夢を見ていた。
ボクだけがそこにいない世界。
白黒の、色の無い世界。
ボク以外は走り、ボクだけが蚊帳の外。
走りたい。でももう元のようには走れない。
ボクは走りたいだけなんだ。
走れるならどんなにきつく当たってくれても構わない。
ねぇ、どうして?
どうして皆、そんなにボクに優しくするんだ……。
ねぇ、カイチョー。
どうしてそんなに申し訳無さそうな顔をするの?
カイチョーのせいじゃないのに。
ねぇ、トレーナー。
何でそんなに謝るの?
ボクが悪かっただけじゃん。
ねぇ、マヤノ。
そんなに気を使わないで。
いつもみたいにボクと話してよ。
……ねぇ、マックイーン。
そんなに期待しないでよ。
ボクはそんなに凄いウマ娘じゃないんだ。
もう無理なんだ。
約束は果たせそうにないや。
ごめんなさい。
ごめんなさい、マックイーン。
景色が急に変わり、目の前に現れたのは深青色の目をした僕。
地面にしゃがみ込んでマックイーンに懺悔していたボクを見下ろして言う。
「ほら、僕は止まれなかった。
この世界に踏み入るべきじゃ無かったんだ。
僕にはもっと色んな選択肢だってあっただろう?
下手に
その言葉が終わると同時に意識が暗転した。
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次に目を開けたときに見たのは見覚えのある天井だった。
少し頭痛がする。
ここは、ボクの部屋か……。
病院では無くてひとまず安心、と言ったところだろう。
うーん、どういう状況だ?
「あら、起きられましたの?
どうですか、身体の方は」
上半身を起こすと左から声が聞こえてきた。
マックイーンだ。
何やらコントローラーを持ってマヤノと仲良くマヤノのベッドに座ってテレビに向かっていたので、マヤノとゲームをやっていたのだろう。
「おはよー!ってもうほとんど夕方だけどね。
テイオーちゃん大丈夫?
走り終わったらすぐ寝ちゃったって聞いたから結構びっくりしちゃったよ〜」
「身体は……駄目かも。
全身痛すぎて死んじゃいそうだ」
「はわわわわ!!!
死んじゃ駄目だよ!テイオーちゃん!
寝てて良いから横になって!」
「ははは、マヤノは大げさ過ぎるよ。
大丈夫大丈夫、立って歩くことぐらい……
……っ!……ぁぁああ痛いぃぃぃ……!」
マヤノに大丈夫なことをアピールしようと立ち上がり歩こうとすると、足が筋肉痛にやられていてまともに動かせない。
「何馬鹿なことやってるんですの?
ほらマヤノさんの言うとおりに横になっていて下さい」
その気遣いに甘えてベッドで横になる。
身体を限界ギリギリまで酷使したから全身という全身が悲鳴をあげていた。
これは明日も痛いままだろうなぁ……。
自分の足を見ようとすると服がさっきまで着ていた体操服ではなく、寮で過ごすときの室内着になっていることに気づく。
二人がやってくれたのだろうか?
「全く貴女をここまで運ぶのは結構大変だったんですよ。
ゴールドシップさんから、会長様からの素敵なプレゼントだ、と貴女を手渡されたときは驚きました。
どうしたら良いのかよく分からなかったのですが、取り敢えず貴女の部屋に運ぼうと思いましてここに」
「それでマヤが砂ぼこりだらけでベッドにいるのは嫌かな〜って思ったから、汗を少し拭いて服だけ替えておいたよ!
細かいことは後でお風呂に入ってやっておいてね〜って言おうと思ってたけど、その様子だと無理そうだよね……」
二人の他にもカイチョーやゴールドシップにも感謝しないといけないみたいだな。
「ありがとう、マヤノもマックイーンも」
「いいの、いいの!
晩ご飯とお風呂どうする、テイオーちゃん?
あ、起きた時用にはちみー買っておいたんだ!
いつも頑張るテイオーちゃんへのマヤからのささやかなプレゼントだよっ!」
そう言って普段アイスや飲み物を入れているちっちゃい冷蔵庫から出てきたのは、いつも舐めているはちみー極甘仕様だ。
少し起き上がって壁に寄りかかるようにして胡座をかき、受け取る。
普段と違ってほんのり冷たい。
ありがたい。
一口舐めるとドロっとしていて癖になるような甘さが……
「って、甘!!
あれ、こんなに甘かったっけ?」
普段と違うように感じる甘さがボクの舌を巡る。
甘いのが好きだから良いけれど、これほど甘かったかな……?
「どうしたのですか?
いつもテイオーが飲んでるトッピングの沢山付いた一番甘いものと同じですわよね?」
「うん、そうだよ。
テイオーちゃんは超が付くほどの甘党だからいっつもはちみーといえばこれ!って言ってたからそれにしたけど、間違ってたかな?」
「いや、ちょっと疲れてて味覚が甘いものに飢えてただけ……だからまぁ、大丈夫だよ」
自分の気の所為だと信じてマヤノとマックイーンにそう言う。
ボクとの融合で全体的に少し五感の感度が上がっているのかもしれない。
ボクの中で激甘から超激甘へとグレードアップしたはちみーを舐める。
うん、やっぱり甘いけど少し甘すぎるかもしれない。
ところでマヤノとマックイーンが仲良くやっているのは初めて見たので、何をやっているのか気になった。
この二人は言わば友達の友達状態でだいぶ気まずいことになったんじゃないかと勘ぐってしまう。
「そういえば二人とも何やってたの?」
「マリカーだよ!
