トウカイテイオー転生もの   作:ふらんそすきぃ

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動き始めたストーリー

「マックイーン改めておめでと」

「ありがとうございます、テイオー。

 これでまずデビュー……。一勝目ですわ」

 

 年が明けてしばらく経った2月。まだ冷え込みは酷く、手袋が欠かせないような寒さの中、ボクはレース場にマックイーンのレースを見にきていた。

 ボクだけではなく、トレーナーとゴルシとも一緒だが。

 

「緊張した?」

「……えぇ。(わたくし)はメジロ家として……いえ、チームスピカの一員として負けるわけにはいきませんもの」

 

 マックイーンにもそんな意識があったなんて……って真面目なマックイーンのことだ。チームに所属したらどこでも頑張っていただろう。

 ……いやこんなことを考えるのは野暮だろう。だって今マックイーンが所属しているチームはここ(スピカ)なんだから。

 ボクも走るころにはそんな心になっているのだろうか。いやそうでもなさそうかな。このチームは好きだしトレーナーにも感謝しているが、ボクはボクが目指すところに向かって走っていくんだろうなという謎の確信がある。

 

 結局、僕はひとり自分の道を進んでいくんだ。ボクのたどり着く先は王者という孤独なのだから。

 ……カイチョー(今の頂点)はさみしいとか思ったことあるのかな。

 ボクが宣戦布告したときにすこし嬉しそうだったのはそういうこともあるのかも……っていうのは流石に調子に乗りすぎかもしれない。

 

「スピカも強くなったね、トレーナー」

「そうだな。おまえと初めて会った頃とは大違いだ」

「スぺもこの前のアメリカJCCで勝って、マックイーンもデビューを華麗に決めて、流れに乗ってていい感じじゃねーの?」

 

 スぺちゃんは去年日本ダービーを勝ってから負けつづき──と言ってもほとんど掲示板にのっているのでふつうに凄い結果──だったが、ついこの前のG2で勝っていて非常にいいスタートを決めていた。

 

「もちろん私はこの調子で勝っていく予定ですので、さらにスピカは活躍していきますわね」

「おう、マックイーンの次は『若葉ステークス』だったな。メニューはだいたい見させてもらったがあれで構わない」

 

 マックイーンの次走もすぐそこだ。スぺちゃんも春の天皇賞に向けて、トライアルの阪神大賞典が控えている。スピカはどんどん進んでいく。

 

「ボクも今年の秋にはデビューするから皆見といてよ?」

 

 そしてボクもやっとデビューする。

 

「あったりまえだろ? マックちゃんとでっけー横断幕持って応援しに行ってやるよ」

「応援には行きますが、私は横断幕を持ちませんよ?」

「なんだよつれねーな」

「応援に来てくれるだけで嬉しいから、そんなにしてくれなくてもいいんだけど……」

「だってよマックイーン。絶対なんか驚かせてやろうぜ」

「できるだけ私を巻き込まないでくださいまし……」

「じゃあテイオー応援巨大うちわで我慢しとくわ」

 

 いつもの騒がしい3人組って感じだ。だがもうマックイーンはデビューしてボクももうすぐ──といっても半年以上は後だが──デビューする。

 今までのように笑いあえるとは限らない。もしかしたらボクが未勝利を勝てなくて学園を去るってことも……まぁ多分ないが、ある可能性だって存在する。

 

「そっか、マックイーンもこれからどんどん走っていくんだよね……。

 ボクは絶対に応援しに行くからね」

「ありがとうございますわ」

「分かってねーな、マックイーン。

 テイオーは『ボクが応援に行くんだからマックイーンもきてね!』って言ってるんだよ」

「あら、そうでしたか。

 安心してください、私もちゃんといきますので」

 

 別に無理してこなくてもいいんだよ? と言おうか迷ったが、来てくれるのは嬉しいから黙っていよう。

 ボクの最近学んだコミュニケーションテクニック──無駄なことは話さない、だ。相手の厚意に甘えられるときはとことん甘えておこう。

 

「ついにテイオーもデビューか……」

「そうだぞ、トレーナー! 来年のクラシックが楽しみだな!」

「ちょっとゴールドシップさん? 私のクラシックをお忘れですか?」

「痛ぇ痛ぇ! だってマックイーンは菊花賞しかでねーじゃねーか!」

「あら言ってませんでしたか?

