幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい 作:しまぴ
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!
やっばいどうするよこっから!? 俺こんなの一つも想定してないんですけど!? っていうかなんでこんなことになってるの!?
目の前にはドルマジ候補のドォルと女の子。運命の出会い、挟まってしまった俺! やばい暗殺される! 間に挟まった罪で暗殺される!!!
とりあえずここまでの流れを思い出してみよう。俺はいつものように半額惣菜と各種お菓子を求めて夜のスーパーへと出かけていた。変装自体はばっちりで、周囲に俺がクリスタであるとバレることはない。
何せ俺ではなくセバスがやってるからなこの変装。変なガバは起きようがないのだ。
しかし、その帰り道。近道をしようと普段は人のいない公園を通ったら、なんかあるじゃないですかかわいい卵。これあれだよね? ドォルがこの世界にやって来る際に乗ってくる卵だよね?
幸い俺が通りがかっても孵化する気配はなく、俺がマネージになるなんていうイレギュラーは起こらなかった。いくら転生オリ主だからって、そんな訳のわからない展開はそうそう起こらないのである。
んで、ここで俺は思いついた。ドォルとマネージの出会いを目の前で鑑賞する機会なんて、人生に一度あるかないか。こんなの見守るしかないじゃん!
…………はい。どう考えても浅はかなのは俺でした。バレないように木の上に飛び乗ったまではよかった。(ドォルは飛行できるのだ)が、やってきた少女とドォルの出会いはこれまたじれったい。
畜生、ちょっとえっちな空気にしてきます! みたいな、なんかもどかしい気持ちに押し流されそうだった俺。それをなんとか我慢して、事の行く末を見守っていたのだが、急に足場にしていた木が折れた。
普段飛行するなんて日常的にやってない俺は、即座に地面へと落下。手にしていたマイバッグもろとも地面に激突したわけである。ちょっと中身を確認したけど破裂したり中が飛び散った形跡はなさそうだ。セーフセーフ。
じゃない。
どアウトだよ! どうしてくれるの俺!? こんなのヤバじゃん! ヤババじゃん!
「え、えーと……だ、大丈夫、なのか?」
「うん」
と、とりあえず彼女たちを心配させてはいけない。俺はスタァドォル・クリスタ。女の子に悲しい思いをさせることは絶対に許されない!
それはそれとして、あああああ目の前にドォルとマネージの卵がいるんですけどおおおお! 俺の渡した半額惣菜のおにぎりを困惑しながらパクパクしてるんですけどおおおおお!
小さなお手々に収まるおにぎり(約25円)、ああああこんなの耐えきれないんですけどおおおおお!!
「そ、それで……」
「ぼっふ」
「ぼっふ!?」
俺は耐えた。
死ぬ気で耐えた。口から溢れ出しそうになる魂を必死に抑えて、なんとか真顔をキープした。凄まじい努力の末に勝ち取った勝利。俺は勝ったのだ。何に?
「あなたは……」
「――クリスタ」
とりあえず、バレているようなので誤魔化すことはしない。というかこんなに真っ直ぐな目をした子に誤魔化すとか無理無理! マネージの子なんて如何にもギャルっぽいのにすっごく目がまっすぐなんだもん、めちゃくちゃキツイけど! 見てると怖いけど!
「それって、例の歌ってみた動画のスタァドォル……ですよね?」
「……ん」
頷く。目元ぱっちり女の子。名前は盗み聞きしているので知っている。菜々星さゆちゃん。うわぁ、美人さんだぁ。
こういう子は周りからは一目置かれてるんだけど、本人は人付き合いが苦手って思ってて、実際深い関係になれなくて落ち込んだりしちゃうんだよね。見てたら分かるよ……
「私はスロースだよ! よろしくねクリスタちゃん!」
スロースちゃん。
天真爛漫。なんというか、如何にもなアイドルアニメの主人公って感じだ。アイドルアニメ。女児向け、大きいお兄さん向け問わず。
アイドルアニメの主人公っていうのはまっすぐで平凡な女の子だ。なので、如何にもそれっぽいスロースちゃんと出くわすのにはある意味運命を感じるのだけど、そのポジションがマネージではなくドォルなのが、変化球といえば変化球。
逆に言うと、さゆちゃんは蒼い。赤髪なのに蒼い。言わんとしていることは伝わってほしいけど、蒼い。
やっぱりこれリブート新作で、敢えてドォルの方を話の軸に据えるやつじゃないですか? とか失礼なことを考えつつ、
「二人は、ドルマジになる?」
「えっと……」
踏み込む。
まぁ、見ていたから知っているんだけど、同時に見ていたからこそ、この二人にはきっかけが必要だと俺は思った。そして、この状況。クリスタはきっかけにならなくてはならない。
この二人を、俺がドルマジに導くのだ! あああああお腹が痛くなってきたああああああ。
しょうがないじゃないか! 見つかってしまったんだもの! クリスタはミステリアス美少女だから、こういうときにミステリアスに女の子を導かなくては行けないのだ。
うおお、覚悟を決めろクリスタ! 魂が口から漏れ出しそうになるのを必死に抑えるんだ!!
「――迷っている」
気合を入れて、俺はそれを口にする。
スロースちゃんに関しては、問題はないだろう。なんたってドルマジになるために人間界にやってきたのだから。ここからやっぱりなし、とはならないはずだ。
ならないよね?
