愚か者のウッドワス   作:水泡人形イムス

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第二節 塩対応、砂糖味

 カルデアに召喚された私は、とりあえずサーヴァントに割り当てられる部屋へと案内される事になった。ふざけるなという正論は、案内役に指名されたモルガン陛下がなんの反論もせず受諾した事により封殺されてしまった。

 カルデアの人間どもは私の取り扱いにあぐねており、ひとまずこの場から引き離そうという意図が見て取れる。小癪な連中め。

 

「マスター。あなたもついてきてくださいますね」

 

 と、陛下は人間のマスターまで同行させた。藤丸立香だったか。今ならこいつのサーヴァント簡易召喚という技術も理解できる。ロンディニウムではよくも邪魔をしおって……。

 真っ白い無機質な廊下へと出た私は、モルガン陛下の後ろを歩きながら憤りを一旦鎮め、過去に思いを馳せる。すでに過去となってしまっているであろうブリテンに。

 

 モルガン陛下がカルデアのサーヴァントになっている。

 それだけで――――妖精國ブリテンの結末は推察できてしまった。

 それでもと――――お訊ねせずにはいられなかった。

 

「――――陛下。ブリテンは滅んだのですか」

 

「…………私の夢は終わり、厄災によって妖精國は根から崩れ落ちた。だがすでに異聞帯から異聞世界化はすませてある。生き残りがいるのなら、あるいは何らかの形で残っているかもしれん。もはや我々に観測する手立てはないがな」

 

 では、オーロラも――我らが牙の氏族も――他の氏族も――――。

 女王陛下と亜鈴たる私抜きで厄災に立ち向かうなど無理な話だったのだ。妖精騎士も我々抜きではその程度のもの。当然の帰結と言えてしまう。

 しかし実感が持てない。

 サーヴァントなどという仮初の肉体、汎人類史という我々を仮初と定める世界。

 何が現実で何が仮初なのか、感覚が妙に曖昧だ。サーヴァントなどという格の低い器に収められた影響なのだろうか。

 サーヴァント……サーヴァントもまた仮初の存在……本体の記録をコピーして作った模造品。

 

 では――――陛下も?

 

 不遜な考えをすぐさま振り払う。

 知らぬ、知らぬ、そんな事は知らぬ。ここにおられるは陛下だ。妖精國を統べる王、すべての妖精が礼賛し平服すべき御方、モルガン様に他ならぬ。例えサーヴァントという器に収められてしまった身の上だとしても、私の主は唯一無二!

 ――――決して、陛下の隣を歩くちっぽけな人間などではない。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 部屋に到着した。

 気品のカケラもない、無機質で、家具もろくになく、白い床と壁に包まれた、狭い部屋。

 オックスフォード公であるこの私が、このような扱いを……という憤りはある。しかし他のサーヴァントもすべて、このような部屋で暮らしていると聞く。

 それはつまり、モルガン陛下も同様の扱いを受けているという意味だ。

 私は憤慨した。ふざけているのかと。陛下に相応しき城を用意せずして、ふざけているのか人間ども!!

 

「我が伴侶との城を建てる準備は出来ているが、良い日取りやカルデアの都合というものもある。しかし私達はすでに伴侶なのですから些末な問題にすぎません」

 

 ……………………陛下が現状を受け入れている。

 ……………………陛下がこんなにもほがらかに、人間に接している。

 ……………………どうすればいいのだ、私は。

 

 途方に暮れる私を見て、人間…………藤丸立香は、ノウム・カルデアには他にも様々な施設があり許可されている範囲で自由に使う事ができると説明を始めた。

 特に食堂は大人気で、毎日色んな料理を楽しめるとの事。オックスフォードのレストランに負けないくらい美味しいはずだと――――。

 

「私が築いたレストラン街より! このような狭苦しい施設の食堂が!! 優れているとでも言うのか!?」

 

「落ち着けウッドワス。そもそも、妖精國における料理とは人間の文化の模倣にすぎぬ。汎人類史の料理こそ本道と言えよう」

 

