東方蒼桜録   作:双林 柊

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戦闘描写あり。


第十一話 二度目の巻き込み

 一方、柊と別れた直前の竜胆は気絶している昨夜の手足をロープで縛っていた

 

 

「……まあ、こんなところですね。 これで目が覚めても身動きも取れないでしょう。 目覚めて加勢にでも来られたら厄介ですからね」

 

 

 そう言うと竜胆はその場を後にしてロビーへと戻り、この通路とは反対方向にあった扉を開き、臆せず進んでいく。

 それはこの先にまだ何かがいるためであり、館の主との戦闘中に加勢されることを未然に防ぐためである。

 

 暫く進むと竜胆の前には五メートルほどの大きな扉が見え、竜胆が近付くと扉はまるで招くように自ずと開いていく。

 その扉の先は八階まであり、果ての見えないこの世の全ての本が集まっているとも思える館の外観よりも遥かに大きく広い図書館のような薄暗い部屋があり、正面には忙しなく本を運ぶ赤い長髪の小悪魔の姿があった。

 

 

「あっ!? し、侵入s……! きゅう~ん……」

 

 

 そして、竜胆は小悪魔に少し目をやるが、構う価値はないと言わんばかりに右肩に向けて、拳銃の引金を引くと、小悪魔はその場に倒れた。

 

 

「即効性の強力な麻酔です。 そのまま眠っていて下さい」

 

「……ですが、お休みの最中に失礼ですが、あなたは無力化させて頂きます」

 

 

 そう言って竜胆が銃口を向けた先には長い紫髪をリボンでまとめ、薄紫のドアキャップのような帽子を被り、紫と薄紫色のゆったりとしている寝巻きのような服に身を包んだ女性が椅子に座り、本を読んでいた。

 

 

「寝巻きじゃないわよ、これが私服なの」

 

「……それは本当に失礼しました」

 

「いいわよ、一応、自覚はあるもの。 あなたが……双林竜胆ね。 ここは大図書館で私が管理人のパチュリー・ノーレッジよ、あまり体調も良くないし、忙しいの。 だから見逃してあげるから帰りなさい」

 

「お断り致します。あなたには体調不良なら無理をせず大人しく眠って貰いましょう」

 

 

 竜胆は引金に指を、パチュリーは魔法の詠唱を始めようとすると、遠くから雷が落ち続けるような轟音が鳴り響き、二人は動きを止めて、音源の方へと視線を向ける。

 その音が不思議というのもあるが、その音源は段々とこの場所に近付いて来ているからだ。

 すると甲高い笑い声と共に、数多の光弾が壁を突き破り、大図書館へと流れ込み、その中には光弾から逃げている柊の姿も見られた。

 

 

「あー弾幕で私の書斎がッ!?」

「何ですか、もー! またですかッ!?」

 

 

 二人は急な襲撃によって、それぞれ飛んでくる光弾を避けながらも、距離を取っていく。

 

 

「広っ! ここなら何とかやれるかもしれねぇ! あっ、竜胆! すまん、マズった」

 

 

 柊がそう言って四階あたりまで飛び上がると館の主、レミリア・スカーレットにそっくりな四人の少女が甲高い笑い声を上げながら、柊を追い掛けている姿が二人の目に入る。

 

 

「フラン!?」

「姉妹で五つ子……! とんでもないものを見つけてくれましたねッ!?」

 

 

 そう言うとパチュリーは魔法を唱え始め、竜胆は柊のバックアップとして二丁銃を構える。

 

 しかし、少女は二人に目を向けない。 と言うよりも少女は柊との遊びに夢中になっていた。

 

 

「逃げてばかりじゃ、まだ遊び足りないわ!!」

 

「ちっきしょう……こちとら、飛び道具なんて持ってねぇんだよ! こうなったら、あれを……!」

 

 

 そう言って柊が胸部に右手を当てた次の瞬間。

 竜巻のような風がフランドールを取り囲み、柊が気付くと分身は全て消え、水の球体に包まれたフランドールの姿があった。

 

 フランも柊も何が起こったのか分からずに、驚いているとそのまま図書館だった場所は何もない夜空のような空間に塗り替えられた。

 

