「ちょっと話をしても良いだろうか?」
「あ……はい」
更衣室から出てきた僕に声をかけてきたのは、この学園の生徒会長その人だった。
なんかまずいことやらかしたかな?とか考えつつ憧れの人が目の前にいることで緊張する。
話が出来る距離にまで近づく。
「良かった、知ってるかもしれないが私はシンボリルドルフという。
まずは今日の選抜レース、観させて貰った。
一着おめでとう。
最後の直線、良い末脚だった」
「ありがとうございます……
えっと、トウカイテイオーです」
ちょっと堅く返してしまうが心の中ではめちゃくちゃ嬉しかった。
でもそれって実際のところ、褒められてるのは僕なのか?
「ふふっ、そう堅くならなくてよい。仲の良い友達のように話してくれると嬉しい」
「えっ…と、友達っていうのがいたことないので、よく分からないです……」
「おや? マヤノトップガンとはそういう仲だと思ったのだが……
まぁ、ずっと立ったままというのもあれだ。時間があれば座ってゆっくり話さないか?」
誘われてしまったら断れない、ましてや憧れの人でこの学園の生徒会長ともなれば尚の事だ。
近くにあったベンチに2人、隣り合わせで座る。
気になったことがあったので勇気を出して話しかける。
「あの……ルドルフさんはなんで僕なんかを待っていたんですか?」
「だからそう堅くならなくても……まぁ無理させるのは良くない。だんだんと慣れればいいさ。
それで何で待っていたかだったね。
テイオー……テイオーと呼んでもいいかい? ……そうか、ありがとう」
僕は無言で頷く。
「テイオーは入学してトレーニングが始まってからずっと何かに取り憑かれたかの様にずっと走っていると聞いてね。
授業もあまり集中して受けてないようだが、教師が当てても完璧に答えてしまうもんだからなかなか注意しにくいらしくてね。
そんな訳だから生徒会長の私の耳にもいろんな声が届くわけさ。
『
ウマ娘にとって精神というのはとても大切だ。
今日も選抜レースで一着を取ったすぐ後なのに、ずっと走っているという情報を耳にして、
もしかしたら話が出来るんじゃないかと思ってトレーニングコースの様子を見にきてみると、ちょうど走っているのを見つけたので待たせていただいたよ」
え、そんなに僕のことが噂になっていたのか。
周りから評価が高いのは少し嬉しい。
ルドルフさんは僕が話を聞いてることを確認したのか話を続ける。
「さっきの様子だと悩み事を周りには話さず、一人で抱え込んでいたのでは無いのか?
どうだ、私を何でも相談出来る友達だと思って話してくれないか?」
憧れの人をいきなり友達だと思って話すのはハードルが高いが、口は思ったより簡単に開いた。
まるで僕が他の人にこのことを打ち明けたかったかのように。
「誰かと競うのが怖いんです。
ウマ娘なのに変な話ですよね、ルドルフさん。
本気で勝ちを目指して勝てなかったときのことを考えると怖くなる。
頂点に執着しすぎたら、また、たぶん、周りが見えなくなっちゃって僕は壊れちゃう。
出来るだけ周りを見ないで走っているときだけが、僕は落ち着ける。
走ってるときは何も考えなくても気持ちよくなれるから。
だから、僕はずっと走っているんです。
周りのウマ娘たちが勝ちを目指して頑張っているのに、僕は考えなきゃいけないことから逃げるために走っているんだ……」
スラスラと言葉が出てきた。
誰にも話していない。
家族には心配させたく無かったし、話せる友達はいなかった。
気が付いた人はいたとしても僕から話したことは無かったのに、だ。
「悪いことなのか?」
「え?」
「頂点に執着してしまうことも。
敗北を恐れるのも。
それはウマ娘として普通の思考だ。
レースに勝者は一人しかいない。
もちろんレースでは沢山の敗者も生まれる。
だからこそ勝者も輝く。
自分が道をハズレようとしたときも、それを止めてくれる仲間がいれば踏みとどまることが出来るはずだ。
そういった経験が1度はあるだろう?」
そうだ、
止めてくれる仲間はいたはずなんだ。
それなのに振り払って前に進んだ。
苦い顔をしていると僕の心情を覚ったのか、少し微笑んで子どもを啓すようにルドルフさんはまた話し始める。
「間違えてしまったものはもうしょうがない。
次からは間違えなければいいんだ。
同じ間違いを繰り返さないことのほうが大切だ。
テイオーは間違いなく強くなれる。
才能も努力もあるはずだろう?」
その言葉に頷く。
自画自賛だが本当にこの身体には才能は溢れんばかりある。
努力と言うのは怪しいが、走ることは周りのウマ娘たちに負けないぐらいしてきたつもりだ。
「僕は……ルドルフさんみたいなウマ娘を超えてウマ娘たちの頂点になれるかな?」
「おっと……ふふっ、いきなり大きく来たね。
私のようになれるかもしれないが、私もそう簡単に負けるつもりはないぞ。
宣戦布告されるのも久しぶりだ。
それでは私もテイオーと戦うときに負けないように頑張っておかないとな」
ルドルフさんが右手をこちらに出してきた。
「ほら、約束の握手だ。
私に勝つのだろう?
