トウカイテイオー転生もの   作:ふらんそすきぃ

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 おまたせしました。
 私事でございますが、晴れて受験が終わり入学手続きも済みましたので更新再開します。

 


逃げ

「……すごい……すごい、凄い、凄い!!!」

「て、テイオー?」

 

『セイウンスカイ、向正面を抜けてリードは8バ身差ほどだ!』

 

 秋の京都レース場。芝3000m、G1菊花賞。

 

「勝つよ、セイウンスカイが! 

 強い! なんで逃げ切れるんだ? しかもレコードにこれは絶対に行く! 

 全部自分のことを分かってるんだ。どのスピードでどのペース配分で行けば勝てるって、はっきり分かってる。

 全てが自己完結してる。あそこまで行けば相手なんて関係ないんだ。

 ただストップウォッチとの対話だ……!」

 

 興奮しすぎたのか周りが褪せて見えるが、セイウンスカイだけははっきり見えた。

 

 皐月賞を勝っていた頃なんて、こんなにこの先輩に注目していなかった。ただ強いな、スペちゃんとのライバルになるんだろうなとしか思っていなかった。

 

 ボクは魅せられていた。いつになく興奮していた。

 カイチョーを初めて見たあのときのように。

 

「ここまで来たら、後ろが頑張ろうとセイウンスカイがペースを下げない限り、長距離でウマ娘の出せるスピードで追いつくことは出来ない。

 皆スパートをかけているとはいえ、それはセイウンスカイも同じ! 

 

 ──出来るんだこんなことが。

 逃げで勝って、しかもレコード!」

 

『最後の直線に入った! 先頭は依然セイウンスカイ! 

 大外から懸命にスペシャルウィークが上がってくる!』

 

 まだゴールはしていない。

 丁度、最終直線に入った頃だ。

 もちろんここからペースが落ちることもあり得る。

 でもそんなことは起らず、そのまま走りきれるという確信があった。そしてレコードが出ることも。

 

 過去のクラシック三冠レースの映像は山程見た。

 特に不得意な長距離の菊花賞は。

 菊花を勝ったほぼ全員の脚質は先行で、差しと逃げは僅かだ。

 これは逃げを目標として先行が仕掛けやすいからだ。

 逃げは先手で動けているように見えて、実のところ後出しジャンケンをやらされているのと似たようなものだ。

 

 それを真正面から力で捻り潰しているのが今の状況。

 先行や差しが届かない位置まで先に逃げ、仕掛けたときにはもう駄目でしたね、と嘲笑うような展開。

 それはもうあの世代で、今この瞬間に最も強いウマ娘と言っても過言ではないだろう。

 

「ははっ、逃げもここまで来ることが出来たなら強いんだな」

 

 最近は逃げが強いのか? と思う場面も沢山ある。

 スズカさんの走りなんて特に顕著だ。

 あの勝ち方は小学生の頃に誰しもが考え、諦める、"実現不可能な最強戦術(ぼくのかんがえたさいきょうのはしり)"を具現化したような、まさに()()()の逃亡者といったところだろう。

 

『セイウンスカイが逃げ切った! 

 タイムは3.03.2! レコードです!』

 

 そして、これだ。

 こんなもの()せられたら、逃げで走ってみたくなるに決まってる。

 

「ははっ、強すぎ……完璧だ。逃げでレコードはタイムアタックと変わらない。全てが自己依存で、自己完結。

 

 ──あぁ、超えたいなぁ……」

 

 ポンポン。

 

 肩を叩かれ振り返ると、呆れ顔のマックイーンがいた。それで察した。

 

「あ、……ごめん、スペちゃんの応援に来てたのに一人で勝手に盛り上がって……」

「全く……別に私に謝らなくても良いですわ。

 興奮する気持ちも分からなくないですが、貴女も一応スピカなのですから少しは空気を読んでください」

 

 スピカに関しては後輩のマックイーンにチームのことで諭されてしまった……。 

 まぁ、これに関しては全面的にボクが悪い。

 

 ……それはそれとして、今度また逃げに挑戦してみようかな。

 でも逃げをやるとするなら作戦も何もない、肉体勝負だって思っているけど何かコツとかあるのだろうか? 

 ……マヤノは逃げもたまに使ってた気がするな。帰ったら聴いてみよう。

 

 

 

 □ □ □ □

 

「逃げのコツ?」

「うん」

 

 お互いにベッドの上に座りながら向かい合って話す。

 実のところ、そこまで期待していない。感覚派で天才肌のマヤノの言っていることがボクに理解できるか怪しいからだ。

 

「マヤもテイオーちゃんと同じで、先行策ばっかり取るから逃げ専門じゃないけどそれでも良い?」

「もちろん……じゃなくて、アイ・コピー」

「ありがとっ☆ テイオーちゃん! 

 えっとね、逃げにもマヤは二種類あると思うんだ」

「二種類?」

「そうっ、"先頭を走り続ける"逃げと"その後ろを付ける"逃げの二種類だねっ」

 

 スズカさんみたいなタイプか、先行っぽい逃げってことか。

 

「テイオーちゃんでも逃げは単逃げが有利っていうのは知ってるよね?」

「うん、自分の思う通りのレース展開にしやすいからでしょ?」

「そうそうっ! 逃げを走るときはお互いにそれを分かってるから、逃げが他にもいるときはお互いに沈むことを避けたいから、先頭争いはそんなにしないんだよ」

「……何で避けるの? 前にいた方が有利じゃないの?」

 

 先頭にいた方が自分のやりたいことをやれるのではないのか? 