 

「パチェ……!」

 

「これ以上、書斎を荒らされる訳にはいかないわ。 フランはそこで大人しくしていなさい」

 

 

 そして二人の現れたのはパチュリー・ノーレッジであり、彼女の姿を見たフランは一瞬、悲しそうな顔を見せて俯いてしまった。

 

 

「吸血鬼は流水に弱い……でしたっけ? それにしても館の外観と図書館の広さが不釣り合いだとは思っていましたが、空間をねじ曲げているとは……」

 

 

 何が起こったのか分からず、呆気に取られている柊の横に竜胆が着地すると、また何かを能力で何かを作成して、すぐにそれを柊に手渡す。

 

 

「姉さん、しっかりしてください。 これは空間魔法のようなものです。 集中しないと広範囲魔法で普通に死ねますよ!」

 

「お……おぉ、魔法なんて初めて見たぞ……で、これは何?」

 

「姉さんの愛用していた道具と耐魔法用の道具です」

 

 

 そう言って竜胆が柊に渡していたのは柊が昔、使用していた千本という鋭い針のような投擲物数十本と……フライパンだった。

 

 

「……え、フライパンが耐魔法用ってどうすんの? どう使うの?」

 

「テニスの感覚で跳ね返して下さい」

 

「なる……ほどね」

 

 

 案の定、頭が情報を処理し切れていない柊だが、不納得なままフライパンを構え、竜胆は銃口をパチュリーに向ける。

 

 

「おふざけは終わったかしら? 今ならまだ見逃してあげるわよ、私たちは博麗の巫女を相手にしなくちゃいけないから忙しいの」

 

「博麗の巫女だァ? はっ、じゃあ安心しな。 アイツの出番は無しだ。 この俺たちにてめぇは負けるからな」

 

「隣に同じくです。 わたしも少々魔法は使えますので勝機はありますよ」

 

 

 パチュリーは警告に対してそう返してくる二人を見て溜め息を付いた。 片方は魔法さえ使えない、もう片方は本当に少しの魔法しか使えない。

 

 

「舐められたものね、子供が少しかじった程度の魔法しか使えないのにこのわたしを倒そうなんて、甘い幻想ね」

 

「あァん!? 魔法すら使えねぇから俺は無視かこの野郎!」

 

「まあ、確かにほんのりかじった程度ですが、魔法も使い方ですからね」

 

「そう……なら妖怪、本当の魔法を見せてあげる。 この幻想郷の研究よりも遥か先にある世界をね。 冥土の土産にでもするといいわ」

 

 

 パチュリーがそう言って本を開くと、彼女の足元には巨大な魔方陣が浮かび上がり、それと同時に柊たちの周囲にも取り囲むような形で魔方陣が浮かび上がった。

 

 

 柊も竜胆も突然浮かび上がった魔方陣に驚くが、すぐに場所を確認して迎撃態勢を取る。

 すると、周囲に浮かび上がった全ての魔方陣からビームのような雷が放たれた。

 

 

「全部、撃ち落とせよ!」

 

「姉さんもね!」

 

 

 二人はそう言うと、右半分を柊が千本を投擲して、竜胆が左半分を二丁の銃口からレーザーを放ち、撃ち落とそうとする。

 パチュリーの目で二人が幾つかの魔法を撃ち落としたのは確認できたが、途中からは二人を煙が包み込んでしまったため、確認できなかった。

 

 

「やっぱり口だけね」

 

 

 しかし、あの程度なら二人とも魔法で魔法で消え去ったに違いないと思ったパチュリーは本を閉じて、魔法を解除した。

 

 

「だァッ、やっぱし、こんなふざけた武器、料理以外に使えるかッ!」

 

 

 しかし、いきなり声が聞こえて驚いたパチュリーが後ろを振り返ると、魔法の熱で穴の空いたフライパンが顔の真横を通り過ぎる。

 すぐにパチュリーは別の魔法を展開しようとするが、既に数十センチのところまで柊が一瞬の内に迫っており、魔法は間に合う筈もなく、柊の頭突きでパチュリーは気絶してしまい、その拍子に魔法が解けて夜空のような空間も元の図書館へと戻った。

