シャニマスレ◯プ!プロデューサーと化した野獣先輩   作:ここあらいおん

10 / 14
有栖川夏葉のバレンタインガチャで天井行ったので初投稿です(怒


シーズン2 : 目的と夢

––––真面目な優等生。

 それが福丸小糸を知る人物の多くが彼女に対して抱いている印象だろう。

 勤勉で成績も優秀、決して器用な人間ではないものの、何事にも常に全力で取り組む努力家で、純白清廉の良くも悪くも裏表のない素直な人間性。それが福丸小糸が人々を惹きつける魅力であり、唯一無二の個性でもあった。

 そんな優等生気質の小糸の人間性に助けられた大人は数知れず、そして田所もまた、何かと個性の強い面子ばかりのノクチルを陰ながら支える貴重な常識人として、密かに絶大な信頼を寄せていた。

 だからこそ小糸が発熱したとの一報を受けた時、田所は驚きと動揺を隠せなかった。

 緊急事態宣言下の今の時期に、真面目な小糸が感染リスクのある行動を取るようには思えなかったからだ。

 

『緊急事態宣言が出てからは一度も外出もしてないですし、親もリモートワークで買い出し以外では外に出ていなかったんですが……』

 

 小糸本人曰く、本人のみならず福丸一家全員で感染予防のための対策は徹底していたそうだ。これまでに家族内で小糸の他に疑わしい症状を発症した者はいないそうで、当然家庭内感染が起こっている可能性も考えにくい。

 もちろん普段の小糸の人間性から、その発言が嘘だとも思えなかった。

 だがそうなると、残された感染源は緊急事態宣言が発令される以前から、ウイルスが小糸の体内に潜伏していたケースだけだ。それは即ち、緊急事態宣言が発令する二週間前に何の対策もなく接していた田所やノクチルの面々が濃厚接触者になることを意味することになる。

 

(それはマズすぎるっぴ……)

 

 ステロイドの副作用で薄くなった田所の頭皮に、嫌な汗が滲み出てくる。

 一人ならまだしも、万が一他のアイドルや従業員などにも陽性者が続出し、クラスターにでもなってしまうと事務所としては流石に隠し通すことはできず、声明を出すなどの対応に追われるのは明白だ。

 この感染症が流行り始めてからというもの、SNSや匿名掲示板などでは著名人、一般人問わず陽性になってしまった人物に対しての差別や誹謗中傷のコメントが後を絶たない。

 感染が確認された人間に向けられるコメントはホモビに出た男優を罵ったり小馬鹿にするようなクソガキたちのコメントが生暖かく感じられるほどに、辛辣な内容のものばかりだ。新種の感染症が秩序を乱す混沌とした今の時代で、人々は目に見えない敵を恐れるあまりに、誰しも罹りたくて感染しているわけではないという当たり前のことさえも忘れてしまって、世間では『感染する=悪』という悪しき風潮が蔓延させてしまっていたのだ。

 

「……本当に怖いのは感染症じゃなくて人間だって、はっきりわかんだね」

 

 そんなご時世だけに田所は、自身が感染したり事務所から陽性者を出したことによる世間からのイメージダウンよりも何より、陽性者の特定や世間からの心ないバッシングなど、感染症によって引き起こされる二次被害の方を懸念していた。

 

「と、ととととととりあえず検査に行って、どうぞ」

 

 兎にも角にも、小糸の検査結果が出るまで事務所側としては動きようがない。

 田所の勧めにより小糸はすぐに近所の病院で感染症の検査を受けに行くこととなった。

 小糸からの検査結果を待つ間、田所は何も手が付かない極限の精神状態に陥っていたが、時は永遠に続く時間の中で緩やかに、されど確実に明日へと向かって歩み続けている。

 窓から覗く景色が漆黒に染まった頃、ふと田所の意識はいつから点けていたのか分からないテレビのニュースを捉えた。液晶の向こう側では沈痛な面持ちのニュースキャスターが、先日感染が確認された有名タレントの近況を報道している。

 状況はかなり悪いようで、報道によると有名タレントは今は都内の大きな病院の緊急治療室で命を取り留めるための集中治療を受けているらしい。慌ただしく揺れる現地の映像と、緊迫したスタジオとニュースキャスターの声が、有名タレントが直面している事態の深刻さを表しているようだった。

 

「……小糸」

 

 祈るようなか細い声で、田所は小糸の名を呼ぶ。

 田所の不安が積み重なったかのように進みが遅くなった時計の針は、今にも立ち止まりそうなほどのスピードでゆっくりと、長い夜を越えていった。

 

 

☆★☆★

 

 

 両親に発熱を訴えて、連れて行ってもらった近所の病院で感染症の検査をした後、検査結果は翌朝にしか出ないことを告げられて小糸はメインの病棟から離れた敷地内の端に位置する古びた建物の一室へと連れて行かれた。

 検査結果が出ていない以上、今の時点で感染しているかどうかは分からないが、症状から判断するに感染している可能性は極めて高い––––、と。そう医者の口から告げられた小糸は、万が一陽性だった場合に周囲へ感染を拡大させないため、即席で用意された隔離部屋で検査結果が出るまで待機するよう指示されたのだ。

 病院まで運転してくれた母親は今にも泣き出しそうなほど目頭を真っ赤にしており、医者もまた不安と動揺を隠しきれない困惑した様子で、隔離部屋へと向かう小糸を見送っていた。だが当の本人の心境は、朦朧とする意識の中でも不思議なほどに落ち着いていた。

 ベッドとトイレだけが備え付けられた孤独な隔離部屋で、小糸はただ一人夜が明けるのを待つ。充電するまもなく病院にやってきたせいで僅かだったスマートフォンのバッテリーはすぐになくなり、外部からの情報が完全にシャットアウトされてしまった中で、小糸の脳裏に繰り返し浮かんできたのは、病院に来る前に動画配信サイトで観たアイドルの姿だった。

 

「……あの人、凄かったなぁ」

 

 小学生並みの感想が口から溢れる。だけどそれはあの時に感じた衝撃を形容する言葉を見つけきれないだけで、小糸はたった数分のメッセージ動画に登場したあのアイドルからとてつもないほどの勇気と元気を貰ったのは確かだった。

 あの動画を観たからといって自身の症状が良くなるわけでもない、ましてやただのアイドルに過ぎない彼女にこの世界を混乱に陥れる感染症を途絶えさせる異能力がないことだって分かっている。観る人にとっては気休めにもならない、ただのメッセージ動画だということも。

 

「それなのに、どうしてあんなに勇気をもらえたのかな……」

 

 その答えを探し求めるかのように、小糸は一睡もしないまま長い長い夜を過ごした。普段は夜更かしなどしない小糸にとって深夜の時間特有の雰囲気は新鮮そのもので、窓から差し込む月明かりと僅かな隙間から部屋に迷い込んできた夜風が、妙に神経を刺激し様々な思考を張り巡らせていく。

 何度も擦り切れるようにあのアイドルのメッセージ動画を繰り返し脳内で再生させていくと、次第に底のない勇気をくれたアイドルに自分の姿が重なり始めていった。

 

 幼馴染の透に憧れ、半ば付いていくような気持ちで自身も始めたアイドル活動。

 だが小糸は透に続くように身を投じたこの業界が、決して友達付き合いだけでやっていけるような甘い世界じゃないことには薄々勘づいていた。きっとこの世界には身を削るような努力と、人生を賭けた覚悟で挑戦しているアイドルたちもいて、そんな人たちに比べて小糸がアイドルを志した理由はあまりに弱すぎることも、そして、幼馴染の中でも恐らく理由もなくアイドルの世界にやってきたのは自分だけだということにも。

 数週間前、小糸は樋口円香がW.I.N.G.の予備予選で敗退し、独り屋上で誰にも悟られないように悔し涙を流している姿を目撃した。

 普段はクールで、決して情熱なんてもののカケラを一ミリたりとも見せない円香があそこまで感情を露わにする姿は、これまでの長い付き合いの時間の中で少なくとも小糸は一度も見たことがない姿だった。だけど本気で挑み、そして敗れ去った円香の失意の背中を見て、小糸は察した。円香は自分のようになんとなくこの世界にやってきたのではなく、彼女なりの覚悟を持ってやってきたのだと。

 今まで誰も打ち明けなかっただけで、もしかしたら透も円香も雛菜にも、アイドルの世界に身を投じたことに何かしらの目的や夢があるのだと思う。夢中になれる何かが、貴重な青春時代を費やしてでも掴みたい何かがあって、その手段としてアイドルになる道を選んだのだとも。

 その過程を踏まえた上で、今度は自分に矢印を向けてみる。

 小糸は何のためにアイドルになったのか、そして“アイドル福丸小糸”として何ができるのか––––。

 

 

 

 

「福丸さん、検査結果は陰性でした」

 

 翌朝、一睡もせずに朝日を迎えた小糸の元にやってきた医者は口角を上げてそう告げた。心なしか小糸より医者の方がほっとした表情をしているようで、その後体温と血中酸素濃度を測り、いつの間にか正常値に戻っていたのが確認されると医者は更の頬を緩める。

 

「体調も回復されたようなので、ご家族に連絡してご自宅に帰ってもいいですよ」

 

 医者曰く、昨日までの体調不良はここ最近の緊急事態宣言による心身のストレスに加え、春から高校に進学したことでいつの間にか疲労が溜まっていたことが原因かもしれないとのことだった。かなり曖昧で不明確な話ではあるが、自身を取り巻く環境や気候などが急激に変化するこの時期にはよく見られるケースだそうで、特に感染症が流行っている今年は例年に比べて小糸のような心因性発熱を訴える患者は多いそうだ。

 何はともあれ、感染症に感染していなかったことが判明し、結局一睡もしなかった隔離部屋から無事解放された小糸は病院の電話を借りて自宅に連絡し、昼過ぎには病院を後にした。

 

「…………ねぇ、小糸」

 

 帰路へと向かう道中で、不自然に母がそう切り出した。

 体調も回復し感染症の疑いも晴れて、安堵のあまりうたた寝をしていた小糸は慌てて目を覚ます。その様子をバックミラー越しに見ていた母は、少しだけ困ったように眉をしかめ、バックミラーから目線を逸らした。

 

「いえ、なんでもないわ。小糸も疲れてるでしょうから、今日は帰ってゆっくり休みなさい」

「う、うん」

 

 妙に母の言葉が歯切れの悪い口調にも聞こえたが、さすがに徹夜した疲れには勝てず、小糸は車の心地良い揺れに後押しされ、沈むように深い眠りに落ちていった。

 

 

☆★☆★

 

 小糸からの続報がない。

 そのことに田所が焦りを感じ始めたのは、小糸から熱発したとの連絡を受けた翌朝からだった。

 昨日の夕方時点で病院で検査を受けに行くと連絡があったため、検査結果はもうそろそろ出ていてもおかしくはないはずだ。それなのに小糸からは病院で検査を受けに行くとの旨書かれたチェインを最後に、何も続報が届いていないのだ。

 

『お、大丈夫か大丈夫か〜?(ガチ)』

『検査結果出るまでまだ時間かかりそうですかね〜?』

『お前ノクチルの中でペットみたいだって、それ一番言われてるから(意味不明)』

 

 さすがに心配になり、一部界隈ではそこらへんの女子高生よりも遥かに乙女とも称される田所は乙女特有の追撃チェインを何通も送ったものの、何通送っても返事がないどころか、既読マークすら付かない。

 何度も何度も柔らかスマホを開く度に、小糸から音沙汰のないチェインのトーク画面が乙女田所の不安を募らせていく。そして募りに募った不安が創り出すのは、考えたくもなかった最悪の光景だ。昨晩ニュースで観た、緊急治療室で治療を受ける苦しそうな有名タレントの姿が何度も何度もフラッシュバックしては、記憶の中のあどけない小糸が同じように苦しんでいる姿にすり替わっていく。

 居ても立っても居られなくなった田所は、チェインではなく小糸のスマートフォンに電話をかけたものの、同様にリアクションは何もなく、ただただ無機質なアナウンスが流れただけだった。

 

「……うせやろ」

 

 もしかしたら小糸は陽性判定を受けただけではなく、容態が悪化して重症化しているのではないか––––。

 電話にせよ、チェインにせよ、これだけ連絡をしているのに関わらず小糸からの応答が一切ない。ましてや、“あの”几帳面で真面目な小糸が、だ。

 少しの間熟考した後、田所は事務所から持ち出したノートパソコンを開いた。個人情報がまとめられたフォルダから、田所が283プロに入社する前に小糸が社長に提出していたプロフィールのPDFデータをクリックする。

 小糸自身に何度連絡しても返ってこないのなら、最後の連絡手段は自宅の電話番号にかけるしかない。さすがに自宅にかければ家族の誰かは出るだろうし、そうすれば小糸の容態や検査結果がどうであれ、今の状況を把握することができるはずだと目論んだのだ。

 だがそんな田所の目論見は、事態を想像もしていなかった方へと転がし始める。

 

『––––もしもし、福丸ですけど』

 

 何度目かのコールの後、田所の電話を取ったのは小糸の母親と思われる女性だった。電話越しの声は淡々としていて、感染症騒動の当事者とは思えないほどに、落ち着き払った声をしていた。

 妙に胸が圧迫されるような感覚を覚える田所。無意識に背筋を伸ばし、裏返りそうな声をどうにか抑えて、言葉を紡ぐ。

 

「ういいいいいいぃぃぃぃぃす! どうも! 283プロの田所で〜す」

『…………は?』

「ふぁっ!?」

 

 思わぬ返しに、虚をつかれた。

 電話が遠かったのか、はたまた自分の滑舌が悪かったのか、羞恥心と緊張感を飲み込んで、もう一度仕切り直して大々的に告知したオフ会に誰も集まらなさそうなYouTuberっぽい声で自身の名を名乗る。聴いてるだけで鳥肌が立つような寒い挨拶の後、気が重くなるような沈黙を挟んで、小糸の母は蔑むような声で田所との会話を終わらせた。

 

『––––283プロ? 失礼ですが、後輩のアイスティーに睡眠薬を入れるような下衆人間は福丸家の知り合いにはいませんので。それでは』

 

 受話器を置く大きなと音と共に通話が寸断される。

 更に状況を把握できなくなった田所の頭には、一定のリズムで繰り返される「ツーツー」といった効果音だけがこだましていた。

 




今回あんま汚くなくてごめんよ〜。
次回は頑張るからさぁ〜頼むよぉ〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。