シャニマスレ◯プ!プロデューサーと化した野獣先輩   作:ここあらいおん

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だいぶ間が空いてしまってすみません。
実は先日福岡で行われた声優の愛美さんのライブ(ミリマスのジュリア役)に行ったんですが、愛美さんの清香らかで綺麗な歌声を聴いて自分はなんて汚いSSを書いてるんだと自己嫌悪になっていました。
が、日本もドイツに勝ったので初投稿です。


シーズン5 : 始まりの汽笛

 

 感謝祭2020。 

 田所のみならず、283プロに関わる全ての人間––––……、いや、おそらく関係者の殆どがこのイベントの存在自体を忘れていたに違いない。

 突如現れた新型の感染症によって世界がガラリと様相を変えてしまってから早一ヶ月。新型の感染症が引き起こす恐怖と混沌に世界中の人々は振り回される一方で、もはや感謝祭を開催する云々の話どころじゃなくなっていたのだ。 

 だからこそ、まさかの開催決定の連絡に田所を含む大勢の関係者はそのド肝を抜かれた。

 

『主催は近年急速に名を上げているベンチャー企業だ。こんな時代だからこそ多くの人に元気と勇気を与えるイベントが必要だと言っている』

 

 急遽開催されたリモートミーティングで、天井社長は開催に至るまでの経緯をそう説明した。

 いかにもベンチャー企業らしい考え方だなと、田所は思う。

 勿論その言葉に嘘はないのだろうけど、大方今更中止にしたところで発生する被害総額のデカさに怖気ついたのだろう。もしくは、この状況下で開催することで良くも悪くも世間にインパクトを残しやすく、当初の算段よりも多くのメリットを見込んだのか––––。

 いずれにせよ、この強行開催が物議を醸す結果になるのは明白だった。

 だが天井社長は最後に主催側は感謝祭への参加を強制しているわけではなく、あくまで事務所や出演予定のアイドルたちの意見を汲み取った上で決める意向だと話した。だから十分にリスクを伝えた上で担当アイドルたちと話し合い、アイドルたちとの意見を十分に尊重した上で参加するかどうかを決めるようにとも。

 

『私は感謝祭に参加したいです』

 

 リモートのミーティング後、田所がチェインでノクチルの面々に感謝祭に参加するか否かの相談を持ちかけた。その矢先、1分足らずで真っ先に返事をしたのはリーダーの透でも、W.I.N.G.敗退で淫夢に堕ちた円香でもなく、小糸だった。

 すぐさま他3人の既読がついたものの、皆言葉を選んでいるのか小糸以外の返事はなかなか表示されない。小糸の返信により田所とノクチルの4人で構成された汚れのない清らかなチェイングループには妙な空気が渦巻き始めていた。

 

『うせやろ。小糸、本気で言ってるの?』

『本気だよ』

 

 少しの間を置いて出てきた円香の問いかけにも怯まず、小糸は参加の意思を頑なに示し続ける。

 田所も小糸に感謝祭に参加することで生じるリスクを再度説明した。このご時世だけに、開催することをよく思わない人たちも当然いて、そういった人たちのノクチルに対する印象が悪くなってしまうことも、そして当然大勢の人が集まるイベントだけに、いくら対策をしたところで自分たちが感染してしまうリスクがあることも。

 だがそれでも小糸の意見は変わらず、参加したいの一点張りだった。

 

『なら参加しよっか。小糸ちゃんもそう言ってることだし』

『お、そうだな。透先輩がそう言うなら〜、雛菜も参加で良いと思う〜』

 

 何度目かのやりとりの後、既読をつけながらも今まで傍観し続けていたリーダーの透が初めて返事をし、それに雛菜も同調。普段はあまり自己主張をしない小糸の珍しい一言がキッカケで、ノクチルの感謝祭への参加が決定したのだった。

 

 283プロから感謝祭に出演することになったのは田所率いる令和の淫夢ユニットことノクチルの他、シーズとアルストロメリアの2つのユニットのみ。他のユニットは参加を見合わせた為、タイムスケジュールには大きな空きが出て、ノクチルにも当初のスケジュールよりも大幅に長い時間を割り当てられることとなった。

 本来こういった合同ライブで、ノクチルのような新人ユニットに与えられる時間は限られている。その尺はせいぜい一曲分ほどで、MCはおろか自己紹介させてもらえれば御の字、名前や紹介などは後付けのテロップで簡易に済まされるケースが殆どだ。

