マックイーン視点がこの先続くかもしれません
それはおそらくメジロvsメジロとわかりやすい名家の勝負となったからだ。しかもどちらもメジロ家として元々期待されていた二人。こうなってくるとあまりデビューしたばかりのウマ娘を知らない人たちも分かるだろう。『あ、今年の皐月賞は熱いレースになるだろう』と。
私の周りにも話しかけてくる人が増えた。応援の言葉をもらうことも増えた。今までやってきて結果を残してこれなかった人からしてみれば私はとても妬ましいでしょう。急に出てきて皐月賞に出ると言い始めた瞬間から注目され、今や世間の皐月賞の話の6割は私とライアンの二人で占めているだろう。
それだけメジロという名は強く大きかった。今までのメジロ家のウマ娘が残してきた輝かしき功績に舗装された道の上を歩いているだけで注目されるのですから。
だから私はおばあさまに呼びだされた。
「デビューと先日の若葉ステークス、大変見事でした」
「ありがとうございます、おばあ様」
「さて、マックイーン。皐月賞に出るということはどういうことですか?」
単刀直入で呼び出された原因の話を聞いてくる。そして当然その言い訳は考えてきていた。
「
「……天皇賞のことはどうお考えで?」
「クラシック路線で経験を積むことが、今後のレース──天皇賞のためになるという判断のもと、トレーナーと決定しました」
「ではあくまでも最終的な目標は天皇賞だと」
「そうですわ。私の目標は天皇賞なことは今も昔も変わりませんわ」
ぜんぶ真っ赤な噓。決めたのは私自身。ただの私のわがまま。
テイオーという太陽を見ていて焦がれてしまっただけの哀れなウマ娘が私。分家ですがエリートとして本家に迎え入れられ大切に育てられたのに、外の世界に触れた途端夢にくらんでしまった箱入り娘。
「わかりました。……そういうことであれば目をつぶりましょう。
ただし、あなたはメジロという看板を背負っていることをゆめゆめ忘れぬよう」
「それも分かっておりますわ」
おばあさまもそれは分かっているのかもしれない。けれど私がメジロを捨てず、誇りに思っていることも分かっています。だから許してくださったのでしょう。天皇賞を取るのならば、という条件を付けて。
無論天皇賞を落とすわけにはいかない。
そもそもこれはメジロ家としての目標が無かったとしてもですが。
おばあさまとの話が終わり、部屋を出て廊下を歩いているとドーベルがいました。どうやらドーベルもこちらに気が付いたようで、こちらに寄ってくる。
「あっ、マックイーン。聞いたよ、皐月賞出るんだって?
えっと、その、なんていうか……頑張ってね! 応援しに行くから」
ドーベルからの言葉は応援の一言でした。
「ありがとうございますわ。ライアンの方の応援はいいんですの?」
「え、えっと……ふたりとも応援してる……よ?」
「私ではなく、ライアンを応援してあげてください。
私はあくまでも本命ではないようですから」
言ってから少し間違えてしまったと耳をパタンと倒すドーベルを見て後悔する。
ドーベルは純粋に応援してくれているというのに。少しいじわるしてみたいという気持ちと、先ほどの会話によってやはり本命と思われているのはライアンだと自覚してしまったことからの自虐的な発言は私らしくなく、その場の空気の面でも良くなかった。
「……そんなこと言ってもアタシは応援するから」
「……ありがとうございます。
でも、ライアンには少し気が引けますね」
「絶対ライアンはそんなこと気にしてない、この前はマックイーンに勝つんだってずっと言ってたんだから」
「それは……期待に応えなくてはですね」
ドーベルの優しさに甘えてしまう結果になってしまいました。ライアンとドーベルには落ち着いたときに謝りたい気持ちでいっぱいになる。
「では私はこれで失礼しますわ」
「あ、うん。……じゃあね」
逃げるようにドーベルに別れを告げて、トレセンに戻るために玄関へ向かおうとする。
「……でも、今のマックイーン。今までで一番楽しそうだよ?」
そのとき私は後ろから聞こえたドーベルのその吐き出すような微かな言葉を、聞こえないふりをしてその場を去った。
私はメジロでなくてはならないのだから。家のことを忘れて楽しむために走ることは許されない。
外に出ると門で爺やが迎えてくれた。後部座席に乗り込み、肩の力を少し抜いた。
「爺や、トレセンまで飛ばしてください」
「わかりました、お嬢さま。安全に、なおかつ迅速にお届けします」
少しでも早く走って周りとの差を埋めたかった。今の私は挑戦者だから。
ふと外の景色を見ようとした窓に、口角の上がった私の顔が反射していた。
「こんなに、楽しそうにしていたのですね……」
「どうされましたか?」
「いえ、なんでもないですわ」
思った以上に楽しんでいそうな顔をしていたため、これではおばあさまにばれてしまう訳だと納得する。
すると運転席から声が聞こえた。
「マックイーンお嬢さまは最近楽しそうに走っていて私は大変うれしく思います」
「……爺や?」
「これはただの独り言です。
マックイーンお嬢さまはいつもメジロのことを考えておられて、そんな中で自分の目標を自分で決めなさって頑張っていらっしゃる。ですので私はもっと楽しんでもいいと思います」
私は返事はしなかった。
そしてそっと人差し指で頬を下に引っ張った。
いつものようなクールな雰囲気を纏いなおし空を見上げると、太陽が雲1つない空を焼いていた。その光は少し私には強かった。
□ □ □ □
「トレーナーさん、メニュー終わりましたわ」
「おう、じゃあダウンして今日は終わっとけ」
「わかりましたわ」
トレセンのスピカの割り当てられている練習場で今日も決められたメニュー通り走る。
今使っているメニューはいつもやっていたメニューをトレーナーさんが皐月賞前だからというアレンジを加えたものだ。
ベンチに座って水分補給をしていると、よぉ! とゴールドシップさんが後ろから声をかけてくる。
そのまま横に座ると会話が始まった。
「マックイーン、どうよ? いけそっか?」
「調子は申し分ございませんわ。しかし、勝てるかは不安です。トレーナーさんやテイオーは勝てると言いますが、そんな実感はございませんの」
「まっ、そんなもんなんじゃねーの?
