私が宿から出たのはまだ日が出てそこまでたっていないと思っていたのだがギルドには多くの冒険者達で賑わっていた。私は「冒険者の朝は早い」と聞いてはいたがここまでとは考えていなかった。借りていた資料を受付嬢に返しながら少し話すことにした。
「資料を返しにきた。」
「あ、万器使いさん!はい、確かに。でも一晩だけで大丈夫ですか?次の方が借りるまでの間は平気ですよ?」
「いや、ある程度は読めるようになったからな。残りは追々覚えるとするさ。それと、今時間に余裕はあるだろうか?出来れば聞きたい事がある。」
「はい、大丈夫ですよ。今は特にお仕事もありませんから。」
「感謝する。さっそく質問なのだが、朝はいつもこうなのか?中には殺気だっている者もいるが、」
「そうですね。依頼の張り出しがあと少しで始まりますから皆さん良い依頼を狙ってるんです。」
「ふむ。選ばなければいくらでもあると思うのだがな。依頼を選ばない者は少ないのか?」
「そうですねぇ。うーん。やっぱり万器使いさんのような方は珍しいですね。ほとんどの方は報酬の良さを見ますから。」
そう言った受付嬢の顔はどこか諦めたような印象を受けた。それにしても驚いた。ほとんどの者が利益を選んでいるとは、まあ私は余った依頼をこなしていくとしよう。
冒険者の多くが受付に歩いてくるのを見た私は受付嬢に礼を言って掲示板に向かった。
「やはり報酬が悪い依頼は余るのか。今日はどうするか。」
掲示板を眺めていた私は今日の受ける依頼を迷っていた。下水に行くべきか村の方面に行くのか。掲示板の前で迷っていると聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「おお、まさかあんたが依頼を迷うとはな。てっきりもう行った後かと思っていたんだが、そうでも無いみたいだな。」
「騎士か。私は昨日冒険者になったばかりの白磁だぞ?そう簡単に決められんよ。」
「なーに言ってんだ。明らかに俺よりあんたの方が優秀だろ?白磁だどうのってのはたまたま俺の方が冒険者になるのが早かっただけだろ?」
「ふふっ、どうやら私は知らぬ間に過大評価されているようだな。」
騎士は私の言葉を聞くと笑いながら依頼を見ていた。私も依頼を決めようと思いゴブリン退治の依頼を三枚持って離れようとした時に騎士に声をかけられた。
「三つもやるのか?・・・だったらこっちと一緒にやらないか?正直俺はあんたから色々教えてもらいたいからな。聞ける範囲で教えてほしいんだ。それにあんたがいる方があいつも怪我しなくて済むと思うしな。」
「本当に良いのか?余り身入りの良い依頼ではないが、それにゴブリンだぞ?大丈夫か?」
昨日の一件を思い出した私は大丈夫なのか騎士に聞いていた。勿論女神官も平気なのかの確認だ。
「ははっ、大丈夫だ。寧ろやらなくちゃ不味いと思ってな。正直ゴブリンを舐めてたからな、俺はもっと経験を積まないといけないんだよ。それに俺が強くならないと後衛のあいつを守れないからな。」
「そうか。であればよろしく頼む。」
「おう!任せろ、とは言えないが俺もついていけるように頑張るから頼むぜ。」
そう言って騎士は女神官に伝えに行った。その間に私は依頼を持って受付に向かった。
「依頼を受けたい。今回は一党を組む事になった。」
「一党を組むのはあのお二方ですか?」
「ああ、ありがたい事に私のようなモノを誘ってくれたのでな。期待に応えられるよう励まなければならないな。」
「ですが一党を組むのは良い事ですよ?依頼も達成しやすくなりますし、一党を組んだ方が円滑に進む事の方が多いですから。・・・はい!終わりました。それではゴブリン退治を三件ですね。気をつけて下さいね。」
「ああ、行ってくる。」
私は酒場で朝食を取っている二人の席に近づき話し掛ける。
「依頼を受けてきた。二人とも今回はよろしく頼む。」
「はい!私もよろしくお願いします!万器使いさんがいれば安心ですね。あと、出来ればで良いんですが、万器使いさんの授かっている奇跡を教えて頂いてもよろしいですか?」
「ああ、分かった。それは移動中に話そう。それと貴公、私に聞きたい事とは何だ?私はあまり博識では無いが、」
「色々あるんだが、主に戦い方だな。洞窟での戦い方とか、武器の振り方、あとは後衛の守り方に、数え出したらキリがないな。」
「なるほど。そういう事であれば役に立てるだろう。そういった経験はあるからな。ちょうど今回はゴブリン退治だ。洞窟もあるだろう。そこで訓練と行こう。」
「分かった。気を引き締めてかないとな。これは。」
「そうですね。私も足を引っ張らないようにしないと。あ、万器使いさん。今回の一党の頭目をお任せしてもよろしいですか?」
「私か?構わないが、良いのか?」
「俺からも頼む。あんたの方が頭目に向いてると思うしな。」
「了解した。期待に応えられるように励むとしよう。」
こうして私達三人の依頼が始まった。