麻帆良で生きた人   作:ARUM

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第三十三話 東西政戦

 日本、某所。

 

 いずことも知れない“深い”場所。

 社会の闇に紛れるようにして存在するその場所は、日本に数ある酒と料理を出す店の一つ。

 

 ただし、ここは一般の店ではありません。

 ごく限られた者達。それも、裏の世界の更に奥、闇の世界に属する者が好んで利用する、一つの中立地帯のような場所なのです。

 

 ここは大きなカジノが併設されている訳ではありません。

 女を扱っているわけではない。

 違法な薬物などの持ち込みも禁止されている。

 オーナーの方針で、そういった事は全て禁止されているのです。

 

 そして、それを裏の世界で通すだけの力がこの店のオーナー、そして従業員にはある。

 

 例をあげるなら、昔様々な理由からこの店にとある会社の私設部隊が突入してきたことがあったそうです。しかし五十人いた私設部隊は、全てフロアスタッフによって撃退、鎮圧されたとか。

 

 そんな物騒な店員がいるこの店で扱っている物は、美味い料理と酒、希望があれば菓子や珍味。

 さらに副業として情報と刀剣に銃火器。もっとも、これはオーナーに店を任せられている店長が気にいった者だけだそうですが。

 

 そしてなにより、店内にいる間の絶対的安全。これがあるからこそこの店は裏の世界で確たる信用を築けたのだ。

 

 その店内が、異様な空気に包まれていた。百戦錬磨の従業員の中にさえ、その空気に呑まれている者がいるほどに。

 原因は、店を貸し切った三つの組織。

 

 一つは関西呪術協会。

 

 西日本をまとめる一大組織で、近年は関東魔法協会に押されがちだが未だに政府などにも大きな影響力を保つ日本の土着勢力の中では最大級の組織でもあります。

 

 次に関東魔法協会。

 

 明治初期に日本に進出を果たした魔法使いの組織。日本に進出するにあたり土着勢力の抵抗にあったが、魔法世界のメセンブリーナ本国の膨大なまでの物量でそのことごとくを排除してきた歴史があり、そのまま今に至る。

 

 近年では魔法世界の大戦の影響で関西との関係が急速に悪化している。

 

 最後に、関東“呪術”協会。

 

 つい先日突如としてその存在を発表し、国内外問わず裏世界に大きな衝撃を与えた組織です。

 

 その構成組織は既に滅んでいたか壊滅したと思われていた組織で、この一週間で既に東日本の大部分を掌握。各地にあった関東魔法協会の小規模な拠点や構成員の多くを制圧するとともに、捕虜として確保している。

 

 別にこの程度なら、この店で働く者からすれば珍しいことではない。

 この店の常連には裏の世界では名の知れた賞金首に賞金稼ぎ、傭兵やどこかの組織のボスなど数多くの実力者が利用する。

 

 問題は、今この場に居るのが各組織の“長三人”を含め、全員が二つ名を持つような組織の重鎮と言えるレベルの大幹部であること。

 

 そこらの組織のボスを軽く上まわる実力者が五十人以上集まっている上に、長以外は一触即発といった空気。

 店側でも、今回は店長、料理長、フロアチーフといった実力者に加えて滅多に店に顔を出さないオーナーまでもが揃っている。

 

 今回、オーナーは進行役として動くことになっています。

 

 今からは始まる会談の結果如何では、裏世界で大きな変遷が起きうる可能性もある。

 

 この場にいるのは、それだけの面子。司会進行には中立な人物が望ましいのだ。

 

 そして、多くの人間の未来を左右する会談が始まる。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「……そろそろ、始めてもいいだろうか」

 

「待ってもらいたいのう」

 

 

 ふわふわとした金髪に翡翠色の瞳、透き通るような白い肌を持つ美少女、オーナーが始めようとしたら、いきなりぬらりひょんが遮りました。

 

 まだ始まってすらいないというのに、何を言うつもりですかね?

 

 

「今回、どの組織も自分の組織に属している者のみ参加を認め、助っ人などは認めんと聞いたのじゃが、なぜそこに部外者がいるのかのう?」

 

 

 ん? なぜ私を見ているんでしょうか?

 

 

「わしの記憶が正しければ、暗辺殿は前の長によって決められた特別顧問じゃろう?」

 

「……ええ、そのとおりですが、それが?」

 

「長の一存で決められたなら、長が変わった今、再びその是非を問うべきだと思うんじゃがのぅ? その辺りはどうなんじゃ、婿殿?」

 

「ふん、馬鹿馬鹿しい。その件については既に結論が一度……」

 

「……私は、ふさわしくないと考えます」

 

「なっ……!」

 

「長、何を!?」

 

「そうだな、私達が選んだわけではないからな」

 

「貴様ら……!!」

 

 

 ……やられた。魔法世界や他国の支部の人間を入れないための措置でしたが、逆手にとられましたか。私の席取り上げに反対していた幹部達が賛成に流れています。ぬらりひょんめ、裏で動きましたか。

