全30話、14万文字くらいで完結済。日々のお茶うけに。
蛍火・Ⅰ
草原には時折り不思議が起こる。
馬で移動していると、いきなり周囲の景色、雲や太陽の位置がスッとズレるのだ。
一人の時も、複数人同時にも。
そういう時は、『神様の領域に突っ込んだから押し出されたのだ』と、納得する。
深く気にする者は居ない。
広い広い広い草原、たまにはそんな事もあるんだろうぐらいの認識。
だって皆、世界のすべてを知っているつもりでは無いから。
草原のまん真中(まなか)に位置する、妖精の住処(すみか)、蒼の里。
この里は、真上からでないと見えない入れない。
草原を統べる『偉大なる蒼の長』を擁する聖域であるから、人間は元より、あらゆる人外からも、結界で堅く護られている。
里人達は、草で編まれた空飛ぶ『草の馬』に乗って外界と通じる。
上空の黒い点が一瞬でヒトと馬の姿になり、濃緑の騎馬が砂ぼこりを立てて着地した。
空飛ぶ馬を駆る一族と言えど、こんな急降下をやって平気な乗り手は一人きり。
「ツバクロ? ツバクロが帰って来たわよ!」
「本当? ちょっと、ここお願い!」
「あーずるいー」
かびすましい声が行き交い、通りの建物でパタパタと足音が響く。
濃紺の巻き髪に、細筆で引いたような眉と目の縁の、蒼の妖精の青年。
今の長の三人の弟子の内の一人で、まぁ女のコが騒ぐだけの外見をしている。
彼が、馬を馬事係に託して執務室への坂を登る頃には、窓々にはかしましい顔が鈴なりになっていた。
「おかえりなさい、ツバクロさん」
「はい、ただいま戻りました」
「きゃっ、声を掛けて貰った!」
「みんなに言ってくれたのよっ」
「うそようそ、私の方見て言ったっ」
「よっす!」
横道から大柄な青年が現れてツバクロと腕を組み、女の子達は一旦静まった。
「おかえり、お前さんが三日居ない間の、里のお嬢様方の寂しがりようったらなかったぜ」
「そんな大袈裟な」
「あ――あ、羨ましいこった」
青年はわざとらしく、大袈裟な動作で腕を組む。
「ノスリも素敵よ!」
ノリのいい何人かが、窓に肘を付いてキャラキャラと笑った。
「二の腕がね!」
ノスリは振り向いて、腕の力こぶをパシパシ。
女の子達はまたけたたましく笑う。
「!!!」
急に女の子達が黙った。
一斉に額に縦線が入り、そそくさと窓の奥へ引っ込んで行く。
二人はゆ~~っくり振り向いた。
……やっぱり……
「ノスリィ~~ ボクを置いて行かないでよぉ~~」
ぼっさぼさ頭が砂漠の枯草みたいな青年が、裸足で突っ立っていた。
三人の弟子の最後の一人、水色の瞳のカワセミ。
ダブダブのローブがずり落ちて鎖骨が見え、落ち窪んだ目の周りには紫の太い隈がぐるり。
ほぼ皮と関節だけの首手首足首には、ザラザラびっしり石の鎖。
小さい子供が夜道で会ったら間違いなく泣き出すだろう。
それより何より、皆にドン引きされているのは、唐突な先祖返りで背中に現れた灰色の両翼。
いや羽根があるって素敵じゃないかと言われそうだが、彼のそれは、アヒルの雛のように細くてションボリな代物。
長が言うには、本人を守護する力があるらしいが、ボロ雑巾過ぎてピンと来ない。
「はぁ……」
ツバクロが溜め息を吐いた。
「靴くらい、履いたら?」
「ダメッ! 今、感覚が落ちてんの! 余計な物身に付けたら術が逃げるっ!」
「そ、そう……」
この魔力至上主義者は、放って置いたら素っ裸で歩く事さえいとわないだろう。
「折角、女の子達と楽しくコミュニケーションしてたのに、逃げちまったじゃねえか」
「逃げるようなオンナノコなんか放っとけ」
「お前見て、逃げない女子供がいるか?」
相変わらずのコンビだなあ……と呆れながら歩いていたツバクロは、いきなり誰かに突き飛ばされた。
よろめきながら振り向くと、青筋立てたオタネ婆さんがノシノシと通り過ぎ、ノスリにぶら下がっているカワセミの首根っこを捕まえた。
「この小わっぱ! 長様の御前へ参るのに、その風体を何とかせいといつもゆうとるじゃろうが!」
このオタネ婆さんというヒト、里の医療師で、産婆で、生き字引で、長の相談役。
逆らえる者がほぼいない実力者で多忙な筈だが、こうやっていちいちカワセミに絡みに来る。
いわゆる天敵って奴だ。
「やだ! 長はこの石の鎖さえちゃんと付けてりゃいいって言ってくれたもん!」
「屁理屈ばかりこねおって。待て、待たぬか」
「ばいばーいお婆ちゃん、またね!」
水色の妖精は婆さんを振り切って、坂を登って長の執務室へ駆け込んでしまった。
ぷんすかしている婆さんに会釈しつつ、残る二人も後に続く。
「挨拶はして入りましょうね、カワセミ」
奥の大机に座す蒼の長が静かに言った。
朝イチからピシリと法衣を着こなし、曇り一つ無い額、滝のように流れる髪は一本たりとも隙が無い。
その弟子のカワセミは、どこでどう間違ってああなるんだろう?
