするに周囲からあいつはすごいと認識されればいいのだ。
そうすれば、多少実力は足りていなくても、そこそこの格になるだろう。
「……これに関しては、つい先程完成した。これを世に出せば、ようやく1つ問題が解決する」
「それはいいことではないですか。……世に出す?」
「見てのお楽しみ」
「はぁ……」
セバスはよくわかっていないようだが、まぁそのうち分かる。ドルマジアイドルとしては異例のことだが、一般的にはよくあることだ。
「というわけで、3つ目。主にこれが一番の問題」
「一番目が詰んでいませんか?」
「それは先送りした。きっとなんとかなる」
明日の俺がなんとかしてくれるさ。
で、俺としてはできることはあと一つしかなくて、この一つが問題だ。
「それは……」
「それは……?」
ゴクリ。
たっぷり貯めて、重々しく口にする。そう、その問題とは――
「――――部屋が片付かない」
「そうですか、はい、ゴミ袋」
――――流された。
言うまでもなく、俺は元おっさん。女子力とは無縁の存在。部屋は割と散らかっているし、人を通すことなんて出来るはずはない。ドォルにとって、“ドォルハウス”は命とも言えるのに!
「お嬢様の八ヶ月の怠惰の成果です。私も掃除はしておりますが、一日で足元にお菓子の袋が複数転がっていてはキリがありません」
「ドォルって太らないから、つい……」
健康を気にしなくていいのはいいことだ。うん。
まぁ、そうも言っていられないのだけど。
――ドォルハウス。俺の居住空間であり、ドォルなら一人につき、一つは必ず所有している空間でもある。
ドルマジは女児アニメとしては、連動する筐体ゲームをプレイすることが主なコンテンツだった。こういう筐体ゲームでは女の子を着せ替えして、ライブではリズムゲームをプレイする。そうして新しい衣装を手に入れる……というのが普通なわけだけど、ドルマジにはもう一つのコンセプトがあった。
いわゆるリ……ちゃん人形に代表されるお人形遊びの要素を取り入れたのだ。
ドォルというのはその名の通りお人形なわけだが、前世の世界ではこのドォル、自分だけのドォルをリアルで“マネージ”することができた。
髪型を変えたり洋服を変えたり。驚くべきはこれを筐体と連動させたことだろうか。リアルでマネージしたドォルは筐体でライブをすることができた。筐体の上に置かれたドォルをその場でスキャンして読み取りゲームに反映する。これ、発表当時は結構驚かれた要素である。
女の子はアニメと同じようにリアルでもドォルをマネージし、遊ぶことができた。その分出費が他の女児アニメの単純計算で倍になるせいか、親御さんからは白い目で見られたわけだけど、ブームを起こすには十分な代物で。
なにはともあれ革命的な女児アニメとして『ドルマジ』はブームとなり、俺もそれをアニメやら何やらでおっかけたわけだ。流石に筐体ゲーをする勇気はなかったので、ゲームに関してはコンシューマで発売されたゲームをプレイするにとどまったが。
そして、そんなドォルの家、それがドォルハウス。これまたリアルでドォルでお人形遊びをするためのツール。そして、アニメではここが主人公たちの拠点兼、ライブ会場へアクセスするためのドレッサーにもなっていた。
ここで着替えてライブ会場に降り立つのだ。ドォルの家であり、ドルマジの入り口。そんなドォルの命とも言える空間は、現在俺のオタ部屋と化していた。
部屋を構成する要素は、無数のドルマジのポスター、衣装と言い張って買い漁ったドルマジアイドルの衣装レプリカ。ライブ観賞用の巨大モニター、高級ゲーミングPC及び色々こだわってかったPC用のデスクと椅子。後は唯一、俺が生まれたときの要素を残す高級そうなベッド。
食事はもっぱらPC用デスクで行っていて、部屋の片隅に生まれた当初から置かれていた家具はほぼほぼ追いやられている。これをドォルハウスと呼ぶことは、一般にははばかられる状況だった。
「掃除だけなら、もちろんそれでもいい。けど、この部屋に他の子を通すのは……ちょっと」
「すべてお嬢様のせいですよね?????」
うわぁめっちゃ怖い!
セバスパイセン落ち着いてください! 全部自分のせいだからこうして頭を悩ませているんじゃないですか。
「……この部屋を来客用として、現実で部屋を借りるなどするしかないでしょうね」
「これ以上マミィに迷惑かけられないのだけど……」
「この高級PC等々をねだっておいて今更ですか?」
マミィ、つまりママ。お母様。ドォルマスター“アンティーク”のことだ。スタァドォルやドォルを生み出した女神様。スタァドォルの生活費を捻出してくれているすごい人でもある。
捻出してくれるからすごいのではなく、そもそもすごいから捻出してくれているのではないかと思わなくもない。
「……そこら辺は、おいおい片付けていくとして」
「逃げないでください。掃除から逃げないでください」
うわぁ卑怯者って後についてそうな声音で言われた。
「とりあえず、2つ目の仕込みをする」
「ええと……何をするのですか?」
怪訝なペンギンの視線。そこまでおかしなことをするわけではない。現実世界では、アイドルが知名度を得るためにする行為としては、ごくごく一般的なことだ。
この日のために、マミィに楽曲使用の許可を取ったり、慣れない編集作業を頑張ったりしたのだ。
つまるところ、俺がやろうとしていることは――
「――歌ってみた動画」
「……えっ?」
――よし、アップロードできた。
かくして、首を傾げるセバスをよそに、俺の挑戦は始まった。ここまで二ヶ月……俺、頑張ったなぁ! よし、一ヶ月くらい休んでもいいよね!
なお、一週間後、予想もしなかった恐るべき事態により、そうも言ってられなくなるのはここだけの話。
本作はプリティなパラダイスが下敷きにあるので、各ラスボスの立ち位置はなんとなくお察しください。まるっきりそのままではないです。
ただ、セッションに関してはメイキングドラマではなくプリズムジャンプが近いです。練度によって呼び名が代わります。
それはそれとしてついにアイパラ上映です、すごい世の中ですね。