トウカイテイオー転生もの   作:ふらんそすきぃ

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ダービーまであと少し!

「あら」「おっとっと」

 

 早朝。朝日が顔を出し終えて、さらに上に行こうとするぐらいの時間帯。

 テイオーを誘うのは少し可哀想と考え、ひとりで学園の外周を走っていると最近よく見る顔があった。

 

「おはようございますわ、アイネスさん」

 

「おはよ~、マックイーンちゃん。

 随分と早いね。まだレースが終わってから1週間も経ってないのにこんな時間から練習なんて大丈夫?」

 

「お気遣いいただきありがとうございますわ。ですが、私は次のレースがすぐそこに控えているので仕方ありませんわ。

 そういうあなたこそこんなに朝から大丈夫ですの?」

 

「へーきなの! ちょっと次のレースに向けてやらなくちゃならない量が少し増えたから心配だけどね?」

 

 ああ言えばこう言う。ライバル……というよりも古くからの友人のような会話のようにも聞こえる。

 こんな関係の──バチバチしていると表現したらよいのでしょうか──人は今まで存在しなかった。こういった会話はテイオーとたまにすることはあったが、どちらかというと仲間という意識があったため、これとは少し違う気がした。

 

「ふたりとも朝から早いね!」

 

 そんな早朝からバチバチとしていた私たちの会話に参加してきたのは、これまたライバルのライアンだった。

 

「ライアンも朝から早いですわね」

 

「もちろん! 今度こそ二人には負けないよ!」

 

 皐月賞のことで心配に思っていましたが、そんな様子が見えないため大丈夫でしょう。

 ……なんて傲慢な考え方をしているのでしょう。1回勝ったぐらいで、まるで自分の方が上だと考えているなんて。

 

「じゃあ、またっ! ダービーで勝つのはあたしだから!」

 

 なんてよそ事を考えていると、呼吸を一通り落ち着かせたアイネスさんは帽子をかぶり直し、来た方向とは逆に走り始めた。

 考えるのは今ではありません。意識を変えてやっていかなくては。

 

「私たちも練習に戻りますか、ライアン」

 

 そうやって走り出そうとしたときのことだった。

 

「……マックイーン」

 

 ライアンから神妙な面持ちで声をかけられたのは。ライアンから聞いたこともないような声色で声をかけられたため少し緊張が走る。

 

「……どうしたのですか?」

 

「その……前はごめん。逃げ出しちゃって」

 

「なんだそのことですの。

 私はぜんぜん気にしておりませんわ。

 もし気にしていると思うならばダービーで」

 

「……うん!」

 

 ダービー、ダービーです。

 ()()()()()()()()()()

 

「……ふふっ」

 

 ふと声が漏れてしまった。

 天皇賞だけを目指し、クラシックなんて興味を持たないようにしていた私の変化に。

 

 

 □ □ □ □

 

 

 スピカの部室に集まってトレーナーさんの作戦会議が開かれようとしていた。

 トレーナーさんはマンツーマンと言っていたが、おそらく冷やかしで来たゴールドシップさんと無理やり連れてこられたテイオーがいた。

 けれど、トレーナーさんは気にせず始めるようだ。

 

「マックイーン、お前に弱点らしい弱点はない。だが、敢えて言うとするならばそれは爆発力の少なさだ。

 安定していることはとても良いが、ここ一発とかけてきた奴に差し切られる可能性がある」

 

「えぇ。それはわかっております」

 

「あとは単純に力の差が大きい時だな。皐月賞のときのように少しの差なら、作戦勝ちでどうにかなるはずだ。

 ……と、言ってきたが何が伝えたいかわかるか?」

 

「……いえ」

 

 想像ができない。ですが、私の弱い点はよくわかっている。

 例えばテイオーのタイプに私は弱い。テイオーは頭を使って作戦を練っていますが、本質的にはどこで自分の力を解放するか考えているだけ。本人の力が強いから基本的に爆発した力を使わなくても良いのですが、ここぞというときに──例えば少し前にルドルフさんとやったときのように──有り得ないぐらいの力を絞り出してくる。だから、テイオーにはあの力を使わせてからが本番なのだ。

 反対に私には爆発力がない。展開によって力の強弱はあれど常に一定。出せる力の全てを出すことしかできないから、全力のさらに上を出すことができない。だから格上には勝てない。

 

「つまりだ。俺の考えたお前が一番勝てる方法は爆発力を身につけることではない。

 周りが全力以上を出してきたとしても、策でどうにかできるぐらいの差をつけるために強くなることだ」

 

「それって今まで通りやっていけということでしょうか?」

 

「そうだ!」

 

 よくわかっているじゃないかとに言うトレーナーさんに場が凍る。私を含め三人とも全員が「今何でここに集められたのか」と、疑問に思っているはずである。そんなことは別に今更言われても……という感じである。

 

「おーい、長ったらしく言うような内容でもないじゃねーかよ」

 

「そうだよトレーナー。それなら早く練習はじめよーよ」

 

「おいっ、俺が本当にいいたかったことはこれからなんだ」

 

 回りくどいトレーナーさんに嫌気がさしたのだろう、テイオーとゴールドシップさんがトレーナーさんを急かす。と言っても、ふたりは聞く気は満々のようだが、急かすことで早く結論を言ってもらいたいようだった。

 あと一押しという雰囲気に、ふたりは私に目配せをしてくる。……まぁ、ふたりの作戦に乗ってもいいだろう。

 

「テイオーもゴールドシップさんも行きますわよ」

 

「うん」「さんせー」

 

 ふたりとも私の意図に気が付いたように外に行く準備をするふりをする。

 

「おいおいおいおい! 悪かった! 手短に済ませるから、頼む!」

 

「なら早く言えって」

 

 急いで私たちを止めるトレーナーさんから欲しい言葉が聞けたので元の位置に戻る。

 トレーナーさんは咳払いをして会話を再開する。

 

「それでだ。マックイーンのスタミナはもう十分と言っていいほどある……ってわけでもないが、このままなら適当に何をやっていても菊花賞を勝てるぐらいにはスタミナは成長する……はずだ。

 てことで、スタミナが足りてるから今度はパワーだな。そういうわけでマイラーのような練習するぞ」

 

「おい、さっき爆発力は鍛えないって話じゃなかったのかよ?」

 

「何言ってんだ。安定してスパートでマイラーの力が出せれば強いだろ?

 ……おい、なんだよその目は?」

 

 トレーナーさんの言いたいことは分からないこともない。だが少しこじつけな気もする。

 

「まぁ、トレーナーさんの言うことにも一理ありますわ」

 

「だろ?」

 

「いや、ないと思うけど……」

 

「スズカを見ればわかる。スズカが中距離でも強いのは爆発力じゃなくてマイルの速度を常に中距離でも出しているからだろ?」

 

「たし……かに?」

 

「おい、テイオー騙されるなよ。

 スズカの戦法ができるなら誰でもやってるんだ。机上の空論がなんかのいたずらで実現しちまったのがスズカなんだよ。

 やったら強いとやれるかは別だぞ?」

 

 スズカさんの走り方は最初から最後までずっとスパートと言っても過言ではない。そんなことが短距離はまだしも、マイル、さらには中距離でやられてしまっては勝てるはずもないだろう。

 私にあれをやれと言ってるのでしたらもちろん不可能でしょう。

 

「まぁ、あんなにうまくいくことはないだろうな」

 

 だが、と置いてトレーナーさんは続ける。

 

「その練習をしていく中でマックイーンなりの道が見つかるんじゃねえのか……と、俺は読んでいる」

 

 走り方は十人十色。それを見つけるのは私次第。

 ……なかなかに放任主義らしいトレーナーさんの考え方ですね。

 最終的な選択や判断をウマ娘に任せることはあの家ではありえなかったことで、このチームで初めて知ったこと。

 別に今までに不満があるわけではない。一人一人最高の人材が集められているメジロ家で走ることに関しては最高の教育を受けてきた自覚があり、感謝もしている。

 

「物は試し。駄目でしたら別の方法を考えましょう」

 

 けれど、今はこの自由が

 私も随分とこのチームに慣れてきたということでしょうか。以前なら駄目かもしれないことなど、挑戦しようとはしなかったのに。

 

「さぁメニューを出してください。行きますわよ、トレーナーさん」

 

「よしっ、それじゃ行くか。

 ついでだしお前らもついてこい」

 

 えー、と言いたげなふたりもしぶしぶ出ていき、新しい練習が幕を開けた。

 

 □ □ □ □

 

「すみません、イクノさん……」

 

「私がやりたくてやっていることなので大丈夫です」

 

 大きく変わった練習内容に、体が上手く動かせないぐらいへとへとになってしまったので、私はベッドの上で寝る前にイクノさんに髪の毛や尻尾の手入れしてもらっていた。

 

「マックイーンさんは凄いですね」

 

「……? どうしたのですか、イクノさん」

 

「いえ、ただ私の不甲斐なさを嘆いていただけです。マックイーンさんはずっと努力なさっていて、その成果をデビューしてからずっと発揮なさっていますから」

 

「イクノさんが頑張っているのは知っていますわ。いえ、これを私が言うのは嫌味のようでしたね。

 なんと言ったらいいのでしょう……」

 

 イクノさんは私の後ろにいるためその表情は見えない。

 こういったときに何を言ったら良いのか分からなくなる。

 

「いえ、言葉にされなくても十分です。マックイーンさんがそう考えてくれているだけで嬉しいです」

 

「……すみません」

 

「謝らないでください、マックイーンさんが悪いわけではないのです」

 

「……そうかもしれません。しかしレースで勝っても周りを傷つけているばかりなのではないかと思ってしまうのです」

 

 疲れているからだろうかちょっとした弱音を吐いてしまう。メジロマックイーンとしては駄目なのに。

 

「貴女の活躍する姿から勇気を貰っている方は沢山いると思います」

 

「そう、ですの?」

 

「はい。中距離は苦しいと言われていたステイヤーである貴女がレースの主導権を握って一着を取った姿に、私ももしかしたら諦めていただけなのかも頑張ってみよう、という声を学園内で聞きました。

 他にも多くのファンがついてきたということも聞いています」

 

「ふふっ、そうだったんですの」

 

「どうされましたか?」

 

「いえ、私は近くしか見えていなかったのだなと思っただけですわ」

 

 視界が狭まりすぎていたのかもしれない。

 駄目ですわね……。これからメジロ家を引っぱっていく者としてもっと視野を広げなくては。

 

「マックイーンさん、何か悩んでいたらいつでも言ってください。

 ほとんど聞くことしかできないでしょうが少しでもお力になりたいです」

 

「ありがとうございます。

 あっ、ではあまり悩みとは関係ないのですがいいでしょうか?」

 

「ええ、勿論です」

 

「実はですね……」

 

 

 

 




 『自由』は難しい。
 手に入れることも、その中で行動することも。

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