東方蒼桜録   作:双林 柊

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プロローグ:解放の日

 むかしむかしあるところに、紅い狼天狗と蒼い狼天狗が現れました。

 

 紅い狼天狗は『双林(そうりん)(ひいらぎ)』と名乗り、蒼い狼天狗は『双林(そうりん)竜胆(りんどう)』と名乗っていました。

 2人は姉妹で同じ狼天狗でしたが、天狗としての仕事行い生きていました。

 

 蒼い狼天狗の竜胆は、訪れた地を生物の過ごしやすい緑の溢れる楽園へと変化させ、天狗としての仕事でも大きな功績を残していました。

 

 紅い狼天狗の柊は、戦闘面では竜胆を越える程の実力者でしたが、一夜にして緑の溢れる地を妖怪の鮮血で真紅に染め、豊かだった土地を不毛の地へと変化させてしまいました。

 

 その事から柊はある日、他の天狗たちに捕まり、妖怪の山と言われる場所の地下深くに幽閉されてしまいました。

 

 竜胆は、その善行と功績から狼天狗の副隊長へと昇格し、天狗たちは平和に暮らし、紅い狼天狗が地上に現れることはありませんでした。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 何百年……いや、何千年前の出来事になるだろうか。幻想郷が創られるよりも、少し前に大きな事件が起こった。

 

 それは妖怪の山の紅い狼天狗が、中立の立場であるべきという掟を破り、一夜でその地に住まう妖怪たち全てを手に掛けたと言う事件だった。

 

 現場に着いた白狼天狗たちは、紅い狼天狗を数十人掛で取り押さえようとするも、全く歯が立たず、偶然近くを通った鴉天狗の手助けによって、紅い狼天狗は取り押さえられた。

 

 その後、囚われた紅い狼天狗は上層部の判断により不確定期限の幽閉という処置となり、妖怪の山の地下深くに幽閉されていた。

 

 紅い狼天狗の柊が幽閉されてから長い年月が経過したこの日、天狗衣装に身を包んだ蒼い狼天狗、竜胆はその場所へと足を運ばせていた。

 竜胆は、姉である紅い狼天狗の柊が幽閉されている地下に繋がる洞穴に辿り着いた。

 竜胆は、洞穴の中を覗いてみると階段が下へと続いているのが見えたが、どこまで続いているのかは暗くて見えなかった。

 

 

「久しぶりに会うけど、兄さんは元気にしてるかなぁ?」

 

 

 そうぽつりと独り言を溢すと、竜胆は洞穴の壁に手をつき、中に進んで行った。

 洞穴の中はひんやりとしていて、壁を伝わねば前に進むのも難しいほど暗い。

 

 洞穴に入ってから十分ほど経過し、まだ階段を降りていると、近くで声が聞こえてきた。

 

 

「おいおい、俺の髪の毛は紅じゃなくて桜色だっつうの。 それに血で染めたって……昔話にすんなら、適当なこと書いてんじゃねぇよ。 ……誰が書いたか知らねぇけど」

 

 

 声が聞こえた方へ走って行くと、真っ暗で何も見えないが、この場所に柊がいることは匂いで分かった。

 

 

「お久し振りですね、兄さん」

 

 

「今は兄さんじゃねぇ、姉さんだ。 で、俺に何の用だ、竜胆?」

 

 

 竜胆は、服の微かに擦れる音と下駄の音で柊が立ち上がり、こちらに近づいていることが分かったが、竜胆は何も見えなかった。 しかし、柊の匂いと音はゆっくりとだが、真っ直ぐ竜胆に向かって近づいている。 それはまるで柊がこの暗闇の中でも見えているように感じられた。

 

 

「はい、天魔様が姉さんの幽閉を終えると仰ったので、迎えに参りました」

 

 

 ふーん、と柊が短く告げると姿は見えないが、足音が少しずつ鉄格子に近付いてきた。

 足音がピタッと止まると、ガシャンと鉄格子を掴む音が洞穴内に響いた。

 

 

「……出られるのは良いんだけど、鍵とかねぇの? 」 

 

 

「ありますけど、実は暗過ぎて鍵穴が見えないんですよ……」

 

 

「えぇ……じゃあ、どうすんの?」

 

 