 

「テイオーちゃん、スパートをかけるときに例えば同じスタミナ、同じ走力があって、同じタイミングで仕掛けたら誰が有利か分かるよね?」

「あ……そうか。スローペースの方が有利なんだ」

 

 セイウンスカイさんのレコードを見たばかりで忘れていたが、基本的なことだ。

 マヤノがジト目でこっちを見つめてくる。

 

「も〜、テイオーちゃん? 授業聞いてたの?」

「マヤノだって真面目に受けてないじゃん」

「マヤは全部分かっちゃうから別に良いもんっ。

 それより、それよりっ! だから逃げは最初から飛ばしていくのは戦術的にはダメダメなんだよ! 

 ──圧倒的な力の差が無ければね」

 

 今回のスカイさんは皆落ちてくると読んで追いかけなかったこともあるかも? と付け足しつつ、こちらを鋭い眼差しで見つめてくる。

 マヤノに見透かされているような、なんだか変な気分になる。

 

「マヤ分かってたよ。テイオーちゃんが今聞いてくるってことはセイウンスカイさんでしょ? 

 マヤだってキラキラしてたのこの目に焼き付けたもんっ! それにスズカさんとかも気にしてるでしょ。

 テイオーちゃんは強さが好きだもんね〜。漫画とかに出てくる求道者みたいな感じ! 

 

 テイオーちゃんでも相手を選べば、あんな感じに出来るんじゃないかな。

 でもマヤはあんまりオススメしないよ? テイオーちゃんは……」

「マヤノ、コツを教えて?」「……しょうがないなぁ」

 

 話が脱線しそうになるマヤノに釘を刺す。

 マヤノは姿勢を変えてまた話を始める。

 

「でもテイオーちゃんに教えるようなコツなんてほとんど無いよ? 

 逃げを走るときは相手に気が付かれないようにペースを落としておいて、スパートに余力を残しておくことぐらいかな。

 後、スタートは遅れちゃぜったい駄目だよ! 

 ……マヤにはこれぐらいかな。テイオーちゃんのところにはスズカさんがいるし、スズカさんに聞いたら?」

 

 うーん、スズカさんはマヤノより感覚派そうだからな……。

 全力疾走をずっとしてたら勝てますよ? とか言いそうだ。……流石に失礼か。

 

「それもそうだね。

 スズカさんにちょっと聞いてみるか」

「スズカさんなんてザ・逃げ! って感じだし、きっとマヤより良いこと教えてくれるはず!」

「ありがとね、マヤノ。付き合ってくれて」

 

 思ったよりちゃんと答えてくれたマヤノに感謝だ。

 良いの良いのマヤとテイオーちゃんの仲でしょ? って、嬉しいこと言ってくれるじゃん。

 

「そういえばさっき切っちゃったけど、ボクは逃げじゃなくて何やれば良いと思ってたの?」 

「なーいしょ! マヤはもう言わないもん☆

 あ、そうだっ! 新作スイーツが出たらしいから、一緒に食べに行かない?」

「……何処の新作スイーツかによるかな」

 

 少し悪態をつきながらも、前向きに新作スイーツを検討した。

 

 

 □ □ □ □

 

「えっと……逃げのコツですか?」

「はい、スズカさんなら分かるんじゃないかって」

 

 マヤノに聞いた次の日。

 スピカのチーム練習の休憩中、ボクはスズカさんと話していた。

 ボクは普段スズカさんとはあまり話さないので、ちょっと話しかけるのに勇気が必要だった。

 スズカさんは顎に手を当てて下を向いていると、少ししてからこちらを向いて話し始めた。

 

「ごめんなさい、前を走ることしか考えてない訳じゃないのだけど、これといったアドバイスは出来そうにないの……」

「いえいえ、とんでもないです! 考えてくれてありがとうございます!」

 

 真剣に悩んでくれていたため、謝られるとこっちからお願いしたのにと申し訳なくなる。

 

 ……話が止まった。

 いつもだったらゴルシとかが騒がしくしてくれるのに今は何故かいない。

 何か話題を振らなきゃ……。

 

「え、えっと、スズカさんは今週末天皇賞ですよね。頑張ってください」

 

 ボクのばかばかばかばか! 何、部活にあんまり来てない先輩の卒業アルバムに書かされる寄せ書きみたいなこと言ってるんだよ。

 ぱっとそれしか出てこない自分が恥ずかしい。

 

「ありがとう。

 次のレースは何だか良いレースに出来そうなの。

 テイオーのことを興奮させられるようなレースに出来たら嬉しいな」

 

 でもそんなボクの応援に対し、とても優しく返してくれた。ウマ娘の鑑だ……。

 

「次も大逃げですか?」

「うん、その予定。

 先頭から見えるあの景色を私はずっと見ていたい。

 誰も見たことの無いスピードの向こう側。

 それがあの景色の先で見える気がして……」

「見えたら……どうするんですか?」

「……そうね。

 さらにその先に……かしら? 

 ふふっ、最近走るたびに速くなっていく感じがして毎日が楽しいの。

 次のレースが楽しみで楽しみで。

 次は見えるんじゃないかな……って。

 それにスピカの皆とも仲良く出来て、私は幸せ者ね」

 

 聖母のような笑みをボクに向けながらそう語ったスズカさんを、ボクは忘れていたはずだ。また同じような顔で向こう側を見たときのことを話してくれると信じていた。

 

「そうだ、テイオー。

 そろそろ走らない?

 話していたら何だか走りたくなってきちゃった」

 

 走ることが大好きな無邪気なスズカさんをずっと見ていられると信じていた。

 

 そう──あの悲劇さえなければ。




 次回、14日の21時予定です。
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