明日の更新はお休みです。
どんなに準備していたことだって終わるときは一瞬だった。結果がどうであれそれは一瞬で終わることが多い。
テストが始まるまでは緊張して今までの勉強は大丈夫だったか心配しているが、テストは始まればすぐに終わってしまうように。
限定のスイーツを手に入れるために朝早くから列に並んで手に入れても、食べるときはいくら味わったとしても一瞬でなくなってしまうように。
今回もスタートしてからの記憶がほとんどなく、いつの間にかゴールしていた。
私が勝ったという情報は、アナウンスでも掲示板でも、そして手応えでも感じていた。しかしあまりにもそれは一瞬の出来事のように思え、実感はできていなかった。
「マックイーン……」
「……ライアン」
勝てたことにはっきりと脳が気が付いたのは、悔しそうなライアンの顔を見てからだった。
「マックイーン、おめでとう。
……ごめん」
「ライアンっ! ダービーで、また戦いましょう」
「……っ!」
おめでとうだけを告げて去ろうとするライアンを呼び止めて、再戦の約束をしようとするが逃げられてしまう。その背中に以前から抱いていた罪悪感の存在感が増す。
どこからすれ違ってしまったのだろうかと考えるが、その答えは持ち合わせていない。
「ライアン……」
「マックイーンちゃん、今はそっとしてあげて欲しいかも」
「……アイネスさん」
そんな私に声をかけてきたのは、ライアンの親友──今のレースでは3着であった──アイネスさんだった。
「あはは、ライアンちゃんはずっとマックイーンちゃんのことを意識していたみたいだから、少し落ち着くまで待っていて欲しいの」
「……わかりました。ライアンが強いのは分かっています。私の前に必ず現れますわ」
ライアンは強い。このレースで二番人気だったことからもその強さが評価されていることは容易にわかるだろう。因みに一番人気は目の前にいるアイネスさん、私は三番人気だった。
「それにあたしも今回は負けちゃったけど、次も負ける気はないの」
「えぇ、私も譲るつもりはありません」
次というのはもちろん日本ダービーだ。クラシック路線で一番重視されるレース……いや、一生でダービーさえ勝てればいいと考える方もいるほどには重要視されているレース。皆さん血眼になって勝ちにくるだろう。そしてそれは私も同じ。
そうして日本ダービーに思いをはせているとアイネスさんがこちらに左手を突き出してきた。その顔は非常に獰猛で、いつもの爽やかな印象とは離れている。確実に首元に食らいついて噛みちぎってやるという闘争心の剥き出しの顔だ。
「握手だよ、ライバルとしてのね!」
「
「うん!」
左手の握手は敵対の意。仲良しこよしではなく、本気でやり合いたいという思いでしょうか。
そしてそれを私は正面から受け止める。そのときの私の顔も笑っていたに違いない。
「では、アイネスさんもまたダービーで」
「マックイーンちゃんもね! 次は負けないよ!」
その風格は次戦うとき、絶対に強敵になるという確信があった。
そうしてアイネスさんと別れ、私の控え室に戻ろうとしている時にそれは聞こえてきた。
「ぜんぜん駄目だった! 観客の皆はメジロの二人ばっか見てたし、結果を残したのもその2人!
