私の名は、ゼリム・オースロット。先日までは、魔法学術都市アリアドネーで国家運営に携わる幹部の一人として腕を振るっていた者だ。
そんな私は、今はその職を失った。いや、失わされたと言うべきか。
「クロト・セイ……“笑う死書”が指名手配か。ふふん、奴が殴り込みをかけるとはメガロの馬鹿どもも何をしたんだかな。ま、過ぎた欲は身を滅ぼすと言うからな」
通称、笑う死書。彼のせいで、私は職を失った。彼が引き起こしたとある事件で、私は巻き添えをくったのだ。
リークしたのは騎士団に捕縛された私と同じ幹部の一人。おかげで、汚職に手を染めていた私は弁明の暇もなく捕縛された。
もっとも、私の汚職は事件全体からすれば微々たる物で、なおかつ私の今までの功績のおかげで、なんとか期限付きの追放ですんだが。
これはかなり良い方だと私は思う。
よく知らないが、事件の発端であり、彼が暴れる原因となった私より下の幹部達は、彼に引き渡されたらしい。
私はアリアドネーを離れる前に、彼らの一人とたまたま街であったのだが、最初は誰だかわからなかった。アリアドネーの中でも急進的な武闘派で、なおかつ血気盛んな若手の幹部だったその彼の髪が、真っ白になっていたのだ。
少し話してみてまた驚いたのだが、話し方や性格までもが変化していたのだ。粗暴だった話し方は丁寧に、過激な考えは穏和な平和思想に。まるで別人のように。
私はその余りの変わりように驚き、彼に何があったのか尋ねたのだが、彼は決して答えようとはしなかった。
だが、彼が最後、別れ際にうつろな目をして『緑の魔神と骨がね、追ってくるんですよ。逃げても逃げて、もっ……!』と言っていたのが記憶に深く残っている。
私はほどなくアリアドネーを離れた。
引き渡された他の幹部にはあっていない。風の噂では大半が入院したらしい。
今は、辺境の密林で同じ境遇の者数人と共に新しく事業を始め、成功しつつある。
開拓されていない密林で、若かりし頃に学んだ知識を生かし、新しい植物や動物を発見し、その利用方を見つける仕事だ。
……私はある意味、彼に感謝しているかもしれない。
もちろん危険はある。だが、それを差し引いても今の生活は意外と充実しているのだ。
アリアドネーにいた頃のように、机にしがみついて書類とにらめっこをしたり、連合の狸や帝国の狐どもと顔をつきあわせ腹の探り合いをせずにすむ。
まぁもっとも狸は山狩りにあったようだがな。くっく。
もはやアリアドネーに戻るつもりはない。これからは、いつか夢見たように一人の学者として生きていくつもりだ。
なぜなら……
「オースロット社長! ケルベラス・クロス・イーターの亜種が発見されました!」
「何だとぉ!? よぅし、私もすぐに行く!」
ここは、いつも新しい発見に満ちているのだから。
すいません。非常に短いです。