幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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4 クリスタの知らぬ間に

 スタァドォル・クリスタがバズりまくった弊害は二つ。

 俺の存在が人間界で周知されてしまったこと。変装なしで町中に出ようものなら即座に囲まれてしまうほどで、どう考えても町中を歩けない。

 もう一つは、俺の想定を越えたバズり方をしたせいで、これから俺の知名度がどうなるか完全に読めなくなってしまった。自然消滅して、ほどほどの知名度に落ち着いてくれるのが一番なのだが、現状一日に百万回歌ってみた動画の再生回数が増えている以上、そうは行かないだろう。

 

 どうすればよかったのか。反省点は色々あるが、根本的な原因として魂がこぼれて記憶が欠落するなんていう原因は想定できるはずがないので、過去のことは振り返らないことにする。

 とりあえずこちらからこれ以上アクションを起こすことはやめることにした。手を振って微笑むだけで憶測を生む状況で、それ以上のことをしようものなら、反響は絶対に予測不可能。

 沈黙を保ちつつ、エゴサでの状況把握を優先することにした。

 

 あと、この機会に部屋の模様替えもきちんとやらなければ、ということになった。セバスめ、正論で武装してくるなんて卑怯だ。

 結局、部屋は二つに区切ることになった。片方は鍵をかけて誰も入れないようにしつつ、応対用の部屋に最初から備え付けられていた家具をいい感じに配置した。ちょっと普通のドォルハウスより狭いが、それでも背に腹は変えられない。

 今外に出て部屋を借りたら、どこから特定されるかわからないのだから。

 

 で、話を戻そう。

 エゴサをしつつ様子を見る、という方針。これに関しては概ね正解だったと思う。

 ネット上でのクリスタに対する反応は概ね三つ。

 一つは『かわいい』。ドォルなのだから当然だ。これはどのドォルもマネージも、話題になれば自然と目にする感想だ。六割くらいがクリスタの存在に期待するコメントとともに、クリスタをかわいいと表していた。

 

 もう一つは『よくわからない』。俺のやったことは、ドルマジアイドルとしても、スタァドォルとしても異質な行動だ。俺の意図に対して疑問を呈したり、興味深い試みに感心を示したり。北條よしの様の呟きが一番わかり易い反応かもしれない。これが三割くらいだ。

 

 もう一割は、まぁ端的に言えば『アンチコメント』というやつである。この世界は女児アニメの世界なので陰湿な罵倒が飛んできたりはしないが、スタァドォルを嫌う人間や、北條よしの様に取り上げられることに対する嫉妬を抱く者もいる。直接的な批判は前世の世界よりも少ないが、言い換えればアンチコメントだよねという意見は、少なからず存在していた。

 まぁ、これに関しては『かミシャープ』や北條よしの様に置いても同じことなので、許容範囲というか、いて当然の範囲だろうと思う。

 

 んで、ここからまとめると俺に対する評価は『今後に期待』だ。スタァドォルの歌ってみた動画という前例のない行為。そこからくる、次は一体何をしてくれるのだろうという期待感。それが俺に対するおおよその感情であることが見て取れた。

 じゃあ、しばらく放置しておけばある程度落ち着くじゃん。ミステリアス美少女は、ミステリアスのままにしておけばそのうち忘れられるのである。いやぁ、これで安心ですね、よかったよかった。

 

 露出が少ない、というのはこういうときに便利だった。SNSでも、日に日に目に見えて俺に関する話題が減っていく。こうなってしまえばこっちのもの。

 後は適当に、どこかでゲリラデビューしてしまえば、いつの間にかそこそこの立ち位置で落ち着いているだろう。すくなくとも、よしの様に引き上げられてバズり地獄に突入したりはしないはずだ。

 

 なんて考えながら、俺は部屋の改築に勤しむのだった――

 

 

 ――――その裏で進行している、俺が気づきようのない俺に関する話題に、気がつくことなく。

 

 

 

「――水晶ちゃん」

 

 二人の少女が、一つの画面を共有して眺めながら、ぽつりと片方の少女がこぼす。

 真面目そうな少女――“まり”と呼ばれていた少女だ。名を小宇佐まり。クリスタが拠点としている街で活動しているマネージアイドルである。

 同じように、彼女と契約し活動するドォル、外界でありながら人型の姿を取ることの出来る少女“ビーズ”が、ぽつりとこぼしたまりの言葉に反応して、ニヤリと笑みを浮かべながら、まりの顔を見る。

 

「やっぱり気になるぅ? 水晶ちゃん」

 

「まぁそりゃ……ね」

 

 “水晶ちゃん”。クリスタは彼女が活動する街でそう呼ばれていた。水晶のような少女だから水晶ちゃん。なんというかそのまますぎるネーミングだが、案外これが似合っているのだ。

 

「その正体はスタァドォル・クリスタ……といっても、名前がわかった……ということくらいで、クリスタに関しては、水晶ちゃんとしての方がわかっていることが多いわね」

 

「水晶ちゃん、うちの街では結構な有名人だからねぇ」

 

 ビーズの言う通り、実はクリスタの知らないことだが、この街で水晶ちゃんといえば、一種の都市伝説的な存在として、多くの学生に認知されている。

 そこそこの有名人なのだ。あくまでローカルに過ぎないので、ネット上でその名前を見ることは、一部を除いて存在しないが。

 

 で、当然ながらそのパーソナリティも、そこそこに知られている。

 

「水晶ちゃん、実際にクリスタとしてこうして動画を見た時に感じたのは――」

 

「うん」

 

 

