「おぉ〜これが噂の末脚を生み出す均整のとれた日々鍛え上げられているトモ!
流石は練習の鬼と呼ばれるだけあるなぁ〜」
どうもトウカイテイオーです。
最近ストーカーモドキに困っていたら、遂には本当の変質者に出会いました。
休憩のためにコースを外れて水分補給していたら、いつの間にか後ろから近づいていて僕の脚を揉み始めた。
蹴り飛ばしたい気持ちもやまやまだが、人間はウマ娘の本気キックを当てると生死に関わるので理性でこらえている。
表情があまり変わらないと言われている僕でも、だいぶ引き攣った顔をしているだろう。
「あの、そろそろ止めて貰っても……」
よく見るとトレーナーバッヂを付けているので、こんな変質者でも超エリートのトレーナーってことだ。
「あぁ、すまん。
ちょっと夢中になっちまったな。
俺はチームスピカってところでトレーナーやってる沖野だ」
「はぁ……そうですか。
僕は勧誘なら今は受け付けてませんよ」
「そこを何とか頼むよ〜! 絶対お前の才能を伸ばしてやるからよっ!
是非うちのチームに入ってくれないか?」
「頭下げられても…こんな変質者がトレーナーのチームには入りたく無いですね」
「変質者って何だよ! 変質者って……
まぁ、ちょっと話いいか?
良くなくてもこっちで勝手に話すけどな」
おい。
その沖野とかいうトレーナーはトレーニングコースを指差し、あいつを見てくれ、と言った。
指差した先には確かリギルにいたウマ娘たちがちょうど競い合って走っていた。
「あの二人の後ろにいる方、サイレンススズカって言うんだが、あの走りを見てどう思う?」
「どう思うって……」
「何でも良い。なにか気が付いたこと感じたことを言ってくれ」
一見ごく普通に走っているように見えるがこの変質者が言うのだから何かあるのだろう。
気になってみたので、そのサイレンススズカのことを観察してみて僕は答えを探す。
多分レース形式で走ってる。
あの感じ、調子が悪いのか?
脚の動きが重い。
我慢するような走りにも見える。
あ、加速し始めた。
でも前のウマ娘も加速して届いてはいない。
何か引っかかる。
今は抑えて走っていない。
でも脚の動きは重い。
調子が悪いがそれだけでは無さそう。
調子が悪いことを除いても、全力ならあれ以上の速度は出るとは思う。
でもそこまで上がりきってない。
どうしてだ?
スタミナが足りていないのか?
いやそれならもっと明確に遅いだろう。
スタミナではないなら?
それは多分戦術が合っていない。
それなのに何であんな走り方をするんだ?
たぶんそっちの方がいつか速くなれるかもしれないからだろう。
2人で走ってるから分かりにくいが多分あれは先行か差しの走り方だ。
僕はレースの流れが読みやすくて動きやすいいからそれをやる。
でも、あそこまで走りにくそうにするならあの先輩には合っていないはず。
結局1番走りやすい戦術が1番速く走れるはずだ。
少なくともあの走り方が向いていないことは分かる。
リギルに入ったってことはそれだけの実力があるはずだ。
でもあの走りでリギルに入れるとは思えない。
見学していたから分かるが、あそこは魔境だ。
最強のチームと呼ばれているが、あそこは全員が最強だから結果的にチームとして強いのだ。
あのチームのなかで弱くても他のチームならエースだ。
そう思える走りが今のあの先輩には調子のことを除いても無い。
もしかしてあの先輩は走り方を変えた?
その可能性ならあるはずだ。
それならリギルに入れる辻褄が合う。
前までの走り方の方が強いんだ。
なら元々の走り方をしない理由は何だ?
そもそも、走り方を変える必要はあったのか?
いや、これは僕も色々変えて試しているから間違いとは言えない。
あの伸び方を見ると先行か差しに合っているとは思うんだけどな。
でもあれだと本人の脚質に合ってても、根本的に合ってないように思えるが。
じゃあ先行か差しみたいな脚質なのに、元々何の戦術が得意なのかって話であって」
「あいつが昔使っていた戦術は、逃げだ」
「なるほど、それなら……って、あ」
自問自答することに集中しすぎて気が付いていなかったが、どうやら声に途中から漏れていたようだ。
沖野さんに僕が僕に投げかけた問の答えを告げられる。
「あいつの得意とするのは逃げだ。
入学当初は逃げを得意としていたらしい。
逃げとは思えない伸びで逃げなのに後半も伸びる凄まじい走りをしていた。
おハナさんは多分その伸びに目を付けたんだろう。
お前も言ってただろ? 先行か差しに合っているように見えるって。
おハナさんも多分同じ考えで逃げを辞めさせて、先行に変えさせたんだろう。
最近は逃げは勝ちにくいってよく言われてるからな。
王道の先行の方が勝てると思ってたんだろう。
でも、あいつにはそれがあってなかったんだ。
俺はな、あいつがまた気持ちよく大逃げするところが見てみたいんだ。
あいつが自由に走る姿を見てみたい。
すごい才能があいつにはある。
お前にも分かるだろ?