 一瞬でたしなめられた。

 女王陛下にそう言われれば反論のしようもなく……(こうべ)を垂れる他ない。

 

「ふむ、少々早い時間だが……その方が静かでよいか。マスター。案内ついでにウッドワスと夕餉でも楽しみましょう」

 

 そうだね、そうしよう――――と、藤丸立香は言う。

 ふざけるな、誰が貴様などと食卓を共にするか――――と、叫びたいのを堪える。

 私はウッドワス。氏族の長であり、紳士なのだ。女王陛下の御前で醜態を晒すなど決してあってはなら――――――――。

 

 

 

《オレを愛さぬ主人などいらぬ!》

 

 あって、は、

 

《魔女め、魔女め!》

 

 なら、

 

《貴様を信じたオレが愚かだった!》

 

 ない――――。

 

 

 

「……ウッドワス?」

 

 頬に、あたたかい何かが、触れる。

 オレは、この感触を、知っている。

 ああ、私は――いつ、この感触に――触れられたのだったか。

 

 視界が滲み、思考が滲み、記憶が滲み、意識が滲み、精神が滲み――。

 すべてが黒く、暗く、黒く、暗く…………。

 

「……あ……ああ、ァ……あ……」

 

「ウッドワス」

 

「…………お許しを…………」

 

 …………黒く…………………………。

 …………………………暗く…………。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「心因性のショックで意識を閉ざしただけだろう。つまらん。だが貴様の身体は興味深いな……。ブリテンの妖精か……ギリシャのニンフと性質が似ている部分もあるが、色々と規格外だな。機能不全に陥ったのは、本来の性能とサーヴァントの霊基の格差に慣れていないのもあるだろう。ククク、面白い怪我や病気になったらすぐに来るがいい。カルデアの医務室はいつでも面白い患者を歓迎するぞ」

 

 医務室に寝かされていた私は、目が覚めるや嘴のような仮面をつけたサーヴァントからそのような説明を受け、追い出された。

 自室に案内されてモルガン陛下と語らっていたのを覚えている。藤丸立香の発言も。気絶する直前までの会話すべて、しっかりと。

 記憶に不全はない。

 召喚後の記憶はもちろん、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、あろう事かモルガン陛下を疑い、私という愚か者は不義を働いた。

 最早、陛下の御前に存在する価値などない。

 だが、陛下はあの凶行をまったく気にかけておられなかった。

 もし、陛下はあの凶行を覚えておられないのだとしたら――――。

 

「――――誤魔化すなど、あってはならぬ」

 

 すべてを告げ、贖罪し、そして今度こそ、女王陛下の手ではなく……私自身の手で処刑せねばならない。

 裏切り者のウッドワス、愚か者のウッドワス、私自身を私自身の手で。

 それが私に出来る最後の忠義に、違いないのだから。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 食堂への道中、幾人かのサーヴァントとすれ違った。

 どいつもこいつもが奇妙な視線を私に向け、ほがらかに声をかけてくる者もあったがすべて無視した。首なしの人間を乗せた狼には匂いを嗅がれ、怪訝な反応をされた。私はあのような獣と違い香水をつけているので、獣からすれば不可解なのであろう。

 

 レッドラ・ビットとも顔を合わせたが、リョフがどうのと理解不能(おかし)な言動を繰り返しており、その背中に乗っていた銀色の髪の人間……人間? サーヴァントではあるが、人間らしからぬ気配の銀髪の小娘三人組が騒ぎ立てる。

 

「すごーい、おっきなモフモフだ!」

 

「可愛い! すごく可愛いわ!」

 

「新しいトナカイさんですか!?」

 

 などと理解不能(おかし)な事を言われもした。

 理解不能(おかし)なレッドラ・ビットに群がる連中も、やはり変人奇人という事か。

 

 さて、そのような瑣末事をすべて無視して私は食堂にたどり着いた。直接案内される間でもなく施設の説明を聞かされた時に場所は覚えている。すでに夕食時は終えているらしく、人影はまばらだが、食後の談笑やティータイムを楽しんでいる者もいた。

 探し人がこの中にいるかも不確かだったが、敬愛するあの女王陛下がおられるのであれば秒で見つけられる。

 

 ――――秒で見つけた。

 

 とても小柄なサーヴァントと対面しながら食後の紅茶を嗜んでおられるようで……相手のアレ、妖精ではないか?

