東方蒼桜録   作:双林 柊

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第四話 穏便な解決を試みて

 館の門を潜るとその先には大きな庭が広がっており、花壇には様々な花が咲き、庭の中央には立派な噴水まであり、隅々まで手入れが行き届いているのだろう。 二人が歩いていると、館の入り口が見えたが、入り口前には銀髪に青い目、青と白を主体としたメイド服を着たメイドが一人だけ立っていた。

 

「お待ちしておりました柊様、竜胆様。 此度、お嬢様の元へ案内させて頂く、メイド長の十六夜 咲夜と申します。 ……以後お見知りおきを」

 

「っ!」

「……!」

 

 メイドは自身の役目と名を告げると、深々と頭を下げた。 その瞬間、二人は後ろへ飛び退き、警戒体勢に移る。

 その理由は並の妖怪なら気付くことも無い微かな気配。 それを感じられたのは、二人は妖怪の中でも上位に位置する天狗───その中でも狼天狗は第六感に優れているからだ。 二人がメイドから感じたのは街灯のようにか細く、鋭利な刃物のように鋭い殺気。 彼女は突然後ろへ飛び退いた二人に微かに驚きの表情を示したが、すぐに彼女は

その気はなくとも、二人の直感は対話を始める前から敵対心を持つ相手として捉えていた。

 

 

「この館は広く迷いやすいため、私からはぐれないよう気を付けて下さいね」

 

「お、おう……?」

 

 

 咲夜が館の扉を開き、館内へ歩を進めると、二人もそれを追うように館内へと足を踏入れた。

 館内は館の外観と同じ紅色で彩れており、ロビーには豪華なシャンデリアや絵画、家具などが置いてあるが、二人にとっては敵陣でもあるため、竜胆は勿論、珍しくいつも楽観的な柊も警戒を緩めず、昨夜の後に着いていく。

 昨夜は警戒体勢に入っている二人に目もくれず、館の奥へ奥へと案内する。

 その間、柊は常に背後に立たれているようか何とも言えない感覚を覚え、竜胆も気が置ける状態が続く。

 案内されている間は誰も口を開くこと無く、緊張感で張り積めている二人には館の主の元へ案内されている短い時間でさえ長く感じ、記憶力に自信がない柊にとっては来た道すらも分からなくなるような迷宮に感じられるほど屋敷は広く、埃や汚れ等がどこにも見当たらない。

 おそらくこのメイド長である咲夜を含むメイドたちはとても有能なのだろうと思いながらも、昨夜の後をついて進み続けていると今まで道中で見かけたどの扉よりも一層豪華な扉の前で昨夜は立ち止まる。

 すると咲夜はその扉を軽くノックし、その先にいる誰かに話し掛ける。 すると、その声に反応して扉の奥から少女らしき声が聞こえた。

 

「お嬢様、双林 竜胆様と柊様をお連れしました」

 

「ええ、ご苦労様。 そのまま通して構わないわよ」

 

 

 咲夜はその言葉に従い、扉を開ける。

 二人が開いた扉から部屋を覗いて見ると高そうなソファーが二つと一つの机を挟むように配置されており、その中の一つのソファーには既に一人の少女が紅茶を飲みながら腰をかけていた。

 念入りに竜胆が扉越しに室内を見ていたが、特に何もなかったのか、二人はそのまま部屋の中へ入っていった。

 

 

「初めまして、私がこの紅魔館の当主、レミリア・スカーレット  見ての通り吸血鬼よ。 あなたたちが竜胆と柊ね? どうぞお掛けになって」

 

 

 その少女は自身をレミリア・スカーレットと名乗ると、ソファーに座るように二人へ促した。

 少女は青白い髪の毛に血のように赤い瞳、薄い桃色のレースが縫い付けられた服を着ており、頭部にはナイトキャップを被っている。

 これだけならただの十代近くの少女に見えるが、背中には蝙蝠のような羽、口を開いた際には鋭く尖った牙のようなものも見える。本人が言うとおり西洋妖怪の吸血鬼で間違いなさそうだ。

 吸血鬼は日光や流水など弱点が数多く存在するが、その反面、鬼には劣るが大木を片手で持ち上げるようなパワーと天狗にも匹敵するスピードを併せ持ち、他にも複数の蝙蝠に分身など最強の一族と言われるにふさわしい妖怪だ。

 この時点で危険な事は明らかだったが、柊は吸血鬼=血を吸う程度の考え方しか持っておらず、その危険性はこの場で相手と竜胆だけしか知らない 

 それでも話し合うためにも二人は言われたとおり、最寄りのソファーに腰を掛ける。

 ふと竜胆が卓上に目をやると先程までなかったハズの暖かい紅茶の入ったティーカップが二人分置かれていた。

 この現象には竜胆も驚きを隠せず、慌てて立ち上がると周囲を見渡す。

 しかし、事前に確認したように周囲には怪しいものは何もなかった。

 

 

「ん? あ、ご丁寧にどうも」

 

 

 柊は用意されている紅茶に気付くと毒が入っているかも知れないという考えを持っていないのか気に止める様子もなく、すぐに飲み干してしまった。

 警戒している状態とはいえ、こんな状況でも平然を装える柊を見て、呆れやら竜胆も落ち着きを取り戻せたのか、またソファーに腰を掛け、レミリアに向き合う。

 そして、柊が空になったティーカップを卓上のソーサーに置くと、それを合図にするように竜胆が話を切り出す。

 

