友達を作ろうと思ったが序盤も序盤で躓いた僕はルドルフ会長に相談に行った。
結論から言うと、天下のトレセン学園の生徒会長様にもよく分からないらしい。質問した途端、困り顔になってしまっていた。
どうもルドルフ会長は気軽に話してくれる人はとても少なく、話しかけても生徒会長としての立場もあるようでなかなか友達になるような感じにはならないそう。
取り敢えずダメ元で僕以外にも友達がちゃんといるマヤノにも聞いてみた。
「友達の作り方〜?
いろんな人のことを見てね、
『あ!この人、気が合うかも?』って思う人に話しかけるんだよ!
そしたらだいたい仲良くなれるから!」
……??
天才は友達の作り方も天才的だった。
まず、気が合うか全く分からない。
そして僕は自分から話しかけられない。
残念ながらコミュニケーションスキルが0に等しい僕には参考になりそうも無かった。
結局、僕には友達が増えなかった。
いや、ルドルフ会長はもう友達と言ってもいいかもしれないほど、僕は仲良くなったつもりだ。
別に作るのを諦めた訳ではない。
何度も生徒会室に遊びに行ってルドルフ会長と
「テイオーもトゥインクルシリーズに参戦するのなら、いつかチームに入るはずだ。
その時にチームメイトと仲良くなるのでも遅く無いんじゃないか?」
ルドルフ会長の言ったとおり、来年からトゥインクルシリーズに参戦するのなら、シリーズが始まる前までにチームに所属しなくてはならない。
確かにそれなら今いなくても出来る希望が見えた気がしてきた(気がしているだけだ)。
そういうことで、所属チームって何処がいいんですか?と相談しに行ったが、
「良ければ
テイオーが持っている実力ならば選抜テストを乗り越えられると思うのだが」
と、ルドルフ会長からのお誘いを頂いたので、どんなチームなのか今度見に行ってみようと思う。
チームかぁ……選抜レースや定期的に開かれる模擬レースに出ているが今のところ負けていない。
そのことは、トレセンにいるトレーナーの耳には届いているだろう。
負けていないのは、当たり前だ。
もともと走りこんでいて力はあるし、最近ルドルフ会長に勧められてビデオでレース展開を勉強し始めた。
色々な戦術を試してみたが、先行〜差しあたりがしっくりきた。
途中までいいポジションをキープして、ここからならゴールまで全力疾走出来るというところで飛び出すのが、安定している。
逃げなんて後ろが気になりすぎて気が気では無かった。
それにあの最初の一回しか
何故かは分からない。
でも、今の僕には、なんとなく理由は分かる気がした。
走り方を真似たら僕にも出来るんじゃないかって思って練習してみたが、なんちゃってにしかならず、大したスピードは出ない。
あれをやるなら元の走り方の方が現状速い。
なんだかんだ生まれてからずっと変えていないフォームを変えるには、相当な意識と修整が必要だ。
本当に必要になったときに
話を戻して、自惚れたことを考えてるが、トゥインクルシリーズに参加出来るようになって、選考レースが始まったら勧誘はいっぱい来るだろう。
出来ればそれまでに入るチームを決めておきたい。
大勢の人にうちに来てくれ! と話しかけられて囲われてるときに、何処のチームが良いのかなんてもう分からないだろう。
チームなんて一度決めたら何かやばいことがない限り変えることは出来ないし、変えますなんて言うのに結構勇気がいるし、面倒くさい。
やっぱり僕が過ごしやすく、強くなれそうなチームでやりたい。
取り敢えず会長とリギルの見学にいつ行ってもいいのか決めておく。
え、いつでも練習がある日なら見に来ても良いって?
