幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい 作:しまぴ
ポンコツTSロリに栄光あれ
――私はドォル・スロース。
ドルマジアイドルを夢見る、ドォルの一人です。私達ドォルは、ドォル界っていうところで生まれて、人間界でマネージさんと契約して、ドルマジアイドルになることが目標なの。
そうすることで、私達は人間界で暮らすことができる。だから、みんなそれを目指してるんだ。
私もその一人、何だけど私は他の人よりダメな子だったから、人間界に来るのがすっごく遅れちゃった。私が生まれたのは、もう何年も前なのに。
情けないなぁ。
でも、無事に人間の女の子とマネージ契約を結ぶことができました。その子は菜々星さゆちゃん。中学生だって言うけど、高校生みたいにカッコイイ女の子です。
さゆちゃんはそうは思ってないみたいだけど、さゆちゃんは周りから見て本当にカッコイイ女の子で、その分声をかけにくいところがあるみたい。さゆちゃんがすぐ転校することもあって、それでさゆちゃんは人付き合いが苦手なんだって。
もったいないな。もっといろんな子と仲良くなれると思うんだけど。
さゆちゃんはすごい子で、私にはとってももったいないマネージさんなんだけど、そんな私にとって、それはもうみにあまるこうえーが、起きてしまったのです。
なんと、なんと! スタァドォルのクリスタちゃんが、私達のことを見ててくれたの!
スタァドォル・クリスタちゃん。
一番最近に現れたスタァドォルで、スタァドォルとすっごい仲良しの北條よしのちゃんが、不思議な子って言って色んな人に紹介したのがきっかけで、多くの人に知られるようになった、本当に不思議なスタァドォル。
ドォルは、人間になるために生まれてきます。そうなるようにドォルマスターのアンティーク様が作ったからです。だけど、スタァドォルは、人形として作られている。アンティーク様はかつて、『人よりも美しい存在』を作ろうとしたそうなのです。
その“失敗”がスタァドォル。人より美しいものを作ろうとした結果、人としての心を持つことのできなかった存在。それがスタァドォルだ、と。
もちろん、ドォルもスタァドォルも、時間をかけて人の世界を知って、そこに馴染んでいくのは変わらない。けど、私達は人と変わらないくらいに、色々なことを考えて、学んで、吸収するの。
でも、スタァドォルはその力が薄いんだって。難しいことはわからないけど、スタァドォルは笑うのが苦手、って教わったよ。
だけど、クリスタちゃんは本当に普通の女の子みたいに笑うの。
スタァドォルは特別な存在で、その代わりに笑うのが苦手なんだけど、クリスタちゃんは違いました。歌ってみた動画は、画面が暗かったのと、編集と、それから歌っているだけだったのでわかりにくかったですが、クリスタちゃんは笑っていたと思います。
そして、私達の前に現れたときも……何故か木の上から落ちてきたけど、それを誤魔化すように苦笑いをしてたんだ。
それから私達におにぎりをくれて、それを食べる私達にほっこりして、私達の名前を聞くと、なんだか嬉しそうに笑うの。
後からわかったけど、クリスタちゃんはいろんなドルマジアイドルが大好きなんだって。私達のことも、好きになってくれたのかな? そうだと嬉しいな。
クリスタちゃんはとってもいい子です。私達の話を、まっすぐ正面から聞いてくれました。そんないいこと仲良くできるなら、私はとっても幸せなんだ。
そして、さゆちゃんが私をマネージすることが怖いという本音を明かすと、クリスタちゃんはこっちをじっと見つめるの。それはすごい勢いで。でも、怖いっていうよりすごい! としか言えない感じで、クリスタちゃんはきっと私に何かを言いたかったんだと思う。
顔に出すぎちゃうから、それがすごい! になっちゃったのかな? クリスタちゃんは変な子です。
でも、言いたいことはなんとなく伝わるの。それだけ心を相手に伝えるのがうまい……のかな? クリスタちゃんは。さゆちゃんの不安は私が答えなきゃだめだって言ってました。
と、いっても。怖いのは私も同じです。でも、それを伝えたら、お互いのことが少しだけ分かって、私達はこれから頑張ろうってことになったの。だから、それを促してくれたクリスタちゃんのおかげ、かな?
その後、クリスタちゃんは街頭の下で、そっと歌い出したんです。
――その時のクリスタちゃんは、不思議とクリスタちゃんらしくないって思っちゃうくらい素敵でした。でも、考えてみればここは公園のなにもない街頭の下で、私達の横にはクリスタちゃんのお菓子がいっぱいあるの。だから、そんなところに親しみやすさを感じてしまって。このギャップがクリスタちゃんの愛嬌なのかな? って思うんだ。
歌は、『Doll Magic』。私もよく知ってる、いろんなドルマジアイドルが歌ってきた歌で、私もドルマジになったら最初の曲はこれがいいな、って思ってたの。
そして、クリスタちゃんが促してくれたことで、私達の最初の歌は自然と決まりました。
クリスタちゃんは声がとっても素敵で、聞き惚れるような声です。歌い方も、ダンスも、静かな公園にピッタリで、さすがはスタァドォルだなって聞き入っちゃいました。
そうして、私達はドルマジアイドルになった。
素敵な思い出を、クリスタちゃんからプレゼントされてしまいました。いつか、あんなふうになりたい。ドルマジでライブをするクリスタちゃんを見たい。そんなふうに思いながら。
――ただ。
一つだけ、どうしても気になったことがあります。
歌い終えて、最後に私達に手を差し伸べるようなポーズをとったクリスタちゃん。私達をドルマジの世界に誘ってくれていたんだけど、どうしてかその手からは、
お魚さんの匂いが、したのでした。
やっぱり、クリスタちゃんって変な子だ。
――なぜだ?