 

 

「手加減はしたが、自分の得意分野で勝負して貰えると思うなんて甘い幻想だぜ?」

 

「これが魔法も使い方ってことですよ、今回のは布石としてですが」

 

 

 そう言いながら、煙から特に目立つような怪我もなく、衣類に付着した汚れを払うようにして竜胆が歩いて出てきた。

 

 

「避雷針作戦成功ですね、どんな魔法を使うのかは運でしたけど」

 

「だろうな、フライパンに『雷系の魔法じゃなければ大人しく死んでくれ』って刻まれた時にはふざけんなと思ったがな!」

 

 

 この作戦は竜胆が柊にフライパンと千本を渡した時点で考えていた作戦であり、千本を作る際に避雷針の役割を持たせ、その際に二丁銃もビーム二丁銃に改造、フライパンには作戦を記していたのだ。

 その作戦は竜胆がパチュリーを魔法での勝負として認識させ、雷魔法ならビーム二丁銃と魔法の衝突で煙を発生させた後、千本に持たせた避雷針の役割で全て打ち消し、倒したと油断した所を一撃。 そして魔法が雷以外なら死ぬ気で逃げるといった作戦だったのだ。

 

 

「ところであのフライパンに穴が空いてたような気がするんですが、本当にテニスみたいに返せると思いましたか?」

 

「魔法は初めて見たんでな……まあ、もしかしたらで一回試したら、危うく腹に風穴が空くところだった」

 

 

 二人がそんな会話をしていると、パチュリーが気絶したため、フランドールも水の魔法が解けたようで柊たちに歩いて近付いて来た。 だが、顔は俯いたままだった。

 

 

「二人は……パチェが怖くなかったの?」

 

 

 竜胆は後ろに飛び退き、フランドールから距離を取ったが柊は俯いているフランドールの目の前まで近付き、同じ目線まで腰を落とした。

 

 

「怖かったとしても怖くないさ」

 

「えっ……どういうこと?」

 

 

 柊の矛盾しているような答えにフランドールは俯いていた顔を上げ、不思議そうにその意味を柊に聞くと、柊はニッと笑い答えた

 

 

「あのパチェってやつよりもここで大人しく逃げる事のが怖かったってことだ。 大切な人たちは守れねぇし、間違いも止められなかったって後悔は怖いからな。 あとは……そうだな、俺なりの意地だ。 俺にもこんな想いがあるんだってな、戦わなきゃ分からねぇこともあるんだよ」

 

 

 そう言って柊は立ち上がるとフランドールに背を向けて竜胆の方へと歩いて進んでいく。

 そして、竜胆に話し掛けて幾つかの道具を生成し終えると、竜胆はパチュリーを捕縛しに行き、柊はフランドールの正面にもう一度立った。

 

 

「さぁて、俺はお遊びの道具は揃ったが、もうお遊びはやらないのか? それとも、あのパチェってやつより……お姉さまよりももっと怖いものでも思い出したかい?」

 

「……うん!」

 

 

 そう言って力強く頷くフランドールの目は柊には迷いのない真っ直ぐな瞳であり、彼女の精神面での成長にも繋がったように思えた。

 

 

「そうか。 んじゃま、先に行くとするか。 俺もお前のお姉さまってのに用があるんでね。 ……こっちであってるよね?」

 

「ううん、こっち!」

 

 

 そうしてフランドールに案内をされながら柊はフランドールと共に館の主……異変の黒幕の元へと歩みを進める。




【キャラクター説明】
・パチュリー・ノーレッジ
 普段は紅魔館の大図書館に引きこもっており、冷静沈着で用事がなければ外には出ないようだが、見た目は暗くとも性格は暗くないらしい。
 彼女は火、水、木、金、土、日、月を操る程度の能力を持つ魔法使いであり、魔法使いのアイデンティティを大切にしている。 しかし、身体能力は人間と同等だが、引きこもりが祟ったのか虚弱体質のようだ。

・小悪魔
 特に記載すべき点はないが、パチュリーの補佐として大図書館で本の片付けや掃除などの業務をしている。
 貧血などでパチュリーが倒れた際の看病も行っている。
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