《勝ったのはスペシャルウィークだぁぁああ!!!!》
もうすぐでまたレースの時期になるということでウマ娘たちやその関係者が盛り上がり始める中、僕は皐月賞の前哨戦、弥生賞を観に来ていた。
凄い盛り上がりだ。
皐月賞と同じコース、同じ距離であり、優先出走権も手に入れられるレースということもあるだろう。
ここで皐月賞に誰を応援するか決める人もいると思う。
僕が来ることとなったきっかけは、ちょっと前に食堂でゴールドシップさんと鉢合わせたときのことだ。
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「よぉ!テイオー!」
午前の授業が終わり昼食を一人寂しく食べに行こうとしているときのことだった。
食堂に入ろうとすると僕を待っていたと思われるゴールドシップさんがいた。
「あ、ゴールドシップさん、えっと、そのまだチームのことは……」
前に貰ったチームの誘いの返事を聞きに来たのかと思い、まだ答えを出せていない僕はそのことを正直に伝えようとする。
「違う違う!今日はそのことじゃねぇんだ!
週末にスペのレースあるんだけど、一緒に観に行かねぇか?
スペのやつが練習の成果を見せたいって言っててな」
「それって僕も付いていって良いんですか?」
今週末は特に予定は無い。(今週末どころか週末に予定などほぼ無い)
スペ先輩のお願いでもあるので断る理由なんてないため、一緒に行けるなら一緒に行きたい。
それにレース場で生のレースは入学してから観に行ってないので、レース場の雰囲気を感じてみたい……ってことも少しだけあった。
「あったり前だろ?
じゃあ、テイオーも行くということで良いな!
ほれ、アタシの連絡先。
細けえことはここで後から伝えるからよろしく頼むぜ!
じゃあな!チームのこと考えててくれて嬉しかったぞ〜!」
何処からともなく取り出した紙にはQRコードがプリントされていて、それを手渡されると物凄い勢いで何処かに行ってしまった。
多分、このQRコードを読み取ると何かしらの手段でゴールドシップさんと連絡が取れるんだろうなぁ……。
そう思って昼食後に読み取ってみるとただただ普通にLANEの友達登録画面が出てきた。
名前も"ゴール・D・シップ"とそのまんまだったので迷わず登録しておいた。
この登録が学園に入ってから3番目だ。
一番目はマヤノ、二番目は会長。
……マックイーンさんは持ってない。
自分から連絡先聞くのって勇気の必要量が多すぎない?
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その後、夕方に集合場所と時間を伝えてもらったのでオッケーを出してスピカの面々と一緒に中山レース場に来た。
観客もかなり入っていて、当たり前だが模擬レースとは全然違った空気だった。
ウマ娘たちの真剣度合いも、観客からの声援も全く違う。
もちろん模擬レースでも真剣に走るし、応援も少しはある。
でも、やっぱり応援の量は段違いで、走る側の意識も明らかに違うように感じた。
レースは終始逃げがペースを掴んで進んでいったが、最後の最後でスペ先輩が差し切って一着になった。
差しとしての強みが出た完璧な勝ち方だった。
持ち味を上手く活かした作戦勝ちと言ってもいい。
スペ先輩のウイニングライブも良かった。
ちゃんと一着の特権であるセンターとして踊りきって、レースの勝者としてステージ上で輝いていた。
あの輝かしいステージの上に笑顔で立っている勝者の裏には沢山の敗者もいるんだよな……ってふと考えてしまう。
実際、私はそちら側の一人だった。
「テイオー、これからスピカでスペの祝賀会やるが、お前もいっちょ付き合って行かねーか?」
ウイニングライブも終わりスペ先輩が戻ってくるのを待つスピカ一同with僕だったが、ゴールドシップさんからお声掛けを頂いた。
「場違いじゃないですか?」
行ってみたい気持ちはあったが、スピカに入ってない僕が行くのはなんだか申し訳ない気持ちになった。
「何だよ、冷て〜こと言うじゃねえかよコノヤロウ。
せっかくのお祝いの場、人数が多いほうが楽しーに決まってんだろ?」
「そうよ、それにダンスを教えてくれたのはテイオーじゃない。
無関係って訳じゃないんだし場違いでも何でもないわよ」
「そーだぜ、テイオー。
お前のおかげでオレたちが踊れるようになったんだ。
皆、お前に感謝してんだぜ」
ゴールドシップさん以外にも、スカーレットさんとウオッカさんも受け入れてくれそうだ。
『ほらほら〜遠慮せず行きたいから行きまーす!って言えばいいじゃん。
代わりにボクが言っても良いんだよ〜』
流石にそこまで頼ったらヒトとして終わっちゃうから止めて欲しいなぁ……。
ちゃんと自分の口で言うから。
『ボクが言っても自分の口だよ?』
えーと、まぁ、そうなんだけど。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「おい!トレーナー、聞いたか!?
