「そこの貴女、落としましたわよ」
冬に入ったある日。
昼休みに今から生徒会室に行こうとしていたが後ろから声が聞こえたので振り返る。
声の主の手には棒付きキャンディーがあった。
胸ポケットに入れていたが、何かの弾みで落としてしまったのかもしれない。
「ありがとうございます。あ……」
顔を見てみればストーカー(仮)さんだ。
即座に距離をとる。
「え、えっと……わたくし、べ、別に怪しい者ではありませんわよ!」
「え、でも僕のこと、ストーキングしてたのって……?」
「わたくしそんなふうに思われてたのですか!?
誤解です! 誤解ですわ!」
言い方からして怪しい犯罪者のそれだ。
キャンディーは惜しいが近くにいると危なそうなのでこの場を去る。
「し、失礼します……」
「ちょっ、ちょっと、待ちなさい!
貴女、わたくしのこと何か勘違いしてますわよね!」
追っかけてきたので逃げる。
無駄とも思える程にでかい学園内を駆け抜ける。
周りから何だ? と思われてるに違いないが身の危険を感じたのでしょうがない。
後ろを振り返って見てみるが、なかなか引き離せない。
ギアを一段階上げて引き離そう。
「ちょっと、待ってください!」
あっちも粘りやがる。
僕の評価がただのストーカーから、やばいストーカーにランクアップした。
はぁ……はぁ……、撒けたか?
後ろを振り返ってみるとまだ追いかけてきていた。
しかも、こっちはもうヘトヘトなのに向こうは息が上がってない。
スタミナの差が歴然だ。
このままだと僕が先に体力切れで追いつかれる。
どうにか隠れてやり過ごすしかない。
校舎が影になっていて向こうから見えない角を曲がる。
曲がった道に丁度良く腰の高さぐらいの並木があったから飛び越えて裏に隠れる。
足音が近づいてくる。
丁度すぐそこにいるようだ。
上がった息を何とか潜めて見つからないようにする。
スパイ映画みたいなスリルを感じるがこんなところで感じなくても良い。
「あぁ、もう! 見失いましたわ!
勘違いさせたまま変な噂にでもなったら……!
それにこのキャンディー、……まぁ良いですわ。
次に会ったときにでも返しましょう」
足音がゆっくり遠くなる。
どうやら去ったようだ。
いつまでも隠れててもしょうがないので息を整えてから助走を付けて飛び越えて来た道を戻る。
はぁ、疲れた。
咄嗟に逃げてしまったが何だか沖野さんより無害な気がしてきた。
ストーキングされたけど。
キャンディーでも舐めて考えるのはやめよう。
そう思って胸元のポケットに手を突っ込むがいつもそこにあるはずのキャンディーは無い。
はぁ……受け取ってから逃げれば良かった。
仕方なく生徒会室に向かった。
さっき来た道を戻る。
「捕まえましたわ」
いきなり後ろから左腕を掴まれた。
突然のことで頭が真っ白になる。
「……! ……っ!」
必死に離させようと引っぱるが向こうの方が強くて離れない。
「ちょっ、ちょっと暴れないで下さい!」
「離して……っ! 下さい……!」
「ほら、キャンディー返すだけですから!
そんな声出さないでください!」
「何々、ストーカー?」
「あれって…ジロ………と……カイテ……じゃな…?」
白昼の中堂々と騒いでいる僕たちに周りのウマ娘からの注目が集まる。
「あのとき貴方がちゃんと受け取っていてくれればこんなことにはならなかったのに……
変な噂になったらどうしましょう……!」
やってることストーカーだから噂では無く真実ですよとは口が裂けても言えない。
抵抗しても離してくれそうに無いのでコミュニケーションに切り替える。
「どうして……ここで待ち伏せ、してたんですか?」
「貴方が急に居なくなりましたがそんなに遠くにはいないと思いましたので、近くを探せばすぐ見つかるんじゃ無いかと思いまして……」
「なんで待ち伏せしてたんですか……?」
「それは、貴方が私を見つけてもすぐに逃げてしまうと思ったからですわ」
犯罪者ポイント高いぞこのお嬢様。
「ほら、キャンディーをお返し致しますわ」
「ありがとう……ございます」
「あとわたくしはストーカーではありませんのでストーカーなどと言わないでください」
え?