 それだけに新人ユニットが1秒でも長くステージに立てるのは有り難い話ではある。本来なら願ってもない好機になるはずだった。

 

「……ねぇ、これ私たちが出る意味ってあるの?」

 

 しかし、円香がふいにそんなことを言葉にしたのは、本番直前のリハーサルが行われたある日のことだった。

 この時ノクチルは本番を間近に控えているのに関わらず、ステージ上で余分に増えた時間で何をするかが明確に定まっていなかった。その話し合いをリハーサルの休憩中に行っていた時、円香が恐らく誰もが気付いていながらもあえて口にしなかった疑問を、明確な形として言葉で表したのだ。

 

「感謝祭なのに、ファンもいない私たちは誰に何を感謝をするの?」

 

 淡々とした口調で問いかける円香に、誰も言い返すことができない。

 円香の言い分はご尤もだった。本来感謝祭とは常日頃から応援してくれるファンにアイドル自身が感謝の気持ちを伝えるイベントであって、そもそもノクチルのような新人ユニットが出ること自体が矛盾しているのだから。

 感染症のパンデミックが発生する前、ノクチルはあくまで283プロの新人ユニットとして“おまけ”のような形でステージに立つだけの予定だった。だから田所も話を受けたはずなのに、今となっては辞退したユニットの影響で持ち時間が倍になり、歌以外のパフォーマンスも求められることとなっている。ユニットとして活動するのは感謝祭2020が初めてで、当然ファンも知名度も殆ど皆無なのに、だ。

 

「うーん、家族とか友達とか?」

「それ、感謝祭でしなくてもよくない?」

「え〜、雛菜たちが楽しむだけじゃダメなの〜?」

「ふざけんな! とりあえず土下座しろこの野郎!」

 

 透と雛菜が苦し紛れに捻り出した答えを、円香は躊躇なく正論で論破していく。

 自分たちが感謝祭のステージに立つ意味はあるのか。

 果たしてこのご時世にステージに立つことを選んだ判断は正解だったのか。

 

 ステージに立つことを決めたのは彼女ら自身だ。そして感謝祭が本来どういった場で、そこに自分たちが参加することが理に叶っていないことも、十分に理解している。

 だがそれでもこの不安定な時代情勢もあって、開催日が近付くにつれてノクチルのメンバーたちにはそんな悩みが生まれ始めていた。

 

(どうすっかなぁ〜俺もなぁ〜)

 

 田所も田所とて、どうにか彼女たちを導けないかと試行錯誤してはいるものの、プロデューサーとしての経験値の浅さ故にかける言葉を見つけられずにいた。 

 部活に性を出していた大学時代は、それこそ迷ったらとりあえずケ◯穴にぶっ込みぶっ込まれろの精神で何もかもを乗り切ってきた。信じられないかもしれないが、あの時代は四の五の言わずにケ◯穴確定しとけば何でもかんでも解決できるご都合主義な風潮があったのだ。

 だが時代は変わり令和の世になって、突如世界中を襲った新型の感染症がケ◯穴確定の風潮含むこれまでの一般常識を瞬く間に破壊し尽くしてしまった。これから先の世界がどうなるのか全く見通しが立たない以上、誰もこれからの時代で何が正しくて何が誤りになるのかは分からない。それはノクチルのメンバーよりも長い時間を生きてきた田所にも、だ。

 不幸にもそんな時代を高校生として生きる若人の彼女らが、不安を抱かないはずがなかった。

 

「––––ね、ねぇ!」

 

 正解のない答えを探し、討論を重ねること数分。

 これまで一度も会話に参加しなかった小糸が、初めて口を開いた。

 

「どうしたの、小糸」

「あ、あのね! ひ、ひとつ提案があるんだけど––––」

 

 円香の抑揚のない言葉に怯みながらも、感謝祭に参加することを決めた時と同じように、小糸が自己主張を見せた。

 そして––––。

 

☆★☆★

 

 真っ暗で誰一人として人影のない観客席。漆黒のスタンド席では一定の距離を空けて設置された異様な数のカメラが鋭い眼光をステージに向けており、まるでこれからライブが始まる会場とは思えないほどに静まりかえっている。

