幼女(元おっさん)には女児向けアイドルアニメの女の子は眩しい   作:しまぴ

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9 夢で見る回想シーンってシリアスだよね

 ――夢を見ていた。

 俺が生まれた時の夢だ。俺――というのはつまりクリスタなわけだけど、クリスタは生まれた時、自分が“俺”であることを認識した。水晶のような部屋と、高級そうな家具。“俺”には似つかわしくないその場所で、俺は自分の姿を、近くの姿見で視認したんだ。

 

 ああ、これが――俺なんだ。そう認識した時、俺は自分がクリスタであることを自然と受け入れていた。不思議な話だが、はじめからそうであったことが当然であると思っていたのだ。

 そう認識した直後、セバスに声をかけられて――

 

 俺の――スタァドォル・クリスタの人生……ドォル生? は始まったんだ。

 

 そこからは大変だった。

 TSしたからには、胸とかを触ってみるのは義務なので触ってみたり、ここが女児アニメの世界であると認識し、激しく自分の行為に後悔しつつ、初めて見たライブで尊死を経験したり。

 

 パソコンがほしいとアンティーク様に我儘をいって、回線まで引いてもらって引きこもり生活をスタートさせたり。

 合間合間にレッスンをしつつ、ドルマジライブに命を賭ける生活を続けた。

 

 文字通り命を賭けて、全身全霊でライブに臨んだ。俺にとってライブとは尊さと死の境界線。いつ閾値を越えた尊さに殺されるかわからない、死の戦場だった。

 激しい戦いがあった。まさしくそれは一進一退、結果十割敗北したものの、俺はライブと戦った。その努力は誇るべきものであると信じている。

 この戦いの日々が、今の俺を築いているのだから。

 

 ああ、またライブが始まる。

 ――夢の中で、それまで何度も――大体一回のライブにつき百回くらい――繰り返してきたライブが始まる。これは、誰だろう。

 俺は身構える。誰が相手でもかまわない、その最後に待ち受けるものが、絶対の死という結果であろうとも、俺は逃げない。絶対に、逃げてなるものか。

 

 俺の中の情動が、クリスタという魂のすべてが叫ぶのだ。挑め、戦え、その末に果てろ、それが己の本懐だ、と。

 

 ああ、これはきっと道半ば――シリアスな夢による回想は逆転フラグ、目の前にはきっと、俺の想像を絶する強敵が待ち受けていることだろう。

 でも、こうして過去を振り返れば戦える。俺が乗り越えられなかった無数の神ライブたちが、俺の背中をぐさっと刺すのだ。

 

 尊さというナイフに貫かれたまま、ぷらーんと目の前の尊さに放り投げられる俺。これが、俺の取るべき道を指し示している。

 俺は、俺の望むがままに、俺の求めるがままに先を逝く。

 さぁ、誰が相手であろうとかまわない、誰でもいい、かかってこい。

 

 俺はちょっと尊かっただけで死ぬぞ――――

 

 

 

 はっ。

 

 夢を見ていた。

 俺の背中を押す夢だ。また、尊さで死んでいたらしい。ここは俺の私室。パソコンや足元に散らばったお菓子、部屋中に所狭しと貼られたポスター。壁の一面を占拠するドルマジアイドルのCD。ああ、俺はまたこの場所に帰ってきたのだ――

 

 そう、ほっと胸をなでおろしながら起き上がり――

 

 

「――目が覚めたのね」

 

 

 聞き覚えのない声に呼びかけられて、

 

 ……え?

 

 なんでここに人がいるの?

 

 ここ俺の部屋だよね? 入り口に禁って貼ってある方の、絶対に誰も入っちゃ行けない方の部屋だよね? 絨毯にふかふかされてたわけじゃないよね?

