麻帆良で生きた人   作:ARUM

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第九十二話 始まる

 

 

「――離陸シークェンス、十四番までオールグリーン」

 

「出力良好。現在十三パーセントから上昇中。あと四十秒で離陸可能出力に到達します」

 

「第三層全車両の格納と固定、確認しました」

 

「四層以下の全実験区の固定と封印確認。生命バイタル、及び白エヴァの反応無し。隔壁封鎖開始。ロックしました」

 

「天峰本部長補佐より暗号通信来ました。薄雲級零番艦、ネームシップ・薄雲以下全艦異常なし。現在は高々度にてステルス航行に入ったとのこと」

 

「葉頭坑道区総括より連絡。葉頭総括以下坑道区の人員と千岳本部長補佐指揮下の車両部隊は六十四番坑道を移動中。坑道区の封鎖準備完了」

 

「封鎖開始。外部に通じる坑道の内、六十四番坑道以外の多重装甲隔壁及び擬装壁展開」

 

「一番から四番の全縦坑に注水開始、全弁解放。満水まで六百二十秒。隔壁の気密は正常。縦坑からの坑道区への浸水無し」

 

「出力二十パーセントに到達。出力の上昇を停止します」

 

「離陸シークェンス、十五番までオールグリーン。チェック。システムに異常なし」

 

「天乃五環航行管制封印、及び火器管制封印解除。各管制システム解凍開始」

 

「航行管制システム、解凍開始します」

 

「火器管制システム、解凍開始します」

 

「……オールクリア。天乃五環全システムオンライン。動力ラインを『天穹五環』にコネクト」

 

「コネクト成功しました。異常なし」

 

「離陸シークェンス、最終段階へ移行。……いつでも飛べますよ、長」

 

 

 

 

 

 

六月十九日、二十三時五十四分。もうすぐ日が変わる。

 

明日から、全てが変わる。いや、全てを変えてみせる。

 

記憶が霞む程の長い長い年月の間、私は耐えに耐えた。

 

全ては明日からの三日間のため。

 

そのために、私は二十年間もあの不愉快な老爺をむざむざ見逃し続けてきた。

 

ですが、それももう終わりです。

 

世界を滅ぼす悪の組織、その一端を担ってまで過剰なまでに金を集めた。

 

同じような境遇の古き日本の残滓とも言えるような者達を集めて、確固とした組織を造りあげた。

 

そして、絶対条件である裏の秘匿をクリアするために、本来は相容れないはずの、似て非なる科学の分野にまで手を出した。

 

金を集め、人を集め、そして大いに怨も集めた。

 

ですが、私は後悔などしていません。

 

後悔などという現実逃避のための優しい言葉は、あの日、燃えさかる火炎の向こう側に置いてきました。

 

今この時も魔法使いの勝手な都合のために霊力を奪われ続けている春香をこの手に取り戻す。

 

それこそが私の生きてきた目的なのですから。

 

春香と、さよさんと、皆と共に新たな人生の目的を見つけるためにも。

 

 

「……朴木さん。マイクを」

 

「わかってる。既につながってるよ」

 

 

マイクを軽く、とんとんと叩く。そんなことが必要無いのはわかっているが、クセのようなものだ。お約束の「あーあー、ただいまマイクの……」というのも、今回ばかりはいらないだろう。

このマイクは天乃五環内だけではなく、薄雲級全艦に車両部隊、関東呪術協会の各構成組織の本部に繋がっている。下手なことを言ったら、士気ががた落ちになるので気をつけなくては。

 

さて、それでは始めるとしましょうか。

 

まぁ、話す事なんてそれほどないわけですが。

 

 

 

「私の声は、届いていますね?」

 

 

 

 

 

 

《私の声は、届いていますね?》

 

 

その言葉を、関東のほぼ全ての人員が聞いていた。

 

 

《もうすぐ日が変わります。その時から、我々の戦いが始まります》

 

 

作業をしていた者も、その手を止めて耳を澄ませる。

 

 

《明日、六月二十日より開催される麻帆良祭。これにあわせて麻帆良奪還作戦改め“磐座計画”を発動します。この作戦には関東呪術協会及び関西呪術協会のほぼ全ての構成組織が動員されます》

 

 

ほぼ……という語句が付くとはいえ、全構成組織。それが意味するのは、総力戦。

 

 

《作戦区域はほぼ日本全域に及びます。このため、麻帆良の魔法使いだけではありません。メガロメセンブリア。彼らの本国の魔法使いも参戦しているという情報が入っています。そちらも含め可能な限り手は打ちますが、不確定要素もあり、作戦は困難を極めるやもしれません》