 

「それでさ、その清姫ってサーヴァントに毎日ストーキングされてさぁ……」

 

「ああ、マスターを安珍なる者と見誤っている一際愚かなバーサーカーか。――まったく、私以外のバーサーカークラスなど全員解雇するよう再三申しつけているのに。我が伴侶は聞き分けが悪いのが玉に瑕だ」

 

「………………モルガンってさぁ…………いや、バーサーカークラスだもんなぁ……仕方ないのかなぁ……」

 

 妖精の身でありながら、モルガン陛下を呼び捨てにする。

 反抗勢力だったとしても、その声色には畏怖が乗るはず――それらの一切が無い。我々のブリテンではありえぬ話だ。

 ならば、汎人類史の妖精かなにかであろう。だとすれば陛下との面識もカルデアに召喚されてからのものだろうに、なぜだろう……陛下があの妖精に向ける表情は、とても柔らかく。まるで……今際の私に向けたあの……いや、あの時よりも…………。

 

「ボクはマシュって子を応援してるんだけどねぇ……なんか、このカルデアって場所にはモルガンみたいなのがいっぱいいるみたいなんだよなぁ」

 

「私のような者? ……ああ、アルトリアどもの事か。まったくなんなのだアレは。なぜあんなに大勢いるのだ。しかも水着だのメイドだのバニーだの……まったくもって意味が分からぬ」

 

「いやそっちの事じゃ……いやそっちも確かにおかしいけどさぁ!」

 

 なんとも、楽しげではないか!

 この場に押し入って非礼を詫び、自害する? この和やかな空気をぶち壊す?

 

 …………出来る訳ないだろう!

 

 幸い、陛下はあの小さい妖精との歓談に夢中でこちらに気づいておらぬ。

 ここは一旦、退散して……仕切り直さねば……。

 

 改めての謝罪と贖罪すらまともに出来ない己の不甲斐なさに身をやつしながら、私はフラフラとした足取りで自室へと戻る。

 ――モルガン陛下の部屋番号は覚えている。自室への案内の道中、聞かされている。

 そこでなら邪魔は入るまい。後で部屋に趣き、みずからの愚かさすべてを謝罪したのち――――陛下のお部屋を血で汚す訳にはいかぬ、大人しく自室に帰り――私は――。

 

 そのような思索にふけりながら歩いていると、廊下の反対側から藤丸立香が歩いてきた。隣にはあの黒い鎧と盾を出現させていた小娘もおり、藤丸立香からマシュと呼ばれていた。

 私の存在に先に気づいたのは、そのマシュという小娘だった。

 

「あっ、ライ――――いえ、ウッドワスさん、こんにちは。お加減はもうよろしいのですか?」

 

「フンッ、どうという事はない。貴様ら下等な人間どもと一緒にするな」

 

 ライ……? 今、なんと言おうとしたのだろう。私の脳裏に偉大なる先代の名が浮かぶが、この小娘とはなんら関係あるまい。

 私の言葉に小娘はシュンとなり、うつむいてしまう。どうでもいい。

 

「……しかし、このようなちっぽけな霊基に収められたのでは、調子も狂うというものだ」

 

 ……………………。両者とも隙だらけだ。

 これなら今の脆弱な私でも、藤丸立香をくびり殺すなど容易くできるという確信と、今の私如きでは一瞬でこの小娘に返り討ちにされるという確信がある。

 召喚の際に得た知識によるならば、霊基再臨を重ねれば全盛期ほどでなくとも力を取り戻す事はできる。だが、私がそれをされる事はあるまい。サーヴァント契約の要であるマスターへの敵意を隠しもしなかった私に力を与えるなど――――。

 そう思っていると、藤丸立香は告げた。

 

 

 

 素材のストックが全然ないから、溜まるまで待っててね――――と。

 

 

 

 ………………。

 馬鹿! なのか!?

