幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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本日二回投稿です。ご注意ください


5 出会いと水晶とマイバッグ

 菜々星さゆは、転勤族の娘だ。あちこちを飛び回る親の転勤によって、自身も転校を繰り返していた。

 だから、さゆは人付き合いが苦手だ。今日、初めての登校で、いつものようによそよそしいアイサツをした後、いつものように一人で下校することになった。

 仮にもここは、数年前に一度暮らしたことのある街だというのに。

 

 さゆは物覚えがいい。一度見たものはよほどのことがないかぎり忘れない。だからさゆはすぐに相手の名前を覚えるし、それが人付き合いにつながることもある。

 ただ、さゆはどこまでいっても転勤族。いつ転校するかわからない相手に、深く踏み込んでくる相手はいない。数年ぶりにやってきたこの街で、当時同じクラスだった級友も、すっかりさゆの事は忘れていた。

 

 別にそのことへの不満はない。いつものことだし、むしろ踏み込まれるほうが、さゆとしても対応にこまる。一時的な関係であると認識した上で距離を置いたほうが、お互いのためだ。

 ただ――さゆは今回ばかりは少し凹んでいた。

 一人、さゆにはこの街で親しかった友人がいたのだ。幼馴染、と言ってもいい。そんな相手と――今日、一言も会話することができなかったのだ。

 

 学内で彼女を見かけることはあった。しかし、彼女は常に周囲から注目を集めており、隣には彼女の相棒であるドォルがいる。

 トライアングルマネージ――ドルマジアイドルは彼女たちが成功させたセッションを階級としている。トライアングルは下から二番目。これができるアイドルは一人前と認められるのだ――となった幼馴染は、周囲からの憧れ、一転校生が安々と話しかけることはできなかった。

 

「はぁ」

 

 ため息が漏れる。

 操作していたスマホをスリープさせると、画面に自分の顔が映る。辛気臭い顔だ。燃えるような赤髪に、気の強いツリ目。ため息のために空いた口から溢れる八重歯が特徴的だ。

 服装は学校の制服を、彼女はそこそこ着崩している。転校初日ということもあって、最初はキチっと着込んでいたのだが、放課後になる頃にはすっかりいつものスタイルになり、スカートも大分短くなっていた。

 これはさゆの趣味というのもあるが、こうしておくと周りは自分を怖がってくれるのだ。キツイ目つきもあいまって、こうしておくとわざわざ自分に絡んでくるような輩はいなくなる。さゆの処世術だった。

 

「……別に、期待なんかしてネーシ」

 

 唇を尖らせながら、さゆは視線をそらした。自分でもそこそこ整っていると思っている顔立ちが、これでは台無しだ。

 そもそも、さゆと幼馴染の関係は複雑だ。二人は間違いなく親友と言っていい間柄だったが、転校の時にトラブルがあって、それ以来まともに会話を交わしたことはない。

 

 数年が立ち、今ならば――そう思ったが、しかし。

 

「うまくいかないよなぁ」

 

 さゆは人付き合いが苦手だった。こういう時、どうすればいいかわからない。人付き合いを避けてきたツケ、と言ってしまえばそこまでなのだろうけれど。

 それでも、今はこの自分が憎たらしかった。

 

「ほんと、どうすればよかったんだろうな」

 

 ――すでに時刻は夕方を過ぎ、周囲はほの暗くなっている。そろそろ帰らなければ、両親を心配させてしまうだろう。といっても、今の時間両親は仕事で家にいないのだが。

 やるべきことはいくつかある。荷解きは済んだが、家具の配置が完了していない部屋。夕食は自分で用意しなければいけないし、お風呂だって当然準備できていないだろう。

 いつものこととは言え、この時間は気が重い。もう少し楽ができればいいのに。

 

 自分以外にもだれか、これを手伝ってくれる人がいれば――

 

 なんて。

 そんなことを考えていたからだろうか、ふと視界の端にそれは映った。

 

 

 卵、のようだった。

 

 

「…………ん?」

 

 首を傾げて、目を細める。

 卵? なんだってこんな場所に? それにやたらカラフルだ。動物の卵には思えない。というかこれは、噂に聞く――――

 

 その時、ピキっと卵にヒビが入った。

 

「え!? ちょ、生まれるの!?」

 

 慌てる。

 この卵が何であれ、生まれてくるというのであれば見過ごすわけにはいかない。特にこの卵がさゆの予想通りの代物なら、この卵はさゆのためにここへ置かれた卵だ。

 ピキピキ、ヒビは大きく広がる。

 そして、

 

 

「や、やっとついたー!」

 

 

 中から、マスコットサイズの少女が現れた。

 背中に羽。水色の髪の少女は、大きく伸びをすると、ふわりと浮き上がりながら周囲を見渡す。

 

「えーっと、この辺りに……あっ!」

 

「あっ」

 

 目があった。

 

 ――やはり、そういうことか。

 さゆは、心のなかでごちた。ああ、こんなことなら早く家に帰っておくべきだっただろうか、と。

 

「いた! 貴方だよね! 私と“マネージ”してくれる人!」

 

「え、ええと……」

 

 ――マネージ。

 言うまでもない、目の前にいるマスコット少女は“ドォル”だ。パタパタと羽を動かしながらさゆの周囲を飛び回り、興味深そうにこちらを観察している。

 

「かわいい! かっこいい! 素敵!」

 

 ――素直な子だ。ドォルはまぁそういうものだろうから、当然といえば当然だけど。

 とはいえ、褒められて悪い気はしない。さゆはなんともむずかゆい笑みを浮かべながら、それに答える。

 

「さ、さゆ……菜々星さゆ」

 

「さゆちゃん! 私、スロースっていうの! よろしくね!」

 