「今日は靴は履いて行きなさい。水辺の任務です。湿地に潜む病は恐ろしいですからね」
「はぁい」
長の言う事なら二つ返事。
苦笑いしながら後から来た二人に、長は向き直ってキチンと挨拶をした。
朝の仕事の割り振りだ。
「ツバクロ、帰ったばかりで申し訳ないのですが、続けての任務、大丈夫ですか?」
長は机の上の書類を取り上げる。
蒼の長の仕事は、草原の他部族から持ち込まれる、あれやこれやの萬事(よろずごと)。
勿論何でも引き受ける訳ではないが、当代の長は取りこぼさない治世を目指していて、必然、三人の弟子も忙しい。
「こいつは大丈夫ですよ。女の子達に元気を注入して貰っているから」
「ノスリ、君が言うと何か卑猥に聞こえるからやめてくれ」
長はニコニコしながら、書類を一枚づつ三人に渡した。
「今回は一人づつ別々のお仕事です。ケガの無いよう気を付けて行って来て下さいね」
「え~~~!」
カワセミが案の定、駄々っ子な声を上げた。
「ボク、ノスリがいないと困るゥ~~」
我が儘甘えん坊もいい所だが、カワセミの場合、本当に一人だと帰って来られなかったりする。
羽根が守っていてソレなんだから、元々がどれだけ危なっかしいのか。
だから長もノスリも彼には甘い。
「すみませんね、私が一つこなせればいいんですが、今日は身体が空かないんですよ」
「あ……」
そうか、今日は、遠征に出ていた人間の王が一年振りに帰還する。
王への顔出しと細かい折衝は、長でないと務まらない。
それに……
「心配要りませんって、俺らに任して、長はゆっくり水入らずして来て下さい」
ノスリが気を回し過ぎていらん事を言った。
そう、王の側には長の妹君が添っている。
しっかりした女性だと思うのだが、長はシスコ……心配で心配でしようがないのだ。
「ボクよりあの女性(ヒト)が大事なんだ……」
こいつもホント、少しも考えて物を言っていないな。
「ねぇ、ボク、ノスリの手伝いするから、その後この仕事を一緒にするんじゃダメ?」
カワセミはまだ未練たらしく粘る。
「馬の入れない深山の妖魔退治だぞ。お前、着いて来られないだろ」
「じゃ、じゃあ、ツバクロ~」
「疫病の治療と防疫指導だから。君が病気貰ったらシャレになんないよ」
カワセミはペタリとしゃがみ込む。
「ボクって、もしかして、無能……?」
三人顔を見合わせて、音を立てずに溜め息を吐いた。
いつもの事なのだが…………
***
そんな訳でカワセミは、結局一人で、この湖のほとりに居る。
三人がかりでなだめられて。
湖に何だかよく分からないモノが住み着いたらしい……から、監視と調査。
「何てあやふやな任務」
でも、体力も交渉力も無い自分が出来る事は限られている。
そんな事は分かっている。
ノスリもカワセミも、そこそこに術は使える。
何よりあの二人は賢くて要領が良い。他人の信頼を得る術(すべ)を知っている。
自分より遥かに長の役に立てているんだ。
「ボクの特化、『真実を見据える術』が本当に必要なケースって、実はあんまり無いんだよな」
だからこそ、その数少ない機会にベストで役立てるよう、日頃から研ぎ澄ませていなくてはいけない。
血の薄い自分は、常にギリギリに追い込んでいないと魔力を保てないのだ。
いつまでもノスリに回収役を頼んでいる訳に行かないのも理解している。
でも不安なんだからしようがないじゃないか。
分かっている、ボクは術に特化しただけの無能者。
分かっているんだ。
山からの水が細く流れ込んでいる場所が、小さな林になっている。
馬を林の奥に放し、手頃な立ち木を見つけて中頃の枝に座禅を組んだ。
丁度、湖全体を見渡せる位置だ。
まあ、じっとしているのはお手の物だ。
このまま気配を消して気を張り巡らせていればいい。
何か動けばすぐ分かる。
――――?
