僕は今日も今日とて生徒会室に遊びに来ていた。
「テイオー、私との模擬レースだが入学式や始業式が一段落してからでも良いか?
その後なら私にも時間の余裕が出来る」
「はい、分かりました。
それまでに頑張って仕上げますね」
あと2ヶ月とちょっとぐらいか。
長いようで短いので今からちょっとずつ仕上げていかないといけないな。
「そうか。
……テイオーがあまり練習していないと風のうわさで聞いたが、大丈夫か?
何かあったのか?」
「大丈夫だよ、会長。
逆に今までの量がおかしかったんだ。
今はちょっと少なめだけど、
マックイーンさんに言われちゃってね。
『このままだと貴女、身体壊しますわよ〜』って。
僕もちょっと色々見直してるんだ。
会長とはドリームシリーズで戦いたいからね」
「良い友達を持ったなテイオー。
テイオーにもそんな友人が出来て私もとても嬉しい」
「ははは……」
その言葉に思わず乾いた笑いが出てしまう。
まるで僕の父親みたいだ。
会長と話していると机に置いてあった新聞が目に入る。
「チームスピカ……レースに勝ってもこの有り様……ふふっ」
ダメダメなスペ先輩を見て笑う。
多分、デビューかな?
ちょっと前に転入後にする案内をしたはずだから、そんなダンスを覚える時間は無かっただろう。
「テイオー、貴様もちゃんと踊れるんだろうな?
仮にもこうやって生徒会室に居候しているのだから踊れてもらわないと困るぞ」
さっきまで話に交ざってこなかったエアグルーヴさんが小言を混ぜてくる。
きっと、授業のレッスンであんまり真面目に受けてないのがバレているのだろう。
それにはこちらも対抗札がある。
いかにも凄そうな実績で黙らせてやろうじゃないか。
「自慢じゃないけどダンスなら自信はあるんだ。
ウイニングライブも勿論覚えてる。
なんていったって僕は近所のゲーセンのダンスゲーのスコアトップを総ナメしている"TEIO"さんだからね」
物語だったら"デデーン!!"と効果音が付きそうな感じで胸を張って言う。
うーん、凄さが分かりにくかっただろうか?
「ダンスゲームのことは私はよく分からないが、テイオーなら大丈夫だろう。
まぁ、何だ。
少し大目に見てやってくれ、エアグルーヴ」
「はぁ、会長が言うなら……」
凄さがあまり伝わらなかったようで少し悲しい。
そしてこの言い方、会長にもバレてそうだ。
でも助け舟を出してくれて何とか助かった。
「それにしても、この状況はいかんな。
学園のウマ娘たる者、ウイニングライブを疎かにするなど言語道断、学園の恥だ。
ウイニングライブは応援してくれた観客への恩返しでもあるのだからな」
「……おぉ〜!!」
会長が皇帝らしいことを言ったので思わず声と拍手が出てしまう。
さっきの僕のよりも威厳がある。
「こ、こらテイオー。
私は真面目に言っていたのだからあまり茶化さないでくれ……」
会長が照れくさそうにそう言う。
別に茶化していたつもりは無かったが。
「いや、会長がとっても格好良かったので……」
「それは嬉しいが……いや、何でも無い。
それはそうとそのウイニングライブの件でこれからここで会議なのだ。
すまないが、テイオー……」
会長が時間を確認すると何やらこの後、ここで会議の予定があるそうだ。
何をすれば良いのか察す。
「じゃあ、僕は失礼しますね」
「あぁ、ありがとうテイオー。
また、何時でも来い」
「言われなくとも」
そうカッコつけて生徒会室を華麗に去ろうとするが、中に鞄を忘れていたことを思い出し、すぐに戻ると締まらないなと二人に苦笑されてしまった。
カッコつけたいお年頃なんですから許してと思いつつ、次こそは退室する。
それにしても生徒会に呼び出されて会議なんて凄いな。
普通そこまで注意されることなんてないだろう。
良くも悪くもスピカというチームが結果を残したからだろう。
ウイニングライブは練習しても踊れないウマ娘の方が多い。
結果が中々残せないと自分なんてどうせ踊れないなんて考えて練習しなくなってしまうウマ娘もいるらしい。
因みにそうやってウイニングライブの練習をしなくなったウマ娘が勝った例はたったの
残酷だが興味深い話の1つだ。
恐らくだが、精神でパフォーマンスが変わるウマ娘にとって、そうなるともう満足の行くパフォーマンスは出せないのだろう。
マヤノも練習してないっぽいが、あの天然天才ちゃんは何か目標やライバル、チームやトレーナーが出来ればすぐに化けるだろう。
マヤノと僕は真逆だ。
とにかく才能の暴力のマヤノと努力で基礎ステータスを上げている僕。
僕はボクによって翼への手がかりを手に入れたが、マヤノには地を踏みしめる足が必要だ。
それを手に入れるきっかけがあるだけでバケモノになるだろう。
それにダンスは一緒にゲーセンに行ったときにちゃんと踊れていた。
心配するのも野暮なことだ。
……ダンスゲームはちゃんと僕が勝った。
流石に初心者には負けられないって。
さて……自分で決めた練習開始時刻まで少し時間が出来てしまった。
前までならさぁ走るぞーのテンションだったがどうしようか。
ここまで学生らしいことはあまりしていないし何か挑戦するか?