 

 

裏に対を為し、表にあって裏より暗い一大勢力、『日本政府』。京都など一部を取り込んでいるとはいえ、その中枢は未だに闇の底にいる。政治という名の戦場に巣くう百戦錬磨の魑魅魍魎。言葉と、金と、権力と。そして『表』の代表という顔を併せ持つ怪物達。

 

 

《しかし、私はやれると信じています》

 

 

それでも、彼らは臆することはなく、ただ静かにスピーカーから流れてくる声を聞いていた。

 

十五年前。まだ関東呪術協会が存在しなかった頃、ほとんどの組織は今程の規模が無かったどころか、その大半は組織としての活動が困難な状況だった。

 

先祖からの土地を奪われ、誇りと呼べる物を失い、雪辱をはらせぬまま静かに消えるのを待つのみという状況だった。

 

絶望的な状況下の中で、突然ふらりと現れた男はそういった組織をつなげ、まとめ、京都の協力をとりつけて、ついには全てを取り返して見せた。

 

開発班にしても、ほとんどの者が不遇の立場にいた者達だ。どこかの会社や研究所の隅で渾身のアイデアを抱えたまま予算を与えられずくすぶっていたり、開発に成功したにもかかわらず正当な評価を受けられなかったり、政治的な思惑から隠匿あるいは破棄を迫られたり。

 

そういった者達に朴木や他の幹部を通して誘いをかけたのがセイだ。今も監査をかけつつも、本当にまずいもの以外は自由な開発環境が与えられている。そしてできたのだが天乃五環だ。

 

 

《誰一人欠けることなく、六月二十三日の朝を迎えることができると》

 

 

そんな彼の言葉だからこそ。

 

自分達の『今』を創り出した、たった一人の男の言葉だからこそ。

 

スピーカーの向こうまで。届くことは無いとわかっていても。

 

 

《私達の全力を、見せてやろうじゃないですか!》

 

 

彼らはそれに、歓声で答えた。

 

そして彼のいる天乃五環の艦橋では、歓声以外の声が上がる。

 

 

「零時まであと一分です!」

 

「離陸シークェンス最終段階開始! 坑道区との全連絡橋パージ! 下部固定柱ロック解除!」

 

「パージ完了しました!」

 

「下部固定柱ロック解除確認!」

 

「外部との隔壁開放!」

 

「開放開始します!」

 

 

多岐の指示のもと、長きに渡り秘匿され続けた天乃五環の巨体が外気にさらされる。

 

もっとも、天乃五環を覆う偽装隔壁もまた巨大であるため、すぐに開き終わるわけではない。

 

そして偽装隔壁が開ききり、天乃五環の全体が月に照らし出されたちょうどその時に。

 

時計の表示は、ゼロになった。

 

 

 

「現時刻をもって、麻帆良奪還作戦・『磐座計画』を開始します」

 

 

 

――動き出すのは、彼らだけでは無い。

 

 

たとえば、麻帆良の妖怪が。

 

 

「……良いんですか、このままで」

 

「フォフォフォ……手は打っておるよ。まぁ、全てを十全に……とはいかんがのう」

 

 

あるいは、不死の吸血鬼とその生徒が。

 

 

「キリキリ学べっ! この魔力タンクどもがぁっ!!」

 

「ひー! 無理ですマスター。拳法と魔法を並行してなん……」

 

「誰が弱音を吐けと言ったか!」

 

 

未来から来た火星人の科学者が。

 

 

「か、完成です……」

 

「やれやれ、何とか間に合ったカ……」

 

 

不運に見舞われた魔法先生が。

 

 

「あっ、あのっ! アミークスさん!」

 

 

野心に燃える総督が。

 

 

「総督、後詰めのMM重装騎士隊一個中隊、編成が完了したとのことです」

 

「よろしい。麻帆良祭二日目には間に合いますね」

 

 

世界を席巻した、悪の残り火が。

 

 

「奴め……雇う条件が、『完全なる世界』として動けるかとは、言ってくれる!」

 

「いいじゃないか。彼らしい」

 

 

 

そして――

 

 

 

「セイさん……私は――」

 

 

 

 




 オマケのキャラ紹介シリーズ①

 刀久里鉄典。トクリ・テツノリ。
 刀じじい。詠春を倒した。某ゲームのキャラに似ていると言われ差別化に苦しんだのは思い出。
 セリフが方言主体なので誤字では?の指摘が多いのも思い出。

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