「さっきの音で大体の場所は分かりましたから、少し後ろに下がってもらっていいですか?」

 

 

 ああ、と短く告げると柊は後ろに下がり、しばらくすると立ち止まった。

 

 

「もういいぞー。 声のする方に俺はいるからなー!」

 

 

「分かりました……よっとッ!」

 

 

 竜胆がそう告げた次の瞬間、洞穴が揺れるほどの轟音が響き、土煙が洞穴内に巻き上がった。

 

 

「うぇっほ、うぇっほ! 相変わらず馬鹿力だな……」

 

 

「純粋な力なら姉さんには負けませんからね」

 

 

 土煙が収まり始めると柊の足音が竜胆の方へ近付いて来た。

 足音は竜胆の前で止まり、柊が竜胆の手首を握った。

 

 

「暗くて見えねぇんだろ? 手を引いてやるから、さっさと出ようぜ。 こんな湿っててゴツゴツした場所はもう見飽きたからな」

 

 

 竜胆が頷くと、柊は竜胆の手を引いて出口へと向かった。

 その帰りは柊と竜胆の声が響いていた。

 

 

「……今回は、鬼と戦うために呼び出されたんじゃねぇよな?」

 

 

「はい。 前回と違い、今回は本当の意味での解放です」

 

 

「そうか、鬼と戦わねぇならいいか。 赤い一本角の鬼、こっちは手足骨折したってのに、かすり傷しか付かねぇんだもんな……。 あと、俺が幽閉されてから何百年経った?」

 

 

 竜胆は柊に手を引かれているだけで、柊の顔や姿は見えないが、顔が引き攣っている様子だけはハッキリと目にうかんだ。

 それもそうだろう、柊は過去に鬼との戦いで両手足の骨を砕かれ、肋骨が七本も折れると言う重傷を負ったのだから。

 それなのに相手はかすり傷一つしか付いていない。

 そんな事があれば、誰だって二度と戦いたく無いはずだ。

 

 

「そうですね……私が七百十六歳なので、幽閉期間は七百年前、鬼と戦った記録は四百年前ですね。」

 

 

「マジか、七百年前も経ったのか。 ん? だとしたら、俺は七百十八歳……思い通りに体が動いてくれっかな」

 

 

「まあ、色々と七百年で変化したので、後でゆっくり、みっちり説明しますよ」

 

 

「……眠くならない程度にな?」

 

 

 そんな話をしながら階段を登っていると、洞穴の出口が近付いたのか、眩しい光が差し込んでいた。

 柊は光を見つけると、竜胆の手首から手を離し、立ち止まった。

 

 

「悪い、竜胆。 ここから先はお前が手を引いてくれ。 目が光に馴染むまで時間がかかるから」

 

 

「そう言うことなら仕方ないですね。 しっかり捕まってて下さいね」

 

 

 すまん、と柊が短く告げると、今度は竜胆が柊の手首を掴むと、光が差す洞穴の出口に向かって歩いて行った。

 これが紅い狼天狗、双林(そうりん)(ひいらぎ)と蒼い狼天狗、双林(そうりん)竜胆(りんどう)の物語の始まりである。




【キャラクター説明】
双林(そうりん) (ひいらぎ)
狼天狗で竜胆の姉、空を飛ぶことができない。 天魔曰く、既になにかしらの能力を持っているらしいが、今のところ特に何も起きていない。
幻想郷に存在する昔話では幽閉された紅い狼天狗として書かれている。
幽閉途中一度だけ外に出されたが、鬼との戦いで鬼にかすり傷を付け、最終的には生死をさ迷う重傷を負い、また幽閉された。
特徴は桜色の硬い髪とふわふわの尻尾、ほんのり光っている……気がするオッドアイ。
オッドアイは左目が赤く、右目が青い

双林(そうりん) 竜胆(りんどう)
狼天狗で柊の妹、姉と違い、大抵のことは出来る。
幻想郷に存在する昔話では蒼い狼天狗と書かれていた。
天狗の中では指折りの実力者であり、大天狗などの上層部からよく任務を任せられる。
特徴は水色のサラサラした髪とハリのある尻尾、ルビーやサファイアのように輝くオッドアイ。
オッドアイは柊と対称になっており、左目が青く、右目が赤い。
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