 どうして人がいるの? セバスじゃないよ? 聞き覚えのない声、いやこの声は間違いなく聞いたことはある。ドルマジアイドルの声を俺が忘れるものか。

 そうでないということは、ライブで生の声を聞いたことがないから結びつかないだけだ。

 

 即座に思考をフルスロットルさせる。この子の名前を思い出さなければ先に進めない。部屋に人が入られた? ここを見られたら死ぬしか無い? んなこたどうでもいいんだよ。どっちにしろ、この子の名前を思い出さなければ俺は自死を選ぶしかないのだから。

 そうだ、この子は――

 

 

「――小宇佐まり」

 

 

 俺は、彼女の名を呼びかけながら、視線を向けた。

 

「驚いた……知っていたのね。さすがはスタァドォルといったところかしら」

 

 答えは――あっていた。真面目そうな藍色髪の少女。菜々星さゆちゃんの幼馴染で――彼女に宣戦布告をしているマネージアイドル……いや、

 どうしてここにいるんだろう。俺の中で急速に満タンになりつつある死にたいゲージがマックスになる前に答えを出さないと。

 

 見られた。この部屋を見られた。もうおしまいだ、死ぬしか無いんだ……ごめんよセバス、デビューもできずに死にゆく不甲斐ない主人を怨んでおくれ……

 

「どうして、ここに?」

 

「それは、どうしてこの部屋に、という意味かしら。それとも、どうして貴方のハウスにやってきたのか、という話かしら」

 

「当然、どちらも」

 

 まずいきなり俺のハウスにドルマジアイドルが訪問してくるというだけで死んでしまうのに、禁部屋に入ってくるとか、死が死を呼ぶ死重奏以外の何物でもない。四重奏だけに。

 

「……まず、この部屋に入った理由だけど」

 

 ――言いながら、まりちゃんはすごく気まずそうだった。

 はい、色々言いたいことはあるけど飲み込みつつ、申し訳無さとドン引きの間で揺れているんですね、わかります。すいません、人が入る予定はなかったもので……

 

「ちょっと事情があって貴方のハウスを訪れたのだけど、貴方のお世話役マスコット……セバスさんが、とある方に呼ばれて席を離れたの」

 

 セバスは俺が尊死していたから、蘇生するまで待ってもらうつもりだったのだろう。俺の蘇生時間はだいたい十分前後、多少待たせてしまうことになるが、まぁ許容できない範囲ではない。

 が、そこにセバスがどうしてか席を離れてしまった、なるほど、見えてきた。

 

「そうしたら、この部屋から、貴方の絶叫が聞こえてきたのよ。悲鳴、と言ってもいいかしら」

 

「あぁ……」

 

 うん。

 多分寝ている時の夢に、尊さに後ろから刺されるっていう内容があったから、その時だな。

 あれすごかったもんね、ナイフって言ったけど、サイズは俺の身体軽く真っ二つにできるくらい大きかったからね。どころか上と下の果てが見えなかったからね。

 お客さん、アレが尊さっていうものなんですよ。

 

「入ってみたら、部屋中に小さい半透明の貴方が散らばってるし、口の中からダラダラこぼれてるし、あれ、どういうことなの一体……ある程度戻したら、こうして起きたけど」

 

「アレは……何だっけ?」

 

 んで、まりちゃんが言うには、小さい半透明の俺がごろごろしてたらしいけど、なにそれ怖い。どういうことなの? っていうか、そもそも。

 

「……それと、聞きたい事がある」

 

 大事なことだ。まりちゃんに聞かないと、俺には到底分かりそうにない。

 

 

「――私は、誰?」

 

 

 ……俺って誰だ? 一体何者だ? どうして女の子なのに俺って口調で話をしてるんだ? いや、喋りだすとちゃんと私って口にするんだけど。

 俺の思考回路はどうなっているんだ。

 

「え――」

 

 愕然とするまりちゃん。ああ、うん、心配させてしまっている。ダメだなぁ、私はスタァドォルなのに、どうして女の子にこんな顔をさせてしまっているんだろう。

 思い出せない、そのことが、今はただただ申し訳なくて、情けない。

 

 二人の間に、どこかシリアスな空気が流れた直後。

 

 

「お嬢様ぁああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 凄まじい形相のセバスが入ってきた。

 結果、諸々の事情は説明され、俺の魂問題についても解決するのだった。なお、まりちゃん達が帰ったらセバスのお説教が確定している模様……悲しい。

 

 

 

「――つまり」

 

 で、色々あって俺はまりちゃんたちの要件について聞き出すところまで話を進めた。

 この場にはまりちゃん以外にも、相方のビーズちゃんもやってきており、セバスがお出ししたお菓子(ちゃんと来客用の上品なモノ)をぽりぽりしている。

 

