「どういうことか説明してもらおうカ。エヴァンジェリン」
「……何のことだ?」
「とぼけないでもらいたいネ。昼間の、クロト・セイとの会話の事だヨ!」
超が手のひらをテーブルに叩きつけたことで、カップやソーサーなどのティーセットが大きく揺れ、カチャリカチャリと音を立てた。
エヴァンジェリン所有の、ダイオラマ魔法球・レーベンスシュルト城。そのテラスで紅茶をすするエヴァに、超が詰め寄っていた。
離れた所では葉加瀬がパソコンのモニターを見ながらネギの拳法の型を見ている。始めに基準として設定した超やクーの動きを元にしてネギの動きのずれを指摘しているのだ。
その一方で、なぜ超がエヴァに詰め寄っているのかと言えば、昼間の一件が原因だった。
超からすれば、少しでも状況を得ておきたい状況で、不確定要素の塊であるセイの情報をみすみす逃したというのは、看過しがたいことだったからだ。
「この際だからはっきしさせるヨ、エヴァンジェリン。何が目的で私の味方をスル?」
「ふふん、随分と余裕が無いな。いつもの不敵な笑みはどうした?」
「答えるネ!」
「ふん、別にたいした理由では無い。暇つぶしと嫌がらせだ」
こともなげに、エヴァは言う。
「少しばかりクロト・セイと思想の違いから仲違いをしてな。その嫌がらせをするにはお前のところに居るのが一番都合が良さそうだったのでな」
「なら、なぜ奴の昔話を断ったカ? その言葉を信じるなら、少しでもこちらの有利なように動いてもらっても文句はないはずヨ」
「それについては……そうだな。なんと言えばいいか」
ここで、初めてエヴァはそれまで手にしていたカップをソーサーに置いた。立ち上がり、城の欄干にもたれかかる。
「……私は、言うなれば今回は“駒”としての立ち位置にいるつもりだ」
「駒?」
「そう、チェスで言うならクイーン。将棋の飛車のような強力な駒だ」
「意味がわからないのだけれどネ」
「さっきも言ったがな。私が参加したのは暇つぶし、気まぐれに過ぎん。本音を言えば貴様らがあくせくしているのを肴にのんびり月見酒とでも洒落込むつもりだった」
「なら、何故?」
「言ったろう? 気まぐれだ。そこに嘘は無い」
ここで、エヴァが超の方へと振り返った。背を欄干に預け、腕を組み不敵に笑みを浮かべている。
「超鈴音。お前は私という強力なカードを運良く手に入れた。幸い私は今の所嘘は何もついていないし、貴様が何か命令を出せば余程気に入らない事でもない限り聞いてやらんこともない。
クイーンのように敵を蹴散らすことも出来るし、ジョーカーのように不利な場を一気に切り返すこともできるだろう。ただ、私は“それ以上のこと”は自分からはやらないというだけのことだ」
「……つまり、命令されなかったから自分の思うようにした、と言うことカ?」
「その通りだ。上手く使いこなして見せろ。最後まで温存して使えなかったなんてことにはなるなよ? せっかくの切り札だ」
「…………そうカ。わかたヨ」
「おや、何も言わないのか?」
ややうつむき加減で葉加瀬の方へと歩き出した超を、もたれたままのエヴァが呼び止めた。
「完全に納得したわけじゃ無いケド、今度から勝手をしないならもういいヨ。実力は折り紙つきだしネ。せいぜいこき使ってみせるサ。しかしネ、エヴァンジェリン」
「何だ?」
「貴女からすれば私の計画なんて即興劇程度の稚拙な物にしか見えないのかもしれないけどネ、即興劇だろうとなんだろうと、自分の意志で舞台に上がったナラ、少なくとも本気になってもらわないと困るヨ」
超はそう言い捨て、それからは振り向くこともなく、エヴァの方から離れていった。
視線の向こうで超はネギと葉加瀬の訓練に加わり、今度は組み手を行うようだ。そんな三人を見つつ、エヴァは一人独白する。
「即興劇、か」
席に戻り、カップを手に取る。しかし手に伝わる熱は既に無く、黙って冷たいカップをソーサーに戻した。
「……私の物語はとうの昔に完結している」
椅子に座り、行儀悪く机に脚を投げ出して、椅子を大きく後ろに傾けた。そうすれば、自然と空を向く。
「しかし、今の麻帆良は舞台を同じくして幾つもの脚本とキャストが重なりつつ、決定的にずれた形で物語が進んでいる。お前自身は紛れもない主役の一人だろうな。坊やもそうだし、奴もそう……私は脇役に過ぎん。あるいは采配しだいでメインキャストになるかもしれんが」
空は、底抜けの青。変わることのない不変の青。
そうあることを望み、勝ち取ったからこそ、そこにある。
「さて……誰の物語が完結することやら。くっく、せいぜい私を上手く使ってくれよ、若者達」
短いですがとりあえずキリのいいとこで投稿。
間に合った……麻帆良祭り一日目はもうすぐ終わりです。二日目を何とか今年中に終わらせられればいいなと思いつつやってます。