いやそもそも学生らしいことって何だ?
伊達に今までどの人生でも私生活は諦めてきただけあって僕にそういうことは分からないぞ。
ねぇ、ボク。君は分かる?
『え、いきなり聞かれても分かんないよ』
そりゃそうか。
ボクもそういうことは分からなそうだし。
いや、ここはゲーセンに行って音ゲーのスコアを上げに行くか?
ダンスゲーはトレーニングを減らしていた先週一週間、トレーニング後に通い僕の天下になった。
そして次にってことで新しい媒体に手を付けてみたのだ。
だがそれでも良いかもしれないが、トレーニングをする時間帯がズレてマックイーンさんに心配されるかもしれない。
どうしようか……
『暇ならトレーニングコースで他人の走り見て研究しよ!
ほらほら、ボク以外にも才能があるウマ娘は沢山いるんだから何か参考になるかもしんないでしょ?』
そうは言っても、見ても自分の身体で上手く出来ないよ?
だってまだ君の走りすら出来て無いじゃないか。
僕にはそういう才能もあんまり無いと思うんだけどなぁ。
『も〜、ネガティブすぎ。
もうちょっとポジティブに行こうよ!
知識が増えればそれだけ良いってカイチョーも言ってたし!』
そんなこと言ってたっけ?
『いーのいーの!
それにチームもちゃんと入ってよ〜。
僕、このままじゃ絶対に入らないでしょ?』
痛いところを突いてくるなぁ。
チームを探すと言ったは良いが、正直今から新しいところを見に行く予定は無い。
だからといって何処に入るとも決めていないどっち付かずな状態だ。
このままだと何処にも入らないままデビュー前になって焦ることになりそうだ。
ん?それならマックイーンさんは大丈夫なのだろうか?
まぁ、あのヒトは名門のメジロ家だし何とかなるだろう。
普通に速いし、スカウトされても断っているだけだろう。
そうであって欲しい。
実はコミュニケーションに難ありっていう理由で避けられてたら可愛そうがすぎる。
僕も思ってたよりスカウトが来ないのは自意識過剰だったのか、性格に難ありと判断されたのか、はたまた別の理由か。
結局のところどんな理由でもしつこい勧誘は無いのは助かっている。
『助かっている〜じゃなくて、入ろうね!』
だそうだ。『も〜』……はいはい、ちゃんと決めますよ。
『にっしっし……言質は取ったからね!
入るまでボクは走るの手伝いませんよ〜っと!』
地味に困りそうなことを決めてくるが、何処かに所属してしまえば良いだろう。
『てことで早速ウマ娘観察だ〜!いっくぞ〜!』
何やら言い方が怪しい人だが、まぁ行きますか。
たまには他のヒトのことを見るのも良いだろう。
どうせなのではちみーを買ってからトレーニングコースに行く。
学園生活を満喫するヒトたちを眺めながらドロドロで甘々なはちみーを、口の中で舌に絡ませる。
はちみー、お前だけだよ。僕にいつでも幸福感を与えてくれるものは。
僕も僕なりに学園生活を満喫しているはずだが何故か敗北感が胸の奥から湧き出てくる。
トレーニングコースに行くと学園の正門付近とは周りのヒトたちの様子が変わってくる。
楽しそうにしているがその目には狂気が少し混じっているように視える。
何処かイカれているやつからこういう世界では勝ち上がっていく、そのことが良く分かる空間だ。
練習量が成果に直結するとは限らないことは実体験しているが、成果は練習量が無いと表れない。
そんな世界だからこそ途中で諦めるやつは五万といるし、そういう奴は元々その世界には向いていない。
その世界に適応しているのは、ただただその世界で上を目指していることが楽しい馬鹿か、自分の才能を信じて止まず努力したら勝てると分かっている自意識過剰のナルシストの馬鹿か、才能なんて無いことはとっくに分かっているのに夢を捨てきれない救いようのない私みたいな馬鹿だ。
勝負の世界では馬鹿にならないとやっていけない。
この馬鹿は別に頭の良し悪しの話じゃない。
勝負のために自分の全てを懸けられるか?って話だ。
勿論いつでもそんな勝負をする訳ではない。
そんなことをしていたら身体は
でも、絶対の大一番。
ここぞという時に相手は当然のように全てを懸ける。
こちらが何も失わずに同じ土俵に立てる……なんて甘い話は無い。
ここにいるような
こういうやつらは
そしてここまで来ると実力は努力が九割以上を占めている。
そしてかの発明王も言っていた、とても残酷な世界の真理だといつも僕が信じてやまない言葉がある。
