何番煎じか分かりませんが自分が読みたいと思えるものを書こうと頑張ります
プロローグ
"
怪我で自分のいた世界を失い、そのまま海へと飛び込んだのが、前世最後の記憶だ。
海に飛び込んだあと意識を取り戻したときは、死にそびれたかと思ったが、どうやらそうでも無いと気が付いたときには驚いた。
しかしながら、今度こそは死ぬ気で向き合っても上に行けなかった勝負の世界と関わらず、普通の人生を楽しもうと前向きに生きようと考えていた。
けれど、この考えは成長していくうちに、だんだん壊れていく。
この世界には前世とは決定的に違うものがあった。
それはウマ娘という存在だ。
こっちの世界ではどうやら馬がいない代わりにウマ娘という摩訶不思議生物がいる。
そして僕もそのウマ娘の一人だ。
ウマ娘たちはウマソウルに刻まれた名前を持って生まれ、人間の数倍の力と人間にはない耳と尻尾を持っている。
そしてウマソウルに刻まれた名前は僕に「走れ」「勝て」「頂点に立て」と本能を刺激してくる。
一度自分の中から失った勝負の世界に、二度と関わりたくないと死ぬ間際に願った僕への神からの当て付けだろう。
あんなにもズタボロになっても頂点に立てなかった僕に、
とんだ喜劇だと思った、しかし本能には逆らえなかった。
走ることはとても気持ちが良かった。
たくさん走り回った。
前世とは違いこの身体には才能があったため、どんどん速くなった。
前世では努力しても結果がついてこなかった分嬉しくて、とにかく走りまくった。
楽しそうに走り回る僕を見て両親がレース場に連れていってくれた。
レースを見てそこでウマ娘としての夢を見つけて貰いたかったんだと思う。
そこで
いや、正確に言えばそのときは頂点では無かった。
しかし頂点に辿り着けることは見た瞬間に分かってしまった。
"シンボリルドルフ"
あれがあるべき姿、目指すべき標。
レース場に君臨する《
レースが始まってみれば彼女の圧勝だった。
レースの知識が無い僕でも彼女以外が勝つ姿を想像しようもないほどの圧勝だった。
かっこよかった。
底知れぬ力を持つ彼女に憧れを抱いた。
でも、これはたぶん初めての気持ちではない。
前世で勝負の世界に何故いたか思い出した気がした。
ああいう人に僕はなりたかった……ただただかっこよく圧倒的に勝つような頂点に。
前世でも子どものときに同じように憧れてその道に進んだことを思い出した。
結局、なれなかった訳だが。
もう一回勝負の世界に戻ってもいいかとも少し葛藤した。
今度こそ目指したら、なれるのではないかと。
そんな甘い世界では無いことは分かっている。
でも、この才能を持ってすれば行けそうな気がした。
だが前世の最期の誓いが僕を縛った。
いいや違う、誓いだけではない。
何度も思い出すあの頃の記憶。
がむしゃらに強くなることだけを目指して自分のことが見えなくなるぐらい無理やり突き進んだあの日々。
おそらく僕は進み出せば止まらないだろう。
そして壊れてしまう前だとしても止まれないことも。
シンボリルドルフさんのレースはまた見に行った。
次に見たときには史上初の無敗の三冠ウマ娘になっていた。
それからのレースも見に行った。
見ている分には純粋に楽しめた。
何度も見に行く僕に両親はレースの世界に興味があると思ったらしい。
「テイオー、トレセン学園に行ってみない?」
以前トレセン学園に通っていたらしい母からの提案だった。
即答は出来なかった。
トレセン学園に行く。
それは即ちレースの世界で勝負をするということだ。
幸いこの身体は走りの才能はあるし勉強も前世パワーで余裕だ。
入学は簡単に出来るだろう。
しかし、もうあんな辛い思いはしたくなかった。
「……考えておくよ」
僕は母からの期待の視線に耐えきれず、返事は保留にした。
あんなに楽しそうにレースを見ていた僕が、断るとは思っていなかったのだろう。
母は少し驚いた顔をしていた。
