にゅーれこーど、らんくとりぷるえすぷらす。
様々な音が鳴り響くゲームセンターの雑音の1つとして、今のプレイ結果が表示される。
「取り敢えず
なにもない休日。普段使っている
難易度がかなりあったため、理論値がまだ誰も出ていないことが話題になっていると少し見たその曲を、ボクがこうやって一番乗りで取ってみたというわけだ。
スマホでリザルト画面を撮影し『理論値出しました』と一言添えてウマッターに上げる。するとすぐにいいねがつきはじめ、『!?』『すごい!』『流石です!』とコメントがついていく。
やっぱり褒められることは気分が良くなる。
マヤノにやってみたら? と言われはじめてみたウマッターだが、今ではそこそこのフォロワーがついていた。未だに何を投稿したらいいのか分からないので、ゲームのリザルトばっかり載せているアカウントになってしまったが。今では音ゲーが上手いやつとしてネットでは名をはせている(ボク調べ)。
1クレジット分消費し終わり、後ろを確認すると人がいたのでコンティニューせずに別のゲームに行くことにする。しかし、休日ということもありどこも人でいっぱいで、すぐにやれるようなところがないようだ。
仕方がない、クレーンゲームの方にいこう。そう思いクレーンゲームのスペースのところに行くとあるものが目に留まった。
スズカさんの
ほとんど無意識的に財布を開け、小銭入れのところをじゃらじゃらと音を立てながら探すも、そこには百円玉はなかった。おそらくさっきの音ゲーで使い切ったみたいだ。両替してくるしかない、そう思い千円札を百円玉に両替して戻ってくると、ちょうどボクより一回り小さいウマ娘の子がプレイしているところだった。
あー落ちた。けっこうアームの強度が低めだな……、確実に取るにはどっかに引っ掛けるしかなさそうだ。そう思っているとまた百円玉を入れてクレーンを動かし始めた。横に回って位置を見て狙ったりするもまた落ちてしまった。そしてもう一回プレイするもまた失敗してしまった。すると今のが最後の百円玉だったのか、なごりおしくしながらそこを離れていった。
少し残酷なものを見てしまった気分になったがしょうがない。クレーンゲームは恐ろしいゲームだ。ボクも慣れるまで大量のお金を吸われた。
百円で決める、そう意気込み百円玉を1枚入れる。狙うはカチューシャのところだ。ボクの予想が正しければ、あそこには隙間がある。そこにアームをねじ込めばあのアームの弱さでもいける可能性がある。その可能性にかけてレバーを倒す。そして狙いを定めてボタンを押した。アームはボクの狙い通りスズカさんの頭に当たり、クレーンが押し付ける動作のときに頭とカチューシャの間に滑り込む。そのまま引っかかり、受取口に流れるように吸い込まれていった。
かがんでスズカさんを受取口から取り出すと、少し後ろの方から視線を感じた。さっきの女の子だ。
「欲しいの?」
少し離れたところにいる女の子に対し、スズカさんのぱかプチを見せ、問いかける。本当はボクも欲しいけど、一回で取れた分余裕があった。──攻略法が見つからず十回もやってたら話は別だっただろう。
「……いいの?」
「良いよ、また一回取ればいいからね!」
ボクにおそるおそる近寄って確認をとるその子は申し訳ないとは思いつつも嬉しい様子を隠せておらず、顔が笑顔になっている。
「あ、でも1つだけ約束してもいい?」
「やくそく?」
「スズカさんは戻ってくるって信じていてほしいな。絶対にね」
「わかった!」
「じゃあ、これは君のものだ。大切にしてね」
「うん! ありがとおねーちゃん!」
ばいばーいと手を振って楽しそうに歩いていく女の子に手を振り返して再びクレーンゲームにのぞもうとする。
「百円百円……。
……? あっ」
お、お一人様1個まで……? これもしかして駄目なやつか? 店員に聞くのはちょっとあれだし、どうしようもないな……。
しょうがない、めんどうだけど別店舗行くか。財布から取り出した百円玉を戻し、マップを起動してゲームセンターで検索して行き先を決める。
走ってもいいが、今日はのんびり行くとしよう。そう決心して行きつけの店を出た。
□ □ □ □
上を見上げれば空は快晴、風もなく素晴らしい天気。……少し寒いけど。もう冬であることを嫌でも感じさせられる。
少し視線を落とせば街は人で溢れていて、休日だなぁ……と何とも言えない感想しか出てこない。賑やかなことは良いことだ。
