麻帆良で生きた人   作:ARUM

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活動報告の返信にあった奴を探してみたら見つかったので、当時の物をそのまま再掲載。たぶんこれのはず。

誤字もあるかもしれない。


以下オマケ
閑話・月の下で


 

 

「本当にいいのですね、ストラウス」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

閑話・月の下で

 

 

 

 

 

 

これは、赤バラと呼ばれた至高の王と、黒い白鳥を宿す少女の千年を超える因縁の決着を付ける決戦の、前と後のお話。

 

 

 

 

 

 

「最後にもう一度だけ聞きます。本当に一人で、一人だけでいいのですね?」

 

 

 

「ああ、それでいい」

 

 

 

「後悔はしませんね?」

 

 

 

「後悔など・・・・・・」

 

 

 

赤バラ、ローズレッド・ストラウスは目を伏せて笑う。

 

 

 

どこか、とても疲れたように。

 

 

 

「この千年、後悔しなかったことなどないさ。後悔したところで、どうにかなる問題でもない」

 

 

 

それよりも、とストラウスは目を開けてセイの方を見る。

 

 

 

「セイ、君の方こそ大丈夫なのか? あらかじめ陣でも敷こうものなら、ブリジットはもとより、花雪にも何かあると気取られて君の身が危うくなるぞ」

 

 

 

ストラウスの言葉に、今度はセイが笑う。

 

 

 

「それこそ、いまさらでしょうに」

 

 

 

そうだったな、とストラウスもまた笑う。

 

 

 

「君がこの世界に落とされてから、もう千年か」

 

 

 

千年。

 

 

 

言葉にすれば簡単だが、現実には恐ろしいほどに長い時間が流れた。

 

 

 

もう思い出すのも難しくなったが、千年前突然見知らぬ世界に来たときは困った物だった。

 

何せ、始めは白刃乃のいつものいたずらで、今度は過去に飛ばされたかと思っていたら、その実よく似た異世界だったというのだから。

 

 

吸血鬼の国があると聞いた時は驚いた物だ。

 

 

運良く当時夜の国の大将軍であったストラウスに右往左往しているところを助けてもらい、彼のツテで夜の国の将軍であった彼の義理の娘ブリジットの補佐役という立場と安定した生活の基盤を得ることが出来た。

 

 

 

九割がた違うが一応人間であったため多少のごたごたはあったが、大将軍であるストラウスの恋人ステラも人間であるということで表だった問題もなかった。

 

 

 

 

しかし、不老の身ゆえ老いて死ぬことはなかったが、千年は余りに長すぎた。

 

 

 

 

いくら白刃乃といえど、こんなことをするつもりでは無かったのだろう。おそらくは、自分を異世界に飛ばすのも本当はほんの少しの間のつもりであったはず。

 

 

だが実際は、平行世界。それも千年以上前に飛ばされた。

 

理由はおそらく、人の部分が少なくなり、人外となったこの身体。

 

それが何か致命的なエラーを引き起こしたのだろう。

 

 

 

迎えを待つこと千年。未だになんの音沙汰もないが、諦めてはいない。

 

 

 

無限に近い世界がある中で、自分を見つけることは不可能に近いのかもしれない。

 

 

 

だが、世界間転移と、ハプニングとはいえ時間逆行という二つの奇跡を成し遂げたのがあのマッドサイエンティストだ。

 

 

 

保険として霊力パターンの記録などはしているだろうし、何らかの手段は講じているはずなのだ。

 

 

 

「いろいろ、ありましたからねぇ」

 

 

「ああ」

 

 

 

夜の国、セイバーハーゲン、腐食の月光にブラックスワン。

 

 

 

良いことも、悪いことも、たくさんあった千年間。

 

 

 

ストラウスは世界の悪役となり戦い続け、自分はストラウスと別れて一人日本の、元の世界の麻帆良があったであろう湖の湖岸に小さな小屋を建てて千年間、いつか元の世界に戻れること夢見てそれまで己を鍛えるために引きこもった。

 

 

再びストラウスと再会したのは四十年ほど前のこと。

 

 

ストラウスが日本にアーデルハイトの封印を探しに来ていたときのことだった。

 

 

彼は騒がしい女の子を、レティシアという少女を連れていた。

 

 

当時は少し驚いた。

 

 