テイオーの分の飯も用意すっぞ!」
「はいはい、了解しましたよ」
沖野さんも渋々って感じを出しているが、顔はとても嬉しそうだ。
サイレンススズカさんもその様子を見て笑っている。
「みなさ~ん!お待たせしました〜!」
するとこちらを呼ぶ声が聞こえた。
声の方を向くと笑顔で手を振っているスペ先輩が走ってきていた。
皆がお疲れ様とスペ先輩を労っていると沖野さんが「それじゃ、続きは部室に戻ってからやるぞ〜」と言って帰路についた。
マヤノに〔今日は遅くなる〕と連絡するとすぐに〔アイ・コピー!〕と返ってきた。
寮の方にはウイニングライブまで観るから遅くなるよ〜みたいな感じの届け出はしておいたので、たぶん大丈夫だろう。
ワイワイガヤガヤとスピカの面々がスペ先輩を讃えながら帰る後ろで、ふとここになら入っても良いかも知れないって考えていた。
それにこんな雰囲気の場所には一度もいたことが無いはずなのに、なんだかとても懐かしい感じがする気がした。
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「それでは、スペの勝利を祝って……
かんぱーい!!!」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
沖野さんの音頭に合わせてみんなで乾杯をする。
僕も小声で「かんぱーい」と言う。
来てしまったが本当に来ても良かったのかという気持ちと、呼んでもらえて良かったという気持ちが混在している。
こうやって楽しく会話しながらご飯を食べるのはいつぶりだろうか。
いや、マヤノとたまに食べてたし、マックイーンさんとも食べたことがあったな。
会話と食事は止まらず、話題がスペ先輩のウイニングライブの話になった。
「今日のスペ先輩のウイニングライブは、教えたことが全部ちゃんと出せていて良かったです」
「テイオーさんのおかげです!
またダンス教えて下さい」
あれ……?
絶対に聞いたこと無いはずなのに。
どうしてだ?
どうしてこんなにも
「テイオーさん?」
心配そうな顔つきでこっちを見つめるスペ先輩がいた。
「あ、ごめんごめん。
分かりました、また練習しましょう」
話の途中で止まってしまったから不審がられただろうか。
別にスペ先輩と練習したくない訳ではない。
むしろ頼りにしてもらえるのは凄く嬉しいことだ。
「ありがとうございます!」
「なぁ、テイオー!
スペ先輩だけじゃなくてオレにも教えてくれ!」
「ちょっとアンタ!
教えてもらう立場なんだから、もうちょっとちゃんとした態度でお願いしなさいよ」
「何だよ、そう言うスカーレットは教えて貰わなくても大丈夫なのか?」
「う、煩いわね!それとこれは別問題でしょ!」
「二人とも教えるから大丈夫ですよ」
ふふっ、スカーレットさんとウオッカさんは相変わらず賑やかだなぁ。
「テイオー、おめーいっつも表情変わらねぇから表情筋がねえのかと思ってたが、そんな顔で笑えたんだな。
何ていうか……あれだな、結構可愛い顔してんじゃねぇか」
「え?」
「ほらほら、顔顔。
おめー自分が笑ってること気がついて無かったのか?」
ゴールドシップさんにそう言われて顔に手を当てる。
確かに少し口角が上がっている……気がする。
しばらく手を当ててると肩を叩かれた。
「ほら、ぼーっとしてたら全部食っちまうぞ〜。
食った食った!」
その言葉に意識を戻され食事に戻るが、ここ最近の違和感は中々忘れられ無かった。
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祝賀会の片付けも終わり、解散したあと僕は沖野さんに伝えたいことがあるから少しだけ時間をとってもらっていた。
「僕をスピカに入れてください」
頭を軽く下げて沖野さんにそう伝える。
今、入ろうと決めたのはただの直感だ。
ここで決めなきゃ暫くの間、スピカかリギルか悩んだだろう。
でも何か僕はこのチームの方が合っていると感じた。
「すまん、もう一度言ってくれ。
どうやら俺の耳がおかしくなったみたいでな」
「……僕をスピカに入れてください」
もう一度言えばいいのだろうか。
結構勇気を出して言っているのだから、
そう何度も言わせないで欲しい。
「ちょっと、確認させてくれ。
今テイオーはスピカに入るって言っているのか?」
「そうですけれど……」
「え、えぇぇ!!!!!?」
自分から誘っておいて入ると言ったら驚かれるって少し失礼ではないか?
確かにいきなりだったかもしれないが、少し関わったし入る可能性があるって思わなかったのだろうか。
沖野さんが叫ぶとドアが勢いよく開かれそこからゴールドシップさんがやってきた。
「うるせぇぞ、トレーナー!
テイオーが認知してない昔の女との間の子供だったり、実は人生3周目とかいう衝撃的な秘密でも持ってたりしたのか!?」
「んな訳あるか!
テイオーがスピカに入るって言うから驚いていただけだ!」
「なーんだ、テイオーがスピカに入るだけか……って、えぇぇええ!!?」
ゴールドシップさんも驚くのか……。
貴女がつい最近誘ってくれたんじゃないか。
「テイオー、本当に良いのか?
こんなトレーナーだけど本当に良いか?」
「おい」
「ここが良いんです。
それに僕は沖野さんのことは少し苦手なタイプですけど嫌いじゃないですよ」
「こういうときは俺のこと褒めてくれるところじゃねえのかよ……」
「ギャハハハ!
嫌われてなくて良かったじゃねーか!」
そう、こういう会話が好きだ。
この人は僕にとってあまり得意なタイプの人では無いが、何処か嫌いになれないものを持ってる人だ。
「そういうことなのでこれからよろしくお願いします、沖野さん。
……じゃなくて、トレーナーさん」
僕は右手を沖野さんの方に出して握手を求めた。
「おう。これからよろしくな、テイオー」
それにトレーナーさんは普段見せないような真剣な顔をしながら嬉しそうな声色で握手に応じた。
「僕は、
誰もいない浴場に僕の声が響く。
鏡の奥にいる空色の目をした僕は、いつもどおりの僕のはずだ。
「大丈夫、僕は僕だ」
そう言い聞かせた。
次回は会長戦の予定です。