気付いたら究極の男になってた件について   作:藤崎風花

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天才と天才。故に天才在り

「困るんだよねぇ。キミのせいで僕の存在自体危うくなるんだから」

 

 

 と、俺の方を睨みながらハッシュ・シルヴァンが口を開く。

 その手には変わらず銀色のスフィアデバイスが握られており、俺に攻撃する準備は既に整っていると、そう嫌でも感じさせられる。

 仄かに怒っているようにも見える彼の表情。その無機質な表情からは恐怖すらも感じられて……。足が、腕が、喉が……身体の全ての箇所が思うように動かない。思い通りに動かす事が出来なかった。

 

 

「あれ?白竜クンの事だから『子孫…?』ぐらいは驚いてくれると思ったんだけどなぁ。まあ、無理もないか」

 

 

 睨むばかりで声を発さない俺を見かねてか、ハッシュがそう言葉にする。

 それと同時に、彼の身体は空を斬った。

 

 

「ぐ、ゥ――!?」

 

 

 ミシリ。と、そんな不快な音が身体から響く。

 ……骨、折れちゃったかな。体内で出血してるような感覚あるし。

 

 反応出来なかった。目に見えなかった。――そんな単純な原因でも、いざこう現実を突きつけられると本当にどうしようもなく感じてしまう。

 

 

「……こんな遅い蹴りも避けられないのか。歴史に名を刻んだ“シード”という存在が、聞いて呆れるね」

 

 

「う、っせ――」

 

 

「――強がりもいい加減にしなよ」

 

 

 ……容赦なく踏みつぶすのは辞めて欲しい。切実に。

 てか転生して強く実感したけど、この世界って話聞かない奴多いな。それと短気な奴。確かにアニメやゲームとして見ていた頃も少なからずそう感じていたけど、いざ当事者目線になると本当に辛い。

 

 

「……キミ、この世界の存在じゃない(・・・・・・・・・・・)だろ?」

 

 

「っ――!?」

 

 

 そんな確信を突いた彼の言葉に、一瞬で現実へと引き戻される。

 ハッシュの表情が視界に入るように目線を上げる。……相変わらず無機質な表情で何を考えているのか分からない。

 

 

「ぐぁ――!」

 

 

 ……まじで痛い。死にそうなぐらい痛い。

 お互いの視線が合った瞬間、俺の身体はハッシュに蹴り飛ばされた。なんとか崖に落ちる寸前に踏みとどまれたが、蹴り飛ばされた衝撃で視界が大きく歪む。

 

 そんな俺にも容赦はしないとばかりに、ハッシュの身体から吹き出てきた影が徐々にその形を形成していく。

 

 

「聖獣シャイニングドラゴン」

 

 

 一言、ハッシュがその名を告げる。それと共に、影を払った白銀の龍が現れた。

 何度も対峙し、何度も思い浮かべた、そんな化身。“白竜”という名にふさわしい、聖の輝きを纏っているドラゴン。

 

 

『困るんだよねぇ。キミのせいで僕の存在自体危うくなるんだから』

 

 

 脳裏に、先程彼が言っていた言葉がリピートされる。

 

 ……ああ、そういう事か。

 子孫と名乗っていた彼もまた、俺の憑依によって被害を受けた一人だったんだな。

 同じ身体でも、その精神が違えば行動すらも変わってくる。そう考えれば、本来繋がる筈だった血筋も途絶えてしまうのは必然的な事。流石に原作でもそのキャラの未来までは描写されるケースは少ない。

 

 ――全て、俺が悪い。

 

 薄々感づいていた事だが、理性がそれに気づいてしまった。

 原作キャラに憑依してしまうというのは、そういう事なのだと。

 原作の展開だけでは止まらずに、本来生まれる筈だったキャラすらも生まれないというのは、あまりにも酷く、あまりにも自分勝手じゃないのか。

 

 例え望まずに突然憑依したのだとしても、それはハッシュ、……そして本来の白竜への言い訳にはならない。俺が彼らの人生を奪ってしまった事には変わりはないのだから。

 

 そう考えれば、彼の――ハッシュの気持ちも分かる気がする。

 ほんのりと感じる怒りの感情は、全てを台無しにした俺に対する憎しみなのだろう。そしてハッシュのこの行動は、どうにか俺だけ消して元の白竜の精神に戻そうとしているんだと思う。

 

 ――それならば、俺だけがいなくなる分には良い事なんじゃないか。

 

 

「ホワイトブレス」

 

 