結局結果が無いと実感なんて湧いてこねーからな。マックちゃんが思っているよりも周りに評価されているのかもしれねーし、それが過小評価かもしれねー。
つまり走り終わるまでわかんねーつーことだ」
いつも破天荒で周りを見ているのか見ていないのかよくわからない彼女は、ときどきまともなことをいう。そのときどきはこういった誰かが困っているときがほとんどだ。
「そうですわね。まずは皐月賞で勝つ、それだけを見据えてそこまでにできることをやるのみですわね」
「そういうこった! ってことで今日はしっかり休むんだぞ?」
「分かっていますわ」
そのことはトレーナーにもテイオーにも口酸っぱく言われている。前にオーバーワークしそうになっていたことをふたりにゴールドシップさんが告げ口したからのようだ。
量より質だよ! とテイオーに言われたときに説得力が無いと思ってしまったことは黙っていようと思います。
「マックイーンもゴルシもおつかれ~」
「テイオーもお疲れ様です」
そうやって会話に途中参加してきたのは先ほどから脳内で登場していたテイオーだった。その手にはスポーツドリンクが3本あり、それを1本ずつ私たちに差し出してきた。
「ありがとうございます、テイオー」
「気が利くじゃねーか」
「ゴルシはマックイーンのおまけだよ?」
「あ!? 喧嘩か!?」
言っとくけどボクはまだゴルシとは走らないからね!? と喧嘩を回避しようとしているテイオーを見て笑ってしまう。このふたりも私の知らない繋がりがあるのだろう。でなければまだゴルシとは、なんて会長さんと走ったテイオーがいうはずありませんから。
「はー、マックイーンのレースまであと少しか……。なんか緊張してきたなぁ」
「分かるぞ、テイオー。ま、ゴルシちゃんはマックイーンの勝利を疑っていないから、マックイーンの勝ちにはちみー代かけてやってもいいぜ」
「ボクもマックイーンの勝利にかけるから賭けは不成立だね」
「それもそうだな!」
「ちょっとふたりとも。それほど期待されても困りますわ」
「何言ってんだマックイーン。友達の勝利を信じてくれる良い仲間だろ?」
「ゴルシ、それは自分で言っちゃだめだよ」
ちょっといつもとは違うであろう私の前でも普段通り接してくれるふたりは私の精神を大変落ち着かせてくれた。
「ふたりにはいつも感謝しておりますわ」
だから一呼吸を入れて目を開き、ふたりに堂々と宣言する。
「だから見ていてください。メジロマックイーンというウマ娘のスタートを」
「へへっ、しょうがねえな」「当たり前でしょ?」
私はここからメジロ家を背負っていくメジロマックイーンという役だけではなく、トウカイテイオーという太陽に魅せられて最強に憧れたただの上を目指し続けるウマ娘のメジロマックイーンという道化としてのストーリーを進めよう。
【メジロマックイーン先頭だ! メジロライアンも上がってくるも届かない!
マックイーンだ! マックイーン! メジロでもマックイーンの方が今一着でゴールインした!!!】
だから勝てたとき、私は確実にさらに上の世界が見えていた。これがテイオーの見たかった世界なんだとも理解した。
そんなことを考えるタイプでもないと思っていたのですが、あと2つと思う私がそこにはいた。
挑戦者が挑戦者で無くなったとき、あの時の情熱はどこへ行ったのだろうか。
掲示板形式って需要ある?
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無いと呼吸ができない
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なんか、こう、読みたいです!(語彙力)