トウカイテイオー転生もの   作:ふらんそすきぃ

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今年最後の投稿です。


【第二章】
第二章:プロローグ


「スペの野郎、大丈夫だと思うか? テイオー」

「何とかなりますよ。スペちゃんは強いんで」

 

 皐月賞の行われた中山レース場からトレセンに帰る途中、ボクとゴルシは皆より少し後ろのところで話していた。

 前で固まって歩いているスピカのメンバーたちの中にいる話題の主、スペちゃんは、誰から見ても明らかに元気がから回っていた。無理していることがもうバレバレだ。

 

「はぁ……負けるってのは辛いね。レースでは殆どが敗者だけど」

「そりゃそうよ。負けるのは辛え。

 でも勝ったときはそれ以上に楽しい。だから辞められねぇ。だろ?」

 

 口角を上げ、にっこりと笑うゴルシにボクも釣られて笑う。勝利の味を知ってしまった猛獣(勝負師)たちは、もう二度とあの興奮を忘れられない。

 

「生憎、負けることには慣れてるから走ることはいつも楽しいよ。負けてちょっぴり楽しいか、勝ってすごく楽しいか、だ。」

「ちょっと前まで無敗だったくせに、負けることに慣れてるなんて変な奴だな。やっぱ、人生繰り返してたりするのか?」

「ないない。繰り返してたら()はリギルに入ってたよ」

「それもそうか。でも、アタシはテイオーがスピカで嬉しいぜ」

 

 ここ数ヶ月、ゴルシと仲良くしてるが普段は巫山戯ているのに、時折意味深なことを言ってくるからどんなヒトなのか未だに掴みきれていない。

 まぁ、こうやってスペちゃんのことを心配したり、一人でいることが多いボクのことを気遣ってくれたり仲間思いな良いヒトってことは伝わってくる。

 

 ……口が寂しい。キャンディー舐めようか。ヒトと話してるときにも考えるって、救いようのない中毒者かもしれない。

 バッグのポケットから1個取り出し、包装を捲り、咥える。やっぱり口に何かあると安心するな……。

 そうやってキャンディーを楽しもうとしていると、ふと視線を感じた。視線の方を向くとゴルシがこっちを凝視していた。

 何かを訴えかけるような……多分欲しいのかな? よく分からないけどゴルシにキャンディーあげるか。そう思い、鞄からもう1個取り出してゴルシに見せつける。

 

「ゴルシもいるならあげるよ」

「え! 良いのか! 

 マックイーンのやつに自慢してやろっと!」

 

 思ったとおり欲しかったのか、その言葉に喜びながらマックイーンに自慢しようとするゴルシに苦笑しながらキャンディーを渡す。

 それにしてもマックイーンとゴルシって顔見知りなのは知っていたけど、仲良かったんだ。あの真面目そうにしているお嬢様と破天荒な不思議ちゃんが仲良くしていることを、まず想像出来ない。

 ゴルシの学年もいまいち分かってないけど、多分マックイーンと同じ学年では無いだろう。何繋がりだ?

 

 そう考えているとトレセン学園の敷地内に入った。敷地に入ったところで、トレーナーの「解散だ。今日はしっかりと休めよ」との言葉でスピカの皆は解散していった。

 その時、あることを思い至ったボクはゴルシに声をかける。

 

「ねぇねぇ、ゴルシ。これから走ろうよ」

「どした、急に? いつも一人で走ってるじゃねーか」

 

 不満げに言いながら、暗にお前一人で走ってこいと伝えてくる。つれないなぁ……と思いながらも次の一手を繰り出す。

 

「……キャンディー」

「──しゃーねーな。一回だけだぞ?」

 

 こうかは、ばつぐんだ。一瞬で気を切り替え走る気満々になったことを感じ、あのときの選択は正しかったとキャンディーを上げたときのボクを称賛する。

 

 

 空の雲だけがほんの少しの光を受ける、夜に移ろいつつあるトレセンでコースの方に向かっていた。

 