【天才とは、1%のひらめきと99%の努力である】
凄い言葉だ。
たったの1%で全てが変わる。
その1%をどう埋めるか。
才能、環境、師、運……などなど。
何によって天才に変わるかはヒトそれぞれだが、努力だけではたどり着けないなにかがそこには存在する。
どんなに努力を積み重ねてもひらめきさえ無ければただの努力家で終わりだ。
努力家だって凄いだろう?そう思うやつらもいるかもしれない。
だが努力しているやつらは、僕たちは
なりたかったんだ。
まぁ、いいや、ここまで色々と考えてきて思うことは一つ。
青空が広がるコースの外れの丘にポツリと座りはちみーを舐めながらコースを見る。
普段周りなんて気にしていなかったが僕以外にもかなりの数のヒトが走ってるんだなって思った。
見たことあるような有名なヒトもいる。
あ、マックイーンさんもいる。
あのヒトこんなに早くからやってたんだな。
相変わらずあの人も努力家だ。
だからこそかその目にはしっかりとした目標が視えている。
いや、目標に縛られているのかな。
そんな事は気にせずに自由に飛べるような翼があれば良いのに。
まぁ、ヒトのことは言えないか。
走り方は僕から見た感じではとても理想的だ。
きっと小さい頃から厳しいトレーニングで教わってきたのだろう。
なにか物凄く特徴的なことは無い、ごく普通でなんの面白味もないただただ理論的に良いとされる教科書どおりの走り方。
だが、それをやるのは難しい。
皆走っているとどうしても癖が出てくる。
そのことがプラスになるかマイナスになるかはヒトそれぞれだが、あそこまで癖を減らしているのは間違いなく狂気の沙汰だ。
ブレもなく規則正しい、長距離を走るのにとても大切なことだ。
「メジロ家の方針として天皇賞が最優先でございますので」
前にそう言っていた。
天皇賞は春と秋で2回あり、そのうち春はG1の中で距離が最も長い。
間違いなくそれを取りに行くような走りを教えられてきたのだろう。
生まれながらにレールを敷かれ、それに従って生きていく。
辛くなったり止めたくなったりしなかったのかな?
逃げてばかりだった僕とは大違いだ。
『僕も辛くても向き合っているでしょ?』
そうかもしれないけどそうじゃないんだ。
あのヒトは生まれたときから家柄でその道が決められていたんだ。
後から選んで地獄に足を踏み入れた僕とは違う。
『ふーん、そんなものなんだ。
でもボクはあんまりそうとは思わないけどね。
やっぱり僕とマックイーン、結構似てるところあるんじゃないかな?』
マックイーンさんも言ってたな。
どうしてだろう。
『まぁ、そこは自分で見つけなきゃね。
僕もボクだからいつか気づくと思うけどね』
何だよ、その言い方は。
『ふーんっ!
それよりもさっきからずっ────と、マックイーンのことしか見てないじゃん。
……もしかして〜、マックイーンのこと好き?』
そりゃあ、好きだよ。
会長と同じぐらい……まではまだ行かないけど、ヒトとして好き。
面白くて優しいヒトだよね。
あんなに優しくしてもらってて嫌いになるほど、性格ひねくれてないと思うけど。
『うーん、そーゆーことじゃ無いんだけどなぁ……
まぁいいや!それより改めてマックイーンの走りを見て何か学んだこととかないの?』
結構いつも見てるからそんな新しい学びはないかな……。
でも、再確認したな。
僕にとって長距離は今のままじゃシニアはともかくクラシックでも苦しいかもね。
『だいぶスタミナも増えてきたけど?』
うん、それでもマックイーンさんみたいなステイヤーが出てきたら今の僕には勝てそうにない。
走りの完成度を上げないと無駄にスタミナを使って、元々燃費の悪い僕なんて一瞬でスタミナ尽きちゃう。
『ホントに難儀な身体だよね〜。
もうちょっと長距離に適正があれば良かったのに……』
そう普段の僕のように嘆くボクには何処か思い出が詰まっているようだ。
でも、そんなことを今更嘆いてもしょうがないじゃないかとも思う。
今どうにか前に進むために頑張るしか無いじゃないか。
『ははっ、僕に励まされちゃった。
と言っても頑張るのは君なんだけどね』
本当だよ。
寝転がり、一面に広がる青空に手をのばす。
この大空を飛べるような翼が、どんなに泥水を啜っても、どんなに辛い地獄に行ってでも手に入れられるなら、僕は何でもしようじゃないか。
まだ羽根の一枚も付いていない骨格しか無い翼だが、いつか飛び立ってやる。
『お〜!かっこいい、その言い回し!