 

 ────私もクラシック三冠を目指してみることにしましたので」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 真っ先に驚きの声を上げたのはトレーナーだった。

 

「おいおいトレーナー、お前なんも知らねーのかよ」

「ってことはこの前、次の出走を若葉ステークスにしろってそういうことだったのかよ!?」

 

「えぇ。若葉ステークスで勝って優先出走権を手に入れて皐月賞に出ますわ。

 

 私もウマ娘の頂点というのを見てみたくなりましたので」

 

 そう言うマックイーンの目がボクを突き刺していた。

 

 

 □ □ □ □

 

 

 マックイーンのデビューの次の日の朝。ボクはマックイーンに誘われ、まだ明るくなり始めた空の下でふたりしかいないトラックを走っていた。

 

「マックイーン、思い切ったことを選んだね」

「そうですわね。まだ家の者にはじいやにしか伝えてませんの」

「……大丈夫なの、それ」

「別に大丈夫でしょう。私は天皇賞の盾を手に入れることができれば良いのです。

 しかし今年のクラシックにはメジロ家の者がもう一人いますから、少し向こうの方の関係者(メジロ家の本家寄りの方々)からなにか言われるかもしれませんね」

「ライアンさんだっけ。すごいみたいな話聞くよね」

 

 学園内はライバルが日常生活の中に絡んでくることが多い。そのためうわさは広まりやすいのだ。それは少し前に実感を持って理解した。

 

「えぇ、私もメジロ家の中でも今年は行けるぞという声を結構聴きますわ」

「……マックイーンって最低だね」

「あらそうですか? 私が勝ってもライアンが勝ってもメジロ家が勝つことには変わりありません。それにそもそも私たちが勝つと決まったわけでもございませんの。

 レースに絶対はない。誰しもが聞いた言葉のはずですが……「()()はあるよ」……そうですわね、けれどそれは例外中の例外ですわ。

 

 ともかく、私にこの道を選ばせるように背中を押したのはあなたですのよ?」

「ボクは何もしてないんだけどなぁ。

 それで勝算は?」

「それは……分かりません。ライアン以外にもライバルも多いですわ。

 そもそも私にはレース経験が他の方々よりも圧倒的に不足しています。なにしろ天皇賞を目指して基礎トレーニング多めでやっていたので。

 けれど、やってみないと分かりません」

 

 マックイーンはそう簡単に諦める人じゃないことは分かってる。だけど負ける可能性の方が客観的に考えて高いレースに、自らの感情のために出るような挑戦家だとは思わなかった。

 

「私は三冠ウマ娘に憧れは持っていますが、テイオーほどはこだわりはございません。その気持ちの差で負ける……ということがあるかもしれません。

 ですが戦うのならば、負けるわけにはいきません。

 メジロ家の……いえ違いますね。

 ()()()()()()()()()としての誇りをかけて」

「……!」

「メジロ家のメジロマックイーンとして。

 チームスピカのメジロマックイーンとして。

 トレセン学園に所属するメジロマックイーンとして。

 一人のウマ娘としてのメジロマックイーンとして。

 

 何より────トウカイテイオーのライバルのメジロマックイーンとして」

 

 ひとつひとつに誇りが詰まっている気がしたが、最後のひとつだけは誇りとは少し違った気がする。

 

「あなたは来年の秋には三冠ウマ娘になっていると私は思っていますの」

「わかんないよ、マックイーン。もしかしたら……」

「いえ、私はほとんど確信していますわ。

 だからこそ私はあなたを最強のウマ娘として迎え撃ちたいのです。

 自惚れ甚だしいことを言いますが、私はステイヤーとしてなら今のまま行けばいずれ最強と名乗れる日がくるでしょう。

 ですが最強のステイヤーでは満足できなくなってしまいましたの」

 

 そこで一息つくとマックイーンはボクの方を見てこう言った。「テイオー、今から2000mで勝負してくれませんか?」と。

 ボクは良いよと言うと、会話が消えた。

 

 そうしてゴール板まで2000mになったところで声もない中、ふたり仲良く駆け出した。

 