ま、まぁ、そういうことらしいので、今日、練習はあるらしいので、今日の僕自身のトレーニング前に、どんな雰囲気なのか見に行ってみよう。
善は急げ、だ。
見てからでも充分時間はあるだろうし、そのまま練習に行けるように着替えてから行くか。
午後の授業が終わって、更衣室で着替えてトレーニングコースに向かう。
えっと、会長情報によると、ここらへんでミーティングしてるらしいので邪魔しないようにその様子を遠くから見ていよう。
このウマ娘になって強くなった視力と聴力を使えばちょちょいのちょいだ。
あ、ルドルフ会長がいた。ジャージでも風格があるなぁ……。
今、目があったような気がする。いや、絶対見つかった。だってなんかこっちに歩いて来てるもん。
「ほら、テイオー。そんな遠くじゃなくて、もっと近くにこい」
ほら、やっぱり。
呼ばれてしまってはしょうがないので、このあと走る時のために持ってきていた蹄鉄付シューズを右手で持ち、ルドルフ会長の方へ向かう。
おそらくリギルのメンバーであろう人たちからの視線を感じる。
そんなに見つめられても何も出てきませんってば。
「そうか、お前が最近噂になっている一年のトウカイテイオーか」
なんか眼力が強いトレーナーらしき人間のお姉さんに話しかけられる。
返答に困るのでルドルフ会長に視線で助けを求める。
「そうです。この子が見学希望のトウカイテイオーです、おハナさん」
ルドルフ会長!
僕の中の好感度メーターが上昇した。
ルドルフ会長に感謝している僕をおハナさん?は見つめて言う。
「見ているだけではつまらないだろう、誰かと勝負してみないか?
ちょうどシューズも持ってきているだろう。
……そうだな、グラスワンダー!
『はい!』
今からこいつと走ってみろ。
もうすぐでデビュー戦だ。その練習だと思って走れ」
なんか見学するつもりだけだったのが、いつの間にか走ることになっているんだが。
グラスワンダーと呼ばれていた先輩が分かりましたと落ち着いて返事をしている中、僕は全然落ち着いて無かった。
「え、えぇ……」
「テイオー、いきなりかもしれないが頑張るんだぞ」
「はい……頑張ります……」
僕の困惑とやるしかないという諦めの混ざったため息を僕は深く吐いた
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アップをして身体がだいぶ本調子になってきたところで、スタートラインに2人で並ぶ。
今回は芝1800m左回りで戦う。
正直言って負け戦だ。
おそらくこの先輩は僕より1つ上。
そして最強チームとして名高いリギルに入るということは、その代でも最強クラスってことだ。
だが、たとえそれが負け戦でも、手を抜いて良いことではない。
突然決まった勝負だが、全力で勝つつもりで行く。
負けると最初から決め込むのは辞めた。
僕は
どんな相手にでも勝たなくてはならない。
「お互いにいい勝負にしましょう」
隣にいる先輩がスポーツマンシップ溢れた挨拶をしてくる。
ここは適当に僕も返しておこう。
「そうですね、いい勝負にしましょう」
そっけないがこんなもんで勝負の前は充分だ。
後は勝負の中で語り合う。
「二人とも準備はいいか?」
ルドルフ会長の言葉に僕は頷き、先輩は「はい」と返事をして、スタンディングスタートの構えをとる。
「それでは行くぞ。よーい、スタートっ!」
トが聞こえた瞬間、身体を前に倒しスタートする。
そのまま2コーナーを曲がって向正面に入る。
この状況はまずい。
先輩は僕の後ろから様子を伺っているようだ。
僕が前にいる状態では、相手は僕にプレッシャーを掛け続けながら、抜かすタイミングも決められる。
それでも、ゴールまで抜かされる訳にはいかない。
向正面が終わり3コーナーに入るが僕と先輩に動きはない。
ちらっと後ろの様子を伺うがピッタリと後ろに付かれていて、プレッシャーがきつい。
そのまま4コーナーに入り、4コーナーも終わり最終直線に入ったとき、先輩は動いた。
僕から右にずれ、スパートに入った。
非常に低い前傾姿勢で並んでくる。
ここで抜かされてたまるかと僕もスパートに入るがジリジリと差が詰まってくる。
ついには並んで、抜かされてしまった。
差が少しずつ少しずつ広がる。
坂に入り、坂が終わる頃にはその差は1バ身開いてしまった。
まだだ、まだ諦めるな。
もっと振り絞れ。
残り300m弱で勝つ方法を探れ。
自分を鼓舞しながら解決策を探るが出てこない。
いや、1つだけあった。
縋る思いで僕はその姿勢に入る。
今なら行ける気がした。
「『僕は、
自己暗示するように、僕は
流れる空気が変わる。
空気が変わったことに気が付いた先輩が、一瞬、驚いた顔をしてこちらを振り返った。
練習でいつも失敗しているときとは違い、あの時と同じように身体が引っ張られる。
一歩、二歩、三歩!