「それにしてもお前もやっぱ皐月賞見て興奮するタイプか」

「ウマ娘で興奮しないやつはそうそういないよ。特に三冠を夢見るウマ娘はね」

 

 そしてボクもそのうちの一人だ、と正直に答える。

 それだけクラシック三冠という肩書きは大きい。いや、クラシック三冠だけではない。トリプルティアラ、春や秋のシニア三冠。どの三冠でも手に入れることは難しく、そしてその難易度に見合った肩書きを手に入れることが出来る。

 

「そういやお前の夢は三冠だったか」

「ふっふっふっ……甘いね。ボクは三冠で終わらない、ウマ娘たちの頂点に立つんだから」

 

 最近は癖になりつつある、腰に手を当てて胸を張り、えっへんという感じにポーズを取りながら言う。

 するとゴルシから返ってきたのは、想定外だがある意味正解の返答だった。

 

「お、言ったな! じゃあまずはアタシを超えてみやがれ!」

 

 つまり、勝負だ! ということだろう。

 今から本気で走ることは想定していなかったが、まぁ良い。脳は皐月賞を見てからずっと興奮しているのだ。

 これは、スペちゃんが走っていたからではない。

 ボクが、()()()だからだ。

 

「ゴルシ、いつも構ってくれてありがとう。でも負けないよ」

「お、ゴルシちゃんに勝てると思うとは、あと2年2ヶ月ほど早いぜ。

 こてんぱんにしてやるから、覚悟しとけよ」

 

 そう言って、お互いに走る準備をし始めた。

 お天道様すら見ていない、観客ゼロの勝負が始まろうとしていた。

 

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────

 

 勝負はついた。

 

「ざっとこんなもんよ!」

 

 ボクの負けとして。

 ゴールラインを越え、息を全く乱さずにこっちを振り返ってゴルシがそう言う。

 負けました。いや、ね? 油断はしてなかったんだ。勝ちを確信したらあり得ない速度で伸びてきた。そして気がついたときには抜かれてた。

 

「はぁ……はぁ……も、もう一回……!」

「テイオー、一回だけって約束だよな」

 

 啓すように、煽るように。ゴルシの顔はそれはもう嬉しそうだった。完全勝利宣言をされてしまい、負けを認めることしか出来なくなった負け犬のボクの悔しそうな顔を見て。

 

「それにゴルシちゃんはまだまだ走れるが、それに比べお前さんは疲労困憊、そんな状態じゃ勝てっこねーぜ。もう一度、強くなってから出直してくるんだな」

 

 全くその通りだ。興奮しすぎて視野が狭くなってた。

 実力差が誰が見ても明らかだった。多分、様子見で少し手は抜かれていたからこそ最後で拔かれたのであって、全力だったらこんないい勝負にはなっていなかった。

 

「次は、負けないから」

「そうだな、アタシに勝てると思ったときに勝負を挑んで来るが良い。ゴルシ様との約束だぞ?」

 

 その言葉に無言で頷く。次は()()()負けるなよってエールかな。勝負をしなければ無敗とは誰が言ったか知らないが、面白い言葉だ。逆を言えば、負けは挑んだ証拠って考えられなくもない。

 

「おーい、テイオー! 早くしねーと置いてっちゃうぞー!」

 

 帰る支度をしようとしていると、声が少し遠くから聞こえる。どうやら思ってたよりだいぶ先にいる。ゆっくりしていたら、置いてかれてしまったようだ。……いや、それにしても早くないか?