何か来たけれど、怪しいモノじゃない。
馬に乗った人間だ。
この近くの住民だろう。
流れを渡ってこちら側で馬を降り、カゴと小さな網を持って水際へ入る。
浅瀬の海老でも捕りに来たんだろう。
しかしその人間は、海老捕りもそこそこに、岸辺の流木に座り込んでしまった。
まあ、人間だって考え事ぐらいするだろう。
他に動く物もないので、何となく、ボ――と眺めていた。
不意に、人間が振り向く。
そこで初めて若い女の子だと分かった。
だからって別にどうでもいいんだが。
女の子は立ち上がってこちらへ歩いて来る。
(? まさかね……)
通常、人間の感知する波長では、妖精の姿を見たり聞いたり出来ない。
稀に波長の合う人間にも出くわすが、大概、物心も付かない幼児だ。
それ以上成長しても見られる者は、自分の知っている限りでは、あの人間の王と、その息子キビタキだけだ。
女の子が視線を上げる。
目が合った? ……気がした。
女の子はそのまま視線を下へ逸らす。
そこには人間が建てた小さなお堂があった。
湖の神を奉った物だが、形だけで何も入っていないので、気に止めていなかった。
(あれを見ていたのか)
カワセミはほっと息を吐いた。
女の子はお堂に近付き、懐から団子を出してひとつお供えし、手を合わせた。
「海老が一杯捕れますようにっ」
可愛いモンだな。
ちょっと声を立てて笑った。
女の子が顔を上げ、また目が合った。
…………
しかし女の子はすぐまた視線を降ろし、お堂に一礼して、カゴと網を携えて去って行った。
(気のせいだよな、見えてる訳ない……)
夜の間も、木の上で少しづつ仮眠を取っては監視を続けた。
何かが居るのは何となく分かる。
でも気配を沈めている。
長丁場になりそうだ。
まぁ、確かに自分向きの任務だ。
朝になって、昨日と同じ時間に、また女の子は現れた。
今日は海老捕りの前にお堂に来た。
昨日供えた団子が残っている。
まぁ、当たり前なのだが。
「あら……」
視線は下に向けたまま。
「神サマはお団子がお嫌いなのかしら」
大きな独り言。
女の子は背中を向け、湖に歩きかけた。
カワセミが言葉を発したのは、ほとんど気まぐれだった。
「神サマは十穀断ち中です。甘いモノは食べません」
女の子はちょっと止まってから、振り向かずにそのまま岸辺に向かい、何事も無かったように海老を捕り、馬に乗って帰って行った。
(やっぱり気のせいか)
と思ったら、夕方また来た。海老捕り道具ではなく、風呂敷包みを下げて。
……?
真っ直ぐお堂に来たかと思うと、風呂敷を解いた。
(!! 何、考えてんだ!?)
蓋付きの器に乳粥が湯気を立てていた。
「神サマ、十穀断ちは身体に良くありません。そんなにガリガリじゃ病気になってしまいます」
見えてる!? 聞こえてる!!??