ブリジットすら世界の安定のために真実のひとかけらすら与えずに捨ててきたストラウスが再び誰かを側に置くとは思っていなかったからだ。

 

 

 

それに、自分も誰かを近くに置くことはなかった。誰かを置けば、さよやコウ、春香・・・・・・自分の記憶から何より大切な物が消えそうな気がしたから。

 

 

 

 

そして今日に至り、ストラウスは一つの区切りを迎えようとしている。

 

 

それは、自分もまたしかり。

 

 

直感、とでも言うべきか。そろそろ、“迎え”が来そうな気がするのだ。

 

 

 

「それで、結局このことは誰かに?」

 

 

「誰にも。ただ、森島にだけは私と花雪の決着が付いた後で君が動くとだけは伝えてある」

 

 

「森島三佐に? それはまた・・・・・・」

 

 

今度もまた身内には何も言わずに秘密のままかと、男二人して笑った。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「ストラウス・・・・・・」

 

 

月の光の元、千年来の友人が彼の最愛の者と共に空へと、かの星へと昇ってゆく。

 

 

それを確認して、自分も彼との約束を果たすために最後の仕事を始める。

 

 

 

「術式・・・・・・・・・起動!」

 

 

 

天を目指す黒鳥を閉じ込めるかのように空を覆い尽くす術式陣。いずれもが皆巨大かつ緻密。本来は麻帆良で使うはずのものを、自分一人でも扱えるようにこの日の為に改良したものだ。一つの陣は大きな物で直径三キロは優に超える。

 

 

それらが数百数千重なり合うように展開していき、やがて一つの球を創り出す。

 

 

 

 

 

 

まるで、夜に浮ぶもう一つの月のように。

 

 

 

 

 

 

そこに、接近するいくつかの影。

 

 

 

「セイ、あなたはここまできて何をするつもりだ!!」

 

 

 

それらの正体は、ストラウスを追い続けた面々。

 

 

 

 

学生であり、ストラウスを追っていた面々の中では最も若いエセルバード高橋。

 

 

 

全身を甲冑で包んだ鎧武者、鉄扇寺風伯。

 

 

 

前代のブラックスワン、小松原ユキと関係が深かった刃蓮火。

 

 

 

そして、ストラウスの娘であり、夜の国の大将軍として自分の上役であった、ブリジット・アーヴィング・フロストハート。

 

 

 

「あなたは! やっと、やっと楽になれるストラウスに! 一体何をするつもりだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

叫びながら突貫してくる四人を、捕縛結界で近づけないよう即座に固定する。今も展開した術式陣はブラックスワンの抵抗で軋んでいるのだ。少しの時間の浪費が命取りとなる。

 

彼女らにかまっている時間など、無い。

 

 

 

「いいから・・・・・・黙ってみていなさい見ていなさい、ブリジット!!」

 

 

 

「・・・・・・!!」

 

 

 

ブリジットが目を見開く。初めて会って、軍で仕え始めたときから千余年。呼び捨てにしたのは初めてだ。

 

 

 

「ストラウスがここで討たれたように! アーデルハイトが月へ行ったように! 私にも友としての、最後に成すべき約束がある!!」

 

 

 

空に浮かぶ二つ目の月が、虹色に輝き始め、揺らめくようにその色は移ろい変わっていく。

 

 

 

「最後の最後まで、貴様の思うようにやらせるものかよ、セイバーハーゲン!!」

 

 

 

術式は、人を再構築する術式。

 

 

 

約束は、ストラウスとステラの子の蘇生。

 

 

 

ずっとずっと昔、春香が自分にかけた術式と原型は同じ物。

 

 

 

ただし、自分の時とは明らかに違う事が一つ。対象が一度完全に死亡していること。

 

 

 

しかし、魂は今もブラックスワンを構成する要素の一つとして存在するのだ。

 

 

 

だから、一度術式としてのブラックスワンを解体し、子の魂を剥離させ、それを核に肉体を再構成させる。

 

あの場にいるであろう、ストラウスとステラの魂を混合しないようにするのが肝だ。

 

 

 

しかし・・・・・・

 

 

 

「くぅ・・・!」

 

 

 

思いの外、セイバーハーゲンのかけた術式が強い。もとよりストラウスを倒すその日まで永劫に持つように組まれた術式、その強度は生半可な物ではない。

 

 

 

