トウカイテイオー転生もの   作:ふらんそすきぃ

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進みだしたストーリー

「スズカさん」

「テイオー。こんにちは、いつもありがとうね」

「ボクは話にきてるだけじゃないですか」

「それでもよ」

 

 平日の午後。ローテで決めた軽めの練習を済ませ、練習場の隅でリハビリをしていたスズカさんに話しかけていた。

 

「もう少しで走れそうですね」

「えぇ、トレーナーさんやスぺちゃんが協力してくれたおかげね。……あ、もちろんテイオーや他のスピカのメンバーにも感謝してるわよ」

「いいですって。スズカさんのことを一番支えていたのはその二人なんですから」

 

 スズカさんの足はもう日常生活をするだけならば、気を付けていれば大丈夫のところまで回復していた。あれだけ走れない可能性があった足だが、今は長い間動かしていなかったことによる足の衰えを取り戻す段階であり、これが終われば昔のようにとは完璧には言えないが、走れるようになるはずとトレーナーは言っていた。

 ボクがスズカさんにしてあげれたことはほとんどない。強いて言えばスぺちゃんもトレーナーさんもいないときの話し相手になることぐらいか。

 

「走れるようになりそうということが分かってきて、リハビリも精神的に楽になってきたわ。

 ふふっ、早く走りたいな……」

「きっともう少しですよ。その時はボクと走ってくれませんか?」

「もちろん。誰でも走る相手は募集してるわ」

 

 走るのが大好きなスズカさんはあの頃から変わっていないようだ。スズカさんも戻ってきて、きっと数か月後には昔のような、昔とは少し違うスピカに戻っているだろう。

 

「テイオー、ちょっとい……すみません、お邪魔しました。スズカさんと話してましたのね」

「キリが良かったし別に大丈夫よ。それに今頑張ってるのはマックイーンさんの方でしょ?」

 

 マックイーンがボクを呼びに来たので、会話が中断される。とは言ってもスズカさんが言った通り、キリが良かったのでタイミングとしてはちょうどいい。

 

「それでどうしたのマックイーン」

「併走してもらいたかったのですが、駄目でしょうか」

「うーん……いいよ。ダウンまで付き合ってよ?」

「もちろんですわ」

 

 練習を済ませてアップも終えたが、マックイーンの頼みならいくしかないだろう。

 1回ぐらいローテがずれてもいつもちゃんとやってるから大丈夫だろう。

 しかし最近のマックイーンの鬼気迫る勢いは凄いな。

 

「じゃあね、スズカさん」

「テイオーも頑張ってきてね」

 

 スズカさんに別れを告げ、コース内に向かう。少しでこぼこしていて、足が悪いのならばこれはまだ無理だなと感じてしまう程度には荒れていた。

 

 

 □ □ □ □

 

 

 練習を終え、寮に向かって歩く。

 

「テイオー、はちみーはいいんですの?」

「レース前のマックイーンの前で飲むほど鬼畜じゃないし、最近は寮の冷蔵庫に入れるようにし始めたから大丈夫だよ」

 

 マックイーンの前で飲むのは、目が怖いので飲みたくない。何というか、こう……殺意が。糖質制限しているからか恨みを感じる。

 

「マックイーンどう? 行けそう?」

「行けそうでは……ありません。2000mの間ライアンから逃げ切れるビジョンが見えないのです。

 ですが、やるしかありません」

 

 マックイーンは手を握りしめてそう言う。もう皐月賞を意識し始めているようだ。先日あった弥生賞を見たことも関係してくるだろう。そこでマックイーンのライバル筆頭のライアンさんは勝利をおさめていた。

 

「ライアンだけではありません。アイネスさんもライアンの対抗バとして名乗りをあげています。

 ふたりは切磋琢磨してあの舞台に立つのでしょう。互いに意識して高いレベルにあると思われます」

「……マックイーンにもボクっていうライバルがいるでしょ?」

「そうでしたわね。

 ……ごめんなさい、少し弱気になっていたかもしれませんわね」

 

