幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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8 1クール目ダイジェスト回

 不思議なことに、三日もしないうちにさゆちゃんとスロースちゃんは、俺が暮らす街で一番有名なアイドルに宣戦布告されていた。

 ローズマリア。クールなマネージアイドル小宇佐まりちゃんと、怠惰でちょっと大人っぽいドォル・ビーズちゃんのコンビ。ローズはビーズちゃんで、マリアはまりちゃん。ドルマジにはアイドルものにありがちな三つのタイプが存在するのだけど、中でも二人は「フレスコ」アイドルだ。「カリーノ(かわいい)」「フレスコ(かっこいい)」「ベーネ(げんき)」で表現される。イタリアーン。

 

 いやぁ、急転直下。ここは俺が知らない間に起きた二人の出来事をまとめておいた方がいいだろう。始まって1クールもたってないのに総集編って、制作大丈夫なんですか……?

 思うに総集編っていうのは制作的な事情もあるけど、長いアニメなら過去のことを振り返らないと忘れてしまうから、どうしたって必要だと思うのだ。ドルマジ本編だと、二年目の半ば、よしの様がアイドルデビューした段階で、それまでのドルマジとひびかちゃんについて振り返るために総集編をした。

 ちなみにこの回は総集編にも関わらず、ドルマジ屈指のハーブ回として伝説になっている。

 

 よしの様が回想をしている最中、プラナちゃんを抱きしめてずっと離さなかったことで、それまで敵キャラだったよしの様に一気に愛嬌が出てきたり。別の場面で、片付かない部屋の掃除をすることになったひびかちゃんたちが、ピタ……スイッチのような凄まじい連鎖反応で、街中をパニックに陥れたり。

 すごかった。

 

 ――話を戻そう。

 ドルマジアイドルとしてデビューした二人は、概ね周りから受け入れられた。さゆちゃんの両親はいい人だったし、さゆちゃんは周りから距離を置かれがちだけど、その分一目置かれる存在感を持っているから、デビューしたら、即周りの話題をさらっていったみたいだ。

 つまるところ、二人のアイドルデビューは超順調、だったのだけど、問題はすぐに発生した。

 

 まりちゃんとさゆちゃんの間にある因縁が、これを機に爆発したのである。

 細かいことは俺もよく知らないので省くが、何でもライブを成功させたさゆちゃんとスロースちゃんの目の前に突然現れ、自身もライブを披露、注目をかっさらったらしい。

 

 そして、一方的な宣戦布告。話をしたいというさゆちゃんの申し出を蹴っ飛ばし、帰っていってしまったそうな。ううん。初っ端っから展開がハード……これ、開始から三話くらいだよね?

 ちょっとまてそのペースで総集編って最終的に総集編だけで1クールくらいにならないか!?

 

「――お嬢様、お嬢様!」

 

「……はっ、何事」

 

「何事も何もございません! ご存知のはずです、もうすぐさゆ様とスロース様がいらっしゃるのですよ」

 

 ――んで、ここでさゆちゃんとスロースちゃんは困ってしまった。

 二人は素人な上に、周囲に相談できる人もいない。周囲は二人を応援してはくれるけど、的確なアドバイスが可能な知識があるかと言えば、否である。

 というか、具体的にそれができるのが俺しかいなかった。

 

 とりあえず、二人ができることと言えばレッスンと、ライブだけ。あの後も何度かライブをして、好意的な感想を得ているようだが、二人の実力は素人の域を出られていない。

 そもそも二人は――持っていないものが多すぎる。

 

 あまりにも、先が見えていなさすぎた。

 

 これはいけない。いくら俺がラスボスになろうと考えていたからって、主人公がそれ以前に挫折してしまっては元も子もない。

 というわけで、道を示す必要があった。何も答えを教える必要はない。方法と手段を教えて、それを試してもらうだけ。そのためには二人を俺の部屋に呼び出す必要があった。

 

 ――ここで大事になるのが、イメージだ。

 俺はミステリアスなラスボス美少女。そのイメージを壊してはいけない。だから、直接やってきて声をかけるなんてもってのほか。故に、俺の取った手段は――

 

