「チームスピカに入らせていただくことになりました、メジロマックイーンと申します。どうぞよろしくおねがいします」
ボクたちのチームに新メンバーが増えました。
「……と、いう訳で今日から新メンバーだ。仲良くやってくれ。
それじゃ、練習始めっぞー!」
まぁ、なんともトレーナーらしい雑な紹介だ。と言っても、マックイーンはメジロってこともあって、学園中に名が知れ渡っている……って程ではないが、デビュー前にしてはそこそこ有名人なので紹介は無くても大丈夫だろう。
そして、何事も無いかのようにいつもどおり練習が始まる。
「ほら、何してんだマックイーン?
早くしねーとおいてくぞ?」
「え、えぇ。そうですわね」
特になんの説明もなく、いつもどおりに始まる。
「マックイーン、一緒に行こ?」
「ありがとうございますわ、
「……なんか気持ち悪いですわ、マックイーン
めちゃくちゃ寒気がする。ボクが不快そうな顔をしていたのか、マックイーンがそんな顔しなくても……みたいなことを言っているが、仕方ないことだろう。
ここ最近のボクはチームとして練習することがだいぶ増えた。
まずは走る速度も軽めなので話す余裕ぐらいはある。少し疑問に思ったことでも話そう。
「そういえばどうして
「え? テイオーが入って欲しいって聞いていたので、仕方なく入ったのですが」
「え?」
「はい?」
何か噛み合わない。
「ボクがそんなこと、いつ言ってたっけ?」
「いいえ、しかしゴールドシップさんが『テイオーがお前に入って欲しいらしいんだが、中々素直に言えないからちょっと気を利かせて入ってくれよ〜』と、おっしゃっていましたが……」
「ゴルシにそんなこと言った記憶無いけど……」
入って欲しいか欲しくないかと聞かれると、多分欲しいと答えるが一切言ったことは無いはずだ。
「ま、まぁ! 良いですわ!
そんなことを言うマックイーンの顔は少し引き攣っていた。恐らくゴルシが適当なことを言って、ここに入れられたことに気がついてしまったのだろう。
ちょっと空気が悪い。ここは話題を切り換えよう。
「マックイーンってデビューはいつ?」
「今年度の冬のどこかかと考えてます。テイオーはどうですか?」
「ボクもクラシック目指すからセオリー通り秋か冬かな」
学園に入ってから初めて知ったが、クラシック狙いなら秋か冬にデビューするというのが風潮になっているらしい。
特に拘りがある訳でも無いのでボクもそうしようと思っている。世間の流れに合わせておくのが、あまり苦労しないコツなのだ。
「マックイーンはクラシック出るの?」
「私はクラシックはあまり想定しておりませんわね。……と言っても興味が無いという訳でもございません。
出させて頂くとしたら菊花賞でしょうか。一番早く挑戦できる長距離G1ということもありますし、空気を感じ取ってみたい気持ちがございます」
「あ、そうか。マックイーンの目標は──「天皇賞」……ボクに言わせてくれても……」
今はお互いのことちゃんと分かってますよ、って相互確認して関係性を確かめるところでは無いのか? と思ったが、結局ボクはコミュ弱者なのでこういうとき何が正しいのかは分からない。
少し話の流れが止まる。それとは真逆に、普段から何も変わらない景色は流れ続ける。
足音が響く。二人で軽く走ったりするとき、歩幅とか普段は絶対に違うのに、何故か足を踏むタイミングが揃ったりする。足音が揃うと妙に意識してしまって更に揃ってしまい、ちょっと楽しくなってくる。
そんな楽しい時間もアップの軽いジョグなのですぐに終わりを迎える。
「次はなんですの?」
「えっとね……次は……」
頼られることなんて今まで殆どなかったけど、こうやって少し頼ってもらえるって良いことだな。そう思った。
□ □ □ □
「おーい、二人とも手伝ってくれ」
練習も終わり、部室に戻ろうとしているとゴルシの声がした。
「どうしたの?」
「ちょっとテイオー、どうせろくでもないことですわ。
気にしない方が良いに決まっております」
ボクは何があったのか聞いてみるが、マックイーンはチームに入るきっかけで嘘をつかれたゴルシに少し怒っているのか、素っ気無い態度で逃れようとしている。
「どうしたどうした、つれねーなマックイーン。
ほらテイオーこっち来いよ。二人で楽しいことしようぜ」
右側から肩に腕を回されこっち来いよといつの時代か分からないヤンキーみたいなことを言うゴルシ。
「え……えーと……」
「テイオー、貴女が行く必要は有りませんわ。早く行きましょう」
ボクの左手を引き、帰るぞというマックイーン。
これはあれか? ボクのために争わないでー、というやつか?
実際に争われると対応に困る。どっちの味方をしたら良いのかも分からないある意味地獄だ。
でもボクのことでこうやってなっているのは自分が必要とされているって思えて良いな。
「おいおい、マックちゃん。さっきからアタシに冷たくねぇか? なんか嫌なことでもあったのか? 何でも聞いてやるぞ?」
「えぇ、言われなくとも言いますわ! ゴールドシップさん、貴女私に嘘をおっしゃいましたね!