「言われている通り、ド天然のポンコツキャラで間違ってない、ってことね」

 

 

 まりは、クリスタの動画を見ながらそうつぶやいた。

 

「この動画だけを見ると、可愛らしい変なスタァドォルにしか視えないけどねぇ」

 

 納得した様子で、頷くビーズ。

 ――これはとても大事なことだ。クリスタの投稿した歌ってみた動画は、実は“水晶ちゃん”の存在を知っているかいないかで、印象が大きく変わるのである。

 

 クリスタのことを、この動画でしか知らない人間は、クリスタを変わったスタァドォルとしか認識できない。やっていることは奇抜で、中々趣向を凝らしてはいるものの、特別周囲に変とは思わせない。しかし行動の端々に、そのポンコツっぷりが見え隠れしているのだ。

 

「お菓子持ち込みOKのカラオケに、お菓子を持ち込んだ形跡が画面隅に映ってるわね」

 

「ソフトクリーム食べ放題だからって、めちゃんこ持ってきてるよねこれ」

 

 画面が暗いのも相まって、最初からそのつもりでしっかり観察しなければわからない程度には隠されているが、クリスタがこのカラオケボックスを満喫していることがよく分かる光景が画面下の机にちらりと見受けられる。

 水晶ちゃんとして知られるクリスタのパーソナリティそのままの、ポンコツ天然キャラであることに疑いようはなかった。

 

 “水晶ちゃん”。

 その存在が知られるようになったのは今から半年と少し前のこと。やたら目立つ白髪のドォルらしき少女が街を歩き回っている、という噂が広がったのだ。

 ドォルが町中を歩き回る、というのはこの街ではあまり見られない光景だ。何せ、この街に人と同じ大きさになって行動できるドォルはビーズ一人しかいないのだから。

 大抵の場合は、マネージに連れそう形で、マスコット形態で出歩くのが普通。だから当然、クリスタは目立った。

 

 しかも、その行動は普通ではなかった。

 時折人間界にあらわれては、お菓子や飲み物を買い込んで、マイバッグに詰め込めるだけ詰め込んで帰っていくのである。

 一見それは普通の行為だ。しかし、スタァドォルがやるには人間臭すぎる行動だった。

 

 他にも、考え事をしながら道を歩いていたら、電柱に激突したり。昼食を大型商業施設――いわゆるジャ……的な施設のレストランで食べたかと思えば、お腹を抱えながらトイレにダッシュする姿を見かけたり。

 列挙すれば枚挙にいとまがないほど、水晶ちゃんはポンコツだった。

 

 少なくとも、クリスタが想定しているような、スタァドォル特有の神秘性、ミステリアス感など、クリスタには存在しないのだ。

 

 ――不幸だったのは、クリスタがこのことを把握することが不可能だったこと。

 “水晶ちゃん”の情報はローカルであり、ネットで検索しても出てくるものではない。少なくとも、SNSでは現在サジェストに水晶ちゃんの名前が出てくることはない。

 せいぜい、匿名掲示板の一部のスレッドで、クリスタと水晶ちゃんの関係性がまことしやかに語られる程度。クリスタが全面的に水晶ちゃんとイコールになり、クリスタのエゴサに引っかかるようになるまでには、しばらくの時間が必要だった。

 

「……気になるのはさ」

 

「何よ?」

 

「この編集技術、大したものだよね。お世話マスコットがやってるのかな」

 

 ぽつり、とビーズがそんなことを言う。

 面倒くさがりのビーズにしては、珍しく踏み込んだ言及だった。

 そしてそれは、まりも思っていたことだ。この動画、編集は結構凝っている。センスもそこそこ感じるし、こなれている雰囲気がひしひしと感じられた。

 この編集のおかげで、一般ではクリスタがただのポンコツであるとバレていないのもある。しかし、水晶ちゃんの存在を知るものからすれば――

 

「――無茶じゃない?」

 

「無茶よね」

 

 そう言うしかできない代物だった。

 動画の編集はミステリアス感を強く感じさせるものだったのだ。

 

 結果貼られたスタァドォルのベール。

 それが剥がれるときは、いつだ。

 

 

 

 ――そんなまりとビーズ。二人の少女がクリスタについて分析する中、クリスタは町中を歩いていた。今は夜、すでに太陽は日が沈み、一人で歩き回るには危険な時間だろう。

 少なくともクリスタは、目的を終えたらさっさとかえるつもりだった。

 

 そのために、こうしてショートカットとして便利な夜の公園を歩いていたわけで。

 

 だが、それ故に想像すらしていなかったのだ。

 

 

「――おねがいさゆ! 私のマネージになってほしいの!」

 

 

「そ、んなこと言われても、アタシ、そういうの向いてネーシ」

 

 

 ――二人の少女が、運命の邂逅を果たしていた。

 それは、ドォルとマネージが必然によって引き寄せられたがゆえの邂逅。

 ドルマジに新たなアイドルが生み出される、世紀の瞬間だった。

 

 

 ――そこに、一人。両手いっぱいのマイバッグにお菓子と飲み物と、それから半額惣菜を詰め込んだポンコツ――もとい、スタァドォル・クリスタが通りかかるなど。

 

 

 この時、誰にも想像することなどできないのであった。

 

 

 かくして、運命はクリスタの想定していなかった形で、クリスタの意志から離れて、動き出す。




昨日はドタバタしていたので何のあとがきもありませんでしたが、
アイパラ一話を見たんです。最高でしたね当時のプリパラが帰ってきましたね。
OPがめちゃくちゃ作画いいので、もしよかったら見てみてください。
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