 

 

「――クリスタさ、あのな?」

 

 ――――取った、手段は……

 

「……もうちょっと方法を考えよう、な? こんなことに成っちゃってるんだぞ?」

 

 

 ……矢文、だった。そして今、その矢がスロースちゃんの頭に突き刺さっている。右から左へ、思いっきり貫通していた。

 

 

「ごめんなさい」

 

「あううー」

 

 陳謝である。

 平謝り、誠に申し訳ございませんでした。

 原因は二つ。この矢、ちょっと特殊なものだった。外から打ち込んだのだけど、壁とか窓をぶち破るわけには行かないので、ドォル界製のモノを使っている。簡単矢文セット、というやつだ。

 これを使えば、矢文を目的の場所に突き刺すことができる。人間界のものを傷つけない、環境に優しい矢文――だったのだが、この矢、どうもドォルには干渉するらしい。

 

 俺が放った矢は、偶然にも寝ているスロースちゃんにぶっささり、哀れスロースちゃんはこんなことに。ドォルにしか干渉しないということは、ドォルにしか干渉できないということで、この矢文は俺が抜かないと抜けなくなってしまっていた。

 きゅっぽん、勢いよく引き抜いて、ようやくスロースちゃんがぐるぐる目から開放される。

 

「なんかチカチカしたよぉ」

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

 三度、陳謝。

 

「ううん、大丈夫だよ! クリスタちゃん、私達のためを思ってやってくれたんだもんね?」

 

「ヴっ」

 

 尊い。

 死ぬ。

 口元から漏れ始めた魂を抑えながら、涙をこらえる。

 いいこすぎて、罪悪感で消えてしまいそう。

 

「まぁ、ちょっとスロースが目を回しただけだし、スロースがいいっていうなら、アタシは言うことネーシ……んで」

 

「うん」

 

「……どうしてアタシたちを呼んだの?」

 

 さゆちゃんは話が早い。サバサバしているというか、サッパリしているというか、切り替えが早いというか。なんというか、処世術のようなものを見た気分。

 

「あ、ところでクリスタちゃん! あの“禁”って何?」

 

「あそこは禁じられた間。決して入ってはいけない」

 

「…………」

 

 そこでスロースちゃんに問われたので、きちんと説明しておく。あそこは俺の私室。応接室であるこっちの部屋ではない、私物があっちには詰め込まれているのだ。だから絶対に入ってはいけない。

 ……さゆちゃんはなんかジト目なんだけど、なんで?

 

「(……あの、セバスさん、でしたっけ? あっちの部屋ってやっぱり……)」

 

「(お察しの通りです……どうかお嬢様の前では、その事は指摘なさらぬよう……)」

 

 おい、何密談してるんだ!? 一体何の話をしてるんだよ、気になるじゃないかぁ!?

 

 コホン。

 

「――あなた達は、先が見えていない」

 

「うっ」

 

「いや、それは……まぁ」

 

 契約の時、さゆちゃんは“とりあえずやってみる”と言った。ライブをして、ドルマジになって、それからのことを二人はきっと考えていなかったと思う。

 というか、考えているドルマジの方が貴重だ。少女たちは、まだまだ何も知らない子供なのだから。

 

「努力したいのに、する方法がわからない。それは正しくないと、私は思う」

 

「……教えてくれるのか?」

 

「きっかけは」

 

 ただ――例の宣戦布告ライブをみて思った。

 あのライブは、一方的に乱入してきたローズマリアが、さゆちゃんとスロースちゃんとの違いを見せつけていったようにしか見えないが、アレには一つ、メッセージがあったようにも思う。

 だから――

 

「けど、答えは私が教える必要は……ない」

 

「どういうこと!?」

 

 驚くスロースちゃん。

 そう、そこまでは必要ないのだ。俺はたった一つ、あることを指摘してしまえばいい。ただ、俺が指摘しなければ、誰かが偶然で指摘するのを待つしか無い状況。

 さゆちゃんのご両親が、ヒントになる言葉を口にしてくれるかもしれないが、それは賭けだ。俺が二人をアイドルに導いた以上、そこも俺が指摘するのが筋だと、そうおもった。

 