 ライバルとして名乗れるぐらいはボクたちも切磋琢磨してきたはずだ。そう考えるとなんだかんだ長い付き合いになってきたな。カイチョーに友達の作り方を相談しに行ったこともあったっけ? その後初めてできた友達のようなものがマックイーンだった。

 

「何とかして私の得意なフィールドに持っていくしかないですわね」

「それならレースを高速化させるしかない」

「え?」

「アイネスさんっていう強い逃げと前で競い合ってレースを高速化させてスタミナ勝負にさせるんだよ。

 ライアンさんが冷静に後ろで控えていたら仕掛け時にはもう追いつけないところまで前に出てればいいんだ。アイネスさんが乗ってこなくてもマックイーンが大きく前にいれば焦って前に出てくる子もいるはず。その人たちにアイネスさんを飲み込ませて上がりにくくすればいい。焦って出てきた人たちはスタミナが削られてスパートの伸びが弱くなる。マックイーンもラストスパートの伸びがダメになるかもしれないけど……」

「それは、体力でどうにかしますわ」

「さすが。

 後は皐月賞に向けて体をさらに仕上げるだけだね」

 

 早口でつらつらと言っていってしまったが、結局のところ力が決める。作戦は補助だ。カイチョーが強いのだって作戦を駆使することもあるが、そもそも単純なスペックも他とは違うのだ。策を行使しなくても安定してとは言えないが、ほとんどすべてのウマ娘に勝つことは可能だろう。

 策で持っていけるのは自分が有利な条件までだ。不利条件を覆すような力量差があったら当然勝てない。

 

「まだ若葉ステークスが控えていますがね」

「何言ってるの、マックイーン? 勝てる前提で話してるのはマックイーンの方だったじゃん」

「あらそうでしたか?」

 

 本気でそう思っていたような返事をするマックイーンに、精神的にまいってはないなと少し安心した。精神だけが空回りするのは困るがマックイーンにそれはないだろう。

 

「マックイーンなら勝てると信じてるよ」

「そう、だといいですね」

 

 少し濁った返事に流石にマックイーンもかなり緊張しているのかなと思って、それ以上の期待をぶつけるのはやめた。

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

 練習を終え、お風呂を済ませて洗面台の前に座りドライヤーで髪を乾かしていく。

 鏡に映った自分の顔が疲労具合をまじまじと伝えてくる。

 

「中距離は捨てて、長距離だけに専念するつもりだったのですがね……」

 

 ふと吐き出すように言ったその言葉。その言葉には私への呆れと脳裏に浮かぶ()()()()への感謝と尊敬の意が込められていた。

 肩までかかる髪を丁寧に乾かしていると隣に座る人がいた。誰か確認する前にその人物は声をかけてきた。

 

「あっ、マックイーン。遅くまで頑張りすぎじゃない?」

「大丈夫ですわ。それにそれはライアンにも当てはまるのでは?」

「あはは……。次からのレースは負けられないから」

「えぇ、私もそうですわ」

 

 メジロライアン、私と同じメジロ家のウマ娘。そして──現状私の最大の敵になると予想される相手。

 ライアンとは子どもの頃は同い年ということもあり仲良くしていたが、トレセンに入ってからは昔のように話すことは少なくなった。

 ほとんど入浴可能時刻ギリギリということもあって私たちふたりしかおらず、会話はスラスラと出た。

 

「マックイーンって次のレースって何だっけ?」

「特に何でもないオープン戦ですわ。まだクラシックに向けて調整している段階ですので。

 けれどどんなレースだとしても負けたくない。そうでしょう?」

 

 ふと噓をついてしまった。絶対にバレる噓をついてしまった。何でもないことなんてない。私は皐月賞の切符を手に入れるために、そのオープン戦に出るのだから。

 なぜ噓をついてしまったのだろうか。ライアンにどこか申し訳と思っているところがあったのかもしれない。むしろこの発言が原因でもっと疎遠になる可能性だってあったのに。

 

「わかるよ。あたしだって負けたくない。それにマックイーンはあたしよりも努力家だからね」

「私はあなたがずっと努力しているのも知っていますわ。そんなに自分を蔑むようなことを言わないでください」

 