私なんか誰にも注目してなかった!」
扉越しに聞こえてくるその声は、聞こえてくる音量とは裏腹に物凄い思いを感じられた。中でトレーナーと思われる人がなだめようとしている声も微かに聞こえてくるが、彼女ほどの声量はないので内容までは聞き取れない。
「勝てると思って挑んだ! トレーナーもそう言ってくれたよね? 勝てるって。
でもこの結果は!? 実際は相手にもされてなかった! 私が勝てる要素なんてあったの……?」
すると泣きながら扉を勢い良く開け、通路に出てきたところで私と目が合ってしまった。顔をすぐにそらされ、私が来た方向にかけていった。扉から出てきたトレーナーが申し訳なさそうにこちらを見つめてきた後、一礼してさっきのウマ娘を追いかけていった。
それは完全な事故でしたが、あの悲痛な叫びと苦しそうな顔が脳裏にこびりついて離れなかった。私はあの人の名前も知らない。どこで走っていたのか、何着だったのか、枠も人気もすべて知らなかった。ですが、あの人も確実に全身全霊をかけてこのレースを走っていたことは伝わってきた。
そんな彼女の夢か目標かを奪い取ったのは────私だった。
「どうした、マックちゃん?」
控え室に戻るとゴールドシップさんだけがいた。パイプ椅子にもたれ掛かってリラックスしている普段通りの彼女は、まず私の勝利への祝いよりも先に気持ちの変化の方に問いかけてきた。そんな彼女だからこそ少しならさらけだしてもいいと思えてしまうのでしょう。
「……勝つということは、誰かを負けさせるということなのですね。分かっているつもりでしたが、こんなに皆さん真剣に向き合っているとは思いませんでした」
「そりゃあそうだろ。G1に出てくるような奴なんてエリートもエリート。ずっと走ってきて努力をしていない時期などほとんどないようなやつらだ。負けたことはほとんどねぇし、負けたとしても掲示板には入ってくる。そんな奴らが勝てないと思い知らされたらおかしくなっちまうのは道理よ」
「いえ、私は私の浅はかさを言っているのです。三冠を目指すということ、上を目指すということ。
それは多くの人の夢を潰しながら進んでいくことだと気がついておりませんでした」
何も知らずに自分の目標だけを見て勝ってから気がついた、それは周りも同じだったという事実。
それは純粋に喜ぶことができなくなるほどまではいきませんが、喉に魚の小骨がつっかえたようなそんな感覚を生み出していた。
「テイオーは……」
だから真っ先に思い浮かんだのはこの道を選ぶきっかけになった彼女のこと。
「テイオーは、分かってこの道を選んだのですかね」
「あいつは分かってる。それを分かっていても自分の夢を、目標を捨てることができない。あいつは思っている以上に自己中心的な奴なんだろうぜ」
なんてったってウマ娘の頂点になるなんて言ってるんだからな、というゴールドシップさんの言葉にやはりテイオーは強いなと再確認する。私はそこまで自分を中心に考えることはできなかった。
「で、マックイーンは諦めんのか? 皆の夢を守るために走るのをやめるのか?」
「私がそんなことをするとお思いで?
────それならばその者たちの思いを侮辱することになりますわ」
これだけは自信をもって言えた。
「分かってるじゃねーの」
「私は多くのウマ娘たちの夢をたたき割ることがあっても、その壊してきた数だけそこに私の道が刻まれますわ。
そうすると決めたら最後まで突き通すのみ。
いきなり夢を壊した相手がこれからはそんなことがないように走るのをやめる……なんて許されていいはずがありませんもの」
私はこれから多くのレースを勝とうと道を歩んでいく。そしてそこで勝つたびに何人ものウマ娘たちに敗北を突きつけることになるのですから。
だからこそ、私は負けた相手のことを振り返らず前に進む。私は気にしなくとも、負けた人たちはまた相手として現れるのだから。
「それにゴールドシップさん、私はメジロ家を背負っていくのです。たった十数人のウマ娘の思いだけでへこたれるわけにはいきませんわ」
メジロ家のものとして勝つことは家のためになる。家の発展と栄華のために走っている私にとって避けて通れぬ道。
「マックちゃんのことを心配したけど、なんか損したぜ。ま、次も頑張っていこーぜ。
ダービーはすぐそこだ」
「えぇ」
ダービーは待ってくれない。残りの1ヶ月半、全力で備えようと気持ちを入れ替えた。
□ □ □ □
「マックイーンおめでとう」
「ありがとうございますわ」
学園に戻って祝賀会を終え、私とテイオーは寮の近くに設置されているベンチに腰掛けながら話していた。