 リハーサルでステージに上がったノクチルの4人の目の前に広がっていたのは、そんな異様な光景だった。

 今日は主役アイドルの後ろで演奏するバックバンドも、色鮮やかなペンライトを振りアイドルのコールに応える観客も、この会場には誰一人としていない。いるのはマスクとフェイスシールドを装着し、万全の感染症対策をおこなった少数のスタッフと、前例のない「無観客ライブ」の光景に不安を覚えるアイドルたちだけだ。

 

「はえ〜……、すっごい(震え声)」

「あは〜、円香先輩ビビってる〜?」

「は?(震え) 勝手にたまげてろクソホモガキ」

 

 感謝祭がユニットとして初めてのライブとなるノクチルの面々にも、この光景が普通ではないことが伝わっていたようで、心なしか4人の顔色には不安な色が伺える。

 感謝祭の開催については最後まで賛否両論があった。こうして開催日を迎えた今でも、東京都では連日過去最高の感染者数を記録し続けるほどにウイルスが蔓延しており、依然として世界は感染症の猛威に翻弄され続けている最中である。

 田所は感謝祭当日までに何度も4人に参加の確認をとったが、その度に小糸が真っ先に「参加します」と言い切るだけで、微塵も迷いを感じさせることはなかった。

 それがある種の強がりなのには、田所は気付いていた。だが何故4人は頑なに参加に拘るのか、そしてそれを小糸が率先しておこなっている理由までは分からない。

 

(しょうがねぇなぁ〜)

 

 きっと小糸たちが感謝祭の参加に拘るのも、何か彼女らなりの目論見があってのことなのだろう。

 色々なことを思う節も、参加することへのリスクもあるけれど、それでも彼女らはもう高校生だ。子供ではないのだから、だからこそ田所は4人の意見を極力尊重しようと思う。万が一何かがあった時、その時は自分が責任を取ればいいのだから。(取るとは言ってない)

 

「ありがとうございました。今後ともSHHisをよろしくお願いします」

「FOO〜↑ きもちぃ〜↑」

「ありがとうございました(ガン無視)」

 

「皆さんも体調に気を付けて、次は有観客のライブでお会いしましょう! 以上、アルストロメリアでした」

「リモートライブは初めてか? 肩の力抜けよ」

「ちょっ、TENGAちゃ––––じゃなかった、甜花ちゃん! もう終わったんだから変な事言ってないで早く行かないとっ!」

 

 誰一人として人影がないスタンド。観客からのレスポンスが一切ないMC。

 異様な空気と重度の緊張感を抱えたまま始まった無観客ライブではあったが、先にステージに上がったシーズとアルストロメリアは本来のライブ同様、まるでそこに人が存在するかのように振る舞い、アイドルとしてのパフォーマンスを見せている。

 その甲斐あってか、ライブの配信時には当初の予想以上のアクセスが集中。コメント欄は配信開始810秒で既に114514以上のコメント数が集まり、凄まじい勢いで増え続けていた。

 ノクチルの出番が回ってきたのは、配信開始から1時間ほどが経過した19時19分頃だった。

 

「あ、あのさぁ」

 

 舞台袖でステージに上がる瞬間を待っていた4人に、田所はおもむろに声をかけた。

 

「ぴえっ!? じゃなくて、んにゃぴ!?」

「い、いきなりなんですか? ミスター汚い抗うつ剤」

 

 ふいに声をかけられて驚いて振り返った4人の様子から、これから自分たちが立とうとしているステージに不安を抱えているのは一目瞭然であった。

 本当であれば無観客などではなく、ちゃんと観客がいるステージでデビューさせてあげたかった。これが田所の本音であったが、感染症に振り回される世界情勢がそれを許してはくれない。

 

 だがそれでも、彼女らはこの状況下でステージに立つことを選んだ。その決意に隠れた真意を田所は知らないが、そんな4人だからこそ伝えたいことがあったのだ。

 田所はステージまでの短い時間で、映像が持つ効力の強さを説いた。

 今は無観客で4人には不安があるかもしれないが、レンズ越しには数えきれないほどの人たちがライブ配信を観ていること。そしてこの先の未来できっと今日の映像を見て勇気をもらう人たちが沢山いることも。

 それは決して気休めや励ましなんかじゃない。田所が自ら経験したことだからこそ、自信を持って言える言葉だった。

 ホモビに出演してから約10年の歳月を経て、田所は思わぬ形で世間の注目を集めた。そしてデビューから10年は全くの無名だったホモビ男優が、今や世界中の人々に勇気と元気を与える偉人にまで上り詰めている。映像として残っていれば、今すぐにではないにせよ田所のように、後付けのような形で多くの人に希望を与える可能性だってあるのだ。 