 

「私たちが来た理由は」

「あなたたちがここまで来た理由は知ってるわ。 この赤い霧を止めることでしょ?」

 

 

 竜胆がこの館へ来た理由を説明しようとした所、レミリアは竜胆の話に被せるように口を開く。

 その時に柊が竜胆を横目で見てみると顔色は変わってなくとも、話を遮られて少し不機嫌になっているような気がしたが、そんな事よりも柊は部屋の内装が気になるようで落ち着きもなく辺りを見渡し、竜胆はそのまま話を続けた。

 

 

「……知っているなら、話が早いです。 あの霧を止め」

「残念だけど、お断りよ」

 

「……」

 

「くふっ……用件を言い切る前に断るとは、文字通り話が早いな」

 

 

 竜胆が用件を言い切る前にレミリアに即答され、文字通り、話の早さについ笑ってしまう柊だったが、今度の竜胆は見るからに不機嫌で目も合ってしまった。

 そんな様子の竜胆を見た柊はすぐに黙って目を逸らすが、柊の額には冷や汗が流れていた。

 

 

「だってもうすぐこの幻想郷は私たちの手に落ちるのだから」

 

「まあそうなると思いました あわよくば話し合いで解決したかったのですが……それでは実力行使といきま」

「待てぃ!? お前が囲まれた状態で暴れようとするな!」

 

 

 そう言って竜胆は立ち上がるとすぐに拳を突きだし、戦闘態勢に入るが、それを見た柊はすぐ隣で竜胆を抑えるために両手で服を引っ張っているが、竜胆の体はまるで大きな岩石のようにびくともしない。 柊にとってこのすぐに戦闘を始めようとする行動は、いつもは自分の役割だったため、まさか抑える役割である竜胆が暴れようとするとは思わなかったのだ。

 

 

「ですが姉さん、目の前に黒幕がいるんですよ?」

 

「だろうな。 だろうけどもな、俺的には準備しておきてぇの! それに今、お前が暴れたら俺が後ろのメイドのナイフで冥土に送られかねん」

 

 

 まだ戦闘態勢を崩さない竜胆を抑えようとする柊だが、何かを察したような様子で慌てて、竜胆を担ぎ上げると、ソファーに座らせる。

 竜胆も担ぎ上げられた際にはあたふたしていたが、ソファーに座らされると、背後を見て納得した様子で先程とは打って変わり、大人しくなった。

 それは先程、柊が言ったように背後で咲夜がナイフを構えて柊を狙っていたからだ。

 

「……よく此方を見ずにナイフを構えていると分かりましたね」

 

「ん? ああ、そんな気がしたんでね。 ……というか本当に構えてたのかよ。 ま、んな訳で一旦、仕切り直させてもらうぜ?」

 

「いいわよ。 退くと言うならいつでも好」

「五分だ。 俺たちが館の外に出て、五分経ったら今度はお互いに実力行使だ。 行くぞ、竜胆。 ……あ紅茶、ご馳走さまでした」

 

 

 柊はレミリアの言葉に被せるように時間指定とレミリアへの宣戦布告をする。

 そして、ドタバタと二人揃って部屋から出ていったかと思うと、紅茶の礼を言うためにまた戻ってくる。

 そんな柊にどこか調子の狂うような感覚をその場にいる全員が抱きながらも、二人が出ていって静かになった部屋でレミリアと咲夜は落ち着いた様子で話し始める。

 

 

「……昨夜、あのピンクの髪の毛の狼天狗が本当に凶兆の狼天狗なの? なんか……うん、思ってたのと違うわ」

 

「ええ、あちらの方が書物に記された凶兆の狼天狗で、もう一方は吉兆の狼天狗ですね」

 

「あれが、ね。 まあパチェたちにも念のため、あの柊という狼天狗に気を付けるようにこの五分間で伝えておいて。 凶兆と言うだけあってなんだか嫌な感じがするわ」

 

「柊さんが……ですか。 承知しました」

 

 

 レミリアが咲夜にそう伝えると、咲夜はまるでその場にいなかったように一瞬で姿を消し、それを見届けるとレミリアは立ち上がり、近くにある窓へと歩を進めた。

 窓の外を見てみるとすっかり夜になってしまい、空には大きく真っ赤な月が雲から顔を覗かせており、周囲は月光と霧によって赤く染められていた。

 

 

「……あの子が自由になるためにも負けられないわね」

 

 

 誰もいない部屋で赤く染まっている景色を見てそう呟くと、レミリアはその部屋を後にするが、その後ろ姿は幼くもどこか大きな使命感を感じさせるものだった。




【キャラクター説明】
・十六夜 咲夜
 紅魔館でレミリアに使えている人間のメイド長。 ナイフの扱いに長けているのか何かあると大体ナイフを手に持っている。
 メイド妖精たちがあまり仕事をしてくれないので、館のほとんどを彼女が管理している。 そのため近頃は胃が悲鳴をあげることがあるらしい

・レミリア・スカーレット
 紅魔館の当主であり、五百年以上生きている見た目が幼い吸血鬼。 見た目相応に行動原理も幼く、咲夜に頼っている場面が多く見られる。
 あまり血を吸うことは得意じゃないようで、よく血を服に溢しては真っ赤に染め上げていることから、「紅い悪魔(スカーレットデビル)」と呼ばれているそうだ
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