「え?」
「な、なんですの! その何言っているのか分からないみたいな顔と声は!」
「え、トレーニングのとk……」
「言わなくて良い! 言わなくて良いですわ!
ほ、ほら! もう用は取り敢えず済んだのでありがとうございました!」
そういうと何処かに行ってしまった。
まぁどうせ今日もトレーニングコースにいるだろう。
周りはまだざわついているが、気にせず受け取ったキャンディーを開封して口に突っ込んで生徒会室へ向かう。
ストーカーじゃないなら何なんだろうな。
マヤノが言ってたことを少し思いだした。
「ライバル……か」
ライバルと言えるのだろうか。
一緒に戦ったことはない。
いや今、身の危険を感じて真剣な追いかけっこしたばっかりだが。
「そういうのもありかもな」
でもなかなかストーカーっていう先入観は抜けない。
さっきのことだってキャンディー拾ってくれたのはストーカーさんが優しかったからだろう。
咄嗟に隠れたときにも後で渡そうとしてくれていた。
「あ、名前何だっけ」
今度会ったときに聞けば良いのだがハードルが高い。
向こうから名乗ってくれたら良かったのに。
それにしてもスピードは少しこっちの方が上だったかもしれないが、スタミナ量は確実にあっちの方が多かったな。
長距離とかで戦ったら勝てない可能性の方が高い。
なんでこんなところでもスタミナ不足を感じなきゃなんないんだ。
生徒会室についたので扉をノックして入る。
「会長、こんにちは」
「テイオーか、今日は随分と騒ぎを起こしたらしいじゃないか」
ぎくっ……目に見えて動揺してしまう。
「校内で猛スピードで走り回っていたらしく生徒会にも苦情が入ってきたぞ。
最初はテイオーがそんなことするのか信じれなかったが、何人も来たんでな。
エアグルーヴなんて初めは『あのテイオーが信じれません』みたいな様子だったが、ちょっと前にカンカンになってお前のことを探しに行ったぞ」
「え、えーと。そのですね……。
身の危険をあのときは感じていたというかなんというか」
今、僕はなんとしても会長を味方に付けてエアグルーヴさんから守って貰う必要が出来た。
エアグルーヴさんは怒るとヤバいことで有名だ。
そのエアグルーヴさんを会長の言葉で怒るのを辞めてくれる可能性がある。
責任を僕ではなくてストーカーさんに移そう。
すまん。生き残るためなんだ。
「えっとですね。あの原因は僕では無くて追いk……(ドバンッ!)……っ!!」
勢いよく扉を開ける音がしたので恐る恐る振り返る。
そこには悪魔がいた。
「テイオー!!
自ら生徒会室に来るとは大したことだな」
命の危機を感じて会長に視線を送って助けを求める。
すると会長は目を合わせた後、首を横に振った。
会長……信じてたのに……。
会長はそのままエアグルーヴさんに程々にしろよと言い残して生徒会室を去ってしまった。
救いはないのか。
「あ……あ……」
「テイオー、お前がまさかこんな騒ぎを起こすとは思えなかったが、その反応を見る限りお前が起こしたことで間違いないようだな。
多少のスピードなら出してもいいがそれにも限度があるだろう。
まさか、お前の出せる全力の力を使っていたんじゃないだろうな。
お前はいつも会長のそばにいるんだからそういうことは駄目だって考えたらすぐに分かるだr……」
駄目だ。
始まってしまった。
こうなったらもう気が済むまでさんざん言われるだろう。
適当に聞き流して、頑張ってやり過ごそう。
「……って、テイオー!