 人懐っこい少女。天真爛漫な少女だと感じた。ドルマジに憧れる、どこにでもいる普通の少女。マネージとしてドォルに導かれ、ドルマジの世界に足を踏み入れるような。

 そんな、ありふれていて、ごくごく普通の、自分のような不良娘とは違う、しっかりした子だ。

 

 そう、思った。

 

「あ、あのね……あのね?」

 

 そして、彼女がこれから口にする願いを、さゆはよくよくわかっていた。

 

「私のマネージになってほしいの!」

 

 マネージ。

 ドォルとマネージの出会いは必然だ。ドォルは人間界にやってくる時、最高のマネージができる少女の目の前に現れる。それは運命的に決められた必然であり、決定権はマネージにしか存在しない。マネージを断るか、受け入れるか。ドォルは相手が誰であろうと、目の前の女の子にマネージを頼むしか無い。

 そして、ここで自分がそれを断ったら、スロースをマネージできる女の子は永遠に現れない。

 

 そもそも、一般的にドォルのマネージを断る女の子はそうそういない。女の子にとってドルマジアイドルは憧れの存在で、それに選ばれることは栄誉なことだ。よほど窮屈な家庭でないかぎり、ドォルとマネージすることを家族は祝福するし、周囲もそれを否定することはない。

 だから、この願いを受け入れないマネージは、基本的には存在しない。

 

 できない。という理由が自分の中に明確に存在しないかぎり。

 

 さゆの場合は――そういった理由は存在しなかった。少なくとも、両親とさゆの関係は良好で、顔を合わせる時間は少ないが、両親はさゆを愛してくれている。そしてさゆも、直接認めることはしないが、両親のことがすきだ。

 マネージを、受け入れない理由はない。

 

 それでも。

 

「……でも、アタシはそういうの向いてネーシ。スロースをアイドルにするなんて……ムリだと思うし」

 

「そんなことないよ! さゆちゃんすごいカッコイイもん! きっと素敵なアイドルになれるよ!」

 

「う……」

 

 向いていない、と思う。さゆは絶望的に愛想がない。他人に迎合できない。それが才能だとも思わない。才能のある人間は、他人と違うということを長所にできるのだろうが、才能のない人間にはそれは短所だ。すくなくとも、さゆは自分が短所だらけの、アイドルには到底向いていない人間だと思っている。

 だけど、スロースは疑っていなかった。

 

 ――こんな自分に、彼女のマネージができるのか? 本当に自分はスロースのマネージにおいて最適な人物なのか? 果たしてだれが、自分の何を見てそれを選んだのだ?

 

 スロース、ではない。彼女はあくまで自分の思うままに突き進んでここにいる。ドォルたちは知らないのだ。目の前の存在が本当に自分にふさわしいのか。

 少なくとも、スロースはそれを心の底から信じている。彼女の目はそれをありありと語っていた。

 

「……で、でもさ? 本当にできるかなんて、何もわかんないよ?」

 

「わかんないのはどっちもだよ! 私だって、さゆちゃんに迷惑かけちゃうかもしれないし」

 

「それは……いや、でも」

 

 絶対に、迷惑は自分のほうがかけるだろうと、その時さゆは思った。自己評価が低いのだ。自分には、到底できるとは思えない。

 ――とはいえそれは、スロースもそう変わらないのだが。

 二人は、互いに探るように視線を向け合う。距離感を図りあぐねていた。さゆは言うまでもないが、スロースもまた、どうしてかそこで一歩、足踏みをしてしまっていた。

 

 二人は互いに、互いを意識してしまったまま、固まっている。

 

「あ、えっと……」

 

「あ、う……」

 

 やがて、

 

「――おねがいさゆちゃん! 私のマネージになってほしいの!」

 

「そ、んなこと言われても、アタシ、そういうの向いてネーシ」

 

 二人がそうやって、堂々巡りを始めた時。

 

 

 がさり、と公園の木が揺れたかと思うと、誰かがそこから落ちてきた。

 

 

「んぎゃ!!」

 

 情けない声を上げて、少女が地面に倒れていた。

 

「うお!?」

 

「わぁ!?」

 

 驚いた二人。視線を合わせて、即座に動く。

 

「大丈夫!?」

 

 パタパタと走る――二人共、困っている人を見捨てておけるタイプではなかった。

 

 ――落ちてきた少女は、うめきながら立ち上がる。被っていた帽子と、サングラスが地面に転がる。変装をしていたのだが、結果としてそれは解かれてしまったことになる。

 そうして――白髪の少女は、二人の少女と目があった。

 

「あ」

 

 やっべ、と内心考えている少女と、

 

「――あれ? この子って」

 

 なにかに気付いたのか、スロースが視線をさゆへと向けて、さゆもそれを受けて頷く。この顔に、二人は見覚えがあった。

 

 

「……スタァドォル・クリスタ?」

 

 

 数日前から、世間を賑わせている最新のスタァドォル。思っても見なかった遭遇に、二人は目を丸くする。しかし、驚いたのはそれだけではない。

 木の上から落ちてきたクリスタは――手に買い物袋を抱えていた。可愛らしい白ウサギが刺繍されたマイバッグ。

 そこには、

 

 ――何故か、大量のお菓子と飲み物。そして半額シールが貼られた惣菜が大量に詰め込まれていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙する三人。クリスタは必死に何かを考え込んでいる様子だが、スロースとさゆは完全になんと声をかけるべきか迷っていた。

 そして――ふと、クリスタはこほんと咳払いをしてから、ごそごそとマイバッグをあさり、

 

 

「……食べる?」

 

 

 取り出した半額のおにぎりを、二人に手渡すのだった。

 

 それを、思わず受け取りながら――二人は思う。

 

 “ごまかした”。

 

 クリスタは今、自身の失態をごまかそうとしていた――

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