 素材とは、私の霊基を強化するための素材であろう? 今なお貴様に、敵意を撒き散らす私にそれを与えようと言うのか!?

 呆れのあまり私は言葉を紡げず、見開いた目でちっぽけな藤丸立香を見下ろす。

 

 マスターとサーヴァント。

 度し難いその関係、されど終わりを迎えた生命が再び機を得るのがどれほどの奇跡なのか、それゆえにマスターがどれほど重要な存在なのか、今の私には分かる。分かってしまう。

 それが、許せない。

 我らが2000年の忠誠は、私の1000年の忠誠は。

 その、忠誠は――――。

 

 思考が軋む。

 

 湧き上がる嫌悪感を振り払うよう、私は藤丸立香とマシュの横を早足に通り抜けた。

 私はあんな人間の呼びかけに応じて召喚されたのではない。望まずしてカルデアに呼び出されたのだ。そこに意味があるとすれば、陛下への贖罪以外なにがあろうか?

 故に、あの人間は私にとって無為無価値なるもの。

 交わす言葉など――――無い。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 自室にこもり、言葉を考える。陛下に告げるべき言葉だ。

 獣のように感情を吐き出すだけの粗野な言葉であってはならない。偉大なる女王陛下に向けるに相応しい、理性と礼節に満ちた言葉でなくてはならない。

 この狂おしいほどの悔恨を、雷雲のように渦巻く激情を、正しく静かに奉らねばならぬ。

 そうして数時間が過ぎただろうか?

 そろそろ陛下もお部屋に戻っているかもしれない。呼ばれてもいない臣下が、みずから主君の部屋を訪ねるなど無礼千万であると承知はしている。しかしこれは私から赴かねばならぬ事だ。

 あの時――あのような時でさえ、陛下は慈愛を以てお応えになられた。

 そのような方が、私を罰するため呼びつけてくださるだろうか?

 いっそ呼びつけてくれれば――――そのような甘えを捨て、私は改めて決着をつけるべく、退室をした。外は無機質な白い廊下。これはこれで無駄のない機能美というものがあるのかもしれないと今更ながらに思ってしまう自分が滑稽だった。

 

 モルガン様の部屋の前まで来ると、力加減に気をつけて紳士然としたノックをする。

 

「――――陛下。女王陛下。ウッドワスに御座います。どうか、お目通りを」

 

「入れ」

 

 返答は素早く、短く。

 息を呑み、一瞬、己の心臓が止まったかのような錯覚に陥るも、意を決して扉を開ける。

 そこにはかつて玉座に君臨していた時と変わらぬお姿のモルガン陛下があった。ただ、違っているのは、そのお身体を腰掛けているのは優雅で美しい玉座ではなく――私の部屋にあったものと同じ、簡素な椅子であった。

 

 部屋に入ると扉は自動で閉まり、私は陛下の御前へと進み出て、床に片膝を尽き、胸に片手を当て、深々と(こうべ)を垂れた。

 

「ご機嫌、麗しく……」

 

「先程はカルデアの案内だけで、言葉を交わす暇はなかったな」

 

「…………ハッ。なんとも、不甲斐なき……まことに、申し訳ございませぬ……」

 

 これは、どうした事だ。

 数時間、考えに考えた言葉が出てこぬ。

 私は、私は、私は、ここまで愚かな存在だったのか。

 陛下に捧げる最後の言葉さえ、ろくに口に出来ぬというのか。

 

「モルガン……モルガン陛下……私、私は…………牙の氏族2000年の忠誠を、我が1000年の忠誠を裏切ったのは、他の誰でもない私自身にございます。どうか、我が生命(いのち)を以て償わせていただきたく――――」

 

「不要だ」

 

 ガツンと頭を殴られたような衝撃を受け、悔恨の念が強烈に荒れ狂い今にも全身から吐き出されそうになる。

 これほどまでに、これほどまでに、これほどまでに愛してくださっていたのに!