提案された日の夜、僕は家を抜け出して走った。
なぜ走ろうと思ったのかは、分からない。
でも、とにかく走った。
頭を空っぽにして満足するまで走った。
息が切れたらスピードを落として、ある程度回復したらスピードを上げた。
走れば何か見つかるんじゃないかと期待して、前へ前へ進んだ。
途中でいつの間にか周りの景色が知らない場所になっていたから、来た道をそのまま戻った。
家に戻ってくる頃には町から光は消え、世界が寝静まっているようだった。
家につくと僕の家にはまだ光が灯っていた。
鍵が開いていることを確認し玄関を開ける。
「……ただいま」
悪いことをした自覚はあったので縮こまった喉からなんとか絞り出した。
奥から僕が帰ってきたことに気が付いたのかドタドタと音が聞こえてきた。
「こんな時間になるまで何も言わずに家を出て、何処へ行ってたんだ?」
怒りたいのを必死に我慢していることが僕でも分かる父が優しく尋ねてくる。
「……ごめん」
「別に謝って欲しいんじゃないんだ。何か悩みでもあったのか? いや、別に言わなくてもいい。お前が無事に帰ってきてくれたなら大丈夫だ」
落ち着いたならまぁ風呂に入ってこいと言って、父は寝室に入っていった。
僕は言われたとおりお風呂に浸かって考えていた。
今、僕は、訳もわからぬ満足感に満ち溢れていた。
走ることがこの身体になってからの一番の楽しみだ。
今日これでもかと走ってみてもそう思える。
本能でも理性でも走りたいと感じている。
速く走りたいとも思うが今、比較する相手は自分しかいない。
過去の自分より速ければそれはもう速く走れている。
しかし、どうだろう。
比較する相手がいる世界に行ってみたら。
僕に刻み込まれた魂は勝てと叫ぶだろう。
僕だって
負けるのは嫌なのは同じだ。
勝てるまで努力するだろう。
そしてまた壊れる。
でもそれが
そう考えてしまった。
ネガティブになってどうする! そんな考えを振り払うように風呂から飛び出て、髪もよく乾かさずにベッドにとびこんだ。
不安になった気持ちを押し殺すように布団にくるまり、ベッドの上で小さく横になった。
前世ではあんなに何も考えずに決めていけたのに、今の僕は沢山の鎖に繋がれているようだ。
気がつけば朝になっていた。
あのまま寝てしまっていたようだ。
乾かさずに寝たから髪が酷い。
「おはぉぅ…」
まだ頭が動き出してなくて呂律が回らない。
「おはようテイ……ってその髪どうしたの!? ほらこっちに来なさい! 直してあげるから!」
寝起きの僕は、母に洗面所に連れて行かれぐちゃぐちゃになった髪を整えられる。
「昨日はどうしたの? 急に走りたくなっちゃった?」
「ぅん」
「そっか〜テイオーはホントに走ることが好きね。
……トレセン学園のことで悩んでたの?」
「え?」
「いや昨日ね。トレセンの話をしたときあんまりいい顔してなかったから、もし押し付けちゃってたらごめんねって思って」
「いや、押し付けられたなんて……」
「いいのよ気を使わなくて。テイオーの人生なんだもの、自分で決めなきゃ」
そう言われて少し考えていたことを決心する。
「僕、トレセン学園行く。行ったらね、何か、何かが見つかる気がしたんだ」
「ふふっ、テイオーが決めたことだから応援するわ! それが母親ってものでしょ?」
そうこう言ってるうちに髪は整え終わったようだ。
「はいっ! 今日もかわいいテイオーの出来上がり! 流石かわいい私の娘ね! もうちょっと愛想があればモテモテだと思うんだけどね〜」
「はいはい、愛想悪くてごめんなさいごめんなさい」
母の親バカ発言を軽く流す。
僕だって愛想が悪いのは少し気にしているんだ。
でもあいにくどうやったら上手く話せるのか、前世の記憶でも分からない。
取り敢えずトレセン学園には入ることにした。
入ってみれば気持ちに整理がつくかもしれない。
たとえそれが悪い方向でも今度の人生(ウマ娘生?)は受け入れて前に進んでみよう。