テイオーから聞きましたわ。テイオーが入って欲しいなんて一言も貴女には言ってないって」
「おいおい、そりゃねぇぜテイオー。
お前、どこからどう見てもマックイーンに入って欲しい顔してたじゃねぇか?
それにアタシもテイオーが言ったことは一回も言ってないぜ。あくまで"テイオーが入ってほしそうにしてた"って言っただけだからな」
適当に流そうと思っていたら、いつの間にかボクの方に矛先が向けられていた。そんな顔してても自分じゃ分からないって……。
どうしたのマックイーン。こっちをそんなに見つめて。ボク、こわいよ。
「テイオーは、私が入ってきて嬉しいですか」
無言で首を縦に振りまくる。横に振ったらお腹に穴が開きそうだ。わざわざ殺されるようなことは言わない。
「それでは、早く私と行きましょう?」
間髪入れずに頷く。
ゴルシには後で謝っておこう。
「では、お先に失礼しますわ」
マックイーンはゴルシの腕を軽くどけて、ボクの左腕のジャージの裾を引っ張る。後ろを向いたらゴルシと目があった。口パクで後でね、と伝える。
(か く ご し と け)
ひぇ……。背筋が凍る。
ゴルシのことだから虚無感に苛まれる償いをさせられそうだ。
いつまでも引っ張られているのも歩きにくいので、スピードを上げマックイーンに並ぶ。
「別にマックイーン一人で逃げても良かったんじゃないの?」
「貴女が居なかったら誰がスピカの部室まで案内してくれるのですの?」
ボクとマックイーンの間に静寂が広がり、風でさざめく新緑の音が響く。
「……あれ?」
脳の理解が追いつかない。
「チームにどうやって入部したの?」
「ゴールドシップさんが、勝手に進めて『この時間に練習場まで来い』と言われただけでして……」
「えぇ……」
思わず困惑の声が漏れる。
スピカってそんなに適当なチームだったっけ……でした。
チームの特色はトレーナーによって決まると言っても過言では無いが、ボクらのトレーナーは基本的に雑だ。なので、そこらへんも適当になってしまったのだろう。その雑加減がこのチームの良い雰囲気を出していると思うので、それはトレーナーの長所だと考えている。
長所と短所は表裏一体って、この前ネットで見たからな。
「それでどれがスピカの部室ですか?」
「あ、えっとこっち。ついてきて」
さっきと異なりボクがマックイーンを先導し、部室が立て並ぶエリアを進む。ここらへんの部室街──勝手にボクがそう呼んでるだけ──は、たまに建て替え工事をしたり、増築されたりするので風景がちょくちょく変わる。建設業者さんはいつもありがとうございます。
チームが新設されたり、無くなったりと結構変動が多いので、お隣のチームが次の年度には変わっていたなんてこともあるにはあるらしい。
そうしてある程度進むと我らがスピカの部室が見えてきた。と言っても外見は近くの他の部室と比べても看板以外差はない。
「着いたよ」
「どうもありがとうございます」
扉を開けて中に入る。
暗いので電気をつけた。中には当然誰もいない。
きっとスペちゃんはスズカさんと一緒にダービーに向けて頑張っているのだろう。この前のタイキさんとの勝負だったりと、ここ最近のスペちゃんの頑張りは凄まじい。
ゴルシはさっき会ったし、ウオッカ&スカーレットも二人で切磋琢磨してるのだろう。
「では帰りましょうか」
「あれ、なんかすることあるから来たんじゃ無いの?」
「いえ、ただ場所が知りたかっただけですわ。
明日からは私だけでも来ることが出来そうですので、もう満足ですの」
本当に場所確認だけだったみたいだ。
さっき点けたばかりの照明を落とし、部屋を後にする。
そういえば、ここの施錠は門限後にトレーナーがしているようだ。この前、忘れ物を取りに行こうと寮長の目を盗んで部室に行ったときに、閉まっていたのでしっかりと仕事はしているんだなと感心しつつ、少し恨んだ。
帰る途中、思い出したかのようにマックイーンがふと呟いた。
「そういえばはちみーはよろしいので?」
「何言ってるの? 今から買いに行くに決まってるでしょ?」
毎日はちみー生活のボクだもの、当たり前だ。
マックイーンも舐める? と聞いたが要らないらしい。うめき声を上げながら断られた。残念だ。
次の日、ゴルシに会おうとしたが学園内におらず、何処に行ったのだろうと気になり、連絡してみたらどうやら海の上だそうだ。
昨日は釣りの準備を手伝ってもらいたかったらしい。後で捌くの手伝えと言われた。
いや、無理だが?
※急なタイトル変更すみません。
感想にてご指摘頂きまして、有識者の知人に尋ねたところ、これは転生との回答を頂きましたので変更させて貰いました。
これからもよろしくおねがいします。