白竜に転生しました。対戦よろしくお願いします。
「だれだ、こいつ………」
鏡に映る自分自身の姿を見て、俺は無意識にそう呟く。
脳裏に浮かぶ幼年期の記憶。それと共に、
それによる痛みで頭を押さえるが、とある単語が脳裏に浮かんだその刹那、俺はハッとしたように再三鏡に目を向けた。
―――イナズマイレブン。
極度のサッカーバカである円堂守が、日本一になったりエセ宇宙人と戦ったり世界一になったりする過程を描いたもの。元々一つの短編ゲーム作品だったが、アニメ化や漫画化等を経て、長く愛される人気作品だ。無印と呼ばれる円堂時代三部作が終了し、GOと呼ばれる天馬時代へと繋がっていく。他にも戦神三部作と呼ばれる無印からのパラレルワールドの世界も展開されている。
炎が纏ったシュートや地中から出て来るペンギンなど、この作品が《超次元サッカー》と呼ばれる所以はその迫力満点の必殺技にある。ストーリーに直接関わらない、所謂モブと呼ばれる選手すらも皆必殺技を持っており、試合の勝敗は必殺技の威力が左右するともいえるのだ。
……そんな世界に転生したのだから、自分の実力が関係しないモブに徹したいと思うのは当たり前の事だろう。だが、そんな儚い思いはすでに否定されている。
「………なんで白竜なの?」
―――鏡に映る銀髪の少年。その容姿は“究極の残念なイケメン”こと、白竜そのものだった。
「……これは何のザマだ?白竜」
「………」
ゴットエデンの選手育成場。その一角で、桃色のスーツを着込んだ男―――牙山道三が諭すように。否、怒りを露にしながら俺を睨みつけている。
俺の記憶が正しければ、確か白竜はゴットエデンにいる選手達の中で一番の実力を持っていた筈だ。………亡霊であるシュウや一時的にこの島にいた剣城を除いてだが。
で、そんな実力者が一夜にして滅茶苦茶弱くなっていたらどう思われるだろうか。
「……何故化身を出さない。何故化身が使えない!プロジェクトゼロに相応しい実力がないのならば、貴様はすぐに廃棄する事もできるのだぞ!」
うん、怒るのも無理ないよね。
元々白竜本人の身体だったからか、ちゃんと一通りの技は使えていた。でも俺が白竜の身体を使いこなせてないのだろう。それらの必殺技の威力は軒並み弱弱しかった。現にそう牙山の顔に書いてあったし。
まあ牙山が怒っているのは必殺技ではなく、俺が化身を使えなくなっているという所なのだが。
前世の記憶曰く、化身というものは選手の気力が高まると姿が具現化する―――つまり選手によって具現化する化身はそれぞれ違うのだ。
元々の白竜の化身は《聖獣シャイニングドラゴン》。大量の光と共に現れる神聖な龍の化身。
だが、それは“白竜”という選手の気が具現化したものだ。身体は同一でも精神が全く違う俺が同じ化身を出せと言われても無理としか言えない。
それでも俺が転生者だという事を誰にも伝えていない手前、牙山が怒るのも仕方の無い事だ。
それほどまでに、白竜がフィフスセクター及びプロジェクト・ゼロにとってかなり有用な人材なのだろう。
「ふん。そんなものでアンリミテッドシャイニングのキャプテンが務まるのか。………これはチームゼロの採用選手も考え直さなければならないな」
牙山からの嫌味には「すみません」と取り敢えず謝っておき―――何故か牙山は驚いたような顔をしているが―――、俺は唯一の出入り口である横開きの自動ドアへと歩き始める。
これ以上俺がここにいた所で、牙山も俺も気分を悪くするだけ。それならば少しでも早くこの環境に慣れる為に練習した方が良いだろう。……幸いにしてまだ誰も俺が転生者である事は気づいていないのだから。
「………どうしたんだ?いつものお前らしくもない」
……なんだろう。急に気づかれてないという自身が無くなった気がする。
俺がその事に気付いたのは、本当に偶然が齎したものだった。
白竜と牙山教官の会話。これだけならいつも通り、牙山教官に白竜が文句言ってるだけにしか見えないだろう。それならと、少し位盗み聞きでもするかと思ってドアに寄りかかりながら聞いていたのだが―――余談だが、俺は他メンバーに比べてかなり聴力が強い―――、普段の彼からは絶対と言っても良い程発せられない言葉が聞こえたのだ。
『すみません』
他のメンバーならただ謝ってきただけと、そう判断できる。だが、白竜が素直に謝る事は絶対ない。これだけは絶対と言い切れる。あの究極バカは俺達の事など眼中にないのだろうから。いや、明らかに眼中にないだろう。少なくとも俺達に対してはあいつは一回も謝罪した事はない。
そこから生まれた疑問は、牙山教官の表情によって確信へと変化した。
牙山教官の表情から、恐らく白竜は教官達に対しても一回も謝罪はした事はないのだろう。それぐらい牙山教官の顔は驚愕に満ちている。
今日の白竜は何かが可笑しい。今までのような傲慢さも、チームを纏めるキャプテンとしての素質も感じない。……後者は以前までの白竜も微妙ではあったが。
「………どうしたんだ?いつものお前らしくもない」
「………蛇野か。ごめんな、ちょっと一人にしてくれ」
やはりだ。いつもの白竜よりもかなり優しめな言動。化身が発動できなかった故に落ち込んでいるのかもしれないが、やっぱり俺や教官に謝るのは不自然としか言いようがない。
だから俺は、通り過ぎて自分の部屋へ向かおうとしているであろう白竜に、ある一つの提案を持ちかける。
「白竜、PKでもやらないか?」
どうせ今から練習するつもりだったのだ。それならば相手がいた方が効率が良い。
もしかしたら白竜も化身を取り戻せるかもしれないし、必殺技の調子が戻るかもしれない。
それらの理由から白竜を誘った―――否、それらの理由は建前でしかない。
白竜のシュートは今までに何万回と受けてきた。勿論受け止めた時の感覚も未だに手のひらに残っている。白竜のシュートの強力さは、GKである俺が一番よく知っている。
それ故に、今の白竜のシュートを受けてみれば少しはアドバイスが出来ると、そう思ったのだ。白竜が不調のままだと、明々後日に控えているエンシャントダークとの練習試合、それに反旗を翻しているチームとの試合にも支障が出てしまう。最近は雷門を中心に次々とフィフスセクターに反乱を起こしているらしいしな。
「……ああ。今の俺で良ければ相手になるよ」
白竜が了承してくれた事に安堵し、それと共に俺は気を引き締める。
もはや別人のようになっているとはいえ、相手はあの白竜。油断していればすぐに負けてしまうだろう。それに注意深く見ていないとアドバイス等できないしな。
そんな事を思いながら、俺は白竜の後に続く形でグラウンドへと向かうのだった。
なんで蛇野視点書いてる方が筆が進むの…?(純粋な疑問)
・白竜
一般人が転生した究極の男(笑)
白竜に転生した事で内心ウッキウキ(猿)だったが、すぐに現実を知る事となる
・牙山
皆大好き第三回人気投票第二位の教官。普通にイケメンだよね。ね?(威圧)
てかそんなに怒鳴るならカルシウムもっと取って、どうぞ。ほら牛乳飲めよ
・蛇野
なんか聴力が物凄く強いっていう設定を付けられた人。アンリミ及びゼロのGK。
因みに作者はイナストでもDS版でも彼を使った事はありません()