この前テイオーちゃんが買ってきてたのをマックイーンさんと練習してたんだよ!」
「……と言っても、わたくしがマヤノさんに教えて貰っている感じですがね。
わたくしはこういうことがどうにも慣れてなくて……。
マヤノさんも初心者だと窺いましたがすぐに上手くなられるので凄いですわね」
マリカーか。
ってまだボクも数回しかプレイしてないから色々と慣れてない。
どうやら二人とも楽しくやっていて心配事は杞憂だったようだ。
だがマックイーンは一つ勘違いしているようなので訂正しておこう。
「マヤノが上手くなるのが早いのはゲーム慣れしてるからじゃなくて、マヤノがただただ天才だからだよ」
その言葉に即座に反応したのは、もちろんマヤノ。
ボクの方に前かがみになって睨みつけてくる。
「む、その言い方はなーに?テイオーちゃん。
マヤ知ってるよ!
そうやって対戦相手のことを上げてそれに勝てる自分のことも上げてるんでしょ!
マヤが勝ってテイオーちゃんのそんな幻想終わらせてあげるよっ!」
いざ勝負!という雰囲気のマヤノに、疲労困憊のボクに負けるわけないよね、とバチバチとやり合う空気を醸し出す。
だが、そんな空気はすぐに霧散する。
この部屋にはコントローラーはプロコンが2つしかないので二人しかプレイ出来ない。
マックイーンもいるので、二人になってからまた夜やろうという話になる。
あれ、ジョイコンはどうしたかって?
テトリスやってたら何故か壊れちゃったよ。
投げてもないし、叩きつけた訳でもないのにボタンが押してもないのに反応しだした時は驚いた。
基本的にテレビでしかやらないから同じ値段ならプロコンかなって感じで、この部屋にはプロコンが2つ──ボクとマヤノがお互い自分で買ったやつ──存在する。
「マックイーンさんも来るなら3つ目買う?」
「そうだね~。
マックイーンはいる?」
「いえ、わたくしもやらせていただけるのでしたらわたくしで買いますわ」
マックイーンが遊びに来るなら予備としても使えるので追加で買っても良かったが、マックイーンは自分で用意するとのことなので、変に気を使われるよりかはその方が良いかと思い、この話は終わらせる。
するとマヤノがふと疑問に思ったのか質問をしてきた。
「そういえばテイオーちゃんとマックイーンさんもしかして前より仲良くなった?
テイオーちゃんってマックイーンさんのこと、前までさん付けじゃなかったっけ?」
「えっと……そうだったっけ……」
意識してなかったが確かにマックイーンと起きてからそう自然と考えている。
そういえば"ボク"はマックイーン呼びだったっけ?
「あら、確かにそうですわね。
わたくしは特に構いませんが、なんだか慣れませんね」
「えっと、迷惑じゃなかった?」
「迷惑なんてわたくしが思うわけがございませんわ」
マックイーンはそれにと付け加えて、
「わたくしは最初からマックイーンと呼んでくださいと言っておりましたわ、テイオー」
とボクの目を真っ直ぐ見て言うので恥ずかしくなる。
せめてもの見栄でなんとか誤魔化そうとする。
「そうだったっけ?
「ええ、そうですわ。
なんだか面白可笑しくなってボクもマックイーンもクスッと笑ってしまう。
たとえボクが変わろうとも変わらなかったこの関係を大切にしていきたい。
その様子を見てマヤノも笑う。
すると突然マヤノがベッドから立ち上がった。
「ねぇねぇ、二人とも!
夜ご飯、一緒に行こーよっ☆」
なんともいきなりの提案だが、時間的にはボク的には早いがちょうどそれぐらいの時間帯だ。
「良いよ、マックイーンも行く?」
今までの僕なら悩み悩んだ挙げ句、結局付き合うことになる展開だが、生まれ変わったボクは即決する。
「ええ、そうですね。
わたくしもご一緒させていただきましょうか。
それにテイオー貴女一人だと今日は食堂まで行くのに朝までかかりそうですしね」
マックイーンも話に乗っかって行くことになる。
ボクとマックイーンの返事に顔がやったー!と、分かりやすく喜ぶマヤノが
「よーし、それじゃあ行っくよー!
ユー・コピー?」
「アイ・コピー!」
ユー・コピーにはアイ・コピー、糖分補給にははちみーぐらいここ一年で常識と化したことの一つだ。
「マックイーンちゃんもユー・コピー?」
「あ、アイ・コピー!……ですわ」
「ははっ、マックイーンってば、"アイ・コピーですわ"だってっ!」
「な、なんですの!