なぜスタァドォル・クリスタはミステリアス美少女である。人形のような白髪と、スタァドォル特有の白磁感。どこを切り取ってもミステリアスだ。
これがミステリアスじゃなければ、一体なにがミステリアスなんだ? 俺にはもうミステリアスがわからないよ……
「――お嬢様」
「うおお」
びっくりした。抑揚のない声が口から漏れる。とてもびっくりした。心臓が飛び出るかと思った。俺はむっとしたので声をかけてきたセバスのほっぺたを掴むと、思い切りよく引っ張る。おらぁ! 伸びろ!!
――一メートルほど伸びた。怖。
「やめへくらはいまへ、おほうはは」
「……びたーんするのは、勘弁してやる」
すっと戻す。流石にそこまでやったら理不尽なのと、怒らせたら怖いのでやめておく。決して怖気づいたわけではない。クリスタはいい子なのだ。
「何を悩んでいるか存じ上げませんが、床で寝転がるのはおやめくださいませ。いくらふかふか絨毯とはいえ、はしたないですぞ」
「セバスもふかふかすればいい」
そのままセバスを引っ張ってふかふかさせる。
こっちもごろごろふかふかする。
おお、たまらぬ……
――模様替えのさい、客間をふっかふか絨毯にしたら、ちょっととんでもないくらいふかふかになってしまった。以来、こうして時折絨毯でふかふかしているのである。
これをやるとセバスもふかふかし始めるので、黙らせるには便利だ。魚臭くならなくて済むのもいい。
ふかふかすること十分。
「それで、どうしたの」
「……はしたないのを咎めたかっただけなのですが」
はぁ、とため息を付きながら名残おしそうに立ち上がるセバス。俺はまだここを離れない。こいつは俺のふかふかだ、誰にも渡さん。
「それと、例の歌ってみた動画は再生回数が一千万回を越えました。流石に落ち着いてきたようですが、多くの方がクリスタお嬢様を知った、ということにほかならないかと」
「むぅ……」
ついに一千万再生。
北條よしの様恐るべし。あの人はとっても怖いのだ。ドルマジ本編の最終的なラスボスはドォルマスター・アンティーク様だったけど、個人のドルマジアイドルの実力としては本編ではトップではないだろうか。一人でヘクサセッションを、いろんなバフ込とはいえ成功させた実力は伊達ではないのだ。
ヘクサセッション。
そういえばセッションの説明をしていなかった。
セッションというのは言ってしまえば、ライブをしているアイドルの、ライブ中の実力を示す指標だ。これには六段階の指標が存在する。
最低がクロス。これはドルマジ契約を行ったアイドルなら誰でもできるセッション。
次がトライアングル。これができれば、晴れてドォルは人の姿を得て人間界で活動できる。言ってしまえばドルマジの登竜門。行えれば一人前。安定してセッションできれば一流、というのが一般的な見方。
そしてスクランブル。これができるのは、世界でも一握りのアイドルだけ。つまりトップアイドルの証だ。アニメ本編で、最終的にレギュラーメンバーが到達したのもこのスクランブルセッション。その上は、特別な意味を持つライブでしか成功していない。
その上がペンタグラム。ここまで来ると、セッションが現実にすら影響を与えてくる。アニメではセカンドシーズンのラストで初めてお披露目された。これを単独で行えるのは、世界でも『かミしゃーぷ』とそのライバルユニット『ほシふらっと』そしてプラナちゃんと北條よしのの最強コンビ『ノース・プラチナ』だけだ。
上から二番目はヘクサ。奇跡を起こすセッションと言われていて、アニメでも数える回数しか成功しなかったセッション。アンティーク様初登場ライブなど、象徴的なライブでの成功が多い。
最後が、セブンスター。世界を塗り替えるセッション。これが成功したことは、歴史上で見ても一度だけ。ドルマジサードシーズンの最終局面で、ひびかちゃんとチミィちゃんが、多くの人の協力を経て成功させた伝説のセッションだ。
こんな具合に、セッションには種類が存在する。
俺が今できるのは、多分トライアングルくらいだろう。仮にもスタァドォルなのだから、それくらいはね?
――そういえば、さゆちゃんスロースちゃんコンビはどうなっただろう。最初のライブを無事に成功させて、デビューしたことは知っているのだけど。
それから三日。はてはてどういう感じでマネージをするのかな? と、調べて見ようとして、二人の名前をエゴサした。
結果――――
『トライアングルランクのドルマジユニット“ローズマリア”が新人ユニット『さゆ&スロース(仮)』へ宣戦布告。トルオカ街特別ライブフェスにて対決か!』
……いきなりハードなことになってない!?
何があったの!?
慌てて俺は、情報収集のためにふかふかから起き上がり、パソコンの元へ向かうのだった。