「はぁ……なんか最近力付いてきているのか分かんなくなってきたな……」
夕日に染められ少しオレンジに染まったはちみーを片手に帰り道を歩く。
どうもここ最近は伸びしろが減ってきたみたいで今まで感じていた強くなっている感覚が無い。
『どうしちゃったの?そんな暗い顔して?』
いきなり声がした。
僕に似た声だ。
後ろを振り返るが誰もいない。
前を見ても当然誰もいない。
『にっしっし、ボクはトウカイテイオーだから周りにいるわけないでしょ?』
「え、僕がトウカイテイオーなんだけど……」
『ボクもトウカイテイオーなんだってば』
頭がおかしくなってしまったのだろうか。
疲れすぎてどうやら遂に精神が分離しちゃったようだ。
『だ〜か〜ら〜、君とボクは同じようで違う。
そう、まさに平行世界のトウカイテイオーってことだね!』
「????????」
さらに理解が追いつかない。
疲れすぎてはちみーが脳みそに回っていても理解出来ないレベルだ。
どういうことなのだろうか?
『いや〜、これまでも一応いたにはいたんだよ?
でも君とボクの位相が離れすぎてて上手くコミュニケーション取れなかったんだよね〜。
最近は君がだいぶボクに似てきたからこうして会話できる程度には近くなったって訳。
ほら、たまに走るとき手伝ってあげてたでしょ?
あれはボクのお陰なんだよ〜!
褒めてくれても良いんだよ?』
よく分からないが取り敢えず手伝ってくれてたのは分かった。
どうやら生まれ変わったのと同じぐらい不可思議なことが起きていることも分かった。
『あ、その感じ、あんまり信じてないでしょ?』
ソ、ソンナコトナイヨー。
□ □ □ □
『今、パフェ有ったよ』
うるさい、こっちはそんなにすぐ見つけられないの。
パフェ手順はよく分からないので適当にダブルダガー組んでBtoB付けて相手に火力を送る。
置きミスを咎めて勝ちをもぎ取っていく。
深夜、部屋の中にコントローラー音と最低限小さくしたゲーム音が響く。
反対にぼくたちの脳内では騒がしくコミュニケーションが交わされる。
マヤノは寝たがぼくたちは絶賛活動中だ。
レートに潜っているが深夜帯は高レートと当たりやすい。
僕もだいぶ上手くなった自信はあるが、ボクの判断が早すぎる。
『ボクは天才だからね〜♪』
天才すぎるなぁ……。
はぁ、次の相手はぷよか。
中開けで良いかな。
『パフェ積みしようよ!』
いや、弱体化入っちゃったし2回目以降僕は上手く繋げられないから脳死で出来るRENでいいの。
『ほらほら〜もっと脳使っていこうよ〜』
やだ。
君と話してると頭の回転が若干重い気がするからこれぐらいでいーの。
『そりゃあ、ボクが君の脳の一部借りてるからね』
え?
あ、間違えて発火しちゃった。
なんか刺さったから良いか。
衝撃的すぎる……。
なんか違和感あると思ってたらそういうことだったのか。
『でも安心して!
君の使わないところを使ってるから、君に支障は無いはずだけど』
え?でも違和感……
『しーらない!
さぁ、次はテトじゃなくてぷよで行こ!』
あ、露骨に話をそらしやがった。
はいはいぷよですね。
対テトがきついからあんまやりたく無いんだよな……。
……ねぇ、ちょっと、レートカンスト来たよ。
テトでやらないとすぐ負けちゃうからテトで良い?
『駄目!次はぷよって決めたの!』
え、無理無理。
即死しちゃう。
『無敵のテイオー様に不可能は無い!
さぁ、行くぞー!』
はぁ、仕方ないなぁ……。
□ □ □ □
『ご飯一人で寂しくないの?』
もうしばらくこれだからね……もう慣れちゃったよ。
普段どおり食堂の隅で一人で学食を食べてるとボクは心配してくれていたようだ。
『たまには誰かと一緒に食べたら?
誘えば今の君ならマックイーンとかマヤノあたりなら一緒に食べてくれると思うけど……』
いや、いきなり頼みに行っても迷惑じゃない?
