東方蒼桜録   作:双林 柊

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戦闘描写あり。


第十話 無邪気な悪魔

 竜胆と分かれ、館の廊下を柊は歩いている。

 つい数分前まで騒がしく銃声や金属音などが響いていたが今では呼吸音すら聴こえそうなほど静かで夜だからか肌寒さも感じていた。

 しかし、柊にはただの廊下では無いような気がしてならなかった。

 静かだからではない、怪我で血が足りないからでも、肌寒いからでも無い。

 その廊下には窓が一つもなく、月光は勿論、微かな灯りすらもない暗闇であり、その中で隠し通路のようなものも見つけたからだ。

 恐らくその通路の存在を知る者、もしくは柊のように鼻が効き、夜目が効く者にしか見付けられないほどの巧妙に隠されていたからだ。

 

 そして、更に歩き続けて暫くすると廊下は途切れており、高そうなカーペットが一枚だけ敷かれており、目に写るものはそれ以外、何も無かった。

 

 

「ふー、ここまで来て、あったのはカーペット一枚で行き止まりッ! ……って訳では無さそうだな。 匂いからして足元、こりゃあ血の匂いか?」

 

 

 そう独り言を言いながらも柊が敷かれているカーペットを捲るとそこには、地下に続くであろう鉄の扉が隠されていた。

 

 

「色々な意味でビンゴだな。 出任せの嘘がまさかのまぐれ当たりってのは悪運が強いんだか弱いんだかなァ……大体、俺単体の時ってのは下手すりゃ命に関わるってレベルで運が悪い……あーあ、あわよくば運悪く地下に死体安置所やら火葬場があっただけでしたってオチだったらいいなー! はぁ……行くか……」

 

 

 柊がその足元にある鉄の扉はシェルターのように分厚く頑丈であり、それを開けると、地下へ続く螺旋階段。

 その地下へ続く階段の壁は館内とは打って変わり、爪痕や焦げ跡、血痕、古い札のようなものなどが至るところに残っていた。

 

 

「……遺書って鬼と戦った時のやつ、残ってるっけかな? まあ、まだそんなことを言える余裕があるなら大丈夫か」

 

 

 そして、柊はそのまま下へ下へと階段を降り進んで行くが、数歩降りると、下へ近付けば近付くほど、悪寒は酷くなり、このまま何事も無かったように引き返すという選択肢が脳裏を過る。

 しかし、柊は顔をしかめるようなことはあっても、足を止めない。

 

 

「くぅ……! ここまでひでぇ悪寒は鬼と対峙した時にもなかったぞ。 しかも、降りてく度に札みてぇなものが落ちてきて鬱陶しい!」

 

 

 ……頑固で馬鹿だから。

 しかし、階段はそう長くは続いておらず、少し経つと柊は赤く汚れた扉の前に着いた。

 扉は周囲と同じように切り傷や焦げ跡、血痕があり、違うのは扉の隙間からは光が溢れている。 そして、身の毛もよだつほどの悪寒と共に紅茶の匂いがすることだ。

 

 

「竜胆の野郎、なーにが気配がしねぇだ。 ぜってぇ門番とかメイドより強い化物がいるじゃねーか!  はぁ……館の主だってんなら竜胆に合流……いや、あいつもやりあってる最中だったら状況悪化だなァ。 んぅ……匂いからして紅茶……? って、こんな時になぁに言ってんだかね」

 

 

 柊は自分自身に少し呆れたような笑いを浮かべ、扉を三回軽く叩いた。

 するとゆっくりと扉が開き始め、柊は念のため、後ろに二歩ほど下がった。

 

 

「あなた……誰?」

 

「……子供?」

 

 

 その扉からは館の主と言っていたレミリア・スカーレットと同じような背格好をした女の子がくまのぬいぐるみを抱えたまま姿を見せ、侵入者よ存在に戸惑っていた。

 館の主と少し違うのは見た目相応の幼さが顔に見られ、髪の毛は綺麗な金色の髪、そして背中からは木の枝ようなものから色とりどりの宝石のようなものがぶら下がっているくらいだろうか。

 

 そして柊は柊で、硬直していた。 ふんわりとしたイメージだが、もっと人間としての形もないような化物、もしくは何か強そうなものがいることを想像していたのに、扉から見えたのは小さな子供。 背格好からして館の主の姉妹の可能性が高いだろうとも予測をした。

 

 

「俺は双林柊、通りすがりの侵入者だ」

 

「……あなた、人間?」

 

「んー人間かと言われりゃ違うが、元人間……でいいのか? 今はまあ一応、妖怪ではあるし……いやどうだ?」

 

 

 柊がそう言いながら悩んでいると、その女の子は扉から離れ、柊に歩み寄り、まじまじと柊の顔や身体を見始める。

 

 

「ん? 近い近い、何か変なものでも付いてる? 怪我で汚れてたりする以外は多分、何にもないと思うんだけど?」

 

「お姉さまや美鈴みたいな妖怪は見たことがあるけど、犬みたいな耳と尻尾がある妖怪は始めてみるわ」

 