***
カワセミは木の上で座禅を組んだまま固まっていた。
今まで、見えていない聞こえていないと思っていたから、気楽に構えていられたんだ。
相手が自分を見ていたと分かった途端、急にこの女の子が現実味を帯びて生々しく映った。
花の刺繍のスカーフで髪をまとめ上げ、全体的に質素な身なり。
その辺の遊牧民の娘っぽい。
でも肌の色がちょっと違う。南方寄りの濃い色で、目や唇もくっきりしている。
これは美人って奴なのだろうか? カワセミは女の子の美の基準が判らない、
ただ、黒目の後ろの青みがかった部分が綺麗だなぁと、漠然と思った。
……? ひとつ、不自然に気付いた。
質素な服装だと思ったが、ズボン(ウムドゥ)だけえらく高級品を履いている。
多分、東方産の正絹。取って置きの一品かもしれないが、海老捕りに着て来る物ではない。
木の上の妖精が変わらず黙っているので、女の子はまた視線を落とした。
「神サマは人間とお話ししてはいけないのかしら」
「…………」
「でも人間は神サマが心配だわ。少しでもあがって下さいな」
言うだけ言うと、器に蓋をし、お堂に置き去りにして、馬に乗って行ってしまった。
その夜も昨日と同じように監視を続けたが、湖に変化は無い。
ただ、何者かの身じろぎを感じた。
人外的な何かが居るのは確かだが、悪いモノか無害なモノか、はたまたこれから変化するモノか、まだ判断しかねる。
もう少し監視が要るようだ。
「あらぁ」
次の日女の子は蓋を開け、手付かずの冷えた粥を見て、残念そうな声を上げた。
水色の髪の痩せこけた妖精は、相変わらず無表情で微動だにしない。
乳粥の匂いの誘惑に負ける位なら、カワセミはここまでに成れていない。
しかし、これ以上この乳粥娘(スジャータ)に構われるようなら、監視の場所を変えた方がいいだろう。
女の子は器を風呂敷に包み、肩を落として去りかけた。
その様子が何とも憐れに思えて、カワセミはつい口が開いた。
「この湖は」
女の子は目を輝かせて振り向いた。
「妖(あやかし)が住み着いています。暫くは近寄らない方が宜しいでしょう」
これでこの子も来なくなるだろう。
ひと安心だ、と思ったのも束の間、女の子の唇から思わぬ言葉が飛び出した。
「知っています。だから来たんだわ」
「・・!!」
カワセミは初めて女の子に違う表情を見せた。
すなわち、目を見開いて口を少し開けた。
女の子はお堂を通り越して、二、三歩カワセミに近寄った。
「数日前、大きなうねりを見たの。なのに水面は平らなまま。普通のモノじゃないって思った」
カワセミは黙って目を見開いている。
「それで、蒼の里から調べに来ると思ったんです。会えるんじゃないかと」
「……誰……に?」
「お父さんに」
女の子の目の前で、カワセミは地面に落っこちた。
気が付くと、女の子に、擦りむいた掌を手当てされている所だった。
カワセミは跳ね起きた。
「イタ、イタタタ」
「手首を挫いていると思います。あんな落ち方するヒト、初めて見ました」
女の子は立ち上がって、水際の分厚い大きな葉をパシパシと手折って来た。
三、四枚重ねて右手首をくるみ、頭に巻いてたスカーフを外して、それで固定してくれた。
ほどけた黒髪が腰まで流れて、空中に墨で線を引いたみたい……と思った。
「すみません、驚かせて。さっきの」
カワセミは背中を向けた。
蒼の里から調査に来るって、ボクら若者の他は、長しかいないじゃないか。
『実は直系の妹がいます、掟を破って里を出奔しちゃってました』なんてトンでもない告白を飄々とするヒトだから、どんな覚悟もしているけれど、幾ら何でも、お父さんとかお父さんとかお父さんとか……
「あの、すみません。お父さんっていうの、私が勝手に呼んでいるだけで、血が繋がっている訳じゃないんです」
カワセミはゆっくりゆっくり振り向いた。
多分、威厳もクソも無い情けない顔をしている。
女の子が言うには、
自分は今の両親の子供ではなく拾われっ子。
小さい時から普通に妖精が見えるので、きっとあのヒト達の子供なんだと思い込む事にした。
その中で頻繁に見掛ける、一際立派で美しい男性。あのヒトがお父さんだったらいいなぁと、勝手に『お父さん設定』にしてそう呼んでいた、との事。