 

 今も反融和派の幹部が詠春に取り合っていますが、最初から腹を決めていやがったようです。詠春はまったくとりあいません。

 

 まぁ、関西の融和派の中心なんですから、当然といえば当然ですか。

 

 場の緊張感が一気に増し、反対派の幹部が今にも戦い始めんばかりの表情で睨みつけていますが、ぬらりひょんは涼しい顔をしています。

 まぁ確かに“いままでどおり”なら黙って引き下がるしかなかったでしょうからね。

 

 しかし……今この場にいるのは私なのです。

 

 

「ほっほ、幹部でないのなら、ここにおる資格はないのう……」

 

「……っ、貴様ぁ!!」

 

「何を怒るんじゃ? 条件を設定したのはそちらじゃと聞いておるが」

 

「ぐっ……!!」

 

 

 関西の幹部がぬらりひょんにかみつきましたが、受け流されました。やはりこのぬらりひょん、一筋縄ではいきませんか。

 

 

「とーさまぁ……」

 

 

 千草ちゃんが、不安げに私を見上げています。……だめですね、こんなに小さな子に心配させてしまうとは。

 

 

「大丈夫ですよ、千草ちゃん。私はまだどこにもいきません」

 

「ほう?」

 

 

 ぬらりひょんが肩眉を上げました。私に何か打つ手があるのかどうか推し量っているようですが……

 

 

「どうするのかの? 今から関東呪術協会に移るというのは流石に認められんぞ」

 

 

 ぬらりひょんが言ったことを無視し、席を立つ。そしてそのまま関東呪術協会の側に椅子を持って行き、座る。

 

 

「わしの話を聞いておったか? 今から移るのは……」

 

「何か、勘違いしていませんか?」

 

「ほ? 勘違いとな?」

 

「ええ、その通り、勘違いです。私は、“最初から”関東呪術協会の人間ですよ?」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 関東呪術協会以外の二つの陣営の全員が、もちろん関西の融和反対派を除いてですが、驚いてますね。

 

 

「待たせましたね、石呼壬殿」

 

「いえいえ、なんということはございません。……長」

 

「なんじゃとっ!?」

 

 

 ふっふ、流石にぬらりひょんも驚いているようです。

 

 関東呪術協会、私が暫定的な長なのです。関東の土着勢力をまとめたのが私だから、という理由で何人かの幹部級に推薦された、というより押しつけられました。

 

 最終的には合議制にもっていきたいのですが、今は急場ですしやむをえません。

 それと、本当はこの関東呪術協会だってあと十年はあたためておく予定の計画だったんですよ?

 次の世界樹大発光までかなり期間がありますから、目立ちすぎるんですよね。動かしづらくなりますし。

 

 それで石呼壬の長に長代理を頼んで水面下で進めていたのですが……ぬらりひょんのせいでおじゃんです。ま、ぬらりひょんの悔しそうな顔を見られたので良しとしましょう。

 

 

「馬鹿な! わしらは石呼壬殿が長じゃと聞いておるぞ!」

 

「勘違いをしていただいては困りますな。私は発表の中で確かに“まとめる立場にある”としましたが、私が長だとは一言も言っておりませんぞ」

 

「それは詭弁じゃ!」

 

「詭弁で結構、なんら嘘はついていない。そちらが勘違いしただけですな」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

「……始めてもかまわないだろうか、近衛殿?」

 

「……あいわかった」

 

 

 ま、とりあえずは前哨戦には勝った、というところですか。

 

 

「では、あらためて始めたいと思う。私は、今回は関東呪術協会が今後どう動くのか。また、それにたいする関東魔法協会及び関西呪術協会の対応についての“話し合い”だと聞いている」

 

 

 燕尾服に身を包み、丸めがねを付けた執事のような少年、フロアチーフから書類をうけとったオーナーが話を進めます。

 

 フロアチーフは一見するとただの少年のようですが、噂によると優秀な影使いらしい。

 

 やはり会談の場所をここに指定して正解だったようですね。この店なら正義正義とうるさい奴もそんなに無茶は……

 

 

「我々メガロメセンブリアは関東呪術協会にたいして即時の捕虜の返還と解散を要求する」

 

 

 ……するんですか。しかし流石にぬらりひょんが哀れ……いやむしろいい気味で。頭かかえてますね。

 いくら腕がたつからといって交渉のいろはをしらない馬鹿を連れてきたのだから自業自得ともいえますが。

 

 しかし、メガロメセンブリアとは……

 

 

「なぜメガロメセンブリアの方がここに? 先の言葉を返すようですが、部外者の参加は認めていません。近衛殿、説明していただきましょうか」

 

 

 私の代わりに石呼壬の長が問いただします。当然ですね、人に言ったくせに自分達は連れてきているとはどういうことでしょう。

 

 