でも蠟で作るのは無しだからね!
今は大丈夫でも
中々ユニークなジョークを言うなぁ。
僕は
おっと、マックイーンさんが僕の方に向かってきた。
客観的に考えると僕がストーカーっぽくて昔と立場が逆になっちゃったな。
マックイーンさんがここまで登ってくると斜面に寝転がる僕の隣に座った。
「テイオー、今日は早いですわね。
それにしてもこんな所に寝転がって何をしていたのですか?」
「今日は生徒会室から会議だからって追い出されちゃって……。
今は……えっと……空!空を見てたんだ!」
コミュ弱者な僕がマックイーンさんを見てましたって言える訳がない。
それを言うのは流石に恥ずかしい。
「ふ〜ん、怪しいですわね。
それにしてもテイオーが空を眺めていたとしたら、だいぶ変わりましたね。
今までは空なんて眺める余裕なんてない様子だったでしょう?
余裕を持つことは大切なことですわ。
余裕がありすぎても駄目ですが」
凄く良いことを言った後に毒を混ぜないと生きていけないヒトなのかなぁ。
一種の照れ隠しかなんかだと思うようにしよう。
青空の下、二人っきりでこうして坂に座っている、なんだか青春してるみたいだな。
「マックイーンさん、いつか勝負しましょう」
そんなんだから青春っぽい、ちょっと前から考えていたことを言う。
一年違いだから自然とレースで戦うことにもなるだろう。
だが、自分から宣戦布告したかった。
「随分と突然ですね。
ですが、良いでしょう。
わたくしもいつか貴女とは戦いたいと思っておりました。
いつかと言わず、今からでも良いんですよ?」
「ちょっと今からは遠慮しておこうかなぁ……って」
「ふふっ、分かっております。
ちょっとした冗談ですわ。
今の貴女は以前より弱そうですし、貴女が調子を上げてきたとき、わたくしのそのとき持てる全力で叩き潰してあげますわ」
言葉遣いがなんかお嬢様から離れてきてる気がするなぁ……。
「もちろんこっちもそのときは全力で行きます。
何ならマックイーンさんの得意な長距離でも良いです。
まだ、模擬レースで長距離なら負け無しなんですよね?
僕がマックイーンさんに勝つ一人目になってやりますよ」
「それなら私も貴女の得意なマイル中距離でも良いですわよ」
「……え、僕勝っちゃいますよ?」
「な、なんですの!?
その"距離が短くなったら僕が勝っちゃいますけど良いんですか?"みたいな顔は!
良いですわ!テイオーの言うとおり長距離で戦って正面からボコボコにしてやりますわ!
貴女こそスタミナが足りなくていつも重点的にトレーニングしてたのは分かっております。
距離が伸びれば伸びるほどわたくしの有利になることは自明ですわ」
正論パンチをモロに受けるが関係ない。
逆にそこで勝たなければならないのだから。
「それに勝ってこそ、頂点にまた近づくから。
マックイーンさん、あなたは僕が超えなきゃならないウマ娘の1人です。
しっかり勝ちますよ」
さっきまでのおちゃらけていた雰囲気から一転、少し真面目に話す。
それに合わせてマックイーンさんも顔を少し引き締めた。
「望むところですわ。
その時にはわたくしももっと強くなっておりますので、覚悟しておくことをオススメしますわ」
二人で固く握手をして、そう約束した。
この日、ちょっとしたなんてことの無いような約束をした。
ライバルだって自覚し始めたのはこのあたりからかもしれない。
僕も走ろうと思いマックイーンさんに着替えてきますと伝え、更衣室に向かおうとしていると道端に人が倒れていた。
そこにいたのは、恐らく会長たちに色々と言われてボロボロになった、今話題のスピカのトレーナーの沖野さんだった。
「えぇ……っと大丈夫ですか?」
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超光速の粒子と黎明卿っぽい人【一話完結】
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