シャニマスレ◯プ!プロデューサーと化した野獣先輩   作:ここあらいおん

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あ、そうだ(唐突
今日から円香の新しいSSR出たからみんな課金してガチャ回してくれよな〜頼むよ〜


シーズン2 : バウンダリー

 

 田所と円香の異様なまでの心の通わなさは相変わらずだったが、それに反して円香はW.I.N.G.本戦に向けて一歩一歩、順調にその足を進めていた。

 二週間毎に計四回開催される予備オーディションも既に半分を終えたが、ここまでは何事もなくクリア。技術に粗さはあれど毎回ステージ上では安定したパフォーマンスを発揮し、危なげなく勝ち抜いていた。

 と、そう言えば聞こえはいいのだが、実際これまでのオーディションのレベルはそこまで高いわけではなかった。参加者は多いがその分合格枠も多く、円香は勿論ライバルたちも全員が新人アイドルなだけに突出した能力を持つ者は殆どいない。素人同然のアイドルたちが集まるオーディションのレベルなんてたかがしれており、業界人の間では W.I.N.G.の一次、二次オーディションは、撮影中に『少し自重しろ』という意味合いを含んで『イキすぎ』と出されたカンペを目にして、そのまんま『イキすぎィ!』と叫んでも受かるくらいのレベルだと認識されているほどだった。

 問題はここから先、ある程度人数が絞られてレベルが上がってくる三次オーディションからだ。

 ここからが本番だと知ってか、はたまた結果の一つに一喜一憂しない性なのか、円香はこれまで予備オーディションの合格を知らされても顔色一つ変えずに淡々とした様子だった。

 

 そんなクールな表情を貫いていた円香が田所の前で珍しい表情の色を見せたのは、三次オーディションの一週間ほど前の日曜日。

 駅近く店を構える喫茶店での取材を終えて、田所と円香がしっかりとソーシャルディスタンスを保ちながら事務所へと帰っている時のことだった。

 

「あ、あのっ! すみません!」

 

 喧騒の中から聴こえてきた声に、二人は足を止められた。

 咄嗟に振り返った先では、ブレザーの制服を着た一人の女子高生がオドオドした様子で不自然に立ち止まっている。思わずネットで自分を散々玩具にして遊び呆けているホモガキかと警戒した田所だったが、どうやら声の主は汚らしいホモガキではなかったようで、少しだけ緊張した様子で円香の方だけへと視線を向けていた。

 

「樋口っ……円香……さんですかっ?」

 

 恐る恐る確認するかのように問いかけた様子から、田所はこの女子高生が円香の知り合いではないと察する。

 

「……はい、そうですが」

 

 知らない人に対しても変わらず、淡白な受け答えをする円香。

 素っ気ない返事にも聞こえたが、円香の言葉を聞いた女子高生の顔は途端にスポットライトに当てられたかのように、一気に明るくなっていった。

 

「わあっ……! 実はこの前のライブを見まして……! えっと、ファンに……なりました! 握手してくれませんか? よかったら写真も––––!」

「あ、ええと––––」

 

 どうやらこの女子高生はマイナーな動画配信サイトで配信された二次オーディションを視聴していたコアなドルオタだったらしい。

 余程本人に会えたことが嬉しかったのか、困惑する円香に対してファンを名乗る女子高生は興奮しながら捲し立てるように詰め寄っている。初めてのことでどう対処すれば良いのか分からず、視線で視線で助け舟を求めてきた円香に田所は頷いて見せると、円香は不器用ながらも慣れない手つきと慣れない笑顔で女子高生のファンの要求に応じて見せた。

 

「ありがとうございました! 円香さんなら絶対トップアイドルになれると思うので頑張ってください!」

 

 何度も何度も頭を下げながら、そう言い残して円香とのツーショットの写真が入ったスマートフォンを抱えて去っていた女子高生。だが、その後ろ姿を円香は浮かない表情で見つめていた。

 羨望の眼差しと温かい言葉までもらって、どうして円香は表情を一ミリたりとも緩めないどころか、険しい顔をしているのだろうか。

 その表情の裏に隠された本心を、田所は汲み取れなかった。

 たかだがホモビデオの一つや二つに出演しただけで面白おかしくあることないことネットに書き込んだり、クソみたいな寒くて汚らしいMADを大手動画配信サイトに投稿したり、挙げ句の果てには『肖像権が機能しない男』などという法律を根底から否定するとんでもない暴論を言い始めるホモガキたちとは違って、あの女子高生は間違いなく悪意がない、純粋な好意を円香に寄せていた。