 ハッシュがそう呟くと共に、〈シャイニングドラゴン〉へと聖なる力が集まっていく。そしてその力が最頂点に達した時、スフィアデバイスと共に彼は空高くへと飛びあがって――。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 全力の一撃であろうシュートを、俺の方へと放ってきた。

 彗星の如く放たれたソレは、俺の事を突き飛ばして崖から転落させるには申し分ないものだろう。

 

 だけど、俺は避けない。避ける事など許されない。

 

 確かに崖から落ちたら致命傷は避けられないし、多分この高さなら命を落としてしまう事の方が確率的には高いだろう。……そんな事、分かってる。

 分かってるからこそ、それが頭にあるからこそ、俺は避ける事など許されないんだ。

 ハッシュも腐っても未来人だ。その200年後の技術とやらでどうにかしてくれる筈。

 

 ここで死ぬことで、彼らへの罪償いが出来るのなら。

 

 ここで死ぬことで、この後ろめたさから解放されるのなら。

 

 そう考えると、不思議と死に対する恐怖感は消え去っていた。ハッシュも自身の生存の為にも“白竜”という存在は消さない筈だ。それなら彼に全て任せても良いじゃないか。彼らの思いを背負って生きていける程、俺は出来た人間じゃない。

 

 そう思って、実際に一歩近づいていたのに。

 

 

 ――ガキンッ!。

 

 

 ハッシュの放ったシュートは、どこかからか現れた黒い大剣に遮られた。

 どこか見覚えのあるそんな光景に、混乱を通り越して後悔さえ出て来る。

 

 

「悪いけど、これ以上は見過ごせないよ」

 

 

 見覚えのある紺色の髪。突如降臨した化身が〈ダークエクソダス〉だったという事も相まって、現れた存在に相当な既視感を覚える。

 でも、どうやら現れたのはシュウではないらしい。

 

 

「まさか女の子(・・・)に止められちゃうとはなぁ。キミ、何者?」

 

 

 赤いラインの入った白のワンピースを身に纏い、赤と白のリボンでポニーテールに結ばれた髪型。ハッシュが言葉にした通り、女の子の姿がここにはあった。

 

 ――まさか、もう一人の亡霊を目覚めさせるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 なんだかんだ、人が一番嫌がるのは“自由を縛られる”という事だろう。

 

 

「あぁもう!別に元気なんだから問題ないじゃないか!」

 

 

 故に、病院の一室で橙髪の少年――雨宮太陽はそう叫んだ。

 かなりの重い病気を幼少期からの長期間患っている彼からしたら、ここ数週間程症状が出てないのだからもう病院に幽閉される必要性はない。昨日も一昨日も一人でサッカーをして、それでも症状が出なかったのだから、別に運動を制限される必要はない筈なのだ。

 ……と、担当医や看護師が部屋に来る度に説得してはいるのだが。

 

 

「だめです!そんな事をして、また再発したらどうするの!安静にしてないとだめ!」

 

 

「冬花さんの分からずや!」

 

 

「それは太陽君の方でしょ!」

 

 

 と、毎回このように怒られてしまっているのが現状だ。

 勿論、今太陽を叱った看護師――久遠冬花の言い分も間違ってはいない。というよりは冬花の方が一般常識としては正しい筈だ。……雨宮太陽という存在が普通ならば。

 

 

(転生者って事は言えないし……僕ももっとサッカーしたいんだけどなぁ……)

 

 

 それなりにアニメや漫画等に精通しているのであれば分かる単語にして、今の太陽の状況を形作っている原因。でも正直に言った所で冗談だと思われるだけだ。それに下手したら厨二病の方の人間だと誤解されかねない。故に太陽は自身が転生者という事を誰にも伝えていないのだが、そのせいでこんなに面倒くさい状況になってしまっているのは何たる皮肉だろうか。

 

 因みに病気については既にほぼ完治していると太陽は認識している。彼が転生する前の太陽――本来の太陽の記憶をそのまま受け継いでいるからか、転生して間もない頃にその違和感に気づく事が出来ていた。

 

 それは、彼の精神が憑依する前に比べて明らかに身体が楽になっていた。というもの。

 例えるならば、彼の精神自体がその病気に対する特効薬のような。そう的確に当てはめられる程に、彼の転生秘話は上手く出来すぎていた。まるで“運命”がそう導いているかのように。

 とはいえ太陽もそこまで深くは考えておらず、『治ったのかラッキー』ぐらいにしか思っていないのだが。

 

 

『ゴォールッ!!白恋中、強豪雷門から先制点を奪いましたァァッ!!』

 

 

「……ん?」

 

 

 拗ねて布団に包まっていた太陽だが、テレビから聞こえてきた実況の声に思わず声を上げる。

 今まで冬花と言い争いをしていて気づいていなかったが、どうやらホーリーロードの二回戦が既に始まっていたらしい。

 

 

「おっ、雪村が決めたんだ!……ブロッコリーは相変わらずだなぁ」

 

 

 視界に映る情報を思わず声に出してしまう。

 どうやら試合開始と共に白恋の10番――雪村がシュートを放ち、雷門のGK――三国が反応できずに失点を許した形らしい。

 試合再開まで流されているリプレイ映像をワクワクとした目で凝視。まるで犬のような。まるで子供のような。そう見える程に太陽の心は好奇心で満ち溢れている。

 フィフスセクター関連など今の太陽には関係ない。ただサッカーが好きだから。彼らと同じグラウンドに立てるのが楽しみだから。純粋な好奇心しか今の太陽には無いのだ。

 

 

「こうしちゃいられない!練習練習~っと!」

 

 

 雪村のシュートに感化されたのか、彼らと同じように――このホーリーロードを始め、これからどんどんと来るであろう大規模な大会で活躍する自分を想像する太陽。

 沸きだつ観客、自分まで繋げてくれた味方。彼ら彼女らの声援の中で、自分が放ったシュートがゴールへと叩き込まれる。そんな、原作通り進むならば絶対といって良い程約束された未来。折角この世界に転生したのだ。夢にまで見たそんな未来を掴み取る為にも、まずは自分の実力を彼らと渡り合えるぐらいまで上げなければならない。――こんな所で寝てる暇なんて無いのだ。

 

 幸いにして冬花はもう既にこの場を離れており、見張りはいない。

 こうなってしまっては太陽の独壇場だ。ベットの下に隠していた靴下とスニーカーを取り出し、新雲学園のサッカー部から差し入れで貰ったサッカーボールを抱える。

 

 廊下は沢山人がいるから見つかる為却下。病院の一個室で廊下以外から外に出れるのは、窓しかない。

 

 

「やっほーいっ!」

 

 

 もう慣れたと言わんばかりに窓を開け、足を掛け、飛び降りる。3階という普通の人間なら大怪我を負う程の高さだが、太陽のその高度な運動神経がこの行動を可能にしている。

 問題なく着地し、見つからないようにすぐに建物の陰へと走る。運良く周りに誰もいなかったのが功を奏し、誰の目にも止まらずに建物と塀の間にある木々に囲まれた空間へ辿り着いた。

 

 大事そうに抱えていたボールを足元へと落とし、取り敢えずリフティングを開始。そして、どの技を覚えようか思案し始める。

 取り敢えずは覚えやすそうな技からやってみるべきだろう。原作の太陽は化身のみで二期序盤まで戦えていたが、それと同じ事をやれと言われても酷な話だ。それに多彩な必殺技は覚えておいて損は無い。故に――。

 

 

「スパイラル……ショットッッ!」

 

 

 いつもよりも回転を掛けてボールを蹴り上げ、そのまま金網へと蹴り放つ。初めて覚える必殺技にしては上々だろう。

 

 

「成功だ!よーし、次は――」

 

 

 何事においても成功は、更なるやる気の向上に繋がる事が多い。

 一回目で成功した事に喜びを覚えながら、太陽は次に覚える技を何にしようか思案し始めるのだった。

 




・白竜

 あれ、もしやこいつ自己犠牲の塊…?
 ハッシュにボコられるのも全て自分が悪いからと考えてる。まあその通りなんですけどね


・ハッシュ

 白竜が転生者である事を見抜く。
 例え白竜が崖から落ちて命を失っても、どうせ未来の技術で生き返らせられるからどうにか転生者の方の白竜だけ殺せないか探ってる模様。


・シュウの妹

 お兄ちゃんと同じ化身を携えて参上。尚ゲームではDF選手の模様。
 白竜を巡って争う……修羅場かな?


・太陽

 本来の太陽も天才だったけど転生した方も天才だった件。
 皆さんお察しの通り、何気にこの作品の登場人物の中で精神年齢一番低いとかいう裏設定がある。
 普通に年上である雪村を呼び捨てにしたり、クソザコブロッコリーをディスってる辺り、将来有望でしょう。


・冬花

 問題児である太陽に手を焼いている。
 本人は完治したとかほざいているが、再発しないように過度な運動はさせる訳無い。
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