「っぁ―――」
二度のカウンターによる失点。ゴールネットへと突き刺さり、その反動でコロコロと転がるボールを視界に捉えながら、白竜はそう小さく言葉を漏らした。
(……全部、俺のせいだ……)
1失点目も、この失点も、元を辿れば全て自分が原因に当たる。
“今までの白竜”が積み重ねてきた印象をフルに使い、マークをもっと自分に集める事が出来れば。蛇野との特訓の時とは比べ物にならない程に威力が高く、完成した………そう思い込んでしまった〈ホワイトハリケーン〉を決める事が出来れば。完成した満足感に浸れずに、芦矢の方へとすぐに向かってそのまま彼が溢したボールをゴールへと叩き込めれば。そんな数々のIFが、そしてそれによる成功類が、白竜の脳を駆け巡る。
(俺は……このチームにいらない?)
前まで自嘲気味にそう心の中で呟いていたが、いざ実感させられるとその絶望感に打ちのめされる。所詮自分は原作白竜の劣化―――ただの一般人に過ぎない。一通りの技は覚えてはいてもそれを使いこなせないのだから、一丸となってチーム・ゼロを目指しているチームメイトの足枷にしかならない事は火を見るよりも明らかだ。
技を使えたから。〈ホワイトハリケーン〉の威力を少しずつでも引き出せたから。それで調子に乗って、原作白竜よりも強くなれるという淡い希望―――否、願望を抱いてしまった。ここは白竜が元々いた現実世界ではなく、イナズマイレブンの世界。現実世界の常識で考えてはいけなかったのだ。
自分はゲームでいうスカウトモブのような存在。それも強キャラではなく、ずっとずっと弱いザコキャラ。最初から原作白竜のようにはなれない。そう上手くいくわけが無い。
松風天馬を始めとした原作キャラ達のような才能なんて有る訳がなく、また彼らのように上達が速い訳でもない。少しずつでも順当に成長できるというのがせめてもの救いだろうか。
「………面白い」
ただ、努力する事はできる。抗う事はできる。
他が1時間練習するなら、2時間でも3時間でも練習して抗い続ければ良い。どうせ牙山に廃棄されて死ぬなら、身体の限界を迎えて死んだ方がマシだ。折角のイナイレの世界なのだから、楽しまないのは大損だろう。
(二度の失点でチームの空気は最悪に近い………まずはどうにか一点を返さないとな……)
とはいえ、自分が出来る事など限られているのだが。
周りを見渡し、チームメンバーの表情を確認する白竜。決意を固めて自分のポジションへと歩いていく。
「……皆を捨ててたまるか」
そう誰にも聞こえない程の声量で呟く彼の瞳は、
「―――何か、喜ばしい事でもあったのですか?」
「……五条。フッ、やはり貴様はかなり洞察力に長けているようだな」
観客席で一人試合を見ている牙山に、突然現れた五条が声をかける。
牙山がニヤニヤと頬を緩めているのは誰の目から見ても明らかではあったが、そういう事にしておいた方が良いだろうと五条は判断し、言葉を続けた。
「えぇ。何せ私の少年時代といえば、鬼に扱かれる毎日でしたからねぇ………ククク」
「鬼………あの反逆者の鬼道有人の事か」
「………はい。まさか彼がフィフスセクターに反旗を翻すとは思ってもいませんでした。元チームメイトとして、恥ずかしい限りです」
「案ずることはない。究極のチームが完成し、雷門を圧倒させてみせよう。それならば君のその気持ちも少しは晴れるだろう」
「お気遣い感謝いたします」
五条がそう感謝の言葉を紡ぐと共に、牙山は“それでは本題に移ろう”とそう切り出し、試合が行われているグラウンドへと視線を向けた。
その横顔は先程までの柔らかそうな表情ではなく、真剣という言葉をそのまま具現化したような、そんな表情。周りの空気を一変させ、五条に緊張感を植え付けるには申し分ないものだった。
「白竜について、どう思う?」