「……麻帆良に限らず、各地の魔法学校はメガロメセンブリアの下部組織じゃ。上位組織の人間がおってもおかしくはあるまい」

 

 

 こちらとしては、関東魔法協会のみ、と明記したはずなんですがね。上の人間ということで外部理事とでも後付けしましたか。

 

 

「……まぁいいでしょう。オーナー、進行を」

 

 

 感情のこもらない目で事態を見ていたオーナーに、進めてくれるように促す。聞いた話によると、可憐な少女に見えるオーナーは実はこの店でも最強の存在らしい。

 

 

「関西呪術協会も、なにかあるのだろうか。あるならば、今の内に言ってもらいたいのだが」

 

 

 この問いかけに答えたのは詠春ではなく、幹部の一人だった。

 

 確か京都の本山で総務を取り仕切る男で、この場に来てこそいるが完全な中立派、職務に忠実なタイプだったはず。

 

 内容は、今回の関東呪術協会の件に関して関西呪術協会は無関係であること。長以下、最高幹部はこの事を全く知らなかったこと。関東魔法協会と同じく即時の解散を求めることなどだ。

 

 完全に棒読みだった。声もフラットで淡々と用意された文章を読み上げていた。

 

 

「では最後に、関東呪術協会のこれらに対する答えを聞こう」

 

 

 オーナーも負けず劣らず淡々としていますね。こちらも感情の起伏が全くありません。私もこの店を知ってから数年経ちますが、未だに笑ったところを見たのは数回程度です。

 

 とにかく、まずは彼らの要求に応えましょう。もちろん回答は決まっています。

 

 

「お断りします。そんなこと、我々が聞く道理がない」

 

「貴様! われわれに逆らうというのか!?」

 

 

 これに噛みついたのは、メガロメセンブリアから派遣された銀髪の男。

 

 ……逆らう? 当然ではないですか。そうでなければ、誰もわざわざ関東呪術協会など作るものですか。

 

 

「ええ、まったくもってその通りです」

 

 

 あえて人を馬鹿にするような口調でいうと、銀髪の男が真っ赤になりました。が、なにか言おうとする前にぬらりひょんが止めました。

 

 このまま余計な事を口にしてくれれば楽だったんですけどね。

 

 

「即時解散は無理としても、捕虜は返還してもらえんかの?」

 

「それで?」

 

「それで、とは?」

 

「捕虜を返還したとして、何をくれるんです?」

 

「……組織の存在を認めるだけでは不服かの?」

 

「論外ですね」

 

 

 鼻で笑う。

 

 

「私達は、ただ奪われた自分達の土地を取り返したにすぎません。元を正せば、宣戦布告もなしに侵略し、土地を奪ったのはあなたたちです。それを、認める? 舐めているのですか?

あなた方が認めようと認めまいと、私達という存在は確かにここに在る。私達の中では、まだ何も終わっていないのですよ。やっと今始まった。捕虜の返還を望むなら、相応の代価が必要に決まっているでしょう」

 

 

 ――さあ、どうします?

 

 

「……戦争を、する気かの。勝てると思っておるのか?」

 

「上等ではないですか。やるというなら日本からたたき出してやろうじゃないですか。昔ならともかく、ど派手な攻撃しか能のないあなた方がこの日本でどこまで動けますかね?それに、あなた方の敵は私たちだけではありませんよ?」

 

「そやね。やるんやったらうちらも一緒や」

 

 

 ざわり。とある人物が声を上げた事によって、それを前もって知らなかった幹部達がざわめき始める。

 

 

「……鶴子さん、本気で言っているんですか!?」

 

「悪いな、詠春はん。うちら反対派七席はセイはんに付かせてもらうわ」

 

「そんな……一体何故!?」

 

「それをわかっとらへんから、うちらはセイはんに味方すんねん。なぁ詠春はん、あんたは大戦に行ってかわってしもたわ」

 

「そんなこと……」

 

「ないとは言わさへん。昔の詠春はんなら、少なくとも無理矢理最高幹部会入れ替えたりなんかせぇへんかったはずや。自分の力で勝ち取った訳でもない新顔の連中も幹部の席がどういうもんか、わかってやせえへんやろし……今の詠春はん個人についていくんは神鳴流の若い奴らくらいやで。それにも気づいてへんのやろ?」

 

「……くっ」

 

 

 ……詠春がうなだれていますが、口は挟みません。あれは下の者に耳を貸さなかった彼が悪い。

 奴も根はまともなんですから、今回のことで目をさましてくれればこれからにも期待できるんですが……

 

 

「ま、交渉はいつでも受け付けていますよ。そんなに長くは待ちませんがね。よく考えてください」

 

 

 私が立ち上がったのにあわせて、関東呪術協会及び関西呪術協会融和政策反対派が立ち上がる。

 

 

「ま、待たんか!」

 

「待ちません。それでは」

 

 




 この話もそうですが、いわゆるネタクロスはどこまでをタグとして載せるべき?

 誰かご意見ください。

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