なら、今まで通り一人で良いよ。
『むー……。
そんなんじゃ、友達増えないよ?』
痛いところ突いてくるなぁ……。
ま、まだチーム入ってないし入ったらどうにかなるでしょ。
『どうかな〜。
ボクは増えないに一票!』
じゃあ増えるに僕はベットするよ。
□ □ □ □
君ってスピカ好きだよね。
どうして?
『それはね〜……。
ナイショっ!』
ふーん。
まぁ、いいけど。
僕もあのチームまだ入ってから全然経ってなくて色々知らないけど好きだよ。
スペ先輩は一緒にいて面白いし、ゴールドシップさんには色々親切にしてもらってる。
スカーレットさんとウオッカさんも賑やかで一緒にいて楽しいし、サイレンススズカさんもたまに話すと不思議なヒトで楽しい。
トレーナーさんも変な人ではあるけど良い人だよね。
『そうそう!
スピカのみんなはね、個性豊かで面白くて楽しいけど、ここぞってところで力を発揮する凄いヒトたちなんだ』
顔は見えないけど、今、君は凄く良い笑顔をしてそうだ。
本当に楽しそうに言うね。
僕もそんな思い出を作っていきたいなぁ……。
『そこにボクが入れないのは残念だなぁ……。
あ、そうだ!
ちょっと前にした賭け、君の勝ちだったね。
それじゃあね〜、どうしようかな。
あ、なんか教えて欲しいことある?
答えられる範囲で答えてあげるよ!』
うーん。
じゃあ、君の夢は何だったの?
『ボクの夢かぁ……。
えっと……最初はね、カイチョーみたいになりたかったんだ。
それで全戦全勝、無敗の3冠を目指してたんだ』
僕と似てるね。
最初ってことはそれは達成して新しい夢が出来たの?
『達成したかどうかは質問の範囲外でーす。
それに新しい夢にはそんなに関係ないから言わないよ。
それでね、新しく出来た夢は、ライバルと最高のステージで最高の勝負をすること。
──ボクはね、走る中で新しいカケガエノナイモノを手に入れられたんだ。
君にもそういうものが手に入ると良いね』
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────────
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飛ばせ、進め。
大きく大地を踏みしめ、遠心力に負けないように身体を傾けながらコーナーを進んでいく。
後ろは見ない。
もう何となく分かる。
開いていた差は徐々に詰められている。
結局稼げた差は最大のときで6バ身。
目標には届いていないが妥協点だ。
まだ直線も控えているのにコーナーが終わるまで異様に長く感じる。
胸が苦しい。
もっと大きく息を吸え。
足が重い。
もっと速く前に出せ。
腕が痛い。
もっと強く振り上げろ。
頭が痛い。
何も考えず前を見ろ。
もう深く考える余裕は無い。
ただ身体の悲鳴たちを脳が感じるたび、もっと動かせと機械的に命令する。
もう勝利しか見えない。
どうやって辿り着けば良いのか全く分からないのに、勝利が北極星のようにボクを
後ろから来るのは夜明けをもたらす太陽。
ボクの進む道を照らす太陽は、勝利という北極星をその光で見えなくさせる。
ボクは来たるべき黎明から醜くとも逃れようと抗っている。
まだここはボクの夜だと、そう叫ぶように。
長い長いコーナーが終わり長い長い直線に入る。
目の前にはボクを今か今かと待っている
しかし、そんなことは関係ない。
速度を維持し続けろ。
速度を上げるのは無理だ。
これ以上速度を上げたら処刑台の上でズタズタにされ完走しきれなくなる。
せめてこの速さを維持するんだ。
坂に入った。
もうほぼ限界の身体がさらに重く感じる。
日頃からボクを縛る重力はいつもよりボクに厳しいようだ。
後ろからはもうボクでは無い呼吸音が聞こえる。
日の出はもうそこだ。
恐らく後ろを振り返ればすぐそこにいる。
ほら、だって。
呼吸音が
え────
抜かれたのは一瞬では無かった。
僕もそれなりの速度を出していてジリジリと追い抜かされていった。
その出来事はまるで時間の流れが止まったようにゆっくりで、だけどボクは時間が止まったようにその光景を眺めることしか出来なかった。
"ああ、負けか"
負けてばかりだった
"負けは許されない"
だが、無敵という称号に自らを縛った
まだだ。
まだゴールじゃない。
坂はもう終わった。
残り300m弱、体力はもうほぼ空。
対してカイチョーは当然最後まで走りきれる。
差はまだほとんど無い。
仮に体力が残っていたとしても差が生まれないだけで、このまま負けることは必至。
じゃあ、ここからどうする?