あのままで終わらせるには惜しい!」
なるほど。
それであの走りか。
でも1つ腑に落ちないことがある。
「それで何で僕にこの話をしたんですか?
僕には何にも関係無いですよね?」
「確かにそうだな。
ただ、お前とは単純に話してみたかったんだよ。
ほら、キャンディーだ。よく舐めんだろ?」
「……取り敢えず貰いますけどこんなんじゃ買収されませんよ」
この話をした理由でもあるのかと思ったが答えてはくれなさそうだ。
ありがたく頂いた棒付きキャンディーをポケットにしまう。
よく舐めてるの知ってるあたりストーカーなのかな。
「1つ気になったんだが、お前、走法を変えようとしてるのか?」
「え?」
突然の質問に声が出てしまう。
「お前のことを初めて見た新入生最初の模擬レース。
あそこで2種類の走法使ってただろ。
初めて見たときあんなちぐはぐな奴がよくいるもんだなぁと思った。
それからもたまに模擬レースでお前を見たが、そこでお前は片方しか使ってるのを見たことが無い。
何でか気になってたんだが、ある時普段しないような練習をしていたのを見て確信した。
片方しか使わないんじゃない。
片方しか使えないんだろ?」
「……はい、そうです」
鋭いな、この人。
「やっぱりそうか。
練習を見たとき、あのときと同じ走法をやるのかと思ったが、重心や歩幅が若干違ってしかも何度も調整してるのか毎回それも違っていて、何だかとても奇妙なものを見たと思った」
「もう少しのところまでは来てるはずなんです。
あとちょっと、何かきっかけが少しでもあれば完成する」
「お前はあの走りを何とか身につけたいんだな」
「当たり前です。
速くなれる方法を知っていてやらないバカはウマ娘じゃない。
あの走法は確実に僕を次のステージへ連れてってくれるはずなんです。
そうしないと皇帝には勝てない、頂点には辿り着けないから」
「なぁ、トウカイテイオー。
お前の夢って、何か聞いてもいいか?」
「僕の夢……。そうだなぁ……。
夢……って言わないかもしれないけど、
いつか必ず勝つって約束したから。
そのためにはまず会長の功績には並ぶか超えないとね」
「随分と大きい目標だな」
「うん、そうかもしれない。
それでも僕は誰が相手でも勝ちたいんだ。
今は無理な相手も沢山いる。
でもね、いつか僕が頂点に立つんだ。
……って何か調子乗ったこと言ったなぁ」
「良いじゃないか。
夢は掲げてなんぼ。
そして俺のチームに入れば、俺はその夢の手助けをしてやるぞ!」
「……まぁ今度、練習見学ぐらいならしに行っても良いですよ。
どんなチームなのか気になりますし。
これだけ話もしちゃったし……」
なんかいい人そうなのでどんなチームなのか見たくなってきた。
そう言うと気まずそうに目をそらされた。
「あ〜それなんだが、俺のチームは今一人しかいなくてな……。
そいつもまともに練習しないんだよ……」
駄目じゃん。
チームとしてトゥインクルシリーズに出走するには5人以上必要だ。
僕は頂点を目指すにはやっぱトゥインクルシリーズに出なければならない。
「じゃあ5人集まってまだチームに所属してなかったら見に行きますね」
「お、言ったな!
はぁ、でも後4人……どうしたらいいもんか」
話も一段落したし、休憩もだいぶ長くなってしまった。
ここらへんで練習に戻るとするか。
僕はコースに戻ろうとする。
「話長くなっちまってすまんな。
チームに入る気になったら何時でも声をかけてくれ」
「……まぁ、考えておきます」
曖昧に返事をしてその場を離れる。
はぁ、気を取り直して今度こそ練習に戻ろう。
それにしてもチームか。
デビューは中等部の2年生から自分やチームで決めたタイミングでしていい。
といってもだいたい皆同じような時期にデビューしており3年生の間にデビューすることが殆どだ。
体格が良い方が有利だからそれぐらいの時期には成長が止まっているというのが理由の1つだろう。
デビューした年度をジュニア期、次の年度がクラシック期、そのあとからがシニア期だ。
僕としてはデビューする時期は決めていないが、覚醒モードを自由に使えるようになってからだろう。
身体も僕はあと少しは成長するだろう。
来年の間にチームに入って、時期を見てデビューってところかな。
それまでにきちんと身体を仕上げなきゃ。
気持ちを固めてコースへと走り込みに戻った。
沖野さん視点入れようとしたけど上手く書けなかったので入れませんでした。
フォローを入れると沖野さんストーカーっぽいですが、トレーニングコースには平日はほぼ毎日テイオーはいるので、行くとだいたい見つけられます。
ここまで学年とか書いてきたけど、これからは学年差だけ意識して書いていきます。
学年はちょっとウマ娘時空かなり歪んでいるんでやばいんで理解して書こうとしたら頭狂いそうなので。