 ライアンはこうして私と比べるところがある。ライアンと私は全然違っていて、得意なことも苦手なことも、レースの仕方も何もかも違うのに、同じ"メジロ"として見てしまうせいで比べてしまう。

 私としてはライアンには自分の強いところをもっと認めて、胸を張って過ごして欲しい。少なくとも誰にもできないぐらい体を仕上げてきたのですから。

 

「あはは……。マックイーンは強いね。相手の強さを認めることができて」

「……」

「あたしは弱いからできない。だからクラシックで勝って自信をつけたい」

 

 

「……────ライアン、私は皐月賞に出るつもりです」

 

 だから言うならここしかないと思った。私を特別視するようなライアンのプライドを守るために。何よりも私の矜持を守るために、不意打ちのようなことはしたくなかった。

 

「え、でも次の出走って……」

「若葉ステークスです。そこで優先出走権を手に入れて皐月賞に出ます。

 最高の頂き(クラシック三冠)を手に入れるために」

「……っ!」

「あなたの弥生賞での走りを見ました。

 私の知っていたライアンより遥かに成長していましたが、それは私も同じです」

 

 そう一区切りつけると、髪を乾かす役割を終えたドライヤーを置き、ライアンの方を向き立ち上がる。

 

「ライアン、あなたが私をどう思っているのかは関係なく、私はあなたに全力で()みます」

「……望むところだよ、マックイーン。あたしがマックイーンに追いつけるようになったことを証明してみせるから」

「楽しみにしていますわ」

 

 そうして私物を手に持ち自室に戻ろうとする。

 

「マックイーン!」

「……どうしたのですか?」

「ありがとう、今日は話せて良かったよ」

「なんですか、そんなことでしたか。これぐらいお安い御用ですわ。

 どちらが勝っても恨みっこなしですわよ」

「もちろん!」

 

 威勢よくこんなことを言ってしまったが、私には未だにライアンに勝てるビジョンが想像できていなかった。

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

「テイオー、朝からすみません」

「ふぁあああ~。大丈夫、いつもよりちょっと早いだけだから気にしないで」

 

 早朝。まだ太陽も昇ろうと頭を出そうとしているころだ。昨日寝ようと準備しているころにマックイーンからLANEで『明日の朝走るのですが、来てもらえないですか?』と。別にいいと思ったからいいよと返事したら、返ってきたのは想像よりも早い時間に集合しろとのこと。

 めちゃくちゃ眠い。

 

「それにしてもどうしてこんな時間から?」

「もちろんできるだけ多く練習したいからですわ」

 

 だろうとは思ったけど……。それにしても早い。

 

「あんまり詰めすぎて怪我するのも駄目だから朝は軽めにだよ、マックイーン」

「それぐらい分かってますわよ」

 

 故障でよくあるパターンの1つだ。本番前に詰め込みすぎて痛めるも、あと少しで本番だからと我慢して本番後に検査すると悪化しすぎて手遅れになっているというケースだ。

 若葉ステークスの後が本当の本番なのだ。ゆっくり過ぎては駄目だが、焦りすぎても駄目。常日頃の積み重ねが重要になってくる。

 

「いきなりこんなことするようになって昨日何かあったの?」

「……ライアンに宣戦布告をしてきました」

「宣戦布告?」

「えぇ、皐月賞に出ることとそして全力で挑むと」

「それで気持ちを再確認したってことか……」

 

 理屈は分かった。それにしても呼んだ理由が割と本気で走るからストップウォッチ係をやってもらうことだったので、現在ボクは無職だ。そんな寝起きの朝から本気で走ることはとてもじゃないが推奨されたものではない。少しのミスで命取りの速度を寝ぼけているときには出したくないというのはボクの考えだが、確かそんな理由も少しはあるはずだ。あと温まりきってない脚を使うのは、単純に膝に負担がかかる。

 

「勝とうね、マックイーン。できるだけ手伝うからさ」

「えぇ、やってやりましょう」

 

 そうして軽めの速度で時間いっぱい走って、フォームの確認をしつつ膝を温めて授業へと向かった。因みに授業は眠かったので沢山寝れた。




 勝者はいつもひとり。敗者はいつもおおい。
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