 

 結果はボクの勝ちだった。直線で躱してそのままゴール。後ろを見ていないから正確には把握していないが、おそらく1.5バ身ぐらいか。

 まだ朝起きたばかりでお互い本調子ではないだろう。しかもマックイーンは昨日レースをしたばかりだ。しかしそんなことは関係ないとマックイーンは言うはずだ。

 これは適正距離の差と言えるだろう。レースの経験はほとんど変わらない。本格化はお互いにほとんど終わった。トレーニングもやっている量はだいたい同じで、質も同じトレーナーだからほとんど同じ。

 

「これが……今の、素の私の力です。

 テイオー、私はまだデビューしていないようなあなたの前にいることすらできない。

 ですので策を使いたいのです。ここからあと一ヶ月、私は何としても勝つ可能性を上げていかなくてはならないのですから」

「……ボク以外から聞いた方がいいんじゃないの? 例えばトレーナーとか」

「もちろん後で聴きますわ。ですが意見は1つでも多い方がいいということです。

 それに、一緒に走ってくれた仲間からの意見が聞きたいのです。トレーナーさんにはウマ娘の感覚はないでしょう?」

「……トレーナーだったらウマ娘の気持ちを理解するためだったらなんでもしそうだけどね」

 

 ボクたちのトレーナーは少しおかしいと少しクスッとしてしまう。

 

「あ、もしかしてボクの手の内を探るつもりだった?

 別にボクは手の内を見せても良いんだけどね。

 見せても勝つから」

「……大した自信ですね」

「もちろん。ボクは勝つよ。

 誰一人例外なく、ね」

 

 それが、僕がボクであることの証明だから。

 

「策か……。レースの乱し方とか? 無意識的にペースをぐちゃぐちゃにさせて相手のスタミナを削ることができたり、仕掛けるタイミングを見失わせることができて強いってカイチョーが言ってたな」

「それは、ちょっと難易度が高そうですね……」

「だよね」

 

 だからとりあえず相手の情報を集めることにした。やばそうな相手を個別に対策していこうという話だ。

 

「弥生賞は見に行く? ライアンさんとか出るんでしょ」

「いえ、私は確実に次の若葉ステークスで勝たなくてはならないので、調整しておきたいのですが……」

「じゃあボクが見に行くよ。来年の役に立つとも思うからね」

 

 ゴルシも連れて行こうと思いながら、今年の皐月賞に出そうなメンバーをリストアップしていく。

 そんなボクにありがとうございますわと言ってくるマックイーンだが、そんな大したことはしていないんだけどなぁ……。

 

 レースは情報戦だ。マックイーンの言葉を借りるなら偵察にもトレーナーとウマ娘で差が生まれるだろう。トレーナーは数値というものを分析するタイプが多く、ウマ娘ならば肌で相手の強さをなんとなく理解するような感覚派がほとんどだ。

 だからトレーナーとウマ娘の関係が良好で情報をやり取りできると好ましいと言われている。たまにいるウマ娘のトレーナーさんとかは感覚のすり合わせとかが人間のトレーナーに比べたら上手くいきやすいのだろうか。

 ウマ娘でデータを分析しまくる人がいたとしても、トレーナーと見る視点は変わってくるに違いない。

 それだけ『走ること』を中心にしているウマ娘は違うということだ。

 

 皐月賞の優先出走権の手に入る3つのレースのうち、弥生賞もスプリングステークスも皐月賞同様の中山レース場で行われるので比較的近めで行きやすくて助かる。若葉ステークスはマックイーンについていくので、トライアルは全部見ることができる。

 中山という皐月賞と同じコースで走ることは本番前に試走できるというように捉えることもできる。

 反対に若葉ステークスは阪神レース場で行われるため、そこがマックイーンにとって不利になる可能性がある。

 ただそんな不利で勝敗が決まるようなレースにならないことは明らかであろう。

 

「それにしても若葉ステークスでマックイーンが勝ったら大騒ぎだろうね」

「何を言ってるんですか? 皐月賞を勝つのですわ。そのぐらいで驚かれても困りますわ」

 

 それもそうだねと答え、これから荒れていく今年のクラシックに思いをはせた。




 物語は動き始めた。
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