「それにしてもマックイーンが皐月賞ウマ娘か……」
「どうしたんですの? まだ1つ目じゃないですか」
「本気で三冠ウマ娘になるつもりなんだ」
「えぇ、やるからにはそのつもりですわ」
「マックイーンは……菊花賞はなんか行けそうな気がする」
「お得意の勘ですか?」
「うん。
でもダービーはよくわかんないな。やっぱり一番運のいいウマ娘が勝つって言われているからかな」
テイオーの勘は結構当たる。たまに外れるので安心はできないが、1つの指標とはなるだろう。
「運だろうと引き寄せてみせますわ。それに私、運ならある方だと思いますので」
「あっ、確かに。この前スイーツのなんか抽選の限定品当てて美味しそうに食べてたらしいし」
「どうしてそれを!?」
あれは誰にもばれないようにわざわざ他のメジロのトレセンに通っているメンバーがいない時を狙って、本家の屋敷で食べてきたのに。
すると思わぬところから犯人が分かった。
「じいやさんに教えてもらったんだ。
マックイーン嬉しそうだけど、何かあったの? って聞いたら教えてくれたんだ」
主人の秘密を平然と言って……いや、いつの間に仲良くなったのだろうか? 話したい話題はそれではないのだ。
「……まぁいいですわ。だから今私がすべきことは手の中に勝利が転がってきたときに離さないような力を付けること。
運のいいウマ娘が勝つといわれますが、運だけでは勝てませんもの。
ですので明日からまた練習に付き合ってくれませんか?」
「いいよ。……って言っても、言われなくてもやるつもりだったけどね」
「ありがとうございますわ」
私もテイオーならいいよと答えてくれると信じていました。いままで断られたことがないので、断る様子が想像できないだけかもしれないけれど。
「ボクもマックイーンみたいに頑張らないとね。
……デビュー早めてジュニアG1狙ってみようかな」
「ちゃんと目標で定めたレースに向かって整えていった方がいい……と言いたいところでしたが、私が言えた立場ではありませんでしたわね」
天皇賞を目標にもともとクラシック路線はおまけだったのですから、こうして全力で今取り組んでいることは昔では想像もしなかった……いえ、想像しても実現するとは考えていませんでした。
「これでクラシック路線に出たせいで故障なんかしちゃったら、なんて言われちゃうんだろうね」
「大丈夫ですわ。オーバーワークの時はあなたやトレーナーさんが止めてくれるでしょう?」
「あんまり過信しすぎないでよ……。別にボクはトレーナーってわけじゃないんだし、トレーナーに見てもらって……ってあの人も結構放任主義だからなぁ」
「自己管理もできるようにしていきませんとね」
頼らないようにと言っているがテイオーはオーバーワークだけは過剰に反応する。過去の色々な会話からそれに少なからぬトラウマを持っていることは確かだ。だというのに当の本人はオーバーワークを繰り返しているのに、医者の不養生みたいなものでしょうか。
「なんかはちみーが飲みたくなってきたな。この時間だと店もあいてないし、冷蔵庫から取ってくるか。
マックイーンもいる?」
「……少しぐらいはいいでしょう。今日は飲んでも大丈夫でしょうし」
「! 急いで取ってくるね」
「急ぎすぎて怪我しないようにしてくださいよ」
普段なら絶対に飲まない時間帯の、しかもカロリーの塊のはちみーだが今日ぐらいはいいでしょうと甘えてしまった。
明日からのトレーニングで消化しきれるだろうと楽観的な希望を胸にテイオーが戻ってくるのを待った。
ふと見上げた空には星がかかっているわけでもなく、ほとんど丸な月だけがその存在感を示していた。
────それがまるでレースの世界のようで、少しだけ私に重ねた。
たとえ月でさえも太陽がある時はほとんど見えなくなってしまう。
掲示板形式って需要ある?
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そんなに……
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あったら読む
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読みたくてやばい
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無いと呼吸ができない
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なんか、こう、読みたいです!(語彙力)