「それ、やめた方がいい」
「そうですね。蒼の妖精さんに会う度に木から落っこちられたんじゃ、大変だわ」
「……蒼の妖精という呼び名は知っているのか」
「お父さ……蒼の長さまとちょっとだけお話した事があって、その時に色々」
聞いた事はないが、長からしたら、取るに足らない微々たる事だったのだろう。
「あの、ここで、湖の見張りをしているんですか?」
「ああ、まぁ」
「私、来ちゃ、邪魔ですか?」
「…………」
「邪魔なんですね」
「……人間が海老捕りに来るのを止める権限は無い」
女の子は明るい顔になった。
女の子の明るい顔がこんなにもその場の空気を塗り替える物だと、カワセミは初めて知った。
「明日、湿布薬持って来ます」
「結構! 来るのは構わないが、関わりはおやめなさい。本当は最初に言った通り、潜むモノの正体が分かるまで近寄らない方がいいのです」
「…………」
「それから、長が来られる事はありません。別の所で御用です」
ピシッと言わねば、と思ったのだが、女の子は打ちひしがれた顔になった。
「で、でもまぁ、お元気ですよ」
たった一つの笑顔を引き出す為に、ついつい余計に喋らされる・・女の子って恐ろしい生き物だ……と思った。
黒髪の娘が粥を器ごと持ち帰った後、カワセミは林の奥で遊んでいた馬を呼び戻した。
蒼の里へ一旦帰って、長丁場になる事を伝える為だ。
上空から、草原をポクポク歩く女の子の騎馬を見た。
行く先には小規模な遊牧民のコミューン。
やはり怪しい人間ではなさそうだが、姿を見られている事に気を付けなければなるまい。
里に降り立ち、馬繋ぎ場に馬を預けて執務室へ向かう途中で、ノスリに行き逢った。
彼も戻って、長に報告を済ませて来た所らしい。
「おう、どうだ、一人で大丈夫か? ……手首どうした?」
カワセミは慌てて巻かれたスカーフを引き抜いた。
「挫いた。でも大した事ない。自分で術を施したからすぐ治る。長、おられる?」
「ああ・・それ、女物のスカーフだよな?」
何って目敏いんだ!
「知らない。丁度、落ちてた、から」
「ふうん」
長に報告を済ませてカワセミがパォに戻ると……ノスリとツバクロと三人暮らしなのだが……二人がベッドに腰掛けて、何やら話し込んでいたのが、こちらを向いて止めた。
「おぅ、俺は明後日まで身が空いたから、これから一緒に行ってやってもいいぞ」
「いい。ボクの任務だから。ノスリは疲れているでしょ、ちゃんと休んだ方がいい」
ついぞ聞いた事のない台詞に、ノスリとツバクロは顔を見合せ、真剣な面持ちで頷き合った。
「ボク、着替えたらすぐ出掛けるから。・・えっなに!?」
着替えの山からローブを引っ張り出すカワセミの腕を、ツバクロの手がハッシと掴んでいた。
「そんなよれよれローブじゃ駄目だ!!」
その眼は妙な使命感に燃えていた。
―― 数刻後。
夕暮れ近い馬繋ぎ場に、見た事もない水色の妖精が立っていた。
通行人が漏れなく振り向き、背中の羽根を見て二重に驚いて去って行く。
ノスリもツバクロも、カワセミは骨格は悪くないから、キチンと整えればそれなりに見られるようになるんじゃないかとは思っていた。
「計算外だな……」
「こっち方面とは……」
めったに近寄らない水あみ場に無理矢理引っ張って行って頭からザブザブ洗い、衣服は二人のじゃ大き過ぎるから、ツバクロの従姉妹(いとこ)のお古を引っ張り出して来て着せた。
身体のサイズに合ったマトモな服を被せて裾を引っ張ると、襟口から乾かしたての水色の猫っ毛がポンと広がる。何だこの愛くるしい生物。
「反則だぜ……」
衣服の背中に羽根のための切り込みを入れながら、脱力したノスリが呟く。
ただし、手足と首の石の鎖は変わらない。
そればかりは、どんなに二人に止められても、カワセミは譲らなかった。
「これが無いと、不安でシんじゃう!!」
そして、周囲の視線など全く無頓着に、
「大事な事ってこれ? 何だったの? 訳分かんない! ああ時間喰った、夕まづめに間に合うかしら」
などとブツブツ言いながら、馬に跨がり飛び去った。
二人の相棒は、複雑な表情で見送った。
「なぁ、羽根……」
「うん……青かったんだな……」