余裕のない頭で考えるが答えは出ない。
もう出来ることは限られている。
残り滓を搾り取って最後に一矢報いることだけだ。
足は疲労でガタガタだが、まだ動く。
あと8分の1をギリギリ走れる体力も僅かながらある。
それを全てゴールすることじゃなくて追い抜かすことだけに使え。
視界が霞んできた。
でもボクの目にはキラキラと強く
行ける。
極限状態の足に力を込める。
初めて君の力を借りたときに君が使っていたよね。
魂に刻まれた速度を上げるトリガーをインストールして起動させる。
──一歩。
体勢をさらに前に倒す。
──二歩。
倒れそうになる身体をスピードを上げて支える。
──三歩!!
全身全霊全てを推進力に変えて前へs……っ!!
三歩目を踏み込んだ瞬間、世界が
霞んだ視界から色が失われ、身体は動かない。
あぁ、これがボクの限界か。
この身体に今出せる最大限のスピードの先に次の世界が待っているんだろうな。
これを超えようとしようとすると直感が止めろと警告を出し、■■■■の経験からも絶対に行くなと言っている。
反対にボクの心では超えたいという願望がある。
これを超えれば皇帝に手が届く。
白黒の世界の中でも色付いている皇帝はこのスピードの先にいるんだろう。
今のボクなら身体を犠牲にこの先に行ける。
そしたらカイチョーに追いつけるはずだ。
だけどボクは
──『でも蠟で作るのは無しだからね!
今は大丈夫でも
大丈夫、ボクはダイダロスの忠告は守るさ。
それにマックイーンともカイチョーとも約束したんだ。
こんなところでゲームオーバーには出来ない。
あぁ、無理だったか……。
またレベルの上げ直しだな。
引き上がったレベル上限まで辿り着いたときここにまた来よう。
皇帝を超えるまでの道は遠いなぁ……。
足に込めた力を抜くと世界に色が戻る。
極限まで張り詰めていた集中力が切れ、身体に力が入らない。
さっきまでとは違い、差はどんどん広がる。
もう抜かす気力も速度を維持する集中力も無い。
ここで倒れちゃ駄目だ、ゴールだけはするんだ。
負けを認めてしまい闘争心の消えた身体を、尊厳を守らなくてはならないという使命感から無理やり前へ運ぶ。
さっきまでの完璧なフォームは何処へやら。
歩くことを覚えたての赤子のようにがむしゃらにふらつきながら前へ進んでゆく。
ゴールが永遠に来ないように錯覚してしまう程に遠い。
それでもあと少しだ。
あと20歩。
10歩、
5歩、
3歩、
2歩、
1歩、
0歩……。
どうにかゴールしたよ。
あぁ、ごめんね、ボク。
負けないって誓ったのに、すぐに負けちゃったよ。
使命感から無理やり動かしていた身体は目的を失い、力なく横に倒れていく。
すると地面に近づく前に誰かに支えられる。
「テイオー、お疲れ様。
良い勝負だった」
なんだ、カイチョーか。
少ししかない視界でもその姿は格好良くてすぐに分かる。
「えへへ、カイチョー。
ねぇ、ボクどうだった?
頑張った、頑張ったんだ……。
あと少し、もう少しで行けたんだ」
疲れた頭から言葉が自然に紡がれていく。
「白黒の世界に行ったんだ。
灰色の空の下でもカイチョーは明るく輝いててね。
ボクもそっち側に行こうと思ったんだ、思ったんだよ……。
でもね、ボクには、ボクには……行けなかったんだ……。
昔の
でも無理だった、無理だった……!
ボクは昔持ってなかった色々なものを手に入れちゃったんだ……。
失うのが怖くなったんだ!」
するとカイチョーに抱き締められる。
「そうか、テイオーは強くなったんだな。
……今はもう休め」
「……うん」
あぁ……疲れたな。
今は休むべきだと直感も告げている。
カイチョーのその言葉でボクは意識を手放した。
次回、序章終焉。