 普段は田所の話を適当にしか聞いていなかった4人も、この瞬間ばかりは汚い語録を挟むことも、田所をステロイドハゲ扱いすることもせず、磁石に引き寄せられるかのように田所の話を聞き込んでいた。

 

「ノクチルさん、スタンバイお願いします」

 

 そして、いよいよノクチルの船出を告げる汽笛が鳴る。ほんの少しだけ肩の力が抜けた4人は小さな背中を田所に向け、ファーストステージへと続く一歩を踏み出した。

 その最後尾に位置していた透が、階段へと片足をかけた時に田所の方を振り返った。

 

「プロデューサー、そこから見とけよ見とけよ〜」

 

 ニヤリと笑って、透は踵を返す。

 

☆★☆★

 

 ステージに上がった4人を待っていたのは、無数のカメラと真っ暗な観客席だった。目の前に広がる交易はリハーサルで観ていた光景よりも更に闇深く、まるで魔物が潜んでいるかのような不気味な静寂に包まれている。

 自分たちが今どのように映っているのか、そして突如現れた新人ユニットに対してお客さんはどのようなリアクションを抱いているのか。それを確認する術は、残念ながらステージ上に立つ4人にはない。

 

「み、皆さん! 初めまして! 私たちノクチルと言います!」

 

 緊張で裏返りそうな小糸の声が、会場に反響した。

 返ってくるのは徐々にボリュームが減っていく木霊だけ。得体の知れない違和感に押し潰されそうになりながらも、小糸は震える拳を握りしめて言葉を紡ぐ。

 

「ま、まず最初に、私たちのことを知っている人は殆どいないと思います。本当は今日がデビューステージだったのですが、感染症の問題で無観客開催になってしまい、対面してご挨拶ができないのがすごく残念です」

 

 相変わらず闇の観客席からの反応はない。だがいつの間にか小糸はスラスラと喋り続けていた。

 

「今の状況でのライブに疑問を持つ方もいるかと思います。だけど、今のような暗くて先が見えない時代だからこそ、誰かが大勢の人を明るくさせ、元気と勇気を与える人間にならなければと思ったんです」

 

 小糸の脳裏に浮かんだのは、発熱した日の夜に動画配信サイトで観た一人のアイドルの姿。

 根拠はないけれど不安を一瞬で消し去る勇気を与えてくれたあの人のようなアイドルに、小糸はなりたいと願った。それは、これまで自分の意思表示をすることができず周囲に流され続けて生きてきて、アイドルになった過程でも特別理由も夢も持たなかった小糸が初めて持った、明確な夢だったのだ。

 

「今の私たちにはまだそんな力はないのかもしれませんが、それでも、そんな風に一人でも多くの人に元気を与えられるアイドルになれるよう頑張るので––––。宜しくお願い致します!」

 

 誰もいない観客席に向かって深々と4人は頭を下げる。

 ゆっくりと顔を上げる途中で小糸の手の平には感触があった。きっと今日のステージを境に自分たちはあの日観たアイドルのようになれるのだと。

 そして願わくば、その夢への旅路を隣にいる3人と共に歩いて行きたい。それぞれ背負う覚悟、掲げる目標は違えど、きっと通ずる道は一つなのだから、その長い長い道を協力しあって歩き続けていければと思う。

 顔を上げた拍子に、隣の透と目が逢った。逆を向けば円香と雛菜も、小糸の瞳をじっと見つめている。

 

「じゃ、行きますよ〜イクイク」

 

 リーダーの透の言葉を機に、4人はマイクを握り直した。そして、

 

「それでは聴いてください! ノクチルで『いつだって僕らは』!」

 

この日、ノクチルの4人はアイドルとなった。

 

 

 

 

 無観客ライブから1週間後、小糸から田所の一通のチェインが届いた。

 母親と和解したようで、今後も283でアイドル活動を続けていきたいと。

 その際に小糸の母親がどうしても田所に直接会って挨拶をしたいとしつこいようで、それだけは丁重にお断りし、田所はほっと胸を撫で下ろしたのだった。

 




感謝祭小糸編終了。
次回、G.R.A.D.ですが透にするか雛菜にするかは考え中。
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