シャニマスレ◯プ!プロデューサーと化した野獣先輩   作:ここあらいおん

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だいぶ間が空いてしまったので初投稿です。


シーズン4 : 動物裁判

 田所から緊急事態宣言解除後に保護者を交えた動物裁判(意味不明)を執り行うと言われていた小糸は、緊急事態宣言が死ぬまで続いて欲しいと切に願っていた。だが当然そんな都合よく事が進むわけもなく、田所の提案からちょうど2週間後、予定通りに東京を中心に発令されていた緊急事態宣言は解除されてしまった。

 解除されたとはいえ、感染症の脅威は完全に消え去ったわけではない。今でも連日のように新規感染者が増え続けては、患者たちが日本各地の病床を逼迫し、テレビでは多くの専門家たちがその危険性を説いて国民に不要不急の外出を控えるよう訴え続けている。

 だが、いくら国民が自粛を続けたところで世界規模で広まってしまった感染症を根絶することはもはや不可能に近かった。緊急事態宣言も結局はその場凌ぎにしかならない結果に終わり、感染症に対して明確な打つ手が失くなった以上、感染症の脅威を承知した上で経済の崩壊を防ぐため、徐々に元の生活に戻していく方向へと舵を切らざるをえなかったのだ。

 

「あ、あの! 会って欲しい人がいるんだけど!」

 

 小糸がようやく母親に話を切り出したのは、緊急事態宣言が明ける二日前のことだった。

 少しだけ力んだ声の小糸の口調は不自然だったものの、台所で食器を洗っていた母親は一瞬だけその手を止めただけで、特別驚いた様子は見せなかった。

 

「……分かったわ。なら予定を決めましょ」

「ふぁっ?」

「ん? どうしたの小糸?」

「な、なんでもないです(食い気味)」

「そう(無関心)」

 

 勇気を振り絞った小糸に対し、母の反応は淡白としたものだった。

 電話での田所の口ぶりから、小糸は既に母が何かしらの経緯を経てあの汚物と接触していたとばかり考えていた。だが今の母のリアクションはまるで一連のことを何も知らないかのような薄さだ。

 てっきり無許可で事務所に所属したことをこの場で責められる事態も覚悟していただけに、この反応には思わず拍子抜けしてしまう。だが、かと言ってこの場で自身の罪を全てを白状する勇気を持ち合わせているわけもなく、小糸は母の薄いリアクションに戸惑いつつも、それ以上自ら深掘りするようなこともしなかった。

 

 そして緊急事態宣言が解除されてから迎えた初めての週末。

 都内にあるチェーンの喫茶店で、小糸と小糸母、そして恐らく世界で最も有名なホモビ男優田所の三人による地獄の三者面談が実施された。

 

「おっす、お願いしま〜す」

「やっぱり、あの時の電話の––––」

 

 マスクで口元を覆っていても、隠しきれない田所の不快感。

 待ち合わせの時間より810秒遅れているにも関わらず、全く悪そびれる様子もなく姿を現した田所を見て、小糸の母はわざとらしくクソデカ溜息を吐いた。

 

「また君かぁ……、(胸が)壊れるなぁ」

「ん? 嬉しいダルルォ?」

「それは君の錯覚だよぉ(照れ)」

(や、やっぱり二人は面識があったんや……!)

 

 二人のやり取りから察するに、やはり小糸の知らないところで二人は何かしらの経緯を経て面識があったらしい。だがそうだとすれば、不自然なのはどうして母はあの場では何も言及しなかったのか、だ。

 小糸の母は、生真面目な母親だった。

 教育熱心かつ過保護な性格でもあり、これまで小糸はそんな母の厳格な管理下で育ってきた。幼少期からアレはダメ、これはダメ、それなら大丈夫、これをしなさい……といった風に、自然と母の轢いたレールを小糸が歩く教育方針が福丸一家には形成されており、小糸が人生で最も苦痛な時間だと感じていた私立の中学受験も元は母が勧めたのがキッカケだった。

 そんな母だからこそ、無断で芸能事務所に所属しているかもしれない娘を野放しにするとは考えにくい。仮にバレるようなら、母はすぐにでも真偽を確かめ、小糸を辞めさせようとするはずだ。

 小糸はそう予測していただけに、母のこれまでの一連の行動に「らしくなさ」を感じていた。

 