 これほどまでに、これほどまでに、これほどまでに心優しき御方だったのに!

 それを手にかけんとした愚か者が、救いようのない愚か者がここにいる!!

 今すぐにでも引き裂きたい、食いちぎりたい、その愚か者をバラバラにして殺したい!!

 だが……女王の御前を再び血で汚すなど、あっては……ならぬのだ……!!

 

「そもそも」

 

 と、陛下は告げる。

 

「貴様は謀略にかかり、踊らされていただけにすぎん。それを見抜けぬまま貴様の礼節を汚してしまったのはこの私でもある」

 

「あ、ありえませぬ! 陛下にご責任など! すべては、すべてはこのウッドワスが……いや……謀略、と、おっしゃいましたか?」

 

 瞬間、蘇る悪夢。

 ロンディニウム攻略戦の際、援軍が来なかったのは、用済みとなった牙の氏族を始末するため女王陛下が描いた謀略という――ベリル・ガットの言葉。

 あの時からすでに私は踊らされていた?

 あの時からすでに陛下を裏切り暗躍する者がいた?

 愚かな私は、それがゆえに愛深き陛下を疑い、心優しきオーロラをも疑ってしまった。

 ()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 偽の情報、誤った情報を吹き込み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

「なんたる……なんたる不覚ッ…………!! 氏族の長たる私が、そのような謀略に踊らされていたなど……その上、陛下を、この手にかけようなどと……私は、私はなんという愚か者なのだ」

 

 眼が、痛い。

 眼が、熱い。

 視界が滲み、思考が滲み、悔恨の涙がボロボロとこぼれ落ち、憤怒の炎が心肺に熱を灯す。

 

「陛下ッ!! いったい何者がそのような(はかりごと)を!? やはりベリル・ガットの…………」

 

「――――スプリガン」

 

 土の、氏族の、長。

 あのいけ好かない、金勘定を好む男が、すべての黒幕だというのか。そうであるならば例え陛下の御前であろうと、奴の首を食い千切っておくべきだったのだ!!

 無作法にも背広の裾で涙を拭い去り、震える瞳で陛下の顔を見やる。

 その唇が、次なる言葉を紡ごうとしていた。

 

「オ――――」

 

「お母様ー!」

 

 ノックも何もなく、無遠慮に、開かれたドアからの呼びかけによって、陛下の言葉は遮られた。

 反射的に振り向いてみれば、そこにはあの憎々しい、赤い髪に赤いドレスを身にまとった、下級の――――。

 

「あのねあのね、私、今日もガラテアと…………って、ハァッ!? クソイヌ!?」

 

「妖精騎士……トリスタン…………!!」

 

 陛下が娘として迎え入れ、妖精騎士を着名されただけの、知性も礼節もない下級妖精。

 私が言えた義理ではないが…………。

 

「なぜ貴様がここにいるのだ!!」

 

「なんでテメーがここにいるんだよ!!」

 

 よりにもよって、トリスタンと同じ台詞を吐いてしまった。

 こんな話の通じない狂人と言葉を交わしても無為。問うべき相手として私は陛下へと向き直ったのだが、そこには、私とトリスタンの両方を視界に収めるようにしながら満足気に微笑むモルガン陛下の美しさがあった。

 なぜか分からないが、今の陛下の気分を害してはならぬと思い入り、改めて(こうべ)を垂れる。

 

「ウッドワスならば、先程我が伴侶の手によって召喚された。ウッドワスよ、私と我が娘は貴様より先んじてカルデアに召喚されている」

 

「クッ……」

 

 また伴侶と言われた! 伴侶と!

 ベリル・ガットの名前が出てこないのはいいが、なぜなのだ、なぜあの藤丸立香が伴侶などと呼ばれているのだ!? 予言の子の仲間だったあの人間が!!

 

「同様に妖精騎士ガウェイン、妖精騎士ランスロットも召喚されている」

 

「…………はっ? あ、いえ……左様で」

 

 あいつらもか!?