 田所が見た限りでは、そこに円香の表情を曇らせるような要素が含まれていたようには到底思えない。

 

「なんだよホラー、本当は嬉しいダルルォ?」

「…………」

「え、こういうの嫌いじゃないけど好きじゃない?」

「––––いえ、疑問が先立って」

 

 だんまりを決め込んでいたがホモ特有のしつこいアプローチに折れて、少しの沈黙の後に円香が口を開いた。

 視線は未だに女子高生が去っていった方へと向けられていたが、そこにはもう彼女の姿はない。見ず知らず人々が二人が知る由もない目的地に向かって足早に歩いていく光景だけが永遠と繰り返されている。

 

「私に、何を期待しているのだろうと」

 

 誰に伝えるわけでもなく、独り言のように円香は言葉を紡いだ。

 前髪の奥に潜む細めた目は遠くを眺めている。だけどそれは遠くを眺めることで直視しなければいけない目の前の現実から逃げているようにも見えて、田所には円香の表情は何かに怯え、怖々しているようにも見えた。

 実に円香らしくない表情だった。

 普段から感情を表には出さず、常にクールな雰囲気を崩さない円香の端正な顔に、滲む不安の色。何かに怯えるかのようなその色は、真っさらなパレットの上では明らかに浮いた色合いで、不自然なグラデーションを作り出している。

 無意識に現れていた表情を気付かれたと察したのか、円香は慌てて怖々としていた表情を隠すように––––いや、まるで田所に喋らせる隙を与えないように、平静を装って言葉を続ける。それこそ、「もうこの話は終わり」と無理くり締め括るように。

 

「まぁ分からなくても対応しますよ。アイドルには必要なことみたいですから」

「あのさぁ、円香––––」

 

 しっかりとソーシャルディスタンスを保ったまま、再び事務所への帰路を辿ろうとする円香を、田所は無理やり呼び止めた。

 普通の人ならば円香を気遣って、一瞬だけ垣間見た表情の変化には敢えて触れないのかもしれない。だが常識離れした鬼畜外道の多い淫夢ファミリーの中で、誰よりも後輩思いで人間の鑑とまで称されてた聖人田所は、その変化を曖昧に見過ごすほど薄情な人間ではなかった。

 

「おっ、大丈夫か大丈夫か〜?」

 

 ホモやノンケ問わず、人間は誰しも精神的に弱りきった時や悩み事を抱えている時、はたまた体調が良くない時などに優しくされると、心を開きやすい傾向にあるという。この心理テクニックは田所の得意技の一つでもあり、現にこの策を用いて大学時代に水泳部の後輩を堕とすことに成功した実績もあって効果は立証済み。当然女性に興味がないため円香に対して恋愛感情を抱いているわけではないが、この策を使うことでこれまで一向に埋まらなかった二人の距離感が、少しでも縮まるのではないかと考えたのだ。

 だがこの下心丸出しの心理テクニックが成立するのは、あくまで“普通”以上の関係性を築けている相手限定で、尚且つその場の雰囲気や一時の感情に翻弄されやすい人間だけ。

 悲しい哉、円香と田所は“普通”を遥かに下回った、どちらかと言えば底辺に近い関係であり、おまけに円香はそんな安直な策にまんまとハマってしまうほど幼い子供ではなかった。

 

「その言葉は無理をしそうな人にかけるべきです。それかちょっと優しくすれば、簡単に落とせそうな子にね」

 

 ため息をつきながらあっさりと淫夢ファミリー屈指の優しさを、円香は容赦無く突き放す。そのついでに田所が過去に野獣邸で愛を確かめ合った後輩のことも遠回しにディスって、いつもと同じように汚物を見るような蔑んだ目を向けてトドメを刺した。

 

「雰囲気で喋るのはやめていただけますか。ミスター・第四章で眠らせてくるやつ」

「オォンアォン……(届かぬ想い)」

 

 円香は田所の虚しい嗚咽にもまるで動じず、そそくさと一人事務所へと帰っていってしまった。

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