 さて、要件をまとめるとこうだ。

 

 まりちゃんたちは俺がさゆちゃんとスロースちゃんをドルマジの世界に導いたことを知り、話を聞きに来た。といっても俺を取って喰って殺すとかそういう話ではなく、あくまで俺からみた二人の様子を知りたいらしい。

 

 ――小宇佐まりちゃん。

 明らかにツンデレめんどくさい系女子だ。口では相手のことを悪く言ってしまうが、実際にはその子のことが大好き。さゆちゃんとは幼馴染だそうだが、とある理由で二人は喧嘩をしてしまって、以来直接言葉を交わせていないらしい。

 ずっと仲直りしたいと思っていたのに。

 

「……さゆとスロースさんの前に姿を見せた時、本当は二人を祝福したかった。だけど、どうしてかしら、二人を前にした時、私はそれが口に出せなくなってしまったの」

 

「ふむ……」

 

 結果が、宣戦布告。

 ううん、なんというか極端な子だ。とりあえず、俺から言えることが一つある。

 

「――それは、理由が複数ある」

 

「……複数」

 

 そう、まりちゃんの問題は一つではない。まりちゃんは、いくつもの理由が重なって、結果として素直になれなくなっているのだ。

 

「……私に、そのすべては指摘できない」

 

「そう、よね」

 

「貴方のためにならないのもそうだけど、私自身が貴方のすべてを把握しているわけではない、という理由もある」

 

 そのことは、すぐにまりちゃんも理解したようだ。当然といえば当然だが、まりちゃんは一人の人間で、その内面すべてを他人が見透かすことはできない。

 俺も、多少は原因を上げれるだろうが、それで全てではない。

 

 だから――

 

「――でも、ビーズは知っている」

 

 ――後は、知っているヤツに丸投げだ。

 

「…………」

 

 お菓子を食べていたビーズが、口を止めてこちらを見る。その口元には、ゆるい笑みが浮かんでいるが、目元は笑っていない。挑発、というかなんというか。

 ビーズは面倒くさがりなんだろう、だからそれを言うなって言いたいのかな。

 

 いや、違うな。具体的にこう、とは言えないけど、彼女の瞳はそう言っていない。これは――

 

「……ビーズ、そうなの?」

 

「え? ああ、うん。どうだろねぇー? 私、そんな優秀なつもりはないよぉ?」

 

 誤魔化すが、まぁ俺には関係ない。

 とりあえず話をまとめるべく、二人に対してピっと指差して、

 

「小宇佐まり。今の貴方にできることは、問題を一つひとつ見つめ直しその対処法を考えること。すべてを一度に解決することはできない。一つずつ、じっくりと」

 

「…………ありがとうございます、とても助かったわ」

 

 とまぁ、話はそこまでだった。

 俺はまりに深く深くお辞儀をして、禁部屋のことは誰にも話さないように頼み込んで、今回のアドバイスのお礼とした。

 彼女は真面目だから、きっと誰にも話さないだろう。これでよし、俺の秘密は守られた――――

 

 

 

 ――それで。

 

「……そもそもの原因。セバスは何をしていた?」

 

 二人が帰った後、俺はセバスに詰問する。そもそも、セバスが席を外さなければああはならなかったのだ。原因はセバスにある。セバスがすべて悪い。

 

「そのことですがお嬢様」

 

 うむ? なんだろう。セバスのくせに妙に生意気だ。またほっぺたをもっちりしてやろうか。

 

 

「――明日、北條よしの様がお嬢様にお会いしたいとのことです。ご準備の程をよろしくおねがいします」

 

 

 ――――――――――――――――――あ。

 

 俺は、思い出した。

 そういえばそうだ。俺は、よしの様が電話をかけてきた衝撃で、死んでしまったのだ。

 つまり、悪いのは俺。

 

 しかも、よしの様が明日会いに来る――?

 

 

 ……よし。

 

 

 寝よう! 俺はそそくさと部屋に戻って布団を被り、眠りにつくのだった。セバスは止めてくれなかったよ。ぜっとぜっとぜっと……

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