女王陛下の護衛戦隊   作:ターレットファイター

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すいません、投稿を完璧に忘れてました。
第2話。主人公たちの乗る艦娘母艦〈大瀬〉の紹介と出港です。


2.月曜の午前

 〇六〇〇時、軽巡〈大瀬〉は出港した。出港合図のラッパの音が響くと、水兵たちの手で最後の係留ロープが解かれ、〈大瀬〉はタグボートの手を借りて岸壁から離れる。

湾内でゆっくりと回頭すると、大瀬はタグボートを従えて幌臼湾の出口へと進んでいく。北方海域迷彩がところどころで剥げて、もともと塗られていたグレーの塗装がまだらに浮き上がっていた。

 〈大瀬〉は軽巡洋艦である。〈真室〉型軽巡洋艦の改良型で、このタイプの艦としては〈大瀬〉ただ一隻のみだった。そのため〈大瀬〉は竣工して以来つねに北方洋の哨戒に当たり、その海域を通る同盟国への輸送船団が運航され始めてからはその護衛にあたるようになった。船体の幅は二十メートル、滑らかな曲線を描いて前方に突き出した艦首から水色黒白のトリコロールの軍艦旗が掲げられる艦尾までの全長はおよそ一九〇メートル。いかにも巡洋艦らしい細長い船体は、船体中央部、二つの機関室に据え付けられた北崎式一段減速式タービン四基によって駆動する四つのスクリューによって並々ならぬ速力を与えられていた。その速力たるや巡洋艦としては屈指のレベルで、大神水軍工廠で竣工した後に行われた公試運転の際には実に三十五ノットの速力を〈大瀬〉に発揮させた。この結果に、〈大瀬〉機関長の坂上中佐はまあこれが自分の経験できる最高の速力でしょうなと謙虚に笑ったが、士官室の住人達はそのじつ彼がまだまだ出せる、白鶴や夕鶴が来た時こそ見ものだと思っていることを知っていた。もっとも、これらの高速敷設艦は四〇ノット以上も発揮可能ということについて多くの意見が一致するところであったから、彼らは〈職業的嫉妬〉としてまともに取り合おうとはしなかった。それでも、〈大瀬〉の俊足は彼らの誇りであった。

 むろん、〈大瀬〉はただ単に足が速いだけの艦ではない。彼女の備える武装は決して貧弱なものではなかった。

彼女の主兵装は、前甲板に背負い式に二基、後甲板に一基備えられた十六センチ三連装砲である。これは純然たる対水上艦用の兵装で、艦橋頂部に設けられた射撃塔と後檣基部の後部予備指揮所の双方からこれらを管制することができる。むろん、砲塔側での各個照準による射撃も可能だ。

 さらに、彼女は、いかなる主力艦をも撃沈可能なエネルギーを秘めた弾頭を備える六十二センチ魚雷を発射可能な三連装発射管を両舷に二基ずつ装備している。しかしこれらの装備は未だ実戦でその威力を発揮したことはない。彼女が航海してきた海では、これらの装備よりも爆雷や対空砲といった装備の方がその任務遂行に際し大きな働きをなす場所であった。

 彼女のもつ最大の対空兵装は艦首方向から、艦橋、煙突、後檣と並ぶ艦上構造物の左右に二基ずつ、合計で四基備えられた十一センチ連装砲である。この砲は半自動化された装填装置を持ち、対空・対水上どちらにも使用可能な両用砲で、時には浮上潜水艦に対し火を吹くこともあった。この砲は一門あたり毎分二〇発近い砲弾を放つことができる。そのため一度など一隻の浮上潜水艦に対して右弦に配置されたこの砲が一斉に砲撃、三〇秒間に四十発の砲弾を叩き込みこれを撃沈せしめたこともあった。この砲は時にはレーダーによる管制を受け、悪天候であっても高精度・強力な対空射撃を行うことが可能であった。さらに、四十五ミリ連装機関砲を艦の中心線上に三基装備。それに加えて二十四ミリ機関砲を艦の随所に無数に備えている。これらの砲は熟練した砲員の手にかかればいかなる航空機に対しても大変な威力を発揮する。

 これらに比べると、彼女の持つ爆雷は極めて平凡で、多くの護衛艦や駆逐艦が装備している爆雷となんら変わることのない、重量九百八十七キログラム、水圧信管式を備えた物である。搭載量も決して多くはない。さらに、同時に投射可能な量にしても片弦に三発ずつで、多くの駆逐艦や護衛艦が備えているような艦尾の爆雷投下軌条は持たなかった。

 いくら強力な武器を持っていたところで、敵を発見、正確な位置をつかむことができなければその威力を発揮することはできない。その点においても、〈大瀬〉は優秀であった。彼女に搭載された電探は間違いなく、この時点で最優秀といえるものである。

 彼女の小ぶりな艦橋と基部において一体化している前部マストの頂上には対水上レーダー、後部マストの頂上には対空レーダーのアンテナが設けられ、昼と夜とを問わず、人の眼の届かぬ距離を探り続けていた。その眼の届く距離は優に百二十キロを越え、これと同等の性能を有するレーダーを装備する艦は未だ敵側に存在しないとされていた。この対水上レーダー、対空レーダーは艦娘たちの装備する艤装についての研究成果を基に深海棲艦への探知能力を向上させた最新鋭のもので、通常のレーダーでは様々なノイズと深海棲艦を判別できないような距離であっても深海棲艦からの反射とそうでないものを適切に識別することのできる電算機をそのシステムの一部に備えていた。その電算機はマストの基部に、電探が得た情報を処理するためだけに設けられた特別の電算機室に据え付けられ、軍艦に搭載されたものとしては抜群の処理能力を有している。