そう聞いてくる牙山に、五条は内心で驚愕の表情を浮かべた。
彼が白竜の事を話題に出すことなんて、今までに3回あるかないかだ。………少なくとも五条の前では。
それぐらい牙山は白竜の実力を認め、また信頼していた。………だから、五条が疑問に思えるのも別に変な事では無い。
まあ、聞かれた質問には答えようと白竜の方へと視線を向ける五条。確かにここ数日の彼は見違えたように人当たりが良くなっていた。………最も、以前までの彼が協調性が皆無だった故に、人間として成長したのだろうと五条は勝手に思っていたのだが、牙山はそうは考えていないらしい。
「………彼はまるで別人のように振る舞っています。これは憶測ですが、支援者Xの言うセカンドステージチルドレンとして目覚めたのかもしれませんね」
「というと?」
「セカンドステージチルドレンとして覚醒した場合、超能力による破壊衝動から人格が壊れる者が多いと支援者Xは我々に説明したじゃないですか。………それを白竜に当てはめるのは疑問や違和感が残りますが、まあ有り得ない話ではないかと」
「ふむ………」
以前までの五条達が見慣れた白竜は、よっぽどの事が無い限りは仲間を頼る事などなかった。だが今の白竜は、以前よりも格段に仲間を頼るような………言うならばパスを主軸としたプレーをしている。不調が理由でそうしていると言われれば反論は出来ないが、五条の体験上あの究極厨が合理的な手段を選ぶとは思えないのだ。
それに、五条の瞳に映る白竜の表情は
他の誰よりも究極を追い求めていた白竜が突然こうも変わってしまうというのは、それ相応の―――あの白竜の人格が揺らぐ程の出来事があったのだろうと想像がつく。故に消去法。数多の実験をもってしても未だ解明されていない、セカンドステージチルドレンとして覚醒したのだろうと、五条はそう予想したのだ。
理由なんてない、ただの予想。だが絶対ないと切り捨ててしまえる確信なんてなくて―――非常にめんどくさい事になっている事を実感し、五条は内心で顔を歪めた。
「………確か、フィフス傘下の学校に数ヵ月前に白竜と同じような状況に陥っていた者がいたな」
「新雲学園の雨宮太陽………でしたっけ?」
「ああ。十年に一人の天才と呼ばれる程に才能が有った時点で、元々彼はセカンドステージチルドレンではないかと私は睨んでいた。………まあ、特に機器に反応はなかった訳だがな」
そこまで言葉を紡いだ牙山は、趣旨がズレてしまっている事に気付いてこの会話を中断。ふと、スコアボードに目を向けた。
0-4で前半戦終了。この状況でも尚、化身を発動させない白竜。この事から彼はもう化身を使えないのだと確信できる。もしくは、何らかの理由で化身を封じ込めざるを得ないという事。とはいえ、後者はゴットエデンの教官達はそんな事は吹き込まない筈だ。故に前者の可能性が考えられる中では一番高い。そう自分の中で結論を出した牙山は、五条へと指示を下した。
「では、この練習試合が終わった後にすぐに検査させよう。五条、用意をしてくれ」
「分かりました。すぐに出来るように入念な準備をしておきましょう」
「ああ、頼む」
牙山の言葉を確認すると共に、五条はこの場を去って行った。
同じ教官であっても見えない程に素早く去っていく様に、牙山は呆れたように微笑を浮かべる。
ともかく、だ。
セカンドステージチルドレンの可能性がある白竜。例え覚醒していないとしても、それでも何らかの有益な情報は出てくれるだろう。前に検査した少年―――雨宮太陽がそうであったように。
・白竜
吹っ切れた。そのまま初心をKEEP ON!
・牙山
白竜はセカチルだろと五条に言われる。
例えセカチルじゃなくても検査して損は無い(太陽で検証済み)ので、五条に検査させる。
・五条
そういやこいつ教官だったな
・太陽
十年に一人の天才