その時がきたら全力で闘おう。その約束だ。
こういったシチュエーションをやってみるのに憧れていてね。
悪いが付き合って貰えないかな?」
右手に右手を重ねる。
「これで悩みは少しは無くなったかな? 時間を取らせてしまって申し訳ない」
「こちらこそ生徒会長だから忙しいはずなのに悩みを聞いて貰ってすみません」
「いいんだ。
学園の生徒の悩みを解決するのも生徒会長としての役目だ。
本当は学園の生徒全員と話したいと思っているがどうしても限度があるのでな」
本当に生徒の皆のことを考えている人なんだな。
僕の中の好感度メーターがぐーんと上がった。
「今日はありがとうございました、ルドルフさん。
僕も頑張って勇気出して友達作ってみようと思います」
「いいじゃないか、もし困ったことがあったら生徒会室に来るといい。
何でも相談に乗ってあげよう。
こちらこそ今日は話せて良かったよ」
ルドルフさんと別れすっかり暗くなった道を走って進む。
もうはちみーは今日は飲めないかもと諦めモードだったが、ちょうど片付けし始めていたところだったので滑り込みで作ってもらう。
店員さんにすみませんと謝っていると、
「お客さんいつも同じ時間帯に来るのに今日は遅いな〜って待ってたんですよ。
流石に今日はもう来ないかなって片付け始めてたんですけど、待ってて良かったです!」
いつもより遅くまでやっていたのは、どうやら僕を待っててくれたからのようだ。
「はい! はちみつ固め濃いめダブルマシマシです! いつもありがとうございます!」
はちみーを受け取る。
ひんやりしたはちみーだが人の温もりを感じたような気がした。
はちみーをなめなめしながら部屋に戻るとマヤノは何やらドラマを見ていたようだ。
「あ! テイオーちゃんおかえり! ……あれ? なんか雰囲気変わったね〜、何かあった?」
「なんにもないよ、マヤノ」
「ほら〜やっぱり変わってる! なんか今まではボケ〜ってした感じだったのに、少しボケ〜ってしているのにシャキってしたのが混ざった感じ!」
なんか喧嘩を売られている気がするが気にしないようにしよう。
「マヤノ、僕たちって友達なのかな?」
「何言ってるのテイオーちゃん? 頭おかしくなっちゃった?
マヤちんとテイオーちゃんはとっくのとうに友達でしょ!
急にどうしちゃったの? まさか……! 友達がいないって誰かに言われて傷ついてたの?」
「違う違う大丈夫だって」
「ホントにホント? もしホントに辛いことがあったらマヤはいつでも相談に乗ってあげるからね!」
「ありがとう、マヤノ」
どうやらこんな僕にも素晴らしい友達がいたようだ。
僕も少し周りからは遅いけど、これから頑張って友達増やしていくか!
そう思っていた時期が僕にもありました。
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次の日の昼休み、生徒会室の扉をノックする。
「入っていいぞ」
「失礼します……」
重厚な扉を右手で引き、中に入る。
「なんだ、テイオーか。
どうした?
何か困ったことがあったか?」
その言葉に僕は首を上下に振る。
「そうか……私で良ければ力になろう。
それで困ったこととは、なんだ?」
「と……」
「と?」
「……友達ってどうやって作ればいいんですか……!?」
そう、僕は今まで友達を作ろうとしてきていないコミュ障なので、友達をどうやって作ればいいのか分かっていなかったのである。