「ん、触ってみたい? 一応、怪我してるから優しく触ってくれるなら触ってもいいよ?」

 

 

 柊がそう言うと彼女は頷き、柊の腕を引き、部屋の中へと案内した。

 部屋の中には就寝用と思われる棺桶が一つと椅子が二つ、机が一つ、そして机の上には紅茶のセットとクッキーが十枚程置かれていた。 ここまでなら吸血鬼の部屋として理解は出来る。

 ただ異様なのは首が千切られたり、一部を燃やされたようなぬいぐるみや人形、壊れたおもちゃなどが部屋の至るところに散乱していたことだ。

 

 そして、彼女は数分程、柊の耳や尻尾を触ると満足したのか紅茶を入れて、もてなしてくれた。

 丁度、喉が乾いていた柊は彼女の対面の椅子に座ると、紅茶の入ったティーカップを片手に持ち、口へと運ぶ。

 

 

「クッキーもあるから食べていいよ?」

 

「あぁ、ありがとう。 ところでお嬢ちゃん、お名前はなんて言うんだい?」

 

「わたしはフラン。『フランドール・スカーレット』、495年の間この部屋にいるの。 柊は外から来たんでしょ? だからわたし、外の話が聞きたいわ!」

 

「それがお嬢ちゃんの名前か……でも、外の話を聞いてどうするんだい? どうせなら話だけじゃなくて一緒に外に出て、色んな遊びをしてみない? ほら、お姉さまとかともね?」

 

 

 柊がそう聞いた途端、フランドールは俯いて口を紡でしまった。 それを見た柊はその発言で何かしら、傷付けてしまったのかと焦り、紅茶の入ったティーカップを片手にあたふたしながら、次の言葉を考えていたが、それから数秒も経たない内に俯いたままフランドールが口を開いた。

 

 

「お姉さまたちはいつも私だけを除け者扱いするし、お外ももういいの」

 

「ん、どうしt……危なッ!?」

 

 

 フランドールが急に立ち上がったかと思うと彼女の右手からは光弾がとてつもない速さで柊の顔、目掛けて飛んできていた。

 柊はそれを見て慌てて避けるが、右手に持っていたティーカップが光弾に触れる。

 ティーカップの光弾が触れてしまった部分は消滅して壊れてしまい、部屋の壁には数十センチほどの深い穴が出来ていた。

 その光景を見た柊は壊れてしまったティーカップを机に起き、直ぐ様、立ち上がった。

 

 

「あははは、すごいすごい避けた!」

 

「あ、危ねぇ……こら、お嬢ちゃん! 俺だから避けられたものの他の人なら死んじゃってるよ? 急にこんなことしたら駄目でしょ?」

 

「わたし、ずーと退屈してたの。 遊んでくれる人はいないし、おもちゃもすぐに壊れちゃうし……でももういいの! わたし、柊で遊ぶ!」

 

「なるほどねー、まぁそれならしゃあねぇか、気持ちは分からんでもないし……よし、良くはねぇがいいぜ。 ちょいと口は悪くなっちまうが、お姉ちゃんが遊ばれ相手になってやろう!」

 

 

 柊がそう言うとフランドールの口角が上がり、無邪気だが狂気的とも思えるような笑い声が部屋中に響く。 すると、フランドールの姿が一瞬ボヤけたかと思うと二人、三人と増え、いつの間にか柊の目の前には四人のフランドールが立っていた。

 

 

「な、増えやがったッ!? ちくしょう……こいつァ、骨が折れるな……まあ、実際に折れてるだろうし、それどころじゃ済まねぇだろうがな……さて、そんじゃあ手始めに鬼g……ッ?!」

 

 

 フランドールの無邪気な笑い声と共に問答無用と言わんばかりに部屋を覆い尽くさんばかりの光弾が柊に向けて放たれる。

 

 

「そっちがその気なら大人げねぇが、全力で逃げさせてもらうッ! 追い付けなくても泣くなよ、箱入り吸血鬼!」

 

 

 それを見るや否や柊は後退して今出せるだけの全速力で、もと来た道を戻り始める。

 部屋を埋め尽くす攻撃を避け続けるにしても、攻撃の隙を見出だすにしても、あまりにも部が悪過ぎるからだ。

 もちろん、フランドールも柊を逃す訳はなく、柊に負けず劣らずの速度で追い掛けて、部屋の外へと飛び出した。




【キャラクター説明】
・フランドール・スカーレット
 495年もの間、紅魔館の地下に幽閉されていたが、レミリア・スカーレットの実の妹。
 彼女はありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っており、物体ならば問答無用で直接破壊する能力のようで、彼女も自分の力には自信があるようだが、その能力も調整がまだ出来ないため、これを危険視しての幽閉とも考えられている。
 子供らしく無邪気で好奇心旺盛、興味を抱くとすぐに行動をするため、行動の説明もあまりせず、周囲が困惑することもしばしば。
 紅魔館の方々からは、情緒不安定で歯止めが効かないため、能力も含めて危険だと言われているが、柊は「幻想郷はそんなやつの方が圧倒的に多いだろ」と気にしていない様子だった。
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