 

「待ってー、今行くからー!」

 

 ボクらしくもないが少し声を張って待つように頼む。荷物を取り敢えず鞄に押し込むように詰めて、ゴルシの方に走る。

 

「おせーぞ」

「ごめんって」

 

 すっかり暗くなってしまい、街路灯に照らされた道を征く。昼が長くなっていたとはいえ、まだまだそこまで長くはない。

 

「今日は飲まないのか?」

「朝舐めたから大丈夫」

 

 十中八九はちみーのことだろうと予想し、そう返す。ある程度ボクと仲が良いヒトならテイオー=はちみーの方程式が出来ていてもおかしくはない。

 

「それにしても、さっき言ってた負けても楽しいってのは間違いじゃねーみたいだな」

「何、煽り? 今は次どうやって勝つか、ボクの何が弱かったか考えるのに忙しいの」

 

 全くそんなことは考えてないけど悩んでるふりをする。いや、考えた方が良いな。

 

「悩め悩め。ま、その答えはアタシとの勝負の前から分かってると思うけどな。

 じゃ! 良い夢見ろよ!」

 

「……行っちゃった」

 

 ゴルシは毎度の如く意味有りげなことを言い残し、ボクを捉え切ったときと同じぐらい凄い速度で消えていった。

 

「答えは分かってる……ね」

 

 ゴルシのさっき言っていたことを反芻する。

 恐らく勝負の前から分かっていることなら、だいたいカイチョーとの勝負の敗因と同じだろう。うーん、素の能力不足? なら、解決策は練習しか無い。

 他にもレースの経験不足っていうのもあるかもしれない。結局、これもすぐに解決する手段は無い。

 

「そう簡単に強くなれたら、三冠なんて誰でもすぐに取れちゃうか。……いや、みんな強くなるならもっと強くなる必要があるから結局同じか」

 

 なんの生産性もないバカな呟きは、綺麗に咲いていたのにすぐに散って緑になりつつある桜と、上に広がる闇に吸い込まれていった。

 

 

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「ただいま、マヤノ」

「おかえり〜、テイオーちゃん。生の皐月賞どうだった? キラキラしてた?」

 

 部屋に戻ってマヤノに今日の感想を聞かれる。マヤノにも一緒に観に行かないか誘ったが、チームの皆で楽しんで来て! と、言われていた。

 

「うん、やっぱりレース場で見るのは違ったよ。あの興奮は映像では味わえないって思った」

「やっぱり、やっぱり!? マヤもそう思うよ!

 目の前で理解(わか)らないことが起こるとすっごくワクワクするし、キラキラしてるよね!」

 

 この様子だとマヤもやっぱりレース場行きたかったのかな。次行くときには一緒に行こう。次のG1は……天皇賞春かな?

 

「次は一緒に行こうね、マヤノ」

「もちろん! 一緒に行こうね!」

 

 何観に行こうかなー、やっぱりG1の天皇賞春かなぁー、あっ! このヒト出るんだ! などと、ベッドの上で足をパタパタさせながらスマホで情報収集を始めたマヤノを傍目にボクは風呂の準備をした。

 

 

 

 □ □ □ □

 

 

 

 次の日。

 

「皆さん、私! ダービーに勝つために頑張ります!」

 

 スペちゃんは昨日の空元気が嘘のように、目に炎を宿してボクらの前に現れた。

 隣にいたゴルシが肘でこっちを突いてくるので目だけ向けると、目があった。

 

「めちゃくちゃ元気になったな、スペのやつ」

「当たり前ですよ、スペちゃんですから」

「なんだそれ、理由になってねーぞ」

 

 距離を少し詰めて、耳をゴルシの方に向けて小声で話す。こういうときにウマ娘の耳が役に立つ。絶対にこんなことをするためにこの耳が発達した訳では無いだろうが。

 

「よーし、それじゃ気持ちを切り替えて、今日からまた頑張ってくぞ!」

 

 トレーナーの掛け声に皆それぞれ、おーとか、はいっ! とか、バラバラの反応を返す。少しまとまりが無いのがスピカらしいかな? 

 ボクも遅れながらも、おー! と声を出してみた。

 




 感想、お気に入り登録、高評価ありがとうございます。
 新章始まりました。この章では、できるだけサクサク進んで行く予定です。
 それでは来年もよろしくおねがいします。
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