「……うん。いや、はい」
「リラックスして、いい」
「えっと……うん」
敬語とからしくないんじゃないかなって思うクリスタです。まぁ、見た目以上にさゆちゃんはしっかりしている。育ちがいいのだろう、そしてこういうときにこちらの要望を聞き入れてくれるのも、好印象だ。
「何を迷ってる?」
「アタシ……人付き合いとか苦手だし……親の転勤で、友達も作れネーシ」
「うん」
「向いてネーシ、こういうの。だから……アタシなんかで、ほんとにいいのかって」
言葉をかけるべきか……いや、俺はスロースちゃんの方を見て、黙して語らない。敢えて、彼女の言葉を待つように、じっとスロースを見る。
正直、さゆちゃんには色々とかけられる言葉はあると思う。俺だってそういう人付き合いとか、そこまで得意なわけではないし。
でも、さゆちゃんの問題はスロースちゃんが解決するべきだ。二人がともに迷っていたら、声をかけてあげるべきだろうけど、どちらかだけが迷っているなら、二人で相談して解決するのが正しい女児アニメのあるべき姿である。
だから、俺はじっとスロースちゃんを見た。つたわれー、つたわれー、こえをかけろー、こえろかけろー。
……これでダメだったら声をかけないと。
いや、そっちの方が困るんですけど!? スロースちゃんにはなんて声をかければいいの!?
「――さゆちゃん!」
よかった! セーフ!
「私、挑戦したいの! やってみたいの! 怖いけど、逃げ出したいけど!」
「スロー、ス」
「それがさゆちゃんとなら、私楽しいと思う!」
そうだ。確かに挑戦することは恐ろしいことだ。できるかどうかは不透明で、逃げ出したくなることだ。でも、それがなんだ? ドルマジは誰かを拒むことはない。
挑戦するだけ、してみればいいのだ。それを責める者はいない。咎めることなんてあってはならない。つまり、最初の一歩を踏み出してみればいいんだ。
後のことなんて、やってみてからじゃないと視えてこない。
そんなことを、さゆちゃんも考えているのだろうか。ハッとして、スロースちゃんを見ている。
二人の意志は固まった。とすれば後は、そこにエピソードが必要だと思う。これから始まる、未来あるアイドルたちに、祝福は送られてしかるべき。
つまり、何をするのか?
俺はそっと、マイバッグを地面に置くと、立ち上がって街頭の下に立つ。もうすでに暗くなった空の下。一人、クリスタだけがスポットライトを浴びたかのように照らし出されるのだ。
見上げる。――街頭の奥にある月は、微笑むような三日月だった。
そして、
「――♪」
歌い出した。
伴奏のない。手拍子もない。観客は二人だけ。アカペラの、静かな静かな独奏曲。歌う曲は言うまでもなく『Doll Magic』。ドルマジを代表する曲。始まりに相応しい、二人に送る歌。
振り付けは、少しだけゆったりめに。
大げさにせず、流れるように。
けれども二人の視線を、集めるように。
ひとしきり、サビの部分を歌って見せて、最後に手を伸ばすようなポーズで静止する。待っている、というメッセージを乗せた。つたわってくれるだろうか。
どちらにせよ俺はゆっくりとその手をおろし、それっぽく一礼をする。ミステリアスかい? ミステリアスだろう。うん、大成功だ。レッスンのかいがあったというもの。
「…………」
「すごーい」
二人の、静かな拍手が響いてくる。
「ライブは――誰にでもできる。ドルマジは、あなた達を拒まない。今この時も、門戸を開いている」
「もん、こ……?」
「扉、ってこと」
首をかしげるスロースちゃんに、どこかさゆちゃんは苦笑して答える。あああこれ、子供向けアニメでよくあるやつううううう。
おちつけおちつけ、今はそういうことをしている場合ではない。
「歌ってみるといい。私達は、あなた達を歓迎する」
――――決まった。
完璧な導入役ムーブ。我ながら、ここまで完璧なミステリアス美少女を演じることが出来るとは。二人はお互いに迷っていて、それを言葉に出し切れていなかった。
俺は二人の背中を押しただけだ。そして、促した結果、二人は恐る恐るといった様子ではありながらも、ドルマジの世界へと足を踏み入れる。
そこからはあっという間だった。スロースちゃんが“ドォルハウス”を取り出し、中へさゆちゃんを誘う。これはドルマジの一連のコーデチェンジシーンだ。ドルマジはコーデのチェンジをハウスの中で行う。ここが拠点となり、ドォルとマネージは交流するのだ。
ちなみにドォルはドォルハウスを持ち歩けるが、これはマネージと契約した特権なので、スタァドォルは持ち運べなかったりする。俺のハウスへの入り口は、街の外れにある古ぼけた洋館の入り口がそうだ。
それにしても、いい仕事をした。完璧な仕事だった。はやくハウスに戻って、この二人のライブを生で見なければ。きっと初々しい『Doll Magic』を歌ってくれることだろう。
ふふふ、ミステリアス美少女、クリスタちゃんにいざなわれたとか、そういうことを前口上で語ったりしてくれるのだろうか。楽しみだ。
――――なお。
『皆さん、アタシ、マネージになるのが怖かったです。今も、緊張と、本当にここにいていいのかなって気持ちで、どうにかなりそうです。でも、そんな時!』
『あの、スタァドォルのクリスタちゃんが、私達を導いてくれたの!』
『クリスタは、すっごい変な子で、でもとっても可愛らしい子でした! ちょっとポケポケしてるけど、歌唱力はあの動画で見たまんま』
『すごかったんだよ!』
…………あれぇ?
なんでポケポケの変人扱いされているんだろう?
ミステリアスは?
不思議要素は?
神秘性は?
――セバスはなんでそりゃそうだろうなって顔で頷いてるんだよおおお!!
よし、ミステリアスだったな!