「ローズマリアのライブを、もう一度見返してみて」

 

「な、何度も見返したよ!? すっごいライブだった。私達にはないものばっかりで――」

 

「そう、じゃあ――具体的には?」

 

「……! そういうことか!」

 

 ここまで言えば、さゆちゃんは察しが良かった。すぐにスマホを取り出して、過去のライブを見返している。ドルマジのライブ映像は、全て専用のアプリで見返すことができるのだ。

 タダで。

 で、俺がパチン、と指を鳴らすと――

 

 即座に当時のライブが部屋にあったモニターで再生される。

 ふふふ、セバスに言って準備をさせておいたのだ。俺はフレスコでミステリアスなので、こういうことが様になる。

 もっと感心していいんだぞ?

 

 んで、二人はライブに見入った。しばらくそれを眺めて――二人で話し合って。

 

「あっ!」

 

「……なるほど」

 

 見つけたようだ。今のスロースちゃんとさゆちゃんに足りないもの――

 

 

「――歌と」

 

 

「……セッションか」

 

 

 二人は、顔を見合わせてつぶやいてから、こっちを見る。俺は満足げに頷いた。

 

 歌。それは言うまでもなく、ユニット固有の楽曲だ。ある程度活動したユニットには、アンティーク様からそのユニットにふさわしい新曲が送られる。ローズマリアは当然これを所有しており、このライブでそれを二人に披露したのだ。

 曲を持たず、『Doll Magic』を歌っていた二人へ。

 

 そしてセッション。この世界における独自要素であるセッションは、いうなればライブの中で築き上げたアイドルの内面を形にするもの。

 アイドルが観客へ、伝えたいものをダイレクトに表現するもの。メイ……やプリ……的なアレといったのは、これが原因。

 

 これら二つを統合すると、二人に必要なのは――

 

「――二人は、アイドルとして皆に何を伝えたい?」

 

「アイドルとして……」

 

「何を伝えるか……」

 

 言葉を反芻して飲み込んでいく。うんうん、こうやって道を示すと、きっと彼女たちはその道を自分たちの力で進んでいくはずだ。

 やばい尊いちょっと死ぬ。

 俺さ、ちょっともう死んでもいいと思うんだよね。ここまで頑張ったんだもん、素敵なアイドルが目の前に二人。もう存在だけで昇天まっしぐらよ。お魚咥えて天国の階段かけあがっちゃうよ。

 

 それに。二人がデビューして、ローズマリアという素晴らしいライバルと出会った。あとはじっくり彼女たちを育ててラスボスになるべく舌なめずりをしていればいい。

 最近は俺の話題も落ち着いてきて、よしの様事件の余波も、動画の再生回数も落ち着いてきた。全てはうまく行っているんだ。俺の思惑通りに、完璧に遂行されている。

 だから、なんの心配もなく尊さで死ねる…………

 

 

 

 ジリリリリリリリリ!!!

 

 

 

「うわぁ!?」

 

 思わず素で驚いて、意識が急浮上した。

 電話。

 ドルマジを通しての電話だ。つまり、アイドルからの電話。え? 誰に? さゆちゃん? スロースちゃん?

 

「お嬢様、お嬢様の電話です。お取りください」

 

「私」

 

 え?

 なんで????

 

 首をかしげながら二人を見るも、出てくださいとジェスチャーされてあえなく撃沈。そそくさと電話を取って、もしもしとソレに出る。

 

 そして――

 

 

『――始めまして。貴方がスタァドォル・クリスタ様ですか? 私は北條よしの。スタァドォルである貴方に、お話があってこうしてお電話をさせていただきました』

 

 

 ――――その日、俺は昇天した。

 通算三桁回。今日の昇天は、これまでの中でも人一倍大きな昇天だった。

 

 驚き駆け寄るスロースちゃんとさゆちゃん。顔を蒼白にしてまずい、と感情を顕にするセバス。そして電話越しに聞こえる心配そうに呼びかける声を最後に――

 

 

 ――俺の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 なお、よしの様の電話で昇天してしまったことによる罪悪感で、蘇生後もう一度昇天した。

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