このままでは、魂云々の前にブラックスワンが術を壊してしまう。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!」

 

 

 

だから、自分も奥の手を切る。この世界では、最後まで、千年前のあの日でさえ使わず隠し通した戦闘形態。

 

 

その姿に、周りにいる四人や、この様子を遠くから観測していた森島やレティシアも息を飲む。

 

 

 

ヴァンパイアでさえ存在しなかった角に、刃物の用に鋭い翼のような突起群。果ては、長い尾までも、それら全てが翡翠色。

 

 

しかも、それらがセイの限界近くまで引き出された莫大な霊力に反応して一つ残らず隅から隅まで発光しているのだ。

 

 

 

それらによって、ブラックスワンを押さえ込み、ついには・・・・・・

 

 

 

「あ・・・・・・」

 

 

 

術式陣が、外側から一つ一つ順に粒子となって消えて行く。それは、術が成功した証。

 

 

 

最後の陣が消え、ブラックスワンと彼は再び空へと昇っていったが、空に残された星が一つ。

 

 

それがゆっくりと降下して、やがてセイの腕に抱き留められた。そこには、桃色の髪をした赤ん坊が。

 

 

「なんとか、成功しましたか・・・・・・」

 

 

 

腕の中で健やかに眠る赤ん坊を見て、ほっと胸をなで下ろす。

 

 

 

だが、代償は大きかった。

 

 

 

「セイ、その姿は・・・・・・!」

 

 

 

「ふむ・・・・・・どうやらやっとお迎えが来たようです」

 

 

 

身体が、だんだんと透けていく。悪い感じはしないので、きっとあのマッドの仕業だろう。

 

 

 

「ブリジット将軍、この子を頼みますよ? 千年かけて取り返した、ストラウスとステラの子です」

 

 

「な、なんだとっ!?」

 

 

空の光景に目を奪われていたブリジットが正気に返り、セイの腕に抱かれる赤ん坊を凝視している。

 

千年前に引き裂かれた彼らの子。それが今目の前にいるのだから、驚くのも無理は無い。

 

 

「さて・・・・・・それでは、千年間いたこの世界ともお別れのようです」

 

 

「ま、待て。待ってくれ! あなたまで消えるつもりなのか!?」

 

 

「ここは私が本来いるべき世界じゃありませんからね。少し、いすぎた感はありますが」

 

 

「し、しかし。しかしっ・・・!」

 

 

うろたえるブリジットを見てつい苦笑が漏れる。こんなブリジットを見るのは、ストラウスが初めてステラを王城に連れてきたとき以来ではないだろうか。

 

 

「ふふっ・・・・・・心配することはありませんよ、ブリジット。私は死ぬわけではありません。ただ帰るだけです。果てしなき時の流れの中で、いつか会うこともあるやもしれません」

 

 

 

「くっ・・・・・・だが・・・・・・」

 

 

 

「それではまたいつか会いましょう、ブリジット。貴方にもいと高き月の恩寵があることを願っています」

 

 

 

「っ・・・・・・! セイッ!!」

 

 

 

「むぐっ!?」

 

 

 

そして、彼はこの世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「と、いうわけなんですよ、さよさん」

 

 

 

「へー、そうなんですか、セイさん。とぉってもよくできた物語ですね。どこかの大賞に応募するんですか?」

 

 

 

「いや、だから本当の事で・・・・・・」

 

 

 

「ふふ、良いんですよセイさん。だからそろそろ本当のことを話しませんか? その“キスマーク”は“なんですか”」

 

 

 

ごごごご・・・・・・

 

 

 

「ですから、さっきから話しているでしょう? 別れ際にブリジットが・・・・・・」

 

 

 

「三日も留守にして、あげくのはてにキスマークをつけて帰ってくるなんて・・・・・・」

 

 

 

ごごごごごご・・・・・・!

 

 

 

「あ、あれ、さよさん。なんで符の束を持ってるんです?」

 

 

 

「きまってるじゃないですか、セイさんが本当のことを話してくれないからお仕置きするんです」

 

 

 

 

「え、ちょ、やめっ・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 





『ヴァンパイア十字界』とのクロスでした。ええ、大好きでしたとも。

思うに赤バラ王をFateとかにぶち込むとどうなるのか。昔に恋姫世界にINする奴を見ましたが、ほとんど見かけませんよね、ストラウス王。超強いのに。

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