 むろん、レーダーがひとりでに敵を探し出し、〈大瀬〉が勝手にその敵に向けて攻撃を行うわけではなかった。そこには必ず、人間の存在が欠かせない。常に訓練された眼がレーダースクリーンにかすかな異常もないか見張り、そして見張り員の眼が人間の目が届く範囲を常に探り続け、そして若いながらも十分な技量を持った砲員や水雷兵が的確な攻撃をできるよう常に待機していた。

 これが〈大瀬〉、北方船団にてもっとも強力な船。船員たちから頼りにされてきた軍艦である。

 しかし、彼女の持つもっとも強力な戦力はその装備ではなかった。もともとは機雷敷設用のスペースとして設計されていた艦尾付近、だいぶ完成に近づいてからそこに急遽追加されたものが彼女の有するもっとも強力な戦力であった。そこには、「艦娘」たちの艤装が収められ、彼女らの発進設備が設けられている。

 艦娘、異世界の世界大戦で戦った軍艦の名を背負い、その艦に決して劣らない戦闘力を単身で操る少女たち。最新鋭の魔法学と魔術工学によって作り出された「艤装(正式には特殊軍艦)」を纏った現代の戦乙女。二度目の「深海棲艦」の出現以後はありとあらゆる艦艇を押しのけて外洋水軍の主力となっていた。きわめて小型である深海棲艦に対し、あまりに大きすぎた艦艇と比べて艦娘は遥かに小さく、十分に小回りが利き、また異世界からの記憶流入と船の名という言霊の相乗効果によって偶然実用化された様々な技術が旧来の軍艦よりも優れた性能を発揮させることとなったのである。〈大瀬〉はその艦娘六人が装備する分の艤装を搭載できた。艦娘六人分ともなれば小規模な艦隊にも匹敵する戦力となる。

 これが〈大瀬〉。最新鋭の、このクラスの船としては最も強力な軍艦。彼女は、彼女の指揮下にある艦隊の船と共に幌臼湾の入り口を抜けると、まず彼女が護衛すべき船団を迎えに南東に向けて針路をとった。

 

「参りました」

「おはよう、由良」

 由良がそう言って一礼すると、五島はいつもと変わらない、すこしとぼけたような口調でそう答えた。それから、司令官用の椅子から少し身を乗り出して、窓の外をじっと見つめた。

「彼女たちはよくやっているようだな……あれはどうした!」

 突然厳しい口調になった五島に促されて、由良は窓ガラスに顔を近づけ、吹き付ける吹雪の向こうをじっと見つめた。〈大瀬〉の前方で対潜哨戒をしているはずの艦娘の姿を探している間に、艦橋左右の張り出し上にいる見張り員が声を上げた。

「電、右に変針します!」

 その声に、五島が由良の方を見ると、由良は「潜水艦を発見したのでしょう」とこともなげに答えた。それを追いかけるように、艦娘の艤装に備えられた信号灯が明滅し、それを読み取った信号員が「電より信号、水中ニ反響音アリ! 水中ニ反響音アリ!」と叫ぶ。

「かまってられないよ」

 どうします? と言いたげに見返してくる由良に、五島は相変わらずの緊張感のない口調で答えた。それと同時に「総員戦闘配置」のアラームが艦内に鳴り響いた。水兵や下士官、士官がそれぞれの持ち場へ駆け出す音が艦のあちこちから巻き起こる。五島は艦橋の反対側にある艦長用のいすに座った上中村に、世間話でもするような口調で告げた。

「艦長、ここは早足で切り抜ける。一斉転針して二〇ノットってところかな」

「了解。操舵員、方位三三〇に変針。航海長、方位三三〇に変針、二〇ノットで一時間航海した後に変針して予定進路に戻る航路を算出しろ。信号員、信号旗を揚げろ」

 すらりとした体形の上中村がよく響く声を張り上げて指示を出すと、すぐさま操舵員と航海長が声を張り上げて復唱した。

「方位三三〇に変針、了解」

「方位三三〇に変針、二〇ノットで一時間航海した後に変針して予定進路に戻る航路の算出、了解」

「由良、とりあえず潜水艦が頭を上げられないようにしばらく艦娘を二人と、駆逐艦を一隻残しておく。人選は任せる」

「電と野分でしょう」

 由良が即答すると、五島はすぐに信号を発信するように指示を出し、それから椅子の上で尻を動かして由良の方を見た。舵が効き始め、足元の床が傾くのに合わせて由良は少し踏ん張る。

「野分は大丈夫なのか」

「対潜戦闘にかけては彼女の右に出るものは居ませんから」

「そうか」

 五島の顔に、一瞬少しさみしげな表情が浮かんだがすぐに呑気そうな表情がそれを覆い隠した。

「電話員、夕立に出撃するように伝えて」

 指示を電話員が艦尾の待機室に伝えるのを横目に見ながら、由良は無言で窓の外で吹きすさぶ吹雪をじっと見ていた。新たな針路をとった〈大瀬〉はその身を震わせながら吹雪の中を突っ走っている。不意に由良が数度、激しく咳き込む。艦橋中から向けられる視線に、軽く微笑んで答えながら由良が手をスカートにこすり付けると、べっとりと赤い跡がついた。

 




ここからは火曜日と金曜日の18:00に投稿していきます
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