知り合いと会うこともありそうだなと思いつつ、逆に人が多いから少し身長の低めなボクは見つかりにくそうとも思う。……もうちょっと大きくなってカッコよくなりたいな。せめてマックイーンには並ぶんだ。出来ればカイチョーぐらいに……。
実のところ身長は本格化──人間で言う成長期みたいなものだ──のときに一番成長して、その後身長の伸びはあんまり無いらしい。つまりボクの身長は……。
やめたやめた、ボクは希望に満ち溢れた中学生なのだ。まだまだレースも身長も成長の余地は残っている、いや残っててくれ。
少し悲しい気分になって下を見つめる。……そこにあるのは特に変わったこともない、いつも見る自分の足だ。今日も今日とてボクの身体を支えてくれている。でもスズカさんの足は……。
何でこんなに暗い気分になってるんだろう、バカバカしくなり上を向く。こんなに空も綺麗で充実した休日じゃないか。きっと大丈夫なはず。悩んでいたって始まらないって学んだばっかりだ。
ひとまずスズカさんのぱかプチを取りにいこう。部屋の中で
……部屋のぱかプチの量が多くなってきたからそろそろ置き場所考えなきゃ。前にマヤノにあきれられちゃったからな。
□ □ □ □
目的地の別のゲーセンに入り、スズカさんを3回でお迎えしてから音ゲーエリアを回ってみたが、どこも次まで時間がかかりそうだったのでゲーセンを出た。お昼時だったため、少しご飯を食べたくなったからだ。
何を食べるか決めていないので、適当なすいているところを探して入ろうとした時だった。
「テイオー、ちゃんっ!」
「……マヤノ?」
「テイオーちゃんがここら辺にいるなんて珍しいね、どうしたの?」
道の真ん中で後ろからマヤノに話しかけられた。休日に外で会うことは珍しい。
こっちまで来た経緯を説明する。説明を終えるとご飯一緒に食べる? ……あ、でも大丈夫かな、と何とも歯切れの悪い返事をもらった。
誰かと一緒に来ているのだろうか、気になったので質問してみる。
「えっとねー……。
あっ、カレンちゃん!」
どうやらそのお相手さんが来たようだ。見たことあるようなないような……。多分今まで会ったことはないだろう。
「マヤノちゃんお待たせ~。えっと、そっちの子が確か~」
「その、トウカイテイオーです……」
「そうそうテイオーさん! マヤノちゃんから聞いてるよ?
私はカレンチャンっていうの。カレンって呼んでねっ。
テイオーさんとは仲良くなりたいな?」
首を少し傾けてこっちを見つめてくるそのしぐさはとても洗練されていて、もうなんかすごい。
やばい……すっごくキラキラしてる……! ボクと次元が違う……!
強すぎる光に当てられて、直視することが難しい。これが、強者か……。どちらかと言うと
……そうか、ウマスタの人か! 前にマヤノに見せてもらったことがあったはずだ。何でもウマ娘のインフルエンサーとしてめちゃくちゃ有名だとかなんだとか。謎の既視感の理由を理解する。
「じゃあお昼食べにいこっか! テイオーさんもいく?」
「じゃあお願いします」
「……敬語じゃなくてもいいんですよ?」
「テイオーちゃんはいつもこうだから気にしなくて良いよ」
そうして2人に連れられてきたのは、ボク一人なら絶対に入らない──マックイーンとなら入ったかもしれない──ようなスイーツ店だった。休日なので混んではいるがあと20分もしたら入れるだろう。
「テイオーさんはさっきまで何してたんですか?」
「えっと、ゲームセンターで色々と……」
「あ、ウマスタに上げてたのかな? たくさんいいねとウマイート貰えてたよね!」
監視されてる!? いや、ボクのが結構拡散されただけか?
……会話が続かない。なにか話題を……。
「えっと、こういう店って結構来るんですか?」
「うんうん、カワイイを探して色んなところに行くよ♪
テイオーさんはくるの?」
「えっとマックイーン……ボクの友達がこういうところが好きなので、たまに一緒に食べに行きますね」
マックイーンとは本当に学校の帰りとかにたまにくる。でもマックイーンってボクと食べるときぐらいしかいっぱいは食べてなさそうだからな……。少し毎日のようにはちみーをなめていることに罪悪感がわく。
「もーマヤとも一緒に来ることあるでしょ?
テイオーちゃんは大がいっぱいついちゃうぐらい甘々な甘党なんだから、一人で来たりとか……してなさそうだね」
「テイオーさんってやっぱりそういう人なんですね~。
なんか噂通りって感じです」
「……噂?」
「テイオーちゃん噂とか気にしなさそうだよねー」
「気にしてるつもりなんだけど……」
「じゃあじゃあ、テイオーさんのこんな噂が回ってること知ってます?