聞いていたのか!? 私が直前に何を言っていたのか言ってみろ」
「あ、……えっと、そのですね……」
「お前のことだから授業のように聞き流そうとしたのだろうが、ちゃんと聞いておけ。
あと、説教中にキャンディーは舐めるな」
「は、ハイ」
地獄だ。
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結局昼休みいっぱいいっぱいまで説教されてしまった。
なんであそこまで僕を責める言葉が出てくるんだ……。
普段は優等生してるよって言ったら、貴様の授業態度でよく優等生なんて言えたな、とさらに怒られた。
どうして……
やっぱり授業は面倒だ。
そもそも1度習っていることなので、教科書を見たら思い出してどうにかなるのだ。
たまに忘れかけていることもあるが、新しい学びはないと言っても過言ではない。
ただただ既に身に付いていることの復習を永遠にやる。
それはまぁとても面倒なのだ。
はぁ、気持ち変えてトレーニングするかぁ、とトレーニングに向かっていると、前に名前も知らないストーカーさんが見えた。
向こうも僕に気が付いたようだ。
こちらによってくる。
「あの……本当に申し訳ございませんでした」
「えっと……?」
いきなり謝罪されたから驚いた。
確かに困ってはいたがいきなりどうしたんだろうか。
「貴方がわたくしのことを怖がっていることを知らずに追いかけてしまったことですわ」
「いや、それは僕も悪かったというか……」
「それにわたくし勝手に貴女のことを意識して、練習で付き纏うように思われてしまうような行動を取ってしまったことも、申し訳ございませんでしたわ」
「えっと……じゃあ、なんでストーキングしてたんですか?」
純粋に疑問なので聞いてみる。
「だから、わたくしはストーカーでは無いです!
……ただ少しだけ貴女が気になっただけですわ。
それだけです」
なんかこの人も僕と同じで何かを手に入れるために頑張っているんだな。
そんな感じがした。
「っ! そんなにじっと見てないで、何かちょっとは反応してください!」
「ご、ごめんなさい……」
「別に怒っている訳じゃないんですから謝らないでください。
はぁ……貴女って練習の時やレースのときはあんなに堂々としているのに、こうやって話すとなんだかちっぽけに見えますわね」
「すみません……」
僕が僕のことをコミュ障だと思っていて治したいと思っているから咄嗟に謝罪しか出てこない。
「まぁ、良いですわ。
わたくしが一方的に貴女のことを知っているのもあれですし、何かの縁ですのでお互いに自己紹介しましょう。
わたくしは、メジロ家のメジロマックイーンと申します。
以後お見知り置きを。
さぁ、貴女の名前もわたくしに教えてください」
上品な振る舞いでかっこ良く自己紹介される。
メジロマックイーンさんに促され僕も自己紹介をする。
こういうところだけでも僕もカッコつけさせてもらおう。
膨らみかけの胸を張って堂々と宣言する。
「僕の名前はトウカイテイオー。
いつか、ウマ娘たちの頂点に立つ者。
よろしくおねがいします、メジロマックイーンさん」
「えぇよろしくお願い致しますわ。
それとわたくしのことはマックイーンとでも呼んでくださいまし。
わたくしも貴女のことをテイオーと呼んでもよろしいですか?」
「良いですよ、マックイーン……さん」
さんを付けずに呼ぶには流石にハードルが高い。
この少しの間でストーカー→友達? になったばかりの相手には難しい。
「それではテイオー、わたくしはトレーニングに行くので。
付いてきますか?」
「ずっと付いてきていたのは、マックイーンさんの方です」
何カッコつけているんだこのお嬢様は。
まぁ、なんか喋る相手がなかなか増えなかったが、冬になってやっと増えた。
ストーカーと仲良くなるのは大丈夫なことだろうか?
そこらへんのことは気にせずトレーニングに励むとするか。
マックイーンさんのことで何か忘れていたような気がするんだが……。
「あっ!」
「どうかしましたか?」
「マックイーンさん、はちみーは固め濃いめダブルマシマシしか認めませんよ!」
「急に何か言い始めたと思ったらそんなことですか……」
「そんなこととは何ですか?
僕にとってはちみーは生活の一部なんですよ。
それをそんなことなんて言うなんて……」
「なんですって!?
あのカロリーの塊が生活の一部!?
テイオー、何か特別な減量とかして無いんですか!? それがあったら早くわたくしに教えてください! さぁ、早く!」
「……僕はただ毎日走っているだけだって……」
「そんな訳が無いでしょう!?
どうしてわたくしは毎日のスイーツの量を我慢しながら生きているというのに……
余りにも理不尽ですわ……!」
僕にも今日新しく騒がしい話し相手が出来た。
これがこの後、結構な間の付き合いになる僕のウマ娘生の中で最大のライバルとの出会いだ。
因みにこの後、僕が練習終わりにしつこく固め濃いめダブルマシマシをオススメし続けた結果、マックイーンさんは固め濃いめダブルマシマシを注文したが、その日以降体重計とにらめっこしているマックイーンさんがいたとかいないとか。