 いやしかし、妖精騎士ガウェインの騎士道精神は見所があった。陛下を裏切るなどありえず、私より先んじて陛下と共に召喚されたというのは考えられなくもない。

 妖精騎士ランスロットもまたオーロラの臣下。女王陛下とオーロラの遺志を継いで尽くさんとする意志を持っているのやもしれぬ。

 

「恐らく妖精騎士として汎人類史の円卓の騎士の名前を着名したため、汎人類史と縁が紡がれたのであろう。故にウッドワスよ。貴様が召喚されたのは望外の吉事だ」

 

「おっ……おおお……吉事と、おっしゃってくださるのか……未だ……なんと、慈悲深い……」

 

 思わず感涙。 

 

「プッ。クソイヌ泣いてやんの。うふ。うふふふ。アッハハハ! ざぁこ、ざぁこ♪」

 

 即座に背後から侮蔑。

 こ、の、下級妖精め……。

 

「陛下の慈愛を嘲笑うのか、貴様……!」

 

「はぁ? お母様に愛されるのは私一人で十分なんだけどー? ……まあ、ギリギリでマスターも入れてやってもいいけどさぁ」

 

「ベリル・ガットの次はあの人間に尻尾を振ると? ええい、節操のない小娘が!」

 

「オーロラなんてクソ女にも尻尾振ってた犬っころがナニ言ってんだよ、馬ッ鹿じゃねぇの」

 

「貴様ッ……オーロラまでも侮辱するか!!」

 

 妖精國の未来を正しく憂い、謀略の片棒を担がされたであろう哀れなオーロラ。

 ふつふつと怒りが湧き上がり、手足に力が――――行き渡らない。

 

「くっ……」

 

 弱い。召喚されたてで何の支援も受けていないこの霊基では、あまりにも弱い。

 霊基再臨だの聖杯だのと鬱陶しい知識が勝手に湧き上がり、それでも全盛期には決して及ばぬであろうと察せられてしまう。

 それに引き換え、モルガン陛下も妖精騎士トリスタンも妖精國にいた時ほどではないにしろ、ある程度の力を取り戻していると見受けられる。

 なんたる……ライネックの次代であるこの私が、亜鈴である私が! 今は下級妖精にも等しい存在に成り下がっているなど……………………カルデアァァァァァァッ!!

 

「キャハハハハハ! ザコイヌすぎて笑える~。頭お花畑かよ? だいたいオーロラは――――」

 

「バーヴァン・シー、それくらいにしておけ」

 

 猛り狂いそうになる私に先んじて、陛下がお諌めになられる。

 …………バーヴァン・シー。妖精騎士を着名する以前の、下級妖精の名を陛下は口にした。

 すでに敗北して着名(ギフト)を剥がされたのか、それともカルデアであるがゆえの事情か。妖精騎士の事情もだいぶ様変わりしているようだ。

 

「お母様、でも…………」

 

「妖精國とカルデアでは事情が違う。強く忠実なるサーヴァントは必要であり、私以外のバーサーカーは不要であり、ウッドワスはキャスタークラスだ。何も問題はない」

 

 お、おお…………。

 なんと! 慈悲深い!

 その慈悲をバーヴァン・シー如きが受けるなど腸が煮えくり返りそうになるが、堪えるのだ、私は紳士であらねばならぬのだ。陛下の御前で荒々しい野生に衝動を任せてはならぬ。

 

 

 

「故に、今後も藤丸立香のサーヴァントとして(私に)尽くすがよい」

 

「ぬあああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 野生に満ちた絶叫が部屋の外にまでほとばしる。

 あの人間のサーヴァントとして!? 尽くせと!? モルガン陛下が!? お言葉を!?

 忠誠を捧げるべき陛下が!? 他の人間に忠誠を捧げよと!? お言葉を!?

 

「ウッドワス、どうしたのだ」

 

「…………さすがお母様……私よりずっと残酷だぜ……」

 

 もはや我慢の限界を迎え、頭を抱えて振り乱す。

 私は、私の忠誠は、もはや陛下には不要だというのか……?




モルガン(ヤッベ。愛娘とウッドワスがお喋りしてる。可愛い)
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