そんなに馬鹿にするなら食堂までは貴女一人で頑張って貰うことになりますけれど、良いですか?」
「ごめんごめん!
言い過ぎたから助けてください」
その言葉を聞いたマックイーンはボクの事を無視して「マヤノさん行きましょう」と、ボクを置いていく気で満々だ。
「あ──!本当にごめんなさい!
愛しのマックイーン様、どうかこんな哀れで救いようのない産まれたての子鹿のようなボクを助けていただけないでしょうか!」
本気で動けないボクはベッドの上でプライドを捨ててマックイーンに懇願する。
哀れなものを見たようなときの慈悲深い聖女のような顔ではなく、街で厄介な客引きに絡まれて逃げられなくなりしょうがなく行ってやろうという人の顔でボクをマックイーンは見る。
「……はぁ、ほら肩を貸しますわ。
全く、プライドの欠片もないお願いの仕方でしたわね……」
「あのー、マックイーン様……自分の足で歩くのが無理なので、出来れば負ぶって貰えないでしょうか?」
「はいはい、わかりましたわ」
とても優しいマックイーンはボクのめんどくさいであろうお願いも引き受けてくれた。
いつか返さないとそろそろ返し切れなくなりそうなので、ボクもマックイーンに優しくしていこう。
腰を下げて催促するマックイーンの背に飛び込み首に腕を回す。
「二人とも、早くしないと置いてっちゃうよ〜!」
ボクたちがモタモタしている間、マヤノのことを結構待たせてしまった。
「ほら、マックイーン頑張って!」
と言ってもボクはマックイーンに身体を預けているので応援することしか出来ない。
「良いご身分ですわね……っ!」
マックイーンの背中はとても頼もしかった。
□ □ □ □
「テイオー、お前は強くなれたな」
殆どの生徒は寮に帰り、静まり返ったトレセン学園だが、生徒会室にはまだ明かりが灯っていた。
部屋の主、シンボリルドルフは椅子に深く腰をかけながら、先程のトウカイテイオーの言葉と初めて話した頃を思い出していた。
──「本気で勝ちを目指して勝てなかったときのことを考えると怖くなる。
頂点に執着しすぎたら、多分、周りが見えなくなっちゃって僕は壊れちゃう」
──「昔の
でも無理だった、無理だった……!
ボクは昔持ってなかった色々なものを手に入れちゃったんだ……。
失うのが怖くなったんだ!」
「お前が踏みとどまって私はホッとしているよ。
初めて話をしたときにお前が言っていたな、周りが見えなくなって壊れてしまうと。
だが、今日のお前は周りも見て留まった。
大きな成長じゃないか」
正直な話、ルドルフはゴールした後のテイオーの嘆きを聞いたとき、とても焦っていた。
だが同時に安心もした。
今のテイオーなら大丈夫だ。
必ず私のところまでたどり着いてくれるだろうというただの願いが、少しずつ現実に近づいてきたと感じられていた。
しかし、安心してばかりでもいられない。
まだ自壊することが殆ど無くなっただけだ。
ウマ娘には故障が付きもの、自分の意志とは異なりどんなに注意していても壊れるときは壊れてしまう。
出来ればそうはなって欲しくないと願うばかりだ──と、ルドルフは考えていると生徒会室の重厚感溢れる扉がノックされた。
「失礼します──会長、まだいらしたんですか」
ゆっくり扉が開いて入ってきたのはエアグルーヴで、シンボリルドルフに声をかける。
「エアグルーヴか、ちょっと考え事を、な」
「もう遅いです。私たちも帰りませんか?」
「……もうこんな時間か。
そうだな、私もそろそろ帰るとしよう」
そう言って席を立ち上がる。
その一連の動きに今絶賛悶えている挑戦者のようなぎこちない様子は無い。
「さて、今頃テイオーはどうしてるだろうか」
きっと、負けて落ち込んでるということは無いだろうと皇帝は考える。
もしかしたら疲労困憊で動けていないってこともあるかもしれないとも推測していた。
「テイオーなら疲れたら糖分補給と言って甘いものばかり食べているかもしれませんね」
とのエアグルーヴの意見に、ルドルフの脳内では"はちみーこそ至高……"と度々言っていたテイオーの姿が脳内再生される。
「確かにテイオーなら言いそうだ。
私も今日は
「それはよろしいですね」
「お、そうかそうか。
ありがとうエアグルーヴ」
「?」
満足気な会長とよく分かっていない副会長。
……両者の間に何かすれ違いがありそうだが、こうして今日も生徒会室はいつもと変わらず静かに眠りについていった。
これにて序章終幕です。
拙い文章ですが筆者の執筆Lv.もちまちま上げてより良い話を書けるようこれからも頑張ります。
今後の更新はさらに遅くなるかもしれませんが、ゆっくり待って頂けると嬉しいです。
いつも更新後にすぐに誤字報告される方々に作品を支えられ、感想を定期的に下さる方々にやる気を貰い、評価して下さる方々に自信を貰ってここまで書き進めてきました。
結構名前は把握しております。
閑話としてマックイーン編の予定です。