『実はカンニング常習犯だけど、生徒会に近いから許されてる』って」
「……初めて聞いた」
めちゃくちゃひどい噂だな。どうせいつも勉強もしてないくせに、いい点数取るボクが羨ましいんだろう。
「マヤノはなんか言われないの? マヤノだって授業中よく寝てるじゃん」
「マヤは先生から呼び出されるから不真面目な天才ちゃん☆って思われてるよ?
テイオーちゃんのその噂は噓だよねー。テイオーちゃんっていつもテストを一番最初に解き終わって寝てるもん」
天才ちゃんって自分で言うなよ……。確かに天才だけど。
確かにテストもすぐ寝てるのに。
「……テイオーさんってもしかして走るときと遊ぶとき以外、ずっと寝てるの?」
「マヤノほどじゃないけどね」
「テイオーちゃん? 絶対マヤの方が寝てないけど」
「?」
「あはは、二人ともすっごく仲が良いんだね」
こう考えるとマヤノとボクってめちゃくちゃ似ているな……。でもやっぱ全然違うわ。ボクは経験と貰い物の才能でマヤノは自分の純正品だから。
そうこうしているうちにお次でお待ちの3名様~と席に呼ばれる。連れていかれた席は何ともオシャレな……いやメルヘンチックな席だった。カワイイ。
マヤノとボクの2人とカレンチャンという分け方で席につく。
「じゃあ、どれ頼もっかな~。
えっと~、カレンはこれっ」
「ボクもそれで」
「あれ? ちゃんと選んでいいんですよ?」
「どれも美味しそうだったし、選べないからどうせなら同じやつ食べて味を共有したいな……って」
「じゃあじゃあ、マヤもそれにしよっかな!」
「店員さーん!」
そうして注文を全部任せ、10分ほど待つとパフェが来た。
マックイーン以外と一緒にこういうのを食べるのは初めてだな。
「あっ、テイオーさん! カレンと一緒に写真、撮ってくれませんか?」
「別にいいけど……」
「ありがとうございますっ!」
そう答えるとじゃあポーズこうしてとか指示され2ショットを撮る。ピースとか久しぶりにしたな……。
「『今日は有名なウマッタラーのTei0さんとパフェを食べに来ました~!
#カワイイカレンチャン #お揃いパフェ』っと♪」
ボクはそっと無言でパフェの写真を撮って、パフェ食べに来たと一言添えてウマートする。
これがウマスタグラマーとウマッタラーの違いか……。
「どうして……どうしてそんなに頑張って投稿してるんですか?」
少し気になったことだ。パフェを食べていると何も話さない気まずい空気になりかねないので、話題の提示を込めて言う。
ボクは凄いと思ったことしかウマートしない。基本的に週1で更新するかしないかのペースだ。昔マヤノに聞いたとき、1日に3回は投稿していると言っていた。
「うーん、カレンは楽しいからこれぐらいぜんぜん余裕ですよ?
みんなにカレンのカワイイが届くことが一番うれしいからっ♪」
ボクにとってのゲームで上を目指すのと似ているのだろうか? いやゲームに限ったことではないか。ボクにとって頂点を目指すことが、彼女にとってSNSを通してカワイイを伝えるってことなのだろう。
「じゃ~あ~、テイオーさんはどうしてウマッターをやってるんですか?」
「ボクは……。
多分実績をみんなに知って、褒めてほしいから……かな?」
「なんだか素敵ですね」
知ってほしい、褒めてほしい。褒めてもらえたら自分が上の方にいることが分かる。ボクは相対評価しかできないから。上しか見えない不器用なボクを見てくれるSNSのみんなには感謝している。
────だけど、レースは。レースだけは。ボクが決めたところまで行く。
上が見えなくなったところがゴールだ。
その後も少し話しながらパフェを食べ、一緒に買い物の続きに誘われたが断った。少し学園に戻って走りたくなったからだ。カレンチャンとマヤノには申し訳ないが別れを告げ、学園へと小走りで向かった。
走っている間、さっき食べたパフェの後味がどこか今も頑張っているであろうライバルを思い浮かばせた。パフェとイコールのイメージが脳内にあるようだ。
……マックイーンはもうすぐデビューなのでとても頑張っている。ボクも気を取り直して頑張らなくては。
因みに後日談だが、ウマッターのフォロワーがたくさん増えた。なんか悔しかった。
大変遅くなってしまいまして申し訳ございません。
次回はGW中に何とか……