大きく加速し、前に突き進む。
開いていた差が縮まり始める。
あと100m程。
行ける、行ける!
そう思いこんで、腕を振り、脚を回す。
後0.5バ身。
その差がとてつもなく大きい。
あとちょっと、あとちょっとなんだ。
前に進め、ほんの少しでいい。
差がハナ差でも大差でもどっちでもいい。
勝つことが大切なんだ。
もうその差はほんの僅かだった。
しかし、僕が勝つ前にゴールラインは来た。
周りの人からは分からなかったかもしれない。
でも、走っていた僕たちにはすぐに分かった。
そのまま軽く流したあと、先輩がこちらに近づいてくる。
「良い勝負有り難う御座いました。今の勝負、あと100mもあれば私の負けでした」
「いや、距離が変われば仕掛けるタイミングも変わる。それは言い訳には出来ない。あれは僕の負けだったんだ」
「……そうですか。改めて今日は有り難う御座いました。また勝負しましょう」
「あぁ、次は負けない」
負け。負けだ。久しぶりの負けだ。
この身体になってから走ることでは一度も経験していないが、とても慣れたことだ。
久しぶりの感覚だが、やっぱり苦しい。
「ちくしょう…負けちまったか…」
年齢だとかは勝負の世界で関係ない。
力と力がぶつかり、より強い力を持つ方が勝つ。
身体能力、戦術、運。その3つの総合力で殴り合うのが、ウマ娘たちのレースだ。
今日の僕には先輩に勝つには足りていなかった。
「はぁ……鍛え直すか……」
「お疲れ様、テイオー。
いい勝負だったぞ」
「ルドルフ会長……
負けるのってやっぱり苦しいですね」
「そうだな。
だが、負けることで得られることもたくさんあるはずだ。
また次に活かせば良い」
あのときと同じ会長の言葉に頷いた。
足りなかったものを手に入れにいこう。
大丈夫。まだ強くなれる。
まずはさっきの感覚を掴もう。
必ず勝つための強い武器になる。
「そういえばテイオー。
チームリギルはどうだった?」
「あ」
勝負に集中しすぎて本来の目的を忘れていた。
また今度見に来ると約束して、今日はダウンしたあと、はちみーを買って部屋に帰った。
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「どうでした? おハナさん、テイオーの走りは?」
「まるで可能性の塊だな。
磨けば光る原石だ。
だが、同時に危うさがある」
「どういうことですか?お聴きしても」
「お前も気が付いているだろう?
あの明らかに空気が変わった後の走り方。
重心も、歩幅も、腕の使い方、ましてや呼吸の仕方すら、あの変わる前とは全く違う。
まるで別人が走っているようだ。
それぞれの走りが別々として区切られている今は上手くいっているようだが、もし混ざり始めたらどうなる?」
「おそらく走りとして成り立たなくなる……」
「そうだ。だから危うい。
そもそも2つの走法を走っているときに切り替えられることが奇跡に等しい。
もし、あのまま強くなることが出来たら、それはもう一種の芸術作品だな」
「貴重な意見をありがとう、おハナさん。
それでも私は、どんなことがあっても乗り越えてきて、私との勝負に挑んできて欲しい。テイオーにはな」
「珍しいな。お前が特定の人物と勝負したいと言うなんて」
「ふふっ、約束したんだ。
テイオーがウマ娘の頂点になろうとするときに、私が全力で戦おうってね」
「だから待っているぞ、テイオー。
お前が強くなって私の前に現れるのを」