 簡単な挨拶を済ませた後、田所は手短にこれまでの経緯を話した。

 小糸は幼馴染の浅倉透が事務所に所属したのを機に、自ら志願してオーディションを受けにきたこと。その際に渡した書類には親権者の同意書が含まれており、小糸はその同意書に確かに親のサインと印鑑を押して事務所に提出したこと。だが田所はそれが偽造されたサインではないかと疑っており、万が一それが小糸自らが偽装して提出した書類だった場合、法律に触れる行為になってしまうため事務所としては見過ごす事ができず、故にこうして話し合いの場を設けたこと。

 そして最後に、もしここで改めて親の同意が得られるのであれば、小糸をこれまで通り283プロのアイドルとして活動させたいと田所は言った。それは普段から汚らしい語録ばかり喋るおしゃべりうんちの姿からは想像もできない、まさに王道を往くプロデューサーの立ち振る舞いだった。

 一連の話を聞き、小糸の母は何も言わずに立ち上がった。そして腰を折って、深々と頭を下げる。

 

「……この度は小糸が多大なご迷惑をおかけしてすみませ––––、センセンシャル」

「顔上げて、どうぞ(良心)」

 

 何故わざわざ言い直す必要があったのかは疑問だが、田所はすぐに小糸の母に頭を上げるように促した。

 再度小さく会釈のように頭を下げながら座る小糸の母。その隣の小糸は、終始表情を隠すかのように俯いたままで、顔を覗く事を許さない。

 

「今回の一件は仰る通り何も存じていませんでした。例の同意書にも、署名した覚えは一切ございません」

 

 これまでの田所の話を全て肯定する言葉に、俯いたままの小糸は小さく肩を震わせた。

 緊急事態宣言が明けたとはいえ未だ収束の兆しを見せない感染症の影響からか、店内は週末とは思えないほどに空席が目立っている。盛り上がりに欠ける店内はゆったりとしたピアノのBGMが響くだけで、その妙な静けさが三人のテーブルを包む空気を心なしか重くしているようだった。

 

「––––あの、浅倉さんがいるということは、樋口さんと市川さんも?」

「そうだよ」

「やっぱりそうでしたか」

 

 歯切れの悪い口調で沈黙を破った小糸の母は、田所の語録に再度クソデカ溜息を返す。その瞬間、小糸の肩が小刻みに震え始めたのを田所の視線は見逃さなかった。

 

「正直な話ですが、私はあの三人に対してあまり良い印象を持っていないんです」

「は?(焦り)」

 

 突然のカミングアウト。

 虚をつかれた田所も、隣にいる小糸もお構いなしに、話を紡ぎ続けていく。

 

「三人のことは昔から知っていました。貴方にこういうことをお話しするのもどうかと思いますが、あの三人は昔から汚らしい淫夢語録ばかり喋っていて––––」

「そ、そう……」

「何処にいても口を開けば汚い語録ばっか喋って、公園に行けば迫真空手部ごっこなんておぞましい遊びを始めたり。親としては、自分の娘がどうしてもそんなホモガキたちと一緒にいてほしくないと––––」

「ねぇっ!!」

 

 堰が決壊した肛門から汚物が溢れ出るよう、とめどなく喋っていた母の話を、乱暴な叫び声が強引に遮った。

 シンと静まり返る店内に、顔を真っ赤にして立ち上がった小糸の脈の音だけが響く。遠くで退屈そうにスマホを弄っていた若い女性も、アクリル板を挟んで楽しげに話していたカップルも、レジの奥で洗い物をしていた店員も、皆が三人のテーブルに視線を向けている。だがその視線たちをもろともせず、激昂した小糸は小さな拳をわなわなと震わせて、隣に座る自身の母親を睨みつけていた。

 

「どうして私の友達にそんなこと言うのっ!?」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」

 

 慌てて田所が制止に入るも、小糸の耳にその声が届いていないのか、視線を向けもしない。小糸はただただ、未だかつて見た事がないような怒りの眼差しを、母親に向け続けているだけだ。

 

「お母さんはいっつも私に指図するし、友達関係にも口出しするっ! 三人のこと何も知らないくせにっ!」

「……」

「中学受験だって本当はしたくなかったっ! 私はお母さんの操り人形なんかじゃないのにっ!!」

 

 感情を爆発させ、怒りをぶつける小糸。小糸の母は俯いたまま、何も反論しなかった。

 その対応が更に小糸の怒りをエスカレートさせたのか、しまいにはいつしか溢れ出てきた涙を拭いもせず、泣きじゃくりながら小糸は小さな手のひらで作っていた拳を、思いっきり机に叩きつけた。

 

「私の大事な友達を、汚い淫夢厨呼ばわりしないでっ!!」

 

 机を殴る音と涙混じりの叫び声だけを店内に残し、小糸は店から出て行ってしまった。

 嵐が過ぎ去った後のように、シンと静まり返る店内。変わらないはずのBGMの音量が、やけに大きくなったかのように聴こえる。

 小糸が去り、取り残された二人を気まずそうに見つめていた他の客や店員の視線が程なくして外れたところで、小糸の母がおもむろに口を開いた。

 

「……すみません、お見苦しいところを見せてしまって」

「んにゃぴ、よく分からなかったです(本音)」

「ですよね」

 

 先程までの様子とは一転、力なく笑う小糸の母は一度コーヒーを口に含む。そしてチラリと小糸が先程まで座っていた椅子を見て、話を続けた。

 

「失礼ですが、田所さん、お子様は?」

「いないです」

「でしょうね、男同士では子供はできませんから」

 

 なんかボソッと変なことを呟いた気もするが、田所は聞こえなかったフリをして聞き逃す。

 小糸の母の頬は、自然な形で緩んでいた。それは優しい母親の顔付きで、厳格で教育熱心な親御さんとばかり思っていた田所は、こんな笑い方ができる人なのだと、別人のような一面を見てそう感じていた。

 

「––––小糸は、未熟児として生まれました。そのせいか小さい頃から病弱で、よく体調を崩していて、本当に手が掛かる子だったんです」

「そ、そう……(相槌)」

「だからこそ、私は親として小糸を正しい方向へ導こうと思っていました。なるべく小糸が元気に、そして楽しく過ごせるようにって」

 

 そこで一度区切って、困ったように眉をハの字にした。

 

「ですが、今になってそれは私のエゴだったのかもしれないと反省しています。良かれと思って小糸にしてきた事が、あの子を逆に苦しめていたんですよね」

 

 こんなんじゃ母親失格ですよね。

 そう言いながら力なく笑い、コーヒーカップの中をスプーンでかき混ぜる姿を見て、田所は察した。

 きっとこの人はこの人なりの愛情を持って小糸に接していて、だからこそ、その愛情が小糸を苦しめていたことに罪悪感を感じているのだと。そう思うと、どうしても居た堪れなくなってしまう。

 田所には子供がいない。だから子育ては当然経験したことがないものの、親が子を思う気持ちをある程度想像することはできる。

 小糸の母が間違っているとは思わなかった。誰だって自分の子供が汚いホモビの語録ばかり喋る淫夢厨と絡んでいると、なるべく友達を選んで欲しいと思うのは至極当然のことだ。

 だが実際にどうするかを決めるのは子供自身であって、間違っても親が決めることではない。淫夢厨の友達だろうがのびハザの実況YouTuberだろうが、最終的に誰と付き合って仲良くしていくかは当事者である子供が決める他ないのだ。

 

「小糸は怒って出て行ってしまいましたが、まだ私の話は終わっていませんでした。田所さんだけでも聞いてもらえませんか?」

 

 田所が頷くと、小糸の母は礼儀正しく頭を下げて、「ありがとうございます」と返す。そして止まっていた話を再開させた。

 

「正直、田所さんからの電話で察しました。小糸が何かを隠してやっているのだと。それで283プロダクションで調べたらアイドル事務所だったから、少し驚きましたけど」

「……まぁ、多少はね?」

「ですが驚き半分、もう半分は嬉しさもありました。あの子が初めて自分の意思でやりたい事を見つけたんだなって思って」

 

 いつの間にか、店内にいる名前も知らない人々は二人に関心を失っていた。知らぬ間に変わっていた店内のBGMも、新たに来た客たちも、入れ替わったレジに立つ店員も、誰も二人の邪魔をしようとはしていない。

 その元に戻った世界で、愛する子の未来を案ずる母親が、静かに宣誓する。

 

「小糸ももう高校生です。友人関係、自分がやりたいと決めた事、私は口出しせずに静かに応援したいと思います」

「……よう言うた! それでこそ母親や!」

「ありがとナス! 今後とも小糸のことをよろしくお願いします!」

 

 小糸の母は小糸にアイドルを辞めさせるために今日ここに来たのではなかった。本当は正式に彼女のアイドル活動を認めるために来ていたのだ。

 両者ともに深々と頭を下げあって、その想いを確認できたことを嬉しく思う反面、田所はこの母の想いが小糸にちゃんと伝われば尚良かったのになとも思う。だがいかんせん親子の問題はナイーブな問題なだけに、第三者である田所がどこまで介入していいのかも分からず、安易な言葉をかけることはできなかった。

 

「小糸のことはこちらでどうにかします。これ以上プロデューサーさんにご迷惑をかけるわけにはいきませんから」

 

 そんな田所を見越してか、小糸の母はそんな言葉を掛けてくれた。

 心配ではあるものの、小糸の母がそう言う以上、田所は親子の関係に口を挟むような真似をするつもりはない。これから先は当事者同士に任せることに決めた。

 多少頑固な一面があるかもしれないが、小糸もそこまで物分かりが悪い方ではない。

 きっと今は怒りで母の話を聞く耳も持たないかもしれないが、時間が経って落ち着けばきっとちゃんと話を聞き、今日伝えそびれた母の気持ちを理解してくれるはずだ。

 何はともあれ、小糸の親権者同意書の偽装提出問題は解決した。これでこれからは何も負い目を感じることなく、アイドル活動に専念することができる。

 抱えていた大きな問題が解決して、ほっと胸を撫で下ろした時だった。

 

「あの、最後に一つお願いがあるんですけど」

 

 一応念のために持ってきた新たな親権者同意書にサインをし、田所に向かって差し出した小糸の母が申し訳なさそうに言った。

 

「もしよければ、サインをいただけないでしょうか?」

 

 一瞬、小糸の母が何を言っているのか理解できなかった。

 暫くの間を挟んで、田所は283プロに所属するアイドルのサインが欲しいのだと理解し、誰のサインが欲しいのかを尋ねる。だが小糸の母は何故か気恥ずかしそうに頬を赤くしながら、首を横に振った。

 

「いえ、田所さんのサインが欲しいんです」

「ふぁっ!? うせやろっ!?」

「嘘じゃないですっ! ずっと田所さんのファンで、真夜中の淫夢も、魅惑のラビリンスも、discoverシリーズも、全部ぜんぶ視聴しました! なので良かったら是非サインを……!」

「お、お前精神状態おかしいよ……(ドン引き)」

 

 思わぬカミングアウトにドン引きしながらも、田所は小糸の母が着ていた白シャツの端にサインを書いてあげることにした。伝説のホモビ男優のサインがよほど嬉しかったのか、小糸の母は突然饒舌になり、淫夢に賭ける自身の情熱を語り出す。

 

「私、淫夢の「い」の文字も知らないし本編も見たことないくせに、ネットで知り得た語録をベラベラと喋るだけで淫夢を知った気になる、にわか淫夢厨が大嫌いなんです。小糸には申し訳ないのですが、幼馴染の三人もファッション淫夢厨なので、どうしても好きになれないんですよね。そもそも淫夢語録はホモビ界隈から派生した由緒正しい日本語の––––」

 

 その後、小糸の母の熱弁は数時間にも及んだ。

 

☆★☆★

 

 ようやく解放され、店から出た時だった。

 ポケットに入れっぱなしになっていた柔らかスマホが揺れたのに気付いて、田所は画面を点けた。ロック画面にはメールの通知が一点だけあり、メールの差出人は天井社長。その件名には、『Fw:感謝祭2020の開催について』とだけ記載されている。

 どうやらクライアントから送られてきたメールを天井社長が転送して送ってきたらしい。そういえば感謝祭なんてものあったなぁ、なんて思いながら田所は柔らかスマホをポケットに戻す。ここ最近は小糸の発熱や動物裁判、もちろん世の中を掻き回す感染症など様々な問題が立て続けに起こっていただけに、すっかり感謝祭の存在を忘れてしまっていたのだ。

 たしか緊急事態宣言中に実施されたオンライン会議では、今年の感謝祭は中止が濃厚だと話していたはずだ。残念だがそれは当然の結果だとも思う。新型の感染症で世の中が大きく変わり、人と人との接触を控えるよう推奨されている今のご時世に、ライブなんてもの開催できるわけがないのだから。

 だから天井社長からのメールも、きっと中止が確定した旨の連絡に違いない。

 田所はそう勝手に思い込んでいただけに、自宅についてメールを開いて読んだ時、その文面にド肝を抜かされた。

 

『感謝祭2020 開催のお知らせ

 

 関係者様各位、平素より大変お世話になっております。

 表題の件ですが協議の結果、感謝祭2020は関係者及び出演者の感染症対策を徹底した上で、フルリモート(無観客)により開催することが決定致しましたことをお知らせいたします』

 

 

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