「えぇ……っと大丈夫ですか?」
道に倒れている沖野さんに声をかける。
するとゾンビのように顔を上げてこちらを見てきた。
軽くホラーだ。
周りのウマ娘からも避けられているし大丈夫か?
「よ、よぉ……トウカイテイオー。
どうした?」
どうしたってこっちのセリフですけども……。
倒れている沖野さんに手をのばす。
「ほら、立ってください。
周りから迷惑がられていますよ」
「わりぃな。……よっと。
それでどうした?」
「どうしたって……。
たまたま知ってる人が倒れていたから助けただけですけども……。
そんなにウイニングライブのことで言われたんですか?」
「お前何でそれを……って、お前は生徒会のやつらと仲良かったな。
まぁ、そんなところだ」
「それで、どうして倒れていたんですか?」
「いやぁ……ちょっと精神的に参っちゃっててな。
上向いて歩いてたらそこの段差に足引っ掛けちまったって訳だ」
指で指す方には確かに段差があるが、なんとも信じがたい。
普通それであんなに倒れるか?
いや、実際なっているんだが(現実逃避)
「会長かなり怒ってそうでしたからね。
でも教える時間とかなかったと思いますし、あんまり気にせず次踊れるように練習したら良いんじゃ無いんですか?」
「そうしたいところはやまやまなんだが、俺はダンスを教える事は出来なくてな」
『ねぇねぇ……ここで恩を売って後で返して貰おうよ!』
ちょっとボク、それはヒトのやることか?
困ってる人に一方的に恩を売りつけて後で返してねは流石に気が引けるっていうか……。
『じゃあ恩を売らなくても良いけど、助けてあげたら?』
コミュ弱者の僕が人に教えられるかな……。
『も〜!勇気出さないと一生弱いままだよ!』
そうなんだけどさぁ……。
「『それじゃあ、ボクがダンスを教えてあげましょうか?』」
おい、おい……!おいおいおい!!
人の身体で何やってくれてるんだよ!
しかも僕に寄せるなよ、まるで僕が言ってるみたいじゃないか!
『だってだって〜、ボクの身体でもあるわけだし〜!
じゃあ、頑張ってね〜!』
え!え?えっ!?
頑張ってね〜、じゃあ無いって!!
「えっと……そのですね……」
何とかさっきの発言を誤魔化してどうにか無かったことにしようと咄嗟に考えるが、別に教えても良いのではないかと考える。
ダンスは一応得意の部類に入るだろう。
「……良いのか、トウカイテイオー?
お前、あんまりそういうの得意なタイプでは無いだろ?」
沖野さんも僕のことはよく分かっているみたいなので、目では喜んでいるが顔と声は心配してくれている。
どうしようか、下を向いて悩みこんでしまう。
ここでやっぱ無しと言えばこの話は無しになるだろうが、そうしてはボクの言うとおり成長も無いだろう。
「うっ……えっと……やります」
あー、言ってしまった。
確認されて諒解したらもう引けない。
顔を上げて沖野さんの顔をみたら、これまで見たことがないようなレベルの笑顔をしていた。
「良いのか!?本当に良いんだな!」
「え、えぇ……」
小さく頷く。
「ありがとう!
代わりに俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ!」
何でもなんて簡単に言うものじゃないんですけど……。
まぁ、何か頼むこともあるだろうし
「その約束、覚えておきますね。
じゃあ、日程とかは……
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「テイオー、さっきは戻ってくるまで遅かったですが、何かあったんですか?」
トレーニングを終え、夕陽に照らされた帰り道での会話で、さっきのことが話題に上がった。
沖野さんと日程と場所を決めて連絡先を一応交換して、そこから着替えたので時間がかかった。
「人助けをしてました。
知り合いだったので見捨てられなかったので。
あと、そのまま話の流れでダンス教えることになったんですよ」
「へ〜、テイオーがダンスを。
しっかりと教えられますの?
貴女がダンスを出来るのは知っておりますが、ヒトに教えるところは想像出来ませんけど……」
「うっ、……何とか……なりますよね?」
「全く、何で貴女が疑問形なのですか?
出来るから引き受けたのでしょう?」
そうなんだけれども……。
「テイオーなら大丈夫、自信を持ってやれば絶対に大丈夫ですわ。
堂々と自分が一番素晴らしい、どんな相手でも負けないと思いながらやれば良いのです」
胸に手をあて、そう語るマックイーンさんはとても風格があった。
「自信……」
「ええ、そうです。
自分が今まで積み上げてきた経験、実績、努力。
その全てが自信へと繋がり、それが今を進むわたくしたちの背中を押すのです」
僕を見るマックイーンさんの顔には確かな自信が見て取れた。
多分、マックイーンさんもそうやって生きてきたのだろう。
「えへへ、なんかダンスを教えることっていう結構ちっぽけなことなのに、凄く良い言葉貰っちゃいました」
「皆にとってちっぽけなことでも貴女にとっては大きなことだと思ったからですわ。
あまり自分から他者と関わらない貴女が誰かに物を教えるのは、とても大きいことになるのではないでしょうか?」
「うん、そうかも……。
よし!僕は最強のダンス講師だ!
素人だろうと僕が教えれば、誰でも全員踊れるように出来る!」
夕日に向かって叫ぶ。
なんか"青春"って感じがしていいな。
喉に乾いた空気が通り、その後温かい空気が染み渡る。
最近暖かくなったと思ったが、まだまだ春は遠そうだ。
「その意気ですわ、テイオー。
貴女ならやれます、応援しておりますわ」
「ありがとう、マックイーンさん」
僕ってば、マックイーンさんにはいつも助けられてばっかりだな。
いつか僕が助けてあげれるときが来たなら、それまでの恩を絶対に返そう。
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そんなこんなでダンスを教える当日になってしまった。
場所は近くにある僕もたまにマヤノと来るカラオケで、部屋は沖野さんが予約してくれている。
部屋集合ということになっているので、沖野さんから送られてきた部屋番号に店員さんに予約した沖野ですけども……と、言って案内してもらう。
ドリンクバーも付けてくれていたようで、メロンソーダをコップいっぱい注ぎ、溢さないように気をつけながら部屋に入る。
ダンスを練習するということもあり、予約してあった部屋は広い。
そこに一人ぽつんと座っているのはどうも落ち着かない。
なんか緊張してくるな……。
取り敢えず沖野さんに着いたと連絡しておこう。
メッセージを送るとすぐに既読が付いた。
そしてちょっとすると向こうからもメッセージが来た。
〘もう少ししたら着くのでからカラオケでも楽しんでおいてくれ〙……とのことだ。
向こうのほうが人数も多いし、僕も集合時間より少し早めだからまぁそんなものだろう。
緊張を薄めるためにも言われた通り、カラオケを楽しもう。
曲は……適当にウイニングライブ曲から選ぶか。
カラオケのメニューからジャンルを押し、前世には存在しないジャンルのウイニングライブを押す。
えっと、どれにしようか。
じゃあ【winning the soul】にするか。
クラシック三冠レースのライブ曲ってこともあり人気曲の一つだ。
予約してから採点を入れてなかったことに気づき、演奏終了して採点を入れてからもう一度履歴から予約する。
ソファーから立ち上がり歌う体勢に入る。
歌うときは座っててもいいが、やっぱり立ってたほうが上手く歌えると思う。
前奏が始まった。
カラオケをやっていて採点のときを超えて個人的に一番ドキドキするところだ。
上手く入れるか本当に心配になる。
いきなり歌い始める系の曲の前のほんの少しのところなんて特にそうだ。
でも、練習する度にだんだん慣れていく。
音程を画面に表示されるラインに合わせて歌う。
自然と身体も動いてくる。
音楽は世界を救うってよくテレビとかで言ってたけど最近なんとなく分かるようになったかもしれない。
歌い終わって得点が表示される。
点数は……93点か。
一発目ってこともあり普通に凄いはずなのに、最近ではマヤノと歌いに来るときはお互い95以上を何事もないように出しちゃうので感覚がおかしくなってきてしまった。
マヤノと二人で勝負すると何でも最初はお互い初心者なのだが、マヤノは一瞬でコツを掴んで上手くなるし、僕はマヤノを見て技を盗むので勝負のレベルが上がるのが早い。
気を取り直してもう一回歌うか。
メロンソーダを一口飲んでから再度予約する。
このとき、一人カラオケの強みは何度も同じ曲を歌っても恥ずかしくないところだなと思った。
マヤノと来ると、マヤノは色々歌うのでこっちも色々歌わないといけない気持ちになる。
……あれ?僕、今のところマヤノとしかカラオケ来てない……?
ま、いっか!
そんなことはさておき曲の方は進んでいき、ラスサビに差し掛かったあたりで後ろから扉が開く音がした。
そっちの方を向くとスピカのメンバーたちが入ってきていた。
賑やかなチームのはずだが静かにしているので、曲が終わるまで話しかけるのを待ってくれているようだから、最後まで気持ちよく歌い終わらせる。
点数が出てくる。
今回は……97点と、結構調子が出てきたな。
後ろの方でおーと歓声が上がってくるのでなんだか恥ずかしい。
「と言うわけで、今日のダンスを教えて貰えることになったトウカイテイオー先生だ。
今日はうちのメンバー達を宜しくお願いします!」
「「「「宜しくお願いします!」」」」
沖野さんが僕が歌い終わったことを確認して練習開始の挨拶をする。
「え〜……僕は教えるのは慣れてませんが、ダンスでは最強だと自負しているので皆さんを人前に出しても恥ずかしくないレベルまで教えます!一応そういう約束なので……
宜しくお願いします」
なんとも締まらない僕の挨拶から練習が始まった。
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プルルルル!プルルルル!
部屋にカラオケ特有のあの電話の音が鳴り響く。
ってことはそろそろ時間か。
沖野さんが受話器を取ってくれる。
「おーい、お前ら。
帰る準備するぞ〜」
と、言ったので皆で帰る準備を始める。
はぁ、慣れないことをして疲れた。
僕はちゃんと教えることが出来ただろうか。
一つ一つの曲を教えるのは流石に不可能だと分かっていたので、一番歌う機会が多くてリズムの取りやすい【Make debut!】で基礎を中心に教えた。
これが出来れば他の曲を練習するときにも早く上手くなれるポイント的なところを重点的にやった。
皆、練習をあまり出来てないだけで飲み込むのが割と早かったので、教えている側としては上手く伝えられている感がとてもあって教えやすかった。
すると後ろから肩に手を回された。
「テイオー、今日はサンキューな」
声の主の方を向くとゴールドシップさんがめちゃくちゃ笑顔でこっちを見ていた。
「僕、ちゃんと教えられてましたか?」
「おうよ!
テイオー、アンタのおかげでゴルシちゃんはハイパーゴルシちゃんに覚醒出来たんだからな!」
ハイパーゴルシちゃんがどれほど成長したのか全く分からないが、とにかく役に立てたようだ。
「なぁ、テイオー。
うちのチーム入んねぇか?
アタシが言うのもあれだが、案外いいチームだぜ?
それにテイオーにも結構あってると今日見ててアタシは思ったけどな!
無理にって訳でもねぇし、むしろ入りたくねぇならアタシからトレーナーにそれとなーく伝えておくから、ちょっと頭の片隅に置いといてくれねーか?」
ゴールドシップさんからチームのお誘いがくる。
このチームは良く纏まった良いチームだと僕も思う。
このメンバーが集まったのは沖野さんと一番最初に会ったときより後ってことになるからかなり最近の話で、上手く纏まってるのは沖野さんの腕だろう。
最初は入る気も一切無かったが、今はリギルじゃ無かったら?って聞かれたらスピカって答えるだろう。
何より練習が自由な感じが僕がチームに入らなかった理由を打ち消している。
「おーい、テイオー!
今はそんなに考えてないでさっさと行かねーと皆に置いてかれちまうぞ。
真剣に考えてくれることは嬉しいけど、そんなにすぐに答え出さなくても良いんだからな〜」
黙り込んでしまった僕にそうやって言ってくれる。
このヒトも見かけによらず良いヒトだな。
そう思ってるとゴールドシップさんが肩に回していた手で僕の腕を引っ張り、皆の下まで連れていかれた。
「よっ!今日の一番の功労者だ!
皆、褒め讃えてくれてやってくれ〜!」
そう言って僕を皆の前に放り出す。
「テイオーさん!今日は本当にありがとうございました!
私、今までダンスなんてやったこと全然無くて……。
でも、数時間でほんのちょっと形にはなったと思います!
それは本当にテイオーさんのおかげです!
ありがとうございました!」
「サンキューだぜ、テイオー!」「今日はありがとう!」
皆から感謝されて恥ずかしくなって顔を逸らす。
ふと、マックイーンさんの言葉を思い出した。
自分が今まで積み上げてきた経験、実績、努力、その全てが自信へと繋がり、それが今を進む僕たちの背中を押す……か。
こうして皆に感謝されるのもまた、僕の背中を押してくれているのかもしれないな。
